どんどん誤字報告で修正してくれると嬉しいです。
「本日はよろしくお願いします。」
「そんな、水臭いですよ。今回はあくまでプライベートで訪れているんですから。」
新惑星開発プロジェクト。
地球連邦が新たに打ち出した開拓事業だ。そしてこれから私は、地球連邦の官僚としてこの地『ウス保護区』の独立に立ち会う。
その式典を明日に控える私は、ある男にお呼ばれされ席に着く。
「いやはや、ここまで長い道のりでした。特に、ズン類による洗脳教育。もはや文化と言える悪習をなんとかするのは骨が折れましたよ。」
「そのおかげでウスの方々の権利が護られている。あなたは間違いなく英雄ですよ。」
かつてこの惑星に遭難したという男には感謝を。
その男が何を思っていたのかは知らんが、多くの地球人の財布を潤した英雄。それが、このプロジェクトに携わった官僚たちからの彼への評価だ。
人を食べる化け物。
それだけで世論は味方についた。おまけに文明レベルも低く、制圧にかかったコストは現在の利益を考えると雀の涙ほど。
今やチェーン店が立ち並ぶ都市がいくつも立ち、夢を求めて地球から移住してくる人間も珍しくない。
「たしか、ウス保護区…いえ、ウス共和国は連邦に加盟するのでしたな?」
「ええ、その通りです。私も晴れて一国の大統領ですよ。この大役が務まるかどうか。」
「ご謙遜を。」
彼、ウス共和国初代大統領のポストを宛てがわれたこの男はウスだ。
ウス保護区が成立した当時、彼は魂を売った悪魔などと呼ばれ、石を投げられることも珍しくなかったのだと言う。
しかし、この40年の努力の成果が身を結び、ウスたちもすっかり地球文化に慣れ、ズン類の家畜という非人道的な悪習をようやく嫌悪し始めたのだとか。
「しかし、いまだに古い価値観に囚われた人々もいるのですよ…。ズン類を匿っているなんて噂もありますし、まだ安心できそうにはありません。」
「彼らの宗教観に根付いたモノですから、仕方ないのでしょうね。しかしご安心ください。我々、地球連邦はあなた方への支援を惜しみません。」
「頼もしい限りです。」
今気がついたが、このレストランにはウスが異様に少ない。何処もかしこも地球からの旅行客。
もちろん、従業員たちはウスだが、そこまで劇的に高い店ではないだろう。ウスでも十分利用できるレベルの価格帯だ。
ああ、これは少し初代大統領殿に失礼だな。彼だって安い店に連れてこようとしたわけではあるまい。
「ここの料理は素晴らしい。料理人はフレンチを理解してる。」
「専属の講師を雇って育成しましたからな。ここのレストランは官営なんですよ、観光客の方に失礼があってはいけませんから。」
官営…か。なるほど、このレストランのセキュリティがやたらと頑丈なのはそのせいか。そして、ウスは入らないのではなく入れない。
素晴らしい気遣いだ。遠い異国に訪れた観光客たちも、母星を思い出して安心できるだろう。
パッと云う音と共に、照明が消え、店の中心にスポットライトが当たる。
「これは?」
「本日のメインイベントですよ。ここ数年で急激に数を減らしましてな、あまり滅多に出来なくなってしまった。近年は個体数を増やすために色々手を打ってはいるんですが…思い通りには行かないモノです。」
床が円形に開き、下からゆっくりと小さな檻が上がってくる。中にはうずくまる小さな影。
「あれは?」
「実物をご覧になるのは初めてですか?」
小さな角。黒色の綺麗で艶のある毛並み。喜びを隠しきれない目。
「ええ、私が派遣された頃にはもう都市がいくつも出来ていましたから。動物園に行く機会もありませんでしたし。」
「おお、それはそれは。今後見られなくなるかもしれない希少種です。存分に目に焼き付けておいてください。」
そして、メインイベントが始まった。
◇◇◇
拍手喝采が議会に満ちる。
『我々ウスはこれまで、ズン類という脅威に虐げられてきました。しかし、40年前の解放を皮切りに、その地獄は終わりを迎えたのです!
そして我々はついに、地球連邦の一員になる権利を得ると同時に、国家を得ました。これは、我々ウスが世界に認められたことの証明なのです。
共和国に万歳!ウス民族に万歳!』
大統領閣下の演説に涙を流す人々。素晴らしいね。
しかしまあ、大統領肝入りのメインイベントというのは、なんというか、地球出身者の私には少々刺激的過ぎた。
血の匂いはまだ取れそうにない。
しかし、それも彼らの文化なのだ。他人の文化は尊重しなくてはな。
メインイベント:
ウスたちからの地球人へのメッセージ。
「私たちは過去の支配者から脱却しました。」
という健気なアプローチ。