三度目の生は蛇の姿で   作:鯱タクワン

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(※以前抜けていた、【念話】から【遠話】へ進化していたことを確認する描写を、『16.今度こそ、中層攻略開始!』の該当箇所に追記しました。【遠話】という表記による混乱を避けるためのお知らせです。このお知らせは次回更新時に削除予定です)


27.地上で盗賊退治!

 海岸から離れて、地上の奥へ進む。

 

 岩場を抜けると、すぐに木々が増え始めた。

 高い木。

 風で揺れる葉。

 地面を覆う草。

 

 草の匂いと湿った土の匂いが、体の近くから立ち上ってくる。

 迷宮の空気とは、全然違う。

 

 迷宮の中にも植物は生えていたが、目の前に広がっているものとは全く違う。

 虫や鳥の声まで、そこら中から聞こえてくる。

 

 ……地上だな。

 

 今更ながら、改めてそう思う。

 

 空が見えた時ほどではないが、少しだけ感動した。

 二度目の人生では、どこにでもあった景色なんだが。

 

 俺は木の下にできた影へ体を沈める。

 

 日光が強い分、影も濃い。

 境目も分かりやすい。

 

 影がない場所には注意しないとな。

 

 【探知】を広げ、影から影へ移動しながら内陸へ進んでいく。

 

 近くにいるのは、小動物や鳥。

 たまに弱そうな魔物。

 

 上層にいた魔物より強そうな反応は見当たらない。

 この辺りなら、急に襲われても問題なさそうだ。

 

 【慧眼】で毒がないことを確認して、森に実っていた果物にも飛びついてみた。

 蛇の体で食べられるのか不安だったけど、魔物だからか大丈夫だったな。

 

 久々の甘味は本当に最高だった!

 

 しばらく進むと、遠くに大量の反応が集まっている場所を見つけた。

 

 人間か?

 

 俺は反応のある方向へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間の町だ。

 

 低い柵の内側に、木造の建物が並んでいる。

 町の外には畑が広がり、街道を人間や荷車が行き来していた。

 

 まさにファンタジーって感じで、見ているだけで楽しい。

 

 まあ、近づけば討伐されるんだが。

 

 …………。

 

 少しくらい見ていてもいいか。

 隠密は得意だしな。

 

 俺は森の影に潜んだまま、町の様子を観察することにした。

 

 広い範囲の動きは【探知】で拾う。

 気になったものだけを【慧眼】で詳しく見る。

 

 それと同時に、常に動かしている【思考の極み】の一部を、人間の会話へ割り振った。

 

 聞こえてきた音。

 その音を発した人間。

 話している時に指していたもの。

 前後に起きたこと。

 

 全部記録して、似た場面で使われた音を重ねていく。

 

 今のところ、意味は全く分からない。

 

 だが、原作の蜘蛛子も聞き続けて人間の言葉を覚えていた。

 俺には【思考の極み】がある。

 

 普通よりは早く覚えられるはずだ。

 

 多分。

 

 門の近くでは、出入りする人間が似たような音を交わしている。

 挨拶か?

 

 荷物を渡す時にも、何度も同じ音が出ていた。

 金か、荷物か、取引に関係する言葉かもしれない。

 

 まだ何も断定できない。

 しばらくは、聞いたものを全部覚えておくだけでいいだろう。

 

 町の周囲を見ていると、一人だけ不自然な動きをする男がいた。

 

 町を出た後、街道から外れて森へ入っていく。

 

 狩人かもしれない。

 だが、男は何度も背後を確認し、足跡を隠しながら進んでいた。

 

 ひょっとして、盗賊か?

 

 鑑定したと気づかれないよう注意しながら、【慧眼】で詳しく見る。

 

 盗賊だと断定できるような情報は読み取れない。

 それでも、この動きは怪しいな。

 

 もう少し調べてみるか。

 俺は影の中から男を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は森の奥で、武装した人間たちと合流した。

 

 相手は三人。

 

 男が紙を渡す。

 三人のうち一人が紙へ目を通し、小さな袋を返した。

 

 袋の中から、硬いものが擦れる音が聞こえる。

 

 硬貨か?

 

 何かの報告を渡し、報酬を受け取った。

 そう見える。

 

 やっぱり、何らかの裏の仕事か?

 それなら一般人に迷惑をかけず、人間を経験値にできて良さそうだが……。

 

 ただ、金と紙を受け渡しただけで犯罪者だと決めつけることはできない。

 

 三人が森の奥へ戻っていく。

 俺は町から来た男ではなく、三人の方を追った。

 

 拠点を見れば、もう少し分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が戻った先には、大きなアジトがあった。

 

 木々と岩に囲まれた窪地へ、小屋や見張り台が建てられている。

 少し離れれば、建物があることすら分かりにくい。

 

 武装した人間は三十人以上。

 

 装備も服装も揃っていない。

 剣、槍、弓と、持っている武器もばらばらだった。

 

 傭兵か、冒険者の集団という可能性もある。

 

 けど、積み上げられた荷物には、別々の印が付いている。

 壊された荷車。

 乾いた血。

 乱雑に積まれた武器や服。

 

 そして、アジトの奥。

 

 柵で区切られた場所に、何人もの人間が押し込められていた。

 手を縛られ、怪我をしている者もいる。

 

 少し離れた場所には、鉄格子の付いた荷車もあった。

 中にいるのは、体の小さな人間。

 

 子供だろう。

 

 見張りの男が鉄格子を蹴る。

 中にいた子供が身を縮めると、近くにいた男たちが笑った。

 

 …………。

 

 これなら、間違えることはないか。

 

 盗賊か、人攫い。

 多分、両方だ。

 

 男たちの会話を【思考の極み】で記録しながら、アジト全体を【探知】で確認する。

 

 捕まっている人間は、二十人近い。

 盗賊は、拠点の外にいる見張りも含めて三十六人。

 

 【探知】をさらに広げれば、町の周囲には似たような集団が他にもいた。

 さっきの男は、そちらにも紙を運んでいたのかもしれない。

 

 一つの町の周りに、盗賊が多すぎないか?

 

 といっても、原作でも蜘蛛子が地上へ出た後に大量の盗賊を見つけていた。

 ポティマスが、転生者を確保する工作の一環で人身売買組織を動かしていた時期なら、もう活動を始めていてもおかしくはないか。

 

 とはいえ、今の情報だけでエルフが関わっていると決めることはできない。

 

 今分かるのは、こいつらが人間を捕まえていること。

 それで十分だ。

 

 まずは、目の前のアジトを潰そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトから少し離れた場所に、一人の見張りがいた。

 

 周囲に仲間はいない。

 捕まっている人間からも離れている。

 

 最初の相手には丁度いい。

 

 俺は森の影に潜んだまま、遠くから男を【慧眼】で見る。

 

 弱い。

 

 能力値は、上層の魔物より低いくらいだ。

 状態異常への耐性も、ほとんど持っていない。

 

 【呪怨の邪眼】を発動する。

 

 男のHP、MP、SPがまとめて減っていく。

 削った一部が、俺へ流れ込んでくる。

 

 男が胸元を押さえ、周囲を見回した。

 

 当然、俺の姿は見つからない。

 

 何が起きたのか理解できないまま、男の膝が地面につく。

 そのまま倒れ、動かなくなった。

 

 …………。

 

 人間を殺した。

 

 前の二度の人生では、自分と同じだった姿。

 魔物より、表情も苦しむ様子も分かりやすい。

 

 何か感じないわけではない。

 体の奥が、少しだけ冷えた。

 

 ただ、吐き気がするほどでもなかった。

 罪悪感で動けなくなることもない。

 

 相手が人攫いだと確認しているからか。

 【無慈悲】の影響か。

 それとも、もう魔物を殺すことに慣れすぎたのか。

 

 分からない。

 分からないが、俺が殺したことは覚えておこう。

 

 そして、入ってきた経験値はかなり多い。

 

 人を殺した直後に考えることではない気もするが、目標のためだ。

 見ないふりをする方が違うだろう。

 

 綺麗事で飾るつもりはない。

 これは、俺の欲で起きた結果だ。

 

 盗賊とはいえ、相手は人間。

 【強欲】で奪うものは奪うが、残りまでシステムに回収されるままにするのも気分が悪い。

 せめて、【安寧】で魂だけでも解放しておくか。

 

 まずは近くに行こう。

 

 死体の足元に落ちている影を【慧眼】で捉える。

 

 位置。

 距離。

 周囲の地形。

 

 【万象演算】で座標を組み立て、【空間魔法】を発動する。

 

 今まで転移していたのは、自分が実際に通った場所だけだ。

 けど、場所を正確に把握できるなら、見えている影へ飛ぶこともできるはず。

 

 空間が繋がる。

 

 影の中へ体を滑らせると、次の瞬間には男のすぐ近くへ移動していた。

 

 少しだけ位置がずれた。

 だが、成功だ。

 

 ……これは便利だな。

 

 【慧眼】で見える範囲なら、わざわざ一度移動して座標を記録しなくてもいい。

 安全確認は必要だが、暗殺にも逃走にも使えそうだ。

 

 俺は死体から離れ始めた魂を見る。

 

 能力値は低い。

 スキルポイントも、ほとんど残っていない。

 

 人間なら、必要なスキルを取得するために使っていて当然か。

 

 なら、人間からは今まで魔物から得にくかったものを優先した方がいい。

 

 男の魂の中に、見慣れないスキルがあった。

 

 【剣の才能LV2】。

 

 今の俺には使い道がない。

 蛇の体では、剣を握ることすらできない。

 

 ただ、今後もずっと蛇の姿とは限らない。

 人型になった時、役に立つ可能性はある。

 

 それに、こういう才能系のスキルは、普通の魔物から奪えないだろう。

 

 先に集めておくか。

 

 【強欲】を使う。

 

《スキル【強欲】の効果により、対象からスキル【剣の才能LV1】を奪取しました》

 

 男の魂から力の一部が剥がれ、俺の中へ入ってくる。

 

 残った魂は、そのままシステムへ繋がっていた。

 

 次は【安寧】。

 

 必要なものは取った。

 残りまで喰う必要はない。

 

 それに、魂が実際にシステムから離れるところを見られる機会でもある。

 

 【慧眼】を使ったまま、【安寧】を発動しようとする。

 

 …………?

 

 何も起こらない。

 魂は変わらずシステムへ繋がったまま、少しずつ引かれていく。

 

 使い方を間違えたか?

 

 もう一度試してみる。

 

 けれど、やはり【安寧】は発動しなかった。

 

 ……なんでだ?

 

 スキルは間違いなく持っている。

 MPも足りている。

 

 他に足りないものがあるとすれば――。

 

 支配者権限。

 

 ……そういえば、そんなものもあったな。

 

 支配者スキルを取得しただけでは、支配者権限まで確立されるわけじゃない。

 原作でも、権限を確立していないせいで使えないスキルがあったような……。

 

 【安寧】も、その一つなのか?

 

 【安寧】が、支配者権限なしでは使えないとは知らなかった。

 

 まあ、魂をシステムの輪廻から外すスキルだ。

 考えてみれば、普通のスキルよりシステムへ深く干渉している。

 

 支配者権限が必要でも、おかしくはないか。

 

 なら、今は使えない。

 

 仕方なく、システムへ回収されていく魂を【慧眼】で観察する。

 【強欲】で一部を奪われても、残った魂とシステムの繋がりそのものに大きな変化はない。

 やがて魂はシステム側へ完全に引き込まれ、見えなくなった。

 

 ……悪いとは思うが、使えなかったなら仕方ないか。

 【安寧】を試すのは、支配者権限を確立してからだな。

 

 俺は再び影へ沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の見張りを【慧眼】で捉える。

 

 今度は、死体の近くへ転移しない。

 

 【呪怨の邪眼】を使う。

 

 男が倒れた。

 

 肉体から離れ始めた魂を見たまま、遠距離から【強欲】を使う。

 

 未所持の才能系スキルはない。

 スキルポイントも少ない。

 

 一番高いのは、平均速度能力か。

 

 なら、それでいいや。

 

《スキル【強欲】の効果により、対象から平均速度能力を奪取しました》

 

 残った魂を、離れた場所から【慧眼】で追う。

 

 先ほどと同じように、魂はシステム側へ引かれていった。

 

 距離があっても、魂の状態は問題なく観察できる。

 【強欲】も、近くで使った時と効果が変わっている様子はなかった。

 

 なら、もっと遠くからでも使えるのか?

 アジトを潰しながら、少しずつ距離を広げて試してみるか。

 

 俺は捕虜から離れている盗賊を、順番に狙っていった。

 

 三人目。

 四人目。

 五人目。

 

 狙うたびに距離を広げてみたが、【強欲】は変わらず届いた。

 ひょっとすると、【慧眼】で魂を捉えられる範囲なら、物理的な距離は関係ないのかもしれないな。

 

 盗賊たちが、ようやく異変に気づき始める。

 

 何人もの男が武器を抜き、周囲を見回している。

 聞いたことのない言葉が飛び交う。

 

 【思考の極み】で、その全てを記録する。

 

 同じ音が何度も繰り返されていた。

 

 敵。

 探せ。

 死んだ。

 

 正確かどうかは分からない。

 けど、行動と合わせれば、その辺りの意味だと思う。

 

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV15からLV16になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 数人倒したところで、レベルが上がった。

 予想以上に早いな。

 

 ここで稼げるだけ稼いでおこう。

 

 俺は次の標的へ【呪怨の邪眼】を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトにいた盗賊の数が減るにつれて、残った連中の動きが変わった。

 

 最初は、姿の見えない敵を探していた。

 そのうち、外へ逃げようとする者が出てくる。

 

 森へ走り込んだ程度で、【探知】から逃れることはできない。

 

 順番に【呪怨の邪眼】を向ける。

 

 倒した相手に、未所持の才能系スキルがあればそれを奪う。

 なければ、その人間が持つ中で一番高い能力値を選んだ。

 

 一人から得られる量は少ない。

 どの能力値も、魔物と比べれば低い。

 

 それでも、人数が多ければ積み重なる。

 

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV16からLV17になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 さらに何人か倒した時。

 

 一人の盗賊が、捕虜のいる場所へ走った。

 

 捕らえられていた男を引きずり出し、首元へ短剣を押し当てる。

 周囲へ向けて、大声で何かを叫んだ。

 

 何度も繰り返している音がある。

 

 止まれ。

 多分、そういう意味だ。

 姿の見えない相手に、攻撃を止めるよう脅している。

 

 捕虜を盾にして、姿の見えない敵から身を守るつもりか。

 

 このまま放置するわけにもいかない。

 

 俺は盗賊へ【呪怨の邪眼】を向けた。

 

 男のHP、MP、SPが急速に減っていく。

 体から力が抜け、短剣を押し当てたまま捕虜へ倒れ込んだ。

 

 その拍子に刃が横へ滑り、捕虜の首筋を深く切り裂く。

 

 盗賊の生命反応が消えた。

 ほとんど同時に、捕虜の生命反応まで消える。

 

 ……っ!

 

 考えるより先に、捕虜の足元にある影へ転移する。

 

 首に深い傷。

 死んでから、まだ数秒しか経っていない。

 

 さっきまで数字と反応として見ていた命が、目の前で消えた。

 俺が選んだ攻撃の結果として。

 

 盗賊だけを倒せば助けられると思った。

 けど、刃物を押し当てたまま倒れれば、こうなる可能性もあった。

 

 完全に、俺の判断ミスだ。

 

 ……いや。

 

 魂は、まだ肉体の近くに残っている。

 システムとの繋がりも切れていない。

 

 今なら、戻せる。

 

 【慈悲】を使えば、【禁忌】はLV9になる。

 それは分かっている。

 

 だから何だ。

 

 俺は盗賊を殺したい。

 経験値も欲しい。

 力も欲しい。

 

 けど、そのために無関係の人間が巻き込まれて、死んだままになる結果は欲しくない。

 

 片方を諦める理由はないだろう。

 取れるなら、両方取る。

 

 俺は【慈悲】を発動した。

 

 MPが一気に減る。

 

 本来、死者蘇生は神でも難しい。

 失われた魂を、新しく作り直すことなんてできない。

 

 それでもこの世界で蘇生が成立しやすいのは、死者の魂がシステムに縛られ、死後もしばらく繋がったままだからだ。

 

 【慈悲】は、その繋がりを利用して魂を肉体へ引き戻す。

 

 【慧眼】に映る、魂をどこかへ引いていた流れが逆向きに動き始めた。

 肉体から離れかけていた魂が引き戻される。

 

 魂と肉体が重なる。

 首の傷が塞がり、止まっていた心臓が動き始めた。

 男が大きく息を吸い込む。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル【禁忌LV8】が【禁忌LV9】になりました》

《熟練度が一定に達しました。スキル【神性領域拡張LV6】が【神性領域拡張LV7】になりました》

 

 生き返った。

 

 分かっていた効果だ。

 実際に成功する条件も揃っていた。

 

 それでも、男が息をした瞬間、少しだけ力が抜けた。

 

 間に合った。

 

 男は激しく咳き込みながら、自分の首元へ何度も触れている。

 何が起きたのか理解できていないらしい。

 

 俺は影の中にいる。

 男からは見えていない。

 

 自分の魂を【慧眼】と【自己理解】で確認する。

 

 欠損はない。

 

 記憶どおり、俺自身の魂が代償として削られることはなかった。

 MPは大きく減ったが、戦闘を続けられないほどではない。

 

 【禁忌】だけでなく、【神性領域拡張】まで上がったか。

 魂へ干渉した影響だろうが、まあ今はいいだろう。

 

 それに、【慈悲】が魂を戻す流れも見えた。

 

 今回【安寧】は発動しなかったが、二つの用途はほとんど逆だ。

 

 魂をシステムの輪廻から外すはずの【安寧】。

 死後にも残った繋がりを利用して、魂を肉体へ戻す【慈悲】。

 

 どちらも魂へ干渉するスキルだが、動きは全く違う。

 

 もっと観察したい。

 もっと使い方を知りたい。

 

 次に使えば【禁忌】がLV10になり、情報のインストールが始まる。

 戦闘中に試すことじゃないな。

 

 俺は残っている盗賊へ意識を戻した。

 

 次は、同じことをさせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕虜の近くにいる盗賊から先に倒す。

 

 捕虜へ武器を向けた者は、影で腕を拘束した。

 その上で【呪怨の邪眼】を向ける。

 

 鉄格子の荷車へ近づこうとした男も、中の子供へ手を伸ばす前に倒した。

 

 俺は盗賊を狩ることばかり考えて、捕虜がどう使われるかまで考えていなかった。

 

 最初から、こうしておけば良かった。

 一人を戻せたからといって、失敗が消えるわけじゃない。

 

 盗賊たちの叫び声を聞きながら、言葉の意味を拾っていく。

 

 止まれ。

 逃げろ。

 敵。

 子供。

 助けろ。

 

 意味の見当がつく単語が少しずつ増えてきた。

 

 文章になれば、まだ分からない。

 それでも、最初に町を見た時よりは明らかに聞き取れる。

 

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV17からLV18になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 盗賊の数が、さらに減る。

 

 すると、これまで中央の小屋にいた男が、ようやく外へ出てきた。

 残った連中の中では、一人だけ能力値が高い。

 装備も他より良さそうだ。

 

 頭領か何かか?

 

 男は周囲に倒れた仲間を見ると、大声で何かを叫んだ。

 すると、残っていた盗賊の何人かが別々の方向へ走り出す。

 

 囮を出して、自分も逃げるつもりか。

 

 考えることは分かりやすい。

 

 【探知】には全員映っている。

 見失うことはない。

 

 逃げた者へ、一人ずつ【呪怨の邪眼】を向ける。

 

 男たちは、森へ入って少し進んだところで順番に倒れていった。

 

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV18からLV19になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 残ったのは、頭領らしき男だけ。

 

 能力値が他の盗賊より高いとはいっても、俺よりはずっと弱い。

 呪怨への耐性も持っていない。

 

 【呪怨の邪眼】を発動する。

 

 男のHP、MP、SPが減っていく。

 男は何度も後ろを振り返りながら走り続けた。

 

 俺の姿は見えない。

 何から逃げればいいのかも分からない。

 

 やがて足が止まり、その場へ倒れた。

 

《経験値が一定に達しました。個体、リーメン・ヴェインがLV19からLV20になりました》

《各種基礎能力値が上昇しました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《スキルポイントを入手しました》

《条件を満たしました。個体、リーメン・ヴェインが進化可能です》

 

 …………。

 

 進化できるようになった。

 

 一つのアジトだけで、五レベル。

 

 早すぎるだろ!

 

 蜘蛛子が戦争で大量の人間を倒した時より、今の俺は下の進化段階だ。

 必要な経験値が少ないこともあるんだろう。

 

 それにしても、人間の経験値は多い。

 

 迷宮を出る前は、あと五レベルをどう上げるか悩んでいた。

 下層へ戻るのは危険。

 上層の魔物では時間がかかる。

 

 それが、地上へ出て最初に見つけたアジトだけで終わった。

 

 自分で決めた方針が、思っていた以上に上手くいった。

 

 少し嬉しい。

 ……いや、かなり嬉しいな。

 

 蜘蛛子と離れても、ちゃんと進めた。

 

 俺は倒れた頭領へ【強欲】を使う。

 

 未所持の才能系スキルはない。

 一番高いのは、平均攻撃能力。

 

 それを奪い、残った魂がシステムへ回収されていく様子を【慧眼】で追った。

 

 何度も見たことで、死後の魂がシステムへ引き込まれていく流れは、最初より分かりやすくなっている。

 

 まだ完全に理解したわけじゃない。

 今は【安寧】も使えない。

 

 けど、支配者権限を確立できれば、魂をシステムの輪廻から外す過程も観察できるかもしれない。

 

 魂操作の練習としても、【慈悲】を選んだことで【安寧】を得られたのは大きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトにいた盗賊は、これで全員。

 

 捕虜の縄を影で切る。

 鉄格子の鍵も壊した。

 

 怪我をしている者には、姿を見せないまま【奇跡魔法】を使う。

 

 治せる傷を、そのままにする理由はない。

 

 傷が消えた人間たちが、驚いた様子で周囲を見回していた。

 俺の居場所までは分かっていない。

 

 蘇生した男も、自分の首元を何度も確認している。

 

 俺はそのまま影の中で様子を見守る。

 

 しばらくすると、一人が森の切れ目を指差し、他の人間へ何かを話し始めた。

 

 何度か繰り返された音を記録する。

 

 多分、今のは町という言葉だ。

 どうやら、帰る方角は分かっているらしい。

 

 捕虜たちはまとまり、森の中を歩き始めた。

 歩けない者は、他の人間が支えている。

 

 これなら、町までは戻れるだろう。

 

 ……いや。

 

 森の中に別の盗賊が残っている可能性もある。

 ここまで来て、帰る途中にまた捕まるのは流石に後味が悪い。

 町まで送った方が安全か。

 

 姿を見せるわけにはいかないので、少し離れた影からついていく。

 

 人間たちは何度も周囲を気にしていた。

 何に助けられたのか分からず、警戒しているらしい。

 

 当然か。

 

 見えない何かが盗賊を全員殺し、傷を治し、縄を切った。

 俺が逆の立場でも怖い。

 

 町の近くまで来たところで、俺は動きを止めた。

 

 捕虜たちは町を見つけると、少しだけ足を速める。

 門の近くにいた人間が騒ぎ始め、何人かがこちらへ走ってきた。

 

 もう大丈夫だろう。

 

 俺はアジトへ戻った。

 

 紙や帳簿らしきものは、【空間魔法】で収納しておく。

 

 今は読めない。

 けど、言葉と文字を覚えた後なら、何をしていた組織なのか分かるかもしれない。

 

 町の周囲には、まだ似たような集団がいる。

 最初に追った男がこの異変に気づけば、他の集団も動き始めるかもしれない。

 

 正直、今すぐ調べて、同じような連中なら続けて潰したい。

 

 経験値になる。

 能力値も増やせる。

 才能系のスキルが見つかる可能性もある。

 捕まっている人間がいるなら、助けることもできる。

 

 全部、俺にとって都合がいい。

 

 けど、進化できるなら先に済ませた方がいい。

 調べた結果、同じような連中だったとしても、進化前のまま潰すのは経験値が勿体なさすぎる。

 

 進化中に無防備になることを考えれば、ここは町にも周囲の人間にも近すぎる。

 一旦海岸へ戻り、安全な場所を探すか。

 

 一つ目のアジトだけで、進化まで届いた。

 上出来だろう。

 

 俺は静かになったアジトを離れ、森の影へ沈んだ。




TIPS:現在の影蛇のステータス

《リーメン・ヴェイン LV20 名前 なし(黒巳怜士)
 ステータス
 HP: 968/ 868(緑)
 MP:3227/3227(青)
 SP: 956/ 956(黄)
   : 759/ 759(赤)
 平均攻撃能力: 945
 平均防御能力: 987
 平均魔法能力:3415
 平均抵抗能力:2249
 平均速度能力: 918
 スキル
【魂欲】【火竜LV2】【龍鱗LV2】【HP自動回復LV8】【MP高速回復LV7】【MP消費大緩和LV7】【魔力精密操作LV7】【魔闘法LV2】【SP高速回復LV2】【SP消費大緩和LV2】【影流操作LV6】【火強化LV2】【毒強化LV4】【気闘法LV2】【龍力LV2】【火攻撃LV1】【毒攻撃LV3】【腐蝕攻撃LV1】【外道攻撃LV4】【毒合成LV8】【剣の才能LV1】【弓の才能LV1】【体術の才能LV1】【投擲LV3】【連携LV10】【指揮LV1】【遠話LV10】【命中LV10】【回避LV8】【確率補正LV1】【思考の極み】【万象演算】【探知LV10】【隠密LV10】【隠蔽LV6】【無音LV10】【無臭LV3】【影憑LV10】【風魔法LV8】【土魔法LV8】【外道魔法LV10】【影魔法LV10】【闇魔法LV10】【暗黒魔法LV1】【毒魔法LV10】【治療魔法LV2】【奇跡魔法LV6】【空間魔法LV8】【氷魔法LV3】【重魔法LV5】【呪怨魔法LV2】【遊泳LV5】【飽食LV2】【破壊耐性LV3】【打撃耐性LV4】【斬撃耐性LV2】【火耐性LV5】【風耐性LV3】【土耐性LV3】【闇耐性LV9】【猛毒耐性LV2】【麻痺耐性LV5】【石化耐性LV2】【酸耐性LV4】【腐蝕耐性LV5】【気絶耐性LV2】【恐怖耐性LV7】【外道無効】【苦痛無効】【痛覚軽減LV3】【呪怨の邪眼LV3】【聴覚強化LV7】【嗅覚強化LV3】【味覚強化LV4】【触覚強化LV6】【天命LV1】【天魔LV1】【瞬身LV3】【耐久LV3】【剛力LV4】【堅牢LV4】【天道LV3】【護符LV1】【縮地LV4】【魔王LV1】【強欲】【慈悲】【慧眼】【征服】【安寧】【神性領域拡張LV7】【自立】【自己理解】【禁忌LV9】【n%I=W】
 スキルポイント:2825
 称号
【異例な魂】【神希望】【悪食】【暗殺者】【魔物殺し】【毒術師】【強欲の支配者】【魂へ触れる者】【無慈悲】【魔物の殺戮者】【慈悲の支配者】【慧眼の支配者】【竜殺し】【龍殺し】【人族殺し】》



ここまで読んでいただきありがとうございます。
先日、今後は毎週投稿くらいになると思うと書いたばかりなのですが、リアルの都合と今後の展開整理のため、しばらく更新を休止します。
このまま無理に進めるより、一度立ち止まって、展開や文章をきちんと整理し、時間を取れるようになってから再開したいと思っています。
再開時期は未定ですが、作品をやめるつもりはなく、落ち着いたら戻ってくる予定です。
お待たせしてしまいますが、よろしくお願いします。
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