神代から弾かれたアマゾネス女王は、間桐桜を攫って聖杯戦争を壊す   作:あかちゅきぼちゃん

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24話 戻る場所

 

 

 通信機が鳴った時、桜は思わず右手を押さえた。

 

 もう、その音だけで身体が固まるようになっている。

 

 誰かが来る。

 

 誰かが呼ぶ。

 

 誰かが、自分のことを決めようとする。

 

 そんな予感が、音より先に胸へ落ちてくる。

 

 ヒッポリュテは桜の反応を見て、通信機へ視線を向けた。

 

 ペンテシレイアは窓辺から離れ、桜の斜め前に立つ。

 

 雁夜も壁にもたれていた身体を起こした。

 

 通信機から、低い声が響く。

 

『遠坂時臣が、桜本人との対話を求めている』

 

 部屋の空気が、また少し冷えた。

 

 桜の指先に力が入る。

 

 お父様。

 

 その声を思い出すだけで、喉の奥が狭くなる。

 

 会いたいのか、会いたくないのか。

 

 怖いのか、懐かしいのか。

 

 自分でも分からない。

 

 ヒッポリュテは、通信機へ向けて静かに言った。

 

「それを仲介するのか」

 

『利用できる情報がある』

 

 通信機の向こうの男は、いつも通り感情を混ぜなかった。

 

『時臣が何を求めているのか。桜の扱いをどう考えているのか。君たちをどう見るのか。それを知る機会になる』

 

「桜の父親との対話を、観察材料にするわけか」

 

『戦争中だ』

 

 短い返答だった。

 

 その冷たさに、雁夜の顔が歪む。

 

「ふざけるな……」

 

 だが、ヒッポリュテは雁夜を制した。

 

 通信機の声が続く。

 

『断ることもできる。ただし、断れば遠坂は別の手を打つ』

 

「会わなければ終わらない相手か」

 

『父親だからね』

 

 その言い方は、ひどく乾いていた。

 

 父親。

 

 それは、桜にとってただの役割ではない。

 

 声を聞くだけで身体が固まる相手。

 

 戻れと言われて、どこへと問うた相手。

 

 ヒッポリュテは通信機から視線を外し、桜を見た。

 

「桜」

 

 桜は顔を上げる。

 

「会うか」

 

 その問いに、桜はすぐ答えられなかった。

 

 会いたい。

 

 そう思っている自分がいる。

 

 でも、怖い。

 

 父は怒るだろうか。

 

 失望するだろうか。

 

 戻りなさいと言うだろうか。

 

 もし戻ると言ったら、どこへ連れていかれるのだろう。

 

 遠坂か。

 

 間桐か。

 

 それとも、どこか別の場所か。

 

 桜は右手を握った。

 

 令呪を隠したい。

 

 父に見られたくない。

 

 でも、隠したままでは、何も聞けない気がした。

 

「会うのは、怖いです」

 

 声は震えていた。

 

 それでも、消えなかった。

 

「でも……聞きたいです」

 

 ヒッポリュテは頷いた。

 

「なら、こちらが条件を決める」

 

     ◇

 

 条件は、一つずつ並べられた。

 

 桜を一人にしないこと。

 

 場所は遠坂邸でも、この隠れ家でもないこと。

 

 時臣は魔術的な拘束を使わないこと。

 

 遠坂側の使い魔は最小限。

 

 ペンテシレイアは桜の護衛として同席。

 

 ヒッポリュテも同席。

 

 雁夜は距離を置くが、桜の視界に入る場所にいること。

 

 そして。

 

「桜がやめたいと言ったら、そこで終わりだ」

 

 通信機の向こうで、少しだけ沈黙があった。

 

『子どもの感情で対話を中断するのか』

 

 切嗣の声ではない。

 

 遠坂時臣の声だった。

 

 通信を繋いだ先で、こちらの条件を聞いているのだろう。

 

 ヒッポリュテは表情を変えない。

 

「桜の話を聞く場だ。桜がいなくなるなら、場も終わりだ」

 

『安全確認と今後の処遇に関わる話だ。途中で切られては困る』

 

「なら、最後まで聞ける言葉を選べ」

 

 時臣は黙った。

 

 ペンテシレイアが横で目を細める。

 

 桜は膝の上で手を握っていた。

 

 怖い。

 

 でも、ヒッポリュテが自分のために条件を出していることは分かる。

 

 自分がやめたいと言えば終わる。

 

 その選択肢があるだけで、息の吸い方が少し変わった。

 

 しばらくして、時臣の声が戻る。

 

『承知した』

 

 短い返答。

 

 感情は見えない。

 

 けれど、飲んだ。

 

 ヒッポリュテは通信機へ向けて言う。

 

「場所は」

 

『古い礼拝堂跡を使う。教会からは離れている。出入口は三つ。監視はこちらで置く』

 

 切嗣の声が戻った。

 

『僕も監視する』

 

「信用できる言葉ではないな」

 

『信用の話ではない。条件の話だ』

 

「そうだったな」

 

 通信が切れる。

 

 部屋に静けさが戻った。

 

 桜は、右手を見下ろした。

 

 隠したい。

 

 でも、隠したくない。

 

 ぐちゃぐちゃだった。

 

 ヒッポリュテが横に座る。

 

「隠したいなら隠せ」

 

 桜は首を振った。

 

「見られるのは怖いです」

 

「ああ」

 

「でも、隠してたら……聞けない気がします」

 

 ヒッポリュテは何も押しつけない。

 

 ただ頷いた。

 

「分かった」

 

 ペンテシレイアが桜の前にしゃがむ。

 

「怖くなったら言え」

 

「はい」

 

「言わなくても、私が見ている」

 

 桜は少しだけ目を瞬かせた。

 

「はい」

 

「でも、言え」

 

 桜はほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「……はい」

 

     ◇

 

 古い礼拝堂跡は、街の外れにあった。

 

 もう使われていない建物。

 

 割れたステンドグラス。

 

 湿った木の匂い。

 

 長椅子のいくつかは壊れ、床には埃が薄く積もっている。

 

 祈るための場所だったはずなのに、今は祈りよりも警戒の方がよく似合った。

 

 ヒッポリュテは先に中を確認した。

 

 天井。

 

 窓。

 

 出入口。

 

 隠れられる場所。

 

 狙撃される角度。

 

 切嗣が選んだだけあって、逃げるにも監視するにも悪くない。

 

 悪くないから、やはり気に入らない。

 

 桜は礼拝堂の入口で足を止めた。

 

 ヒッポリュテは急かさない。

 

 ペンテシレイアは桜の横に立っている。

 

 両手には短い曲刀。

 

 双剣だった。

 

 光を吸うような刃が、埃っぽい床に細い影を落としている。

 

 雁夜は少し離れた位置。

 

 顔色は悪い。

 

 けれど、桜から見える場所に立っていた。

 

 桜が振り返れば、そこにいる。

 

 それだけでいい。

 

 やがて、礼拝堂の反対側の扉が開いた。

 

 遠坂時臣が入ってくる。

 

 服装に乱れはない。

 

 歩幅も一定。

 

 背筋も伸びている。

 

 まるで、ここが古びた礼拝堂跡ではなく、遠坂邸の客間であるかのようだった。

 

 その整い方が、桜には怖かった。

 

 父は変わっていない。

 

 変わっていないように見える。

 

 だから、自分だけが変わってしまった気がする。

 

 時臣の視線が、桜へ向いた。

 

 ほんのわずか、間があった。

 

「無事で何よりだ、桜」

 

 父らしい言葉だった。

 

 桜の胸が小さく揺れる。

 

 無事で何より。

 

 そう言ってもらえた。

 

 でも、次の言葉で、その揺れはすぐに固まった。

 

「現在の状況は極めて不安定だ。お前は本来いるべき場所へ戻る必要がある」

 

 桜は指先を握った。

 

 本来いるべき場所。

 

 それは、どこなのだろう。

 

 時臣の声は落ち着いている。

 

 落ち着いているからこそ、桜は余計に小さくなる。

 

 ヒッポリュテは割って入らない。

 

 ペンテシレイアも、双剣を握ったまま黙っている。

 

 桜が聞かなければならない。

 

 桜が言わなければならない。

 

 桜は喉を震わせた。

 

「本来いるべき場所って、どこですか」

 

 時臣の目が、わずかに動いた。

 

「お前の安全が保証される場所だ」

 

「遠坂ですか」

 

 桜は続けた。

 

「間桐ですか」

 

 礼拝堂の空気が凍る。

 

 雁夜が奥歯を噛んだ音がした。

 

 ペンテシレイアの双剣が、ほんの少しだけ角度を変える。

 

 時臣はすぐには答えなかった。

 

 その沈黙が、桜には答えのように聞こえた。

 

 父にも、すぐには言えないのだ。

 

 自分がどこへ戻るべきなのか。

 

「状況に応じて判断する」

 

 やがて時臣は言った。

 

「お前の安全を最優先に考える」

 

「安全……」

 

 桜はその言葉を小さく繰り返した。

 

 安全。

 

 きれいな言葉。

 

 でも、どこか遠い。

 

 時臣は続ける。

 

「桜。お前には優れた資質がある。遠坂の家に生まれながら、継承できる魔術刻印は一つしかない。凛が遠坂を継ぐ以上、お前の才を眠らせることはできなかった」

 

 桜は黙って聞いている。

 

 ヒッポリュテは時臣を見ていた。

 

 声に悪意はない。

 

 むしろ、時臣の中では筋が通っている。

 

 だからこそ、痛い。

 

「間桐へ養子に出すことは、魔術師の家として必要な判断だった。お前の才能を無駄にしないためだった」

 

 桜の肩が震えた。

 

 才能。

 

 その言葉が、胸に刺さる。

 

 自分のため。

 

 才能のため。

 

 魔術師の家として。

 

 必要な判断。

 

 父の言葉は正しいのかもしれない。

 

 でも、桜はその中に自分を見つけられなかった。

 

 才能。

 

 資質。

 

 血。

 

 器。

 

 どれも自分のことを言っているはずなのに、自分ではないように聞こえる。

 

 桜は小さく息を吸った。

 

「私……才能じゃないです」

 

 時臣が止まった。

 

 雁夜が顔を上げる。

 

 ペンテシレイアの目が鋭くなる。

 

 ヒッポリュテは桜の隣にいた。

 

 前には出ない。

 

 言葉を奪わない。

 

 桜は震えながら続けた。

 

「魔術のこと、よく分かりません。遠坂のことも、間桐のことも、まだ分からないです。でも……私、才能じゃないです」

 

 それは大きな声ではなかった。

 

 礼拝堂全体に響くような叫びでもない。

 

 けれど、その場の全員に届いた。

 

 雁夜が一歩踏み出しかける。

 

「聞いたか、時臣……!」

 

「黙れ」

 

 ヒッポリュテが低く言った。

 

 雁夜の動きが止まる。

 

「今は桜が話している」

 

 雁夜は歯を食いしばる。

 

 怒りは消えていない。

 

 だが、足を止めた。

 

 桜の言葉を、自分の怒りで覆わなかった。

 

 ペンテシレイアが時臣を睨む。

 

「お前は、桜を見ていない」

 

 声は冷たかった。

 

「桜に付いた価値を見ている」

 

 時臣の眉がわずかに動く。

 

「部外者が遠坂の事情を語るべきではない」

 

「ならば、子を差し出した父が語るな」

 

 空気がさらに鋭くなる。

 

 ペンテシレイアの双剣が、わずかに持ち上がった。

 

 時臣の周囲に魔力が薄く流れる。

 

 ヒッポリュテが一歩だけ前へ出た。

 

「そこまでだ」

 

 ペンテシレイアは不満そうに唇を結ぶ。

 

 だが、止まった。

 

 時臣も魔力を収める。

 

 ヒッポリュテは時臣を見る。

 

 時臣もまた、彼女へ視線を向けた。

 

「君は桜に何を与えられる」

 

 静かな問いだった。

 

 ヒッポリュテはすぐに答えた。

 

「選ぶ時間だ」

 

「時間は安全を保証しない」

 

「急がせた安全が、桜を守ったのか」

 

 時臣は沈黙する。

 

 ヒッポリュテはさらに言葉を重ねない。

 

 言い負かしたいわけではない。

 

 ここは桜の場だ。

 

 時臣は少しだけ目を伏せた後、言う。

 

「君の保護下でも、桜は戦場に晒されている」

 

「そうだ」

 

「ならば君もまた、桜を危険に晒している」

 

「そうだ」

 

 桜がヒッポリュテを見る。

 

 ヒッポリュテは否定しなかった。

 

 守っているから安全だ、とは言わなかった。

 

 自分のそばなら大丈夫だ、とも言わなかった。

 

 その正直さが、桜の胸に少しだけ重く、でも確かに残った。

 

 時臣は問う。

 

「ならば、なぜ君が桜を守ると決める」

 

「私が決めるんじゃない」

 

 ヒッポリュテは桜を見た。

 

「だから、桜に決めさせる」

 

「幼い子に負わせるには重すぎる」

 

「奪われるよりはいい」

 

「選択を与えることが、時に残酷だとは思わないのか」

 

「思う」

 

 ヒッポリュテは頷いた。

 

「だが、選ばせない優しさも残酷だ」

 

 時臣は何も言わなかった。

 

 桜は、二人の言葉を全部理解できたわけではない。

 

 でも、自分のことを話しているのは分かった。

 

 自分が選ぶ。

 

 自分が選ばない。

 

 そのどちらも怖い。

 

 時臣が桜へ視線を戻す。

 

「桜」

 

 父の声。

 

 桜の身体がまた少し固まる。

 

「戻りなさい」

 

 静かな言葉だった。

 

 命令に近い。

 

 でも、どこかに父の響きもあった。

 

 桜は震えた。

 

 戻りたいのかもしれない。

 

 戻ったら、楽になるのかもしれない。

 

 父の言う通りにすれば、考えなくていいのかもしれない。

 

 でも。

 

 戻る場所が分からないまま戻れば、また誰かが決める。

 

 自分がどこへ行くのか。

 

 何になるのか。

 

 誰のために生きるのか。

 

 桜は右手を握った。

 

 令呪が熱い。

 

 ペンテシレイアがそばにいる。

 

 ヒッポリュテもいる。

 

 雁夜もいる。

 

 凛の声も、まだ残っている。

 

 また来るから。

 

 絶対、また来るから。

 

 桜は、ゆっくり口を開いた。

 

「今は……戻れません」

 

 礼拝堂が静まり返った。

 

 大きな拒絶ではなかった。

 

 父を否定する声ではなかった。

 

 それでも、桜自身の声だった。

 

 時臣は桜を見る。

 

 初めて、その目がわずかに揺れた。

 

「それが今の意思か」

 

 桜は唇を震わせながら頷いた。

 

「はい」

 

 時臣はしばらく黙っていた。

 

 誰も動かない。

 

 ペンテシレイアの双剣も、雁夜の怒りも、ヒッポリュテの呼吸も、その沈黙を乱さなかった。

 

 やがて時臣は、静かに息を吐いた。

 

「分かった。今日のところは引こう」

 

 桜が驚いたように顔を上げる。

 

 怒られると思っていたのだろう。

 

 連れていかれると思っていたのだろう。

 

 時臣は続けた。

 

「だが、状況は変わらない。お前は危険の中にいる」

 

 ヒッポリュテが答える。

 

「それはこちらも分かっている」

 

「では、次はその危険をどう減らすかを話す」

 

 時臣は桜をもう一度見た。

 

「無事でいなさい、桜」

 

 桜は答えられなかった。

 

 それでも、時臣はそれ以上求めなかった。

 

 背を向け、礼拝堂の扉へ向かう。

 

 途中で一度だけ足を止めた。

 

 振り返りはしない。

 

「凛が、心配していた」

 

 桜の目が揺れる。

 

 それだけ告げて、時臣は礼拝堂を出た。

 

     ◇

 

 離れた場所で、切嗣は会話の記録を止めた。

 

 舞弥が隣で待っている。

 

「遠坂は引きました」

 

「ああ」

 

「桜の意思を尊重したように見えましたが」

 

「尊重ではない」

 

 切嗣は短く言う。

 

「今回は条件が悪かっただけだ」

 

 時臣は強行しなかった。

 

 桜の拒否を受け止めた。

 

 だが、諦めてはいない。

 

 次の話に移しただけだ。

 

 危険をどう減らすか。

 

 その言葉は、次の交渉の入口だった。

 

「時臣は諦めない」

 

「ヒッポリュテ側は」

 

「桜の意思を盾にできる限り、強い」

 

 切嗣は少しだけ目を細める。

 

「ただし、桜が揺れれば崩れる」

 

「監視を継続します」

 

「ああ」

 

     ◇

 

 帰り道、桜はほとんど話さなかった。

 

 礼拝堂から出た時、足が少しふらついた。

 

 ペンテシレイアが支えようとするより先に、ヒッポリュテが横に並ぶ。

 

「よく言った」

 

 桜は首を振った。

 

「怖かったです」

 

「怖いまま言えたなら、それでいい」

 

 桜はその言葉をゆっくり受け止める。

 

 怖いまま。

 

 震えたまま。

 

 小さな声のまま。

 

 それでも、言えた。

 

 ペンテシレイアが横から言う。

 

「次はもっと大きく言え」

 

 ヒッポリュテが即座に返す。

 

「追い詰めるな」

 

「声が小さいと聞こえにくい」

 

「聞こえた」

 

「次はもっと聞こえる」

 

 桜は二人を見て、少しだけ息を漏らした。

 

 笑いとまではいかない。

 

 でも、さっきまで詰まっていた胸がほんの少しだけ緩んだ。

 

「……はい」

 

 小さな返事。

 

 今は、それで十分だった。

 

     ◇

 

 遠坂邸に戻ると、時臣を待っていたのは金色のサーヴァントだった。

 

 彼は椅子に腰掛け、退屈そうに杯を揺らしている。

 

「戻ったか、時臣」

 

「はい」

 

「子に退けられたか」

 

 時臣は静かに頭を下げる。

 

「今日のところは、です」

 

 金色のサーヴァントは笑った。

 

「今日のところ、か。随分と慎ましい負け惜しみだな」

 

 時臣は表情を崩さない。

 

「桜の周囲には不確定要素が多すぎます。強行は得策ではありません」

 

「不確定要素」

 

 金色の瞳が、わずかに細くなる。

 

「あの神代の残り香を纏う女か」

 

「はい。桜は、あの女の言葉に耳を傾けています」

 

「面白い」

 

 金色のサーヴァントは杯を置いた。

 

「その女、ますます見たくなった」

 

 時臣がわずかに顔を上げる。

 

「王よ」

 

「王を名乗るなら、我の前に立たせてみよ」

 

 その声には、遊びの色があった。

 

 そして、遊びでは済まない圧があった。

 

 時臣は深く頭を下げる。

 

 夜は、また別の火種を抱え始めていた。

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