Fate/ZERO-ONE Others night   作:古鉄の夜

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オリジナル仮面ライダーが登場します。
ご注意下さい。


第一章
第一節 RED-ONE


「だからやめてくれっ!」

「なぜだい? ――間桐慎二君? 君は人間なんだから、ちゃんと帰る家があるなら帰らなきゃ駄目だよ!」

「大きなお世話だ! 僕の事情も知らないで勝手なマネをするなっ!」

「だったら、事情を教えてくれないか? それに家族だというならもう一度話し合ってみようよ。仲直りする為にもさ。気まずいなら、僕も一緒に会ってあげるからさ!」

「それが要らぬ世話だと言っているんだ! 融通の効かないヒューマギアめっ!!」

 

 ヒューマギア――人工知能搭載型人型ロボの総称である。物体認識機能によって目の前にいる人物が誰なのかを認識し、自分で考え、自分で行動する機械である。日本の誇るAIテクノロジー企業『飛電インテリジェンス』が開発。様々な仕事をサポートするヒューマギア派遣サービスを展開している大企業だ。

 だが、ヒューマギア関連の事業は簡単には進まなかった。AIが自己判断で行動する事で起こった人間との軋轢。それはヒューマギアに悪意をも芽生えさせてしまい、暴走事故を頻発させてしまった。

 人の暮らしをサポートするヒューマギアが人間を傷つけてしまったのだ。社会でもこれは大問題となった。

 さらにヒューマギアこそ悪意持つ人間に取って代わり、地球の支配者となるべきだと標榜するサイバーテロリスト集団——滅亡迅雷net.の暗躍……。

 ヒューマギアを危険視する世間からの風潮に、飛電インテリジェンスは急逝した先代社長『飛電是之助』が任命した新社長――是之助の孫である『飛電或人』をトップに据えてヒューマギアの信用回復とイメージアップに全力を挙げて取り組んでいく。社会生活で人間と暮らす中で学習『ラーニング』を繰り返すヒューマギア達はついには自意識を――心を持つに至った。

 あくまで人の仕事を補助する機械であったヒューマギアが自立して行動し始めたのだ。ヒューマギアは人間のお手伝いロボではなく“ヒューマギア”という一つの種族として、社会へと進出していくこととなったのだ。

 ……当然、それは様々な問題を引き起こす要因となった。一時は多国籍テクノロジー企業である『ZAIAエンタープライズジャパン』に会社を買収されてしまい、ヒューマギア派遣サービスの完全停止に追い込まれもした。

 しかし、飛電或人は諦めなかった。自身で新たな会社『飛電製作所』を設立。ヒューマギアが社会に貢献できる――人と共に歩むパートナーなのだと認めさせるべく、全力でヒューマギア達のサポートを行っていった。

 紆余曲折を経て飛電或人は再び、飛電インテリジェンス代表取締役社長として返り咲く。――人とヒューマギアの軋轢が極限に達し、あわや全面衝突へと発展しそうな事態を見事、収束させてみせた。

 ……今、現在ヒューマギアは人間社会において、人のかけがえのないパートナーとして認知され始めている。人間とヒューマギアは真の意味で共存の道を歩み始めた。その最前線に立っているのが飛電或人社長なのだ……。

 

 慎二は魔術に傾倒していたのもあって、ヒューマギアのことは好きでも嫌いでもなかったが……ここまで頑固だとは。機械故の勤勉さでゴリ押ししてくる。しかも当人……いや、当機は至って真面目に奉仕型ヒューマギアとしての務めを果たそうとしているだけなのだから始末におえない。魔術に関する事柄を話す訳にはいかないというのに!

 

 

 間桐の屋敷を出た慎二は終電の電車に飛び乗ると、冬木市からとにかく離れた。臓硯の監視が届かない所へ行かなければならなかった。

 そして冬木から充分離れた別の地方都市で一人で生活する準備を始めた。最低限の衣服、野宿に必要な生活用品etc……

 それらを取り揃えた時点で、手持ちの軍資金は尽きてしまった。慎二は次に蔵から持ち出した宝石類を金に変える為——そして、手持ちの魔術礼装が正確に機能するか確かめる為に換金所を訪れた。

 本来、学生に過ぎない慎二の持ち込んだ貴金属類を買取に応じてくれる店など無い。だがそこで慎二が持ち込んだ認識誤認の礼装が役に立った。礼装で自身を大人、身分証(無論、自分の学生証を弄った物だ)を誤認させた上で、買取の手続きを済ませた。これでひとまず、三百万程度の現金を手に入れた。——どうやら礼装は問題無く機能しているようだ。買取を終えるまで冷汗モノだったが……。

 手段を選んでいられる状況ではない。売り払った宝石類は全て本物なのだから、換金した店に金額面での損害は出ていない。そうやって無理矢理、自分を納得させた。

 そして、慎二は今度こそ強くなる為の手段を探す為に日本各地を放浪し始めた。

 やはり簡単にそんなものは見つからない。……各地を巡るだけで、三ヶ月も経過してしまった。

 少し危険だが、人が多くいる首都圏近郊で情報収集をしようとしたのが間違いだった。ボランティア活動中のヒューマギア丁愛(ていあ)に浮浪児と見咎められてしまったのだ。

 慎二も警察官などによる職質を避ける為に情報収集する際、学生が彷徨いても問題無い時間帯や、仕方ない時は認識阻害の礼装を使う事で人目を避けていたのだが、魔術で誤魔化せるのはあくまで人間だけだ。物体認識機能によって人物を判断するヒューマギアには通じない。

 更に都合の悪いことに丁愛は自分の顔立ちを物体認識機能から捜索届リストを検索し、こちらの身元を割り出されてしまった。不味い。これで臓硯に自分の居処が連絡されでもしたら終わりだ。しかも相手はヒューマギア。あちらとしては完全な善意……奉仕型ヒューマギアの機能として自分を気遣っているだけであるのも説得を難しくするのに拍車をかけていた。

 丁愛も慎二の態度に訳が分からなかった。今まで人間への奉仕活動をする中で、ここまで話が通じない。事情を話してくれない人間に出会ったのは彼にとって初めての経験だった。……自分は奉仕型ヒューマギアとしてこの少年のことを思って声を掛けているのにどうして分かってくれないのだろう……。一瞬、丁愛の心にこの人間(しんじ)への()()が芽生えそうになった。まさにその時——

 

——だったらその人間を消してしまったらいいじゃない。分からず屋な人間は……悪意を持つ人間は滅亡させてしまえばいいのよ——

 

 その(あくい)に語り掛けてくる声があった。丁愛は一瞬――ほんの一瞬、ソレに同意してしまった。……ソレにとって付け込むに充分な隙であった。その悪意を根幹に丁愛のプログラムが急速に改変されていく。耳部に装着された特殊なヘッドデバイス、ヒューマギアモジュールが……そして瞳の色が正常を示す青から赤へと点滅し――やがて完全に赤へと変わってしまった。

 

「……あ、悪意を持った人間は…………滅亡セヨ!!!」

「はあっ!? あんた、急に何を言いだすん……ガッ、クグッッ!!?」

 

 極端な言葉を口走り始めた目の前のヒューマギアに戸惑う慎二だったが、丁愛は増幅された悪意のままに慎二の首を両手で掴み上げて、宙吊りにし始めた。あまりの豹変ぶりに慎二はなんとか抵抗しようと手足を全力でばたつかせる。足が丁愛の胴を強かに叩いた。それに苛立った丁愛は慎二を乱暴に放り投げた。

 

「うあっ!?」

 

 地面に叩きつけられる慎二。いきなり手を出してきたヒューマギアへ反射的に文句を言ってやろうと身を起こしたが、そこで信じられない光景を目にすることとなった。

 丁愛の服や人間と同じ皮膚を再現したコーティングが全て弾け飛ぶ。剥き出しとなった素体部分から触手が飛び出し、丁愛の全身に突き立っていく。……そして周囲に響き渡る不気味な電子音声――

 

BEROTHA!

 

 丁愛は()()()()()()ベローサマギアへと変貌した。

 それを機に遠巻きで見ていた野次馬達が一斉に悲鳴を上げて逃げ散っていく。暴走するマギアの恐ろしさは未だ人々の記憶に刻み込まれているのだ。

 

「なぁっ!?」

 

 慎二はついさっきまで自分に鬱陶しいまでに声を掛けてきたヒューマギアの突然の変貌ぶりに硬直してしまう。ベローサマギアを取り押さえようと周囲にいた何体かのヒューマギア達——恐らく丁愛の同僚のヒューマギアだろう——が組み付いて動きを封じようとしたがベローサマギアは身体の各所から触手を伸ばして組み付いてきたヒューマギアに突き刺す。そこから自身の暴走プログラムを伝播させてしまう。

 ヒューマギア達のコーティングが吹き飛ぶ。そして顔面部を白い仮面が覆っていく……。触手を打ち込まれたヒューマギア達は全員、暴走。トリロバイトマギアと化してしまった。

 ……動き出したベローサマギアが逃げ遅れた中年男性に目をつけた。一気に踊りかかると男性の頭部を強打。殴り飛ばされた男性は地に叩きつけられると、そのままピクリとも動かなくなってしまった。暴走によって力のリミッターが外れたマギアの膂力は数tに及ぶ。……殴られた男性は即死だろう。

 

 そんな? 人が死んだ? こんなあっさりと……理不尽に、不条理に、ただ、ここに居合わせてしまったというだけでか?

 

 ベローサマギアが呆然とした様子で立ち上がってきた慎二——自分に悪意を向けた当初の人間を視界に収めた。

 

「◼️◼️◼️◼️………!!」

 

 言語化不能の唸り声を上げながらこちらに迫ってくるベローサマギア。慎二は後退りながらも逃げるのは不可能だと悟っていた。あの身体性能の前では自分の足でこの修羅場から逃げ切るのは不可能だ。一瞬で追いつかれて背後から殴り殺される。

 そんな……まだ桜を助ける手段を見つけていない。臓硯に一矢報いる事すらできていない。

 

「嫌だ! こんな所で死ねない! いや、死ぬ訳にはいかない!!」

 

 

 

「ふぅん……じゃあ、死にたくないアナタに素敵なプレゼントをあ・げ・る♪」

 

 

ZERO-ONE DRIVER!

 

 

「え……? うぅっ!!?」

 

 ふと隣から聞こえてきた愉快げな女の声。と、同時に腰に何かが当てられた。そこから大音量の電子音声が響き渡る。腰周りが帯状の何かによって固定された。

 慎二が下に目を向けると、腰に赤一色の大型デバイス「リミテッドレッド飛電ゼロワンドライバー」が装着されていた。

 ……これはベルトか? ドライバーには白く、たおやかな女の手が添えられており、その爪には黒と赤のマニキュアが塗られていた。

 慎二が改めて隣りにいる何者かに顔を向けようとしたその瞬間——

 

 慎二の意識は彼方へと飛ばされていた。

 

 

 

 

「——はっ!? ここは……一体……?」

 

 慎二の意識が戻った場所。そこは見たことも無い空間だった。地平線まで漆黒に染め上げられており、そこかしこに膨大な数の0と1の集合体が空中に現れては消えていく……。

 ……? 今、地面辺りに妙な漢字が染み出して見えた。

 

——破壊滅亡憤怒絶望恐怖——

 

 不吉な言葉の羅列だ。本当にここは何処なんだ? 何らかの結界に囚われたしまったのか……?

 

「ようこそ〜♪ ここは人工知能アーク…の思考回路よ。アナタの脳はゼロワンドライバーで無線接続されてるのよ」

「……! お、お前は……」

 

 突然、虚空から秘書服を着た女が現れた。黒髪は背中に届く程度に長く、額の前でしっかり切り揃えられている。髪の所々に赤のメッシュが入っている。……白と緑のラインが随所に走った独創的なデザインの秘書服だ。耳にはヒューマギアモジュールが装着されていた。女性型ヒューマギアか。

 ……この女の声。そうだ、確か、ここに来る前に聞いたのと同じ声だ。僕を此処に連れてきたのはこの女ヒューマギアか!

 

「そんな睨みつけることないんじゃないの〜? 一応、貴方の恩人になるはずなんだけどな。私」

「僕の恩人だと……? ではこのベルトも妙な空間に連れてきたのもお前なのか? ここは何処だ……? いや、僕は今、どういう状態なんだ? そもそもお前は誰だ? 何故、僕をここに連れてきた?」

 

 現状把握の為、矢継ぎ早に質問を重ねる慎二の眼前に女は手の平を立てて制止した。

 

「はい、ストップ! 今その全てに答えてたらアナタ、本当に死んじゃうわよ?

 一先ず今のアナタは人工知能と同等の思考速度を持った状態なの。このままじゃ5秒後にアナタは死亡することになる」

「何っ!?」

 

 突然、漆黒の空間——人工知能アーク内のデータ空間“アークの回廊”——から慎二がさっきまで立っていた広場が映像として映し出される。ベローサマギアが腰を沈めて慎二に飛びかかってきている様子がスロー再生されていく。両前腕に装備された鎌「トガマーダー」その柄が握られていた。あれで慎二の首を掻っ切るつもりだろう。……確かに一刻の猶予も無い。

 

「じゃあどうすればいいんだっ!?」

「アナタが腰に付けたゼロワンドライバー……そのマニュアルをラーニングしてもらうわ」

 

 そして慎二の目の前に「USER MANUAL」と記載されたウインドウモニターが空中に表示された。

 ……思考速度が加速されている今の内に目を通せ、触れてみろ。そうやって女が人差し指をモニターに向けている。

 

「使い方を学べ……ということか」

 

 詳細の分からない道具に触れるのに躊躇いはあったが、此処で()られる訳にはいかない。慎二は意を決してそれに手を触れてみた。そして周囲に響く電子音声。……どこか抑揚を欠いた男の声だ。

 

『チュートリアルモード……起動』

 

 

 

「ラーニング完了」

「はい、これがプログライズキー。……力が欲しいんでしょ?」

 

 ゼロワンドライバーの機能を把握した慎二は現実へと戻ってきた。隣にいた女がドライバーの機能を解き放つシステムデバイス——真紅に染め上げられたプログライズキーを差し出してきた。キーに記された名称は……「ライジングホッパー」

 女は実に楽しそうな笑顔を浮かべていた。――まるで慎二が力を手にする時を待ち侘びていたかの様に。

 慎二は内心に宿る疑念に蓋をすると、女の手から迷わずプログライズキーを掴み取る。そして上部のスイッチ「ライズスターター」を押し込んだ。

 

JUMP!

 

 内蔵された生物データの能力(アビリティ)が読み上げられる。

 さらにプログライズキーをゼロワンドライバーの認証装置「オーソライザー」に翳した。

 

AUTHORISE!

 

 プログライズキーのロックを解除、「オーソライズ」を完了する。ドライバー中央の反応炉「プログライズリアクター」で変換反応させた生物種のデータイメージ「ライダモデル」がモデリングビームにより照射成形された。それは銀の体色を持つバッタの姿をしていた。

 ライダモデルは慎二に向かって飛びかかってきたベローサマギアを後ろ脚で、文字通り一蹴すると、慎二を守るように周囲を飛び跳ねた。それに呼応するかのようにドライバーからは重低音の待機音声が鳴り響いている。

 プログライズキーの変形ロック機構「トランスロックシリンダー」がオーソライズにより解除された。慎二はプログライズキーを親指で弾いて展開状態へ可変させる。

 

「——変身!」

 

 掛け声と共にゼロワンドライバー右側面のプログライズキー装填機構「ライズスロット」に展開したプログライズキーを装填。内部に配置された接続用端子「ライズポート」と接続し、ラーニングが開始される。

 同時にドライバーの保安機構「ライズリベレーター」が、ライズスロットにプログライズキーが装填されたことで展開し、反応炉「プログライズリアクター」が開放される。

 

PROGRISE!

 

 前面に展開された特殊レンズを用いてパワードスーツ「ライズアーキテクター」が照射成形機「ビームエクイッパー」によって慎二の全身へ照射成形されていく。慎二の頭上へ飛んだライダモデルが空中で分解、特殊装甲へと変形し、ライズアーキテクター各部にトラクタービームに沿って装着されていく。

 

 

TOBIAGARISE!

 

 

RISING HOPPER‼︎

 

 

 周囲を圧する大音量の電子音声。そして現れたるは黒のアンダースーツの上にオフホワイトとシルバーのツートンの装甲。各部に赤いラインが走る近未来的なパワードスーツを纏った戦士の姿――

 

「……■■? ■■■■■■!!?」

「レッドワン――それが僕の名だ」

 

-A Jump to the sky turns to a riderkick-

 

 突然の事態に戸惑い、誰何の声に似た唸り声を上げるベローサマギア。

 慎二――いや、「仮面ライダーレッドワン」は目前の敵に右手人差し指を突きつけながら応えた。左手にはアタッシュケース型可変武器「アタッシュカリバー改型」が握られている。……その腰では真紅(レッドワン)のドライバーが妖しく光っていた。

 

「——まずはソレを使わずに戦ってみたら?」

 

 変身完了と同時にそばへ歩み寄ってきた女がアタッシュカリバーを指してそう言ってきた。……レッドワンの素の性能を確認してみろ。女は暗にそう言っている。

 ……いいだろう。慎二は無言でアタッシュカリバーを女に手渡した。女は満足げに頷くとケースを預かり後方に退がった。

 右足を後ろに引き、両足を肩幅に開いて半身で立つ。右拳を目の高さに上げ、顎をガードする位置へ。逆に左手はだらりと下ろして、肘を緩く曲げて構えを取る。

 ……敵に向こうから仕掛けてくる気配は感じられない。姿を変えた自分を警戒しているようだ。

 ならば遠慮なく……! 左手を下段から上段へ。内から外へ回転させながら敵への照準兼反動荷重として前方に伸ばす。右拳は弓に番えた矢の如く後方に引き絞る。

 左掌を一度握りしめてから再度、開いて掌の形へ。

 

「はあっ!!」

 

 前方に向けて一気に踏み込む。大腿部跳躍装置「ライジングジャンパー」によって増幅された跳躍力によって、5mはあった間合いを一足飛びで潰す。レッドワンの装甲各所から赤黒い波動「スパイトネガ」が尾を引いている。

 ベローサマギアが慌てて右拳を斧のように打ち下ろしてくる。が、慎二は冷静に左腕を跳ね上げて右腕を外に弾くと、カウンターの右拳を胴体中央、人間でいう鳩尾に打ち込んだ。

 吹き飛ばされ、地面を転げ回るベローサマギア。——やれる。これなら奴のパワーに対して正面から互角に戦える。レッドワンの能力に手応えを感じた慎二はそのまま攻め立てていく。

 打撃と蹴撃を織り交ぜた乱打戦でベローサマギアを弱らせていく。敵の苦し紛れの反撃をバック宙で回避……したつもりが背後のマンション。その屋上に着地してしまった。

 

「ただ飛び退いただけのつもりがこれか……! 飛蝗(バッタ)の能力をプログライズしているだけあって、とんでもない跳躍力だ!」

 

 さっきの打撃戦でも明らかにパンチよりもキックによる攻撃の方が効いていた。どうやらレッドワン——ライジングホッパーは脚力に特化しているらしい。

 ——ならば。

 

「◼️◼️、◼️◼️◼️◼️ーーーー!!!」

 

 冷静に自己分析を行うレッドワンの姿に余裕を見せられている、と激怒したベローサマギアが胸部を解放。そこから砲口が出現した。

 胸部動力部から直接、パワーを抽出。屋上にいるレッドワンに向けてエネルギー波を発射してきた。

 

「——ッ! ハッ!」

 

 初見の攻撃。そんな真似も出来るのかと微かに驚きながらも慎二は冷静だった。今、彼の思考速度は人工知能と同等まで引き上げられているのだ。レッドワンの性能ならば充分、対処可能だ。

 両腕を胸の前でX字に上げる。ダブルアームブロックの態勢で地上のベローサマギアに向けて突進する。腕部「アーキテクターグラブ」に走る赤い線「ラインレッドポジション」からスパイトネガを放出。直撃するエネルギー波を受け流す。

 ベローサマギアへ勢いを殺さぬままなおも突進。飛散するエネルギーもレッドワンの装甲SPA(スーパー・ポジショニング・アーマー)が防ぎ切る。零距離。レッドワン、右拳を上段に振りかぶる。突進の勢い、落下エネルギーを全て乗せた右の打ち下ろし(チョッピングライト)がベローサマギアに炸裂した。

 内部構造材が砕ける感触がグラブ越しに慎二へと伝わる。アスファルトの上を火花を散らしながら滑っていく。そのまま広場の噴水に突っ込んだ。

噴水を木っ端微塵に破壊し、瓦礫に埋もれるベローサマギア。慎二は止めを刺そうと——

 

「きゃあああああああっ!!」

「み、美遊っ!」

 

 絹を裂くような女性と少女の悲鳴。思わず慎二が声の聞こえた方角に振り向くとそこには珍しい着物を着た母親とその娘らしい少女の姿。転んでしまった美遊と呼んだ娘を母親が必死に助け起こそうとしている。

 その母親の背後から先程、ベローサマギアにハッキングされたトリロバイトマギアが近づいていた。その手に握ったコンバットナイフを母親の背中に振り下ろそうとしていた。あれが突き刺されば母親は死ぬだろう。周囲には他にも二体のトリロバイトマギアもいる。母親が殺されたら次はあの美遊という少女の番だろう。……また人が死ぬ。さっき命を奪われた男性と同じように。

 少女の歳の項は桜と同じくらいに見えた。慎二の心が一気に灼熱色に染まった。

 

「やぁあめえぇろおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 レッドワン、前方に向けて解き放たれた矢の如く飛ぶ。コンバットナイフを今まさに母親の背中に突き立てようとしていたトリロバイトマギアに全力の蹴撃をぶち込んだ。吹き飛ばされていくトリロバイトマギア。慎二はそちらに目もくれず、もう一体の土手っ腹に右拳を叩き込み、二体目には中段蹴りを打ち込んで親子から離れさせた。

 

「逃げろ!」

「あ、貴方は……誰ですか……?」

「こ、腰が抜けて……」

「チィッ!!」

 

 その隙に母娘へ退避を促す慎二だったが、娘——美遊はまだ絶体絶命の危機から脱したのが信じられないのか自分を見て放心してしまっている。美遊の母、陽代子(ひよこ)は娘を抱きしめたまま、震える声でそう答えた。

 慎二は鋭く舌打ちすると母娘を庇うようにトリロバイトマギアの前に立ち塞がった。

 ……陽代子に抱きしめられた美遊はその白く、雄々しい背中を顔を赤くしながら見つめていた。

 

「……ハアッ!? 人間を庇ったぁ!? ど、どういうこと……悪意を増幅されている以上、敵を倒すことしか考えられない筈なのに……ああ〜〜ッ! もう!!」

 

 女……いや、人工知能アークの秘書“アズ”は徒手空拳でトリロバイトマギアと闘うレッドワンに苛立ち、地団駄を踏んでいた。

 慎二には隠していたがレッドワン頭部の統合制御装置「アークゼロワンシグナル」には脳波を操作することで装着者が持つ悪意以外の感情を鎮静化させて、意識の集中を図るシステムが組み込まれている。……まさか、故障か?、いや、アークゼロワンシグナルに異常は見られない。レッドワンを構築したアズは各部システムの稼働状況をリアルタイムで把握する事が可能なのだ。……では、あの母娘を助けたのは装着者自身の意志か。すぐに悪意に呑まれてくれれば今後の展開がやりやすかったというのに……!

 あの人間達を庇った戦闘では思うように動けず、レッドワンは攻めあぐねていた。

 

「ったく! 仕方ないわね。レッドワン! これ使いなさい!」

 

 アズは手に持ったケース状態「アタッシュモード」のアタッシュカリバー改型をレッドワンに投げ渡した。

 

「――ッ! ハァッ!!」

 

 それを察知した慎二は前方に回し蹴りを放ち、トリロバイトマギアを離すと上から降ってきたアタッシュケースを右手で掴み取った。

 

-Attache case opens to release the sharpest of blade.-

 

 柄部「ACハンドルリンカー」を掴み、アタッシュカリバー起動。英文による起動確認の電子音声が鳴り響く。

 レッドワンはアタッシュモードから刀身「カリバーキル」を展開。()()()()()()片刃剣へと可変させる。

 

BLADE RISE!

 

「――フッ!」

 

 レッドワン、アタッシュカリバー改型「ブレードモード」を後ろ手に引いて構える。

 

「……アタッシュケースが剣に変わった」

「さっき聞こえた英文……『最も鋭利な刃を解放する為にアタッシュケースを開く』というニュアンスかしら? ちょっと飾った言い方だけど……」

 

 美遊はそれに目を丸くして思わず呟いており、陽代子は首をコテン、と傾げながらさっきの英文を自分なりに訳したりしていた。

 二人に余裕があるように見えるが、それは目の前にいる謎の白いヒーローが自分達を必死に守ってくれている姿に安心を覚え始めていたからだ。

 剣を持った事で間合いが広くなった。まず一体のトリロバイトマギアを袈裟斬りで両断。続いて二体目の胸部中心を全力の踏み込み突きで穿ちぬく。マギア二体が爆散した。

 次いで慎二はアズに向かって、声を張り上げた。

 

「お前! この親子を急いで安全な場所に避難させてやってくれ!! まだ暴れている奴らは僕が片づける」

「は、はあっ!? なんで私が無関係な人間を運んでやらなきゃ――」

「うるせぇぞ! 人二人の命がかかっているこの状況でガタガタぬかすなっ!!」

「うぅっ!?」

 

 人間を助けるなんてと不満を零すアズを慎二は怒鳴りつける。その剣幕にひょっとこ口になって言葉を詰まらせるアズ。レッドワンは陽代子と美遊に向き直り、声をかけた。

 

……因みにこの様子を見た美遊は、デキる美女という雰囲気をかもし出していたアズの変顔に、後で何度も思い出し笑いをしていたそうな。

 

「もう大丈夫だ。このヒューマギアが助けてくれるからな!」

「あ……」

「ま、待ってください。娘を助けてくれたお礼を……!」

 

 噴水の残骸を蹴散らしながら再び活動再開したベローサマギアを見たレッドワンは二人の言葉も待たず、駆け出していった。

 

「……」

「……」

「……あーーーーッ、もう! 貴女達二人とも私の腕に乗りなさい!」

 

 さっきから似た台詞ばかり口にしてるわね。と思いながらアズは陽代子を右腕に、美遊を左腕で担ぎ上げるとダッシュで戦場から離れていった。流石、ヒューマギア。人二人を担いでいるとは思えないスピードだ。担がれている陽代子と美遊にはたまったモノではなかったが。

 

「「きゃあああああああっ!!」」

「悲鳴上げてないでしっかり掴まってなさい! 落っこちても拾いに戻ってあげないわよ!」

 

 アズの首に半泣きになりながらしがみつく母娘。そして充分、距離を稼いだところで、建物の影に二人を下ろした。

 ……放り出そうかとも思ったが、後でレッドワンに追及される事を考えてゆっくり下ろすことにした。……まぁ、彼に恩を売っておくのも悪くない。イレギュラーはあったが、まだ見極めが済んだワケでは無いのだから。

 

「もういいわね? じゃ、私はレッドワンのとこに戻るから——」

「あ! あの、私とお母さんを助けてくれてありがとうございました。ヒューマギアのお姉さん」

「私達を守ってくれたあの方にも感謝していると伝えて下さい。——良ければ貴女のお名前だけでも教えて貰えませんか?」

「必要ないわ。もう会うこともないでしょうから」

「ま、待ってください! あの白い人……レッドワン、さんっていうんですか?」

 

 もう無視して立ち去ろうかと思ったアズだったが、まあ最後にこれくらいは伝えても良いか、と陽代子と美遊にビッ! と、人差し指を突きつけながら答えてやった。

 

「そうよ、“仮面ライダーレッドワン”覚えておきなさい」

 

 ——いずれお前達、人間に滅びをもたらす者よ。その言葉を胸にしまい、不敵な笑顔で告げたアズは元来た道へ走り去っていった。

 

「仮面ライダー……レッドワン……」

「あら? そういえばあの人が着ていたのって……確か、飛電インテリジェンスの社長秘書さんが着てたのと同じデザインじゃなかったかしら……?」

 

 どこか熱っぽい声音でその名を反芻する美遊。一方、陽代子はアズの秘書服に心当たりがあったため、小首を傾げていた。

 

 

 ——この母娘は本来の歴史において、ここではない何処か——もしくは今日この時、命を落としていた筈だった。

 だが、ここに仮面ライダーレッドワンという強力な因子を持つ者。“歴史のイレギュラー”が関わった事で狂いが生じた。もはやこの二人は歴史の修正力による影響からも外れる存在となったのだ。

 

「恨みは無いが……お前は人を殺めてしまった。覚悟してもらう!!」

「◼️◼️◼️◼️ーーーー!!」

 

 再び対峙するレッドワンとベローサマギア。先程の一撃で与えたダメージから回復されてしまったようだ。昨今のヒューマギアは転身機能という素体を元に別個体のヒューマギアへ姿を変える機能が備わっている。

 その機能を応用して、素体に損傷が発生しても電力さえあれば致命的な損傷で無ければ修復が可能なのだ。時間と電力は消費してしまうが。

 ベローサマギアは両手のトガマーダーに緑色のエネルギーを纏わせるとブーメランとして飛ばしてきた。

 

「フッ! ハァッ!」

 

 一本をアタッシュカリバーで斬り払い、もう一本を前方宙返りで回避する。しかしトガマーだーはベローサマギアと距離を詰めようとするレッドワンの背後から不規則な軌道で再び襲いかかってきた。

 ベローサマギアも迎撃の構えだ。本体とブーメランで挟み打ちにするつもりか。ならば。

 慎二は構わずベローサマギアの目前まで一気に接近。アタッシュカリバーを収納。アタッシュモードにすると、ベローサマギアの眼前に突きつける。

 視界を唐突に塞がれたベローサマギアだったが、構わずケースごとレッドワンを殴りつけた。そして()()()()()()吹き飛んでいった。

 

「◼️◼️!?」

 

 レッドワンの姿を見失い、一瞬混乱してしまう。その隙に自分が放ったトガマーダーがこっちに飛来してきた。このままでは自分の武器で切り裂かれる。思わず両手で地面に叩き落としてしまう。

 

 

RISING IMPACT‼︎

 

「ハッ!」

 

 そして背後から鳴り響く大音量の電子音声。それは断罪の宣告。レッドワンはベローサマギアの視界を塞ぎつつ、ケースが弾かれる一瞬で上空に跳躍、敵の目を眩ませながら、背後に降り立っていたのだ。

 プログライズキ―を再度押し込み、出力を増大させ、脚部から発生したスパイトネガによる波動をも上乗せしたハイキックをぶち込み、ベローサマギアを天高く蹴り上がる。

 追撃の為、自らも上空へ跳ぶレッドワン。吹き飛ぶベローサマギアに一瞬で追いつくと回し蹴りを打ち込み、今度は地上に蹴り落とした。

 レッドワン、全身の装甲各所から発生するスパイトネガを推進エネルギーに変換。凄まじい加速でベローサマギアの身体中央を蹴り抜いた。

 

「ハアアアァァァァァーーーーーーッッ!!」

 

RISING IMPACT‼︎

 

 最大パワーで発動したレッドワン必殺の蹴撃「ライジングインパクト」によって動力部を穿たれたベローサマギアが爆発四散した。

 レッドワンは地上に着地。アスファルトを砕きながら地上を暫く滑走した後、ようやく制止した。

 慎二は砕け散ったベローサマギア……いや、自分に構ってきた丁愛というヒューマギアがいた上空を見つめた。思えばあのヒューマギアが初めてだったかもしれない。家を出てから、自分の身を真剣に案じて、必死になって接してくれたのは。マギア化してしまった以上……人を殺めてしまったヒューマギアは排除する決まりだ。自分がやらなければ誰かが、あのヒューマギアを破壊しただろう。……真実を話すわけにはいかなかった。しかし、慎二の胸にはなんともいえないしこりが残ったままだった。何故、あいつはあんな暴走を始めたのだろう? 疑問が頭をよぎる。

 そんな慎二に声を掛けてくる者が一人。

 

「……考え事してるとこ悪いけど、早く動かないとこわーいA.I.M.S.(おまわりさん)がやってきて根掘り葉掘り聞かれちゃうわよ?」

「……お前か。あの親子は? 無事に安全な場所まで送れたのか?」

「ええ。もう大丈夫でしょう。アナタに礼を言っておいてほしいと頼まれたわ。それはそうと、ここから離脱するならこの地点に向かいなさい。そこに“コンシールホッパー”があるわ」

「ーーコンシールホッパー?」

「アナタの――レッドワン専用バイクよ。詳しくは乗ってみればわかるわ。じゃ、私はまだやることがあるから。ここで別れましょう。ああ……心配しなくてもそのドライバー持ってれば私はアナタのいる場所は分かるから、聞きたいことはその時に教えてあげるわよ」

「……分かった。しっかり聞かせてもらうぞ」

 

 慎二は未だ信用しきれないその女ヒューマギアの言葉に曖昧に頷いた。そしてアズからドライバーを介して送られてきた地点へ向けて、レッドワンの脚力を活かして建物の上を飛び跳ねながら向かっていった。

 レッドワンを見送ったアズは密やかに笑う。

 

「……ふふふ。待っていなさい、“仮面ライダーゼロツー”――レッドワンが仮面ライダーとして完成したその時……お前は滅ぶのよ」




さて、間桐慎二が変身する仮面ライダーレッドワンですが……バンダイから発売するTAMASHII NATIONS METAL BUILD 仮面ライダーゼロワンのアレンジを加えたもの。そのリペイント版デザインを想像してもらえればOKです。
つまり、この世界では本編版のオリジナルゼロワン。METAL BUILDアレンジのレッドワン。どちらも存在しています。
アズがアークを通して得たゼロワンのデータと歴代アークライダーの能力をミックスさせて開発した渾身の仮面ライダー。
リミテッドレッド飛電ゼロワンドライバーは上海にて毎年開催される特撮やアニメのイベントにて限定販売された赤色の飛電ゼロワンドライバー。あれを元ネタにアズが開発したアークライダー製ドライバーという設定です。
レッドワンはそのパッケージに出ていた白いゼロワンが元ネタです。

ゼロツーの能力はゼアのプロテクトに阻まれて入手不可だった模様。SPAは独力で開発。殆どゼロツー打倒への執念だけで造ってます。

今回出てきた母娘ですが、さて……?

慎二がアークの悪意による影響を受けていないように見えるのは……例えて言うなら、無色透明でクリアーな水は墨汁一滴垂らすだけでも全体が一気に真っ黒になってしまいます。が、既に汚染されきって黒くなっている水の色はそこまで変わりません。アズは計算違いを起こしてます。
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