ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:親父

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第4話 守るべき背中

 オラリオの夜は更けても、その喧騒が収まることはない。

 

 廃教会の地下、ランプの火を囲んで行われていたのは、ヘスティア・ファミリアの結成以来、最も「騒がしく」そして「温かい」宴だった。

 

 「いいかいベル君、今日ギルドで出回っている情報は、ボクがなんとか『ベルくんの潜在能力が爆発した』って誤魔化しておいたからね!」

 

 「む、無理ですよ神様! あんな巨大なクレーター、僕のナイフ一本でできるわけないじゃないですか……!」

 

 ベルは顔を真っ赤にしながら、白ひげがどこからか調達してきた巨大な酒瓶(本人は「水みてェなもんだ」と言い張っている)を横目に、魔石の換金結果を報告していた。

 

 「グララララ! 隠す必要もねェだろう。おれァ、ただ挨拶をしただけだ」

 

 「その挨拶で迷宮の壁が砕けたら、ギルドの職員さんが泣いちゃいますよ!」

 

白ひげは豪快に笑いながら、目の前の質素な食事、ジャガ丸くんの山を一口で放り込む。全盛期の肉体を取り戻した彼にとって、この程度の「戦い」は準備運動にすらならない。だが、かつての戦場にあった硝煙の匂いではなく、目の前の小さな「家族」が放つ安心感こそが、今の彼には心地よかった。

 

________________________________________________

 翌朝

 廃教会の重い扉を叩く音が響いた。

 

 ベルが恐る恐る扉を開けると、そこには「白ひげ」の巨躯を前にしても一切気圧されない、凛とした空気を纏う女性が立っていた。

 

 「……あ」

 

 ベルの息が止まる。

 

 金色の髪、吸い込まれるような瞳。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 「ギルドから、調査依頼が出ている。第一層の破壊跡について」

 

 ギルドからの命を受け、廃教会を訪れたアイズ。彼女の目的は、第一層の破壊状況の確認だった。

 

 しかし、彼女の前に立ちはだかったのは、かつて見たどの冒険者よりも巨大な存在感を持つ男だった。

 

 「……あれはあなたが、やったの?」

 

 アイズの声は静かだが、その手はすでに『デスペレート』の柄にかかっている、微動だにせず白ひげを凝視していた。

 

 彼女の瞳にあるのは、ギルドの調査員としての義務感ではない。自分を遥かに凌駕する「圧倒的な力」への、飢えたような渇望だった。

 

 白ひげは椅子代わりにしていた瓦礫から動かず、ただ静かにアイズを見下ろした。

 

 「……小娘、お前ェ、その若さで何をそんなに急いでやがる」

 

 「……私は、強くならなきゃいけない。……もっと、速く。もっと、高く」

 

 アイズの言葉は、まるで自分自身を切り刻む刃のように鋭く、そして悲痛だった。白ひげはその響きに、かつて海で出会った「何かに取り憑かれた剣士たち」の影を見る。

 

 「強さ、か。グラララ……! 小娘、お前の剣は『空(から)』だ。ただ速く、ただ鋭いだけ。そこには、守るべき者の体温も、背負うべき者の重みも感じられねェ」

 

 「重み……?」

 

 「お前さんの剣には、まだ『守るべき背中』の重さが足りねェな」

 

 その言葉は、ベル・クラネルという少年を導こうとする白ひげの、そして「家族」のために生きた男の、何よりも重い教訓だった。

 

 「……守るべき、重さ……」

 

 アイズは剣から手を離した。勝てるはずがないと悟ったからではない。

 

 この男の言葉の先にあるものが、今の自分には決定的に欠けているのだと、本能が理解したからだ。

 

 「ベル! アイズとか言ったか、この小娘も連れて迷宮に行くぞ。……小僧には『戦い』を、この小娘には『剣の重み』ってやつを、俺が教えてやる」

 

 アイズは驚きに目を見開いた。自分を教える? オラリオ最強の一角である自分を、レベル1のこの人が?

 

 だが、その傲慢とも取れる言葉に、彼女は怒りを感じなかった。むしろ、その巨大な背中に、かつて失った「父親」のような、ひどく懐かしく、暖かい安心感を感じていた。

 

 「……私も、行っていいの?」

 

 「おう。ベルにとってもいい経験になると思うしな」

 

________________________________________________

 

 ダンジョンの暗がりのなか、焚き火を囲む三人。白ひげは、慣れない手つきで武器を磨くベルの横で、アイズに問いかける。

 

 「小娘。お前、さっきの戦いでベルが危機に陥った時、助けようとしたな」

 

 「……危なかったから。ベルは、まだ弱いから」

 

 「グラララ! そうだ。だが、その時お前は自分の『強さ』を忘れて、ただ『あいつを死なせたくねェ』と思ったはずだ」

 

 アイズは、自分の胸に手を当てた。確かに、あの瞬間、彼女の頭から「効率的な殲滅」や「自己研鑽」といった思考は消えていた。

 

 「……それが『重み』の正体だ。誰かを守ろうとする時、剣は初めて真の鋭さを手に入れる。……ベルが俺を追いかけ、お前を追いかける。お前もまた、誰かのために剣を振る。……そうやって繋がっていくのが『家族(ファミリア)』だ」

 

 白ひげは、暗闇の奥、第5層へと続く道を見据える。

 

 「俺がダンジョンへ潜る一番の理由は、これだ。……この小僧や、お前さんのような若い芽が、どんな花を咲かせるのか。……それを特等席で見届ける。親父の道楽としては、最高じゃねェか…グララララ!」

 

 アイズは、今まで感じたことのない穏やかな気持ちで、ベルの隣に座り直した。

 

 白ひげがダンジョンへ行く理由。それは、己の力を誇示するためではなく、「次世代という名の家族」に、進むべき背中を示すため。

 

 「……じゃあ、私も特等席で、見てる。……お父さん」

 

「グラララ! 俺に娘はいねェよ……。まァ、勝手にしな」

 

 大海賊の豪快な笑い声が、迷宮の闇を優しく震わせた。




自分ど素人なので、ここはこうしたらいいんじゃないみたいなのは送っていただけると助かります。この先こうしたらいいんじゃないかってのもありがたいです。どんどん送ってください
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