「うわあああああっ──!?」
「誰かオイラたちを助けてくれぇぇぇ!」
マズい──と思った時には時すでに遅し。不用意にワープホールに触れて引き込まれたパイモンを助けようと、自らも空間に生じた亀裂に足を踏み入れた直後、旅人は海上へと放り出された。
一瞬の浮遊感。のち、重力に引っ張られて真っ逆さまに落下する。
「ちょっ、パイモンは飛べるでしょ! 俺を掴んで引っ張ってよ!」
「ムリムリ! 流石のオイラでもそれはムリだぞ!」
ギャーギャー軽口を叩きながら、旅人はパイモンに向かって必死に手を伸ばそうとするも、指先は虚しく空を切る。せめてもの抵抗として、落下速度を緩めようとジタバタするが意味はなく。
(はは……。澄み切ったお空が綺麗だなぁ……。遠くにドラゴンも見えるよ……蛍)
そうして、ばっしゃーん! と盛大な水しぶきを立てて海面に突っ込んだ。
ゴボボボ……と思いっ切り溺れかけているパイモンを引き寄せ、何とか泳いで岸まで辿り着く。
「げほっげほっ!──うぅ、酷い目に遭ったぜ……」
「元はと言えば、パイモンが遺跡守衛に追いかけられたのが悪いじゃんか」
「うっ……。オ、オイラだって逃げるのに必死だったんだぞ! たまたま運が悪かっただけで…」
──旅人とパイモンがワープホールで飛ばされるまでの経緯はこうだ。
璃月にある絶海の孤島、”孤雲閣”でパイモンを釣り上げた旅人が行く当てもなく彷徨っていると、ある時パイモンが不用意にもヒルチャールの集落に入り込んでしまった。
怒ったヒルチャールたちに追われ、悲鳴を上げて逃げ惑うパイモン。一心不乱に逃げる最中、今度は遺跡守衛×4を叩き起こしたらしく、四方八方からミサイルの雨が降り注ぐ。
前門のヒルチャール、後門の遺跡守衛とはこのこと。全盛期の旅人ならいざ知らず、力の大部分を失った今の状態では歯が立たない相手だ。
それでも活路を見出すべく、旅人が剣を構えた時──パイモンが「あっ」と声を漏らした。
「見ろよ旅人! あそこにワープホールがあるぞっ!」
パイモンが小さな手で指さす先、高台にいつの間にか空間の孔が生まれていた。彼女は何を言うでもなくぴゅーっと孔に向かって飛んでいき、旅人もまた剣を収めて追いかける。
「旅人、オイラは先に行ってるぜ!」
「あ、ちょっとパイモン、待っ……!」
制止の言葉を振り切って、ワープホールの向こうに姿を消すパイモン。一瞬の逡巡の後、旅人はパイモンを追って飛び込むことにした。
それがまさか──海の真上に放り投げられるモノだったとは予想もしていなかったのだが。
「結果的に助かったけど、今度はちゃんと相談してね」
「おう、そうするぜ。……これじゃあガイド失格だもんな……」
分かりやすいほど落ち込むパイモンに、旅人は失笑しながらポンポンと頭を撫でる。実のところ旅人には責めるつもりは一切なく、むしろ窮地から脱出できたことに感謝していた。
この小さなガイドの勘と視野の広さのおかげで、今こうして逃げ果せられたのだから。
そんなやり取りを挟みつつ、旅人とパイモンは歩いて陸地に上がろうとする。
何から何まで全部がびしょ濡れであり、直ぐにでも乾かさないと風邪待ったなしの状態だ。
そんな折、散々走り回った疲労感からか、旅人はその場でふらりと立ち眩みを起こした。
(あ、やば……)
「旅人っ!?」
どこか遠く聞こえるパイモンの声。足元がもつれ、膝から崩れそうになった旅人は、その勢いのままに砂浜へと顔面ダイブ──する寸前で、視界の端から伸びた腕に支えられた。
「おっと、危なかったな。……大丈夫か?」
そこにいたのは灰髪の少年だった。背丈は旅人より高めで、やや大人びて見える風貌の持ち主。
彼は片腕で旅人のことを支えながら、心配そうにじっと見つめていた。
「ありがとう、君は……」
「自己紹介は後だ。まずは焚き火に当たって服を乾かそう。歩けるか? 肩を貸すぞ」
◆
パチパチ、と焚き火が爆ぜる音をBGM代わりに、金髪の旅人──空が語ってくれたのは今までの経緯と旅をする理由。それを静かに聞いていた俺はほう、と相槌を打っておく。
「なるほど……。離れ離れになった妹さんの行方を捜すため、か。大変そうだな……」
「うん。だけど覚悟の上だよ。どれだけ時間がかかっても、必ず見つけ出す」
「へへっ! オイラというテイワット最高のガイドがいるから大丈夫だぜ!」
今ここには居ない妹の姿を思い浮かべたのか、懐かしさや寂しさが入り混じったような複雑な顔で決意を固める空と、シリアスな空気を散らすようにサムズアップするパイモン。
そんな二人の様子を目の当たりにした俺は、早くも名コンビの片鱗を感じて微笑ましくなった。
「……ところで、そう言うアッシュはどうなの?」
「モンド人でもなさそうだし、お前も何か理由があって旅してるんじゃないか?」
と、空とパイモンに揃って話題を振られた俺は、一旦わざとらしく目を泳がせておいた。
話の流れからして聞かれると思っていたので対策済みだ。ここはプランAで行こう。
「あー、それはだな……」
自分からは言い辛そうな雰囲気を醸し出しつつ、さも意を決した感マシマシな態度で口を開く。
「実は俺、──記憶喪失っぽいんだ」
そう、プランA=記憶喪失設定。どこぞのソシャゲ主人公ばりに使い古されたネタだが、今日この場においては何よりの最適解になり得る可能性を秘めている。俺がそう判断した。
確証はないがと前置きしてから、気が付いたらこの浜辺に倒れていたこと、自分の名前のほかには薄らぼんやりして何も思い出せないこと、etc……を淡々とした口調で伝える。
これは例えるならボディブローみたいなものだ。後になってじわじわ効くタイプの。
仮に空とパイモンが半信半疑だったとしても問題はない。俺の目標は達成したからだ──
「そ、そいつは大変だったな。……元気出せよ、アッシュ」
「ゴメン。アッシュだって混乱してるだろうに、変なこと聞いちゃって……」
あれ? 意外と怪しまれていない……? 嘘に真実を混ぜて喋ったとはいえ、コロッと騙されそうなパイモンは兎も角、それなりに警戒心が強いはずの空までも同調するとは……。
その二人の慰めの言葉を皮切りに、俺たちの間で気まずい空気が流れ始めた。どちらからともなく相手の姿を捉えようとして、サッと視線を外すとかいう沈黙の一時。これは予想外の流れだ。
友人キャラ改め記憶喪失系友人キャラとしてやっていくからには避けるべき事態……!
「──な、なぁ旅人、アッシュ。お前たちに提案があるんだが……」
その時、助け舟を出してくれたのはパイモンだった。妙に淀んだ空気を打ち消すように、手拍子一つして、
「この際だから、オイラたち3人一緒にモンド城に向かわないか? オイラは美味しいものを食べられる、旅人は妹さんの情報を集められる、アッシュは記憶の手掛かりを探せる。……どうだ?」
と三方良しの提案を持ち掛けてきた。もちろん俺には断る理由もなく。
「空とパイモンが構わないなら」
「良いアイデアじゃん。パイモンにしては冴えてるね」
「おい! それはどういう意味なんだよ!?」
余計な一言に腹を立てたパイモンが地団駄を踏むのを横目に、俺と空はクスッと笑いながら立ち上がって軽く伸びをする。ついでに消えかけた焚き火の始末をすれば準備オッケー。
「じゃあ案内よろしくね、パイモン」
「頼りにしてるからな」
「……おう! お前たちの道案内は、このテイワットいちのガイドにお任せあれだぜっ!」
そうして煽てられ簡単に調子を取り戻したパイモンを先頭に、モンド城への──ひいてはテイワットの各国を巡る旅が幕を開けたのだった。……刮目せよ。最高の友人キャラの活躍を!
私は千織とディルックの旦那にするつもりです。