アリウスを最強の軍隊にする!!!! 作:さいこぱす
「こんなのが支配者とは……全く、なんと勿体無いのでしょう」
「グッ……ガバッ…………」
アリウスの支配者、ベアトリーチェ。彼女は現在正体不明の存在から襲撃を受けていた。
その姿はオーバーサイズの軍服仕様のコートを着用しており、そして花びらを歪めたような形の大きな白目をしている。
「貴様は一体……何故ッ……私の邪魔を……」
「理由ですか? そんなの簡単です。ただ良い土地を見つけた。それだけのことですよ」
ここアリウスというのは兵力を増強するのに余りにも理想的な過ぎる。カタコンベという通路によってもたらされる強い秘匿性。そしてこの生徒数。
ここまで理想的な場所だというのにこの女はまるで活かせていない。しばらく観察していましたが、酷すぎたので奪わせていただくことにしました。
おっと、失礼。申し遅れました皆様、私の名前はマーズ。このキヴォトスを最強の軍隊を作り上げる男です。以後お見知り置きを。
さて、自己紹介はこれまでにしておいて、そろそろこの女の始末をしてしまいましょうかねぇ……
軍服の胸ポケットから取り出されたのは、黒ずんだボロボロの一枚のカード。マーズはそのカードをベアトリーチェへと向ける。
〝アツィルトの光〟
何も無いはずの空間から突如熱線が放たれ、ベアトリーチェを焼き尽くす。巻き起こった黒煙が晴れた先には、もう何の形を持った存在もいなかった。
「さぁて、軍拡の始まりです。フッフッフッフッ…………」
訓練の真っ只中、突如鐘が鳴り響いた。
……召集令だ。誰かが大きなミスをしてしまったのだろうか? マダムの機嫌を損ねてしまったのだろうか? いずれにせよ、少しでも集合に遅れてしまったらどんな処罰が下されるか分からない。そう考えながらミサキ、ヒヨリ、アズサ、姫と共に急いで広場へと向かう。
しかし、広場の壇上に立っていたのはマダムでは無かった。180cmはある男が私たちの前にいる。見た目はマダム程では無いが、異形と言って差し支えない姿だ。
「人数的に、そろそろいいでしょう。不在の方々には後で連絡してあげて下さい」
軽く見渡したところ100人はゆうに越えていますし、始めましょうか。
────これから最強の軍隊へとなっていく存在の、記念すべき誕生の瞬間を飾るにふさわしい演説を。
「皆さんにお伝えすることがあります。ベアトリーチェ……いえ、あなた達にとってはマダムですね。彼女はこの私、マーズが始末しました。こうして私が壇上に立っているのにも関わらず、彼女が何もしてこないのが何よりの証拠でしょう」
特にざわめきが起こる様子はありませんが、動揺は見て取れますね、多くの生徒が息を呑んでいますし、目を見開いている方々も少なくは無い。まあいいです、続けましょう。
「今日からここアリウス自治区は私が支配します。あなた方は私に使える兵士、私の所有物です」
「この日、この時、この瞬間!!! あなた方は理想の兵士として生まれ変わり始めるのです!!!!」
「前進せよと命ずれば砂漠の果てまで前進し!!! 撃てといったら標的が消滅するまで撃ち続ける!!! 一人一人が私に従順で統率のとれる、最強の兵隊になっていただきましょう!!!」
「────以上です」
────決まった。
これにより拍手喝采が……………起こりませんね。
それどころか全員死んだ目をしてやがります。特に長い藍色の髪をした少女、この世の終わりみたいな目をしていますよ。フッフッフッフッ……どうやら雰囲気に流されるような子達ではないようですねぇ。まあ、非合理的過ぎる方法とはいえ、仮にもベアトリーチェが育成していた軍隊。私の演説くらいで靡かないくらいの強度はあるということですか。
しかし、それもほんの僅かな期間だけです。すぐに私に従う、従順な兵士にになるでしょう。
「さて、私はこれから〝準備〟に取り掛かります。それではまた。フッフッフッフッ」
マーズと名乗ったその異形の男は、壇上から降りて去っていった。
「ま、マダムはいなくなったんですよねぇ、ひょっとして私たち、もう痛くて苦しい思いしなくていいんでしょうか……」
「……あの男の話、聞いてたでしょ。あの口ぶりだとマダムよりも酷いかもしれない」
「何も変わらないか、さらに悪くなるか、そのどちらかだけだ。無意味な希望を抱くのはやめろ。ヒヨリ」
「…………!」
「うぅ……姫ちゃんまで。やっぱり世界は虚しいんですねぇ……」
そうだ、vanitas_vanitatum_et_omnia_vanitas
────全ては虚しい。ここに希望が訪れることなど、永遠に無い。
「……全員、訓練を再開するぞ。ついて来い」
「あ、ちょっと待って下さい、言い忘れていたことがありました」
「なっ……!」
いつのまにかあの異形の男が私たちの背後を取っていた。周辺の警戒は怠っていなかったはず……それなのにどうして……
混乱と恐怖で足が自然と後ろへと下がっていく。
異形の男はその様子に構う事もなく話し始める。
「全員3日程訓練は禁止します。普通にオーバーワークですので」
「「「「「………………え?」」」」」
今、この男はなんと言った? 訓練を禁止? それに、おーばーわーくとはなんだ……?
「お、おーばー……わーく?」
気が緩んでしまったのか、つい声に出してしまった。
「え? 知らないんですか? ……はぁ〜あの女、まさかここまで酷い状態だとは……真面目に軍隊を作る気あったんでしょうかねぇ……。いや、そもそもただのおもちゃとして使っていたと考えた方が良さそうですね。……ああ、別にあなた方に言っているわけでは無いのでそう身構えず。それと藍色髪の少女、名前は? 様子から察するにあなたがリーダー格でしょう?」
「……サオリ。錠前サオリ……です」
「ではサオリさん、記念すべき最初の命令です。私の許可があるまで訓練を禁止することを全体に伝えておいて下さい。それと、この広場に全アリウス生徒を集合させておくこと。いいですね?」
「わ、わかりました……」
「ええ、頼みましたよ。私は引き続き〝準備〟に戻りますので。そうですねぇ……あと10分ほどで完了すると思いますよ。では、頑張って下さい」
「ッッ! 急いでこの場に全員を集めるぞ!」
「え!? ど、どうしたんですかサオリ姉さん! 待ってくださあああい!」
「いきなりどうしたの? 何もそこまで血相を変えてまで急がなくても……」
「あの男はあと10分ほどで準備が完了すると言っていた。……あれはおそらくタイムリミットだ……!」
「っていうことは私たち、あと10分で全員をここに集めないといけないんですかぁ!?」
「そんな……不可能だ。……でも、出来なきゃきっと重い罰が下る」
「アズサの言う通りだ。私たちで手分けして全員をここに集めるぞ……!」
(????????????)
彼女達、なんであんなに急いで探しにいったんでしょう? まあいいです。準備の再開をしましょう。穴は掘り終えたので、あとは水を張ってセトの憤怒の力を使って電熱で温めればいい感じになるでしょう。
あと1割……! あと1割で全員広場に集め終わる……!
そう思っていた矢先、あの男の……マーズという名の男の声が耳に届いた。わざわざ声を掛けられたということは、そういうことなのだろう。
────時間切れだ。
「探しましたよサオリさん、準備が整いました。……ところでなんか広場にいる人数がめちゃくちゃ増えてましたが、あなたが集めたのですか?」
彼は若干困惑した様な様子で私にそう尋ねてきた。
「は、はい……」
「……早くないですか?」
「え……?」
思わず間抜けな声が出てしまう。あの10分というのはタイムリミットでは無かったのか? ただ準備が完了する時間を教えただけだったのか?
「いえ、まさか10分程度でここまで集まりとは思いませんでしたよ……まあ嬉しい誤算です。残りの人数も一緒に集めてしまいましょう」
「…………い、一緒に探してくれるのかっ……ですか?」
「? 当然です、そっちの方が早く済みますから」
結局、私たちにはなんの処罰も下ることはなく。姫達と合流した後に、残りのアリウスのみんなを集めて広場へと向かった。そもそも今こうして私たちが集めた者達は、召集の鐘が鳴ってから大きく集合に遅れた者達。本来であれば何か罰がある筈なのに、彼はそれを咎めることを一切しない。……一体、何を考えているのだろうか。
「さてと、全員集め、準備も整いました。あなた方に早速命令を下します」
「お風呂沸かしたので入って下さい。不衛生過ぎます。もし感染症等が発生したら軍隊を作るは愚か、部隊が崩壊するので今すぐ、早急にお風呂に入って下さい」
これから辛い訓練を受けるアリウスの子達に同情しかありません……