廃教会の地下室へ戻ったベルの背中を、ヘスティアが驚愕の表情で見つめていた。
ステータス更新の光が収まり、羊皮紙に書き写された数字は、まさに異常の一言だった。
「な、何これ……! 力も、耐久も、敏捷も……魔力以外の能力値が『S』に到達してる……!?」
「ええっ!? ぼ、僕のステータスが、ほとんどSに……!?」
通常、能力値の上がり幅は1回の攻略で10増えればいいほうだ。
しかしベルは、白ひげという巨大な存在への憧れと、ミノタウロス単独撃破という『偉業』のあまりの大きさに、とてつもないスピードで能力値が上がっていたのだった。
ベル・クラネル
Lv.1
力: S 910
耐久: S 990
器用: S 900
敏捷: S 980
魔力: Ⅰ 0
《スキル》
【
早熟する
懸想が続く限り効果持続
懸想の丈により効果上昇
【
白ひげ『エドワード・ニューゲート』の力を使うことができるようになる
習熟度によって効果上昇
「レベル2に上がれるだけの資格は、もう完全に満たしてる。でも……このままレベル1の限界の限界まで数値を引き上げてからランクアップすれば、レベル2になった時の強さは計り知れないものになるよ……!」
ヘスティアは震える声で告げる。ベルはまだレベル1だが、その秘めたる実力は、もう普通のレベル2の冒険者を凌駕しかねない領域――文字通り「もうちょっとでレベル2に上がる最高潮の状態」に達していた。
白ひげはそれを見て、満足そうに鼻を鳴らした。
「グララララ! 器は大きければ大きいほどいい。ベル、その調子で自分の限界って奴をどこまでもブチ破ってみせろ!」
「はいっ、ニューゲートさん!!」
翌朝、白ひげとベルはメインストリートを歩きながら話あっていると、誰かからの視線を感じた。その時白ひげが不意に振り返りこう言った。
「おい小娘、俺達に何の用だ?」
「え、えっと…これ落としていらしたので...」
少女は魔石を一つベルへと差し出す。
「あれ?昨日全部出したはすなんだけどな...残っていたのかな?すいません、ありがとうごさいます。」
「いえ、お気になさらないでください。これからダンジョンに行くんですか?」
「はい!軽くなんでs『グギュルルルル…』」
その時ベルのお腹が鳴った。それを見たシルは微笑みながら言った。
「うふふっ、お腹空いてらっしゃるんですか?」
「ハハハッ…はい。」
ベルが笑いながらそう返事すると少女は一旦店に戻るとバスケットを持って来た
「これ、よかったら……まだお店やってなくて、賄いじゃあないんですけど…」
「こりゃあお前の飯じゃねェのか?いいのか?」
「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だから冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?」
ベルはどうしたらいいかわからないように狼狽えている。
「冒険者さん。これは利害の一致です。私もちょっと損をしますけど、冒険者さんは腹ごしらえができる代わりに…」
「か、代わりに?」
ベルがゴクリと唾を飲む。
「…今日の夜、私の働くあの酒場で、晩御飯を召し上がって頂けなければいけません」
狸だな。『なければいけません』ってほぼほぼ強制じゃねェのかと白ひげは感じていた。
するとベルがハッとすると口を開いた
「僕……ベル・クラネルって言います。貴方の名前は?」
「シル・フローヴァです。ベルさん」
「……」
無言の白ひげを二人は見つめる。
「なんだ?俺の名前も知りてぇのか?俺はエドワード・ニューゲートだ」
「ベルさんにニューゲートさんですね、よろしくお願いしますね!」
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迷宮に潜ったベルは白ひげに覇気を教えてもらっていた。
「いいかベル、覇気には武装色、見聞色、覇王色の三つがある。今のベルが使えんのは武装色だ。まずは武装色から鍛えるぞ」
「はい!頑張ります!!」
「武装色を使うときには身体に見えねェ鎧をつけるイメージをしろ。回りの魔物は俺がどうにかしてやる、ベルは武装色を安定して使えるまで壁を殴ってろ」
「か、壁をですか!?魔物ではだめなんですか?」
「ああ、魔物相手だと余計なことまで考えちまうからな。まずは武装色だけに集中しろ」
「な、なるほど…?わかりました、やってみます!」
ベルは覚悟を決めて目の前の強固な岩壁に向き合った。
だが、現実は甘くなかった。
---ゴンッ!ガンッ!!
「つっ...あ痛たた...!」
ベルが壁を殴り続けて1時間が経過していた。
「はぁ、はぁ…どうしてできないんだろう…ミノタウロスを倒したときにはできた筈なのに…」
何度やってもあのときの再現ができない。焦れば焦るだけ身体の中の流れはバラバラになり、生身の拳が岩壁を殴る音だけが迷宮に虚しく響く。
(やっぱりあのときのあれは偶然だったのかな....。僕みたいなやつがニューゲートさんと同じような力を使えるわけが...)
その時、周りの魔物を片付けた白ひげがベルに声をかけた。
「なぁベル。お前ェ…自分を信じきれてねェだろ?」
「えっ!?…信じきれてない?」
「ああそうだ。心の奥底では武装色は使えないんじゃねェかっておもってんじゃねェのか?」
「ッ!!いや…そんなこと…は…」
否定しようとした声が、情けなく萎んでいく。
確かにそうだった。どこかで「自分には無理だ」「あのミノタウロスの時は奇跡が起きただけだ」と、自分の可能性を疑ってしまっていたのだ。
「自分を信じれねぇやつが強くなれると思ってんじゃねェよアホンダラァ!」
「す、すみません……」
項垂れるベルの前に白ひげはドカンと座り込み、ベルの顔を真っ直ぐ見てこう言った。
「自分を信じ、疑わねェこと。それも強さだ」
「信じて疑わないこと…それも強さ…」
ベルはその言葉を、噛み締めるように何度も心の中で繰り返した。
自分を疑うな。憧れた背中を、そして自分を「息子」と呼んでくれた男の言葉を、ただ真っ直ぐに信じろ。
「――もう一度、行きます!」
少年の瞳に、今度こそ迷いのない『覚悟』の火が灯る。血に染まった拳を引き絞るベルの背中を、白ひげは見守るのだった。
「───おおおおおっ!!」
ベルは傷だらけの右拳を限界まで引き絞り、泥臭く地面を蹴った。
体内の「流れ」を意識するのではない。自分はできるのだと、ニューゲートさんの言葉は絶対に正しいのだと、ただそれだけを脳裏に叩き込む。疑念を全て削ぎ落とした少年の純粋な意志が、限界突破した肉体のバイパスを一気に駆け抜けた。
その瞬間、少年の拳を包む空気が歪み、じわりと「漆黒」の鎧がその肌を覆う。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
第十層の強固な岩盤が、耳を聾する爆音と共に激しく炸裂した。
今までの「ゴン」という軽い打突音とは明らかに違う、空間そのものを震わせる重低音。壁にはベルの拳の形に沿って深い陥没が作られ、そこから蜘蛛の巣のような亀裂が四方八方へと広がっていく。
「あ……あ、あ……!」
ベルは、自分の拳を見つめて目を見開いた。
先ほどまであれほど激しく脳を焼いていた激痛が、嘘のように消えていた。拳の表面は確かに黒く硬化し、迷宮の岩盤という「絶対的な硬度」を完全にねじ伏せていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……! できた……今、確かに、硬くなる感覚が……!」
「グラララララララ!!! よくやったベル! やりぁできんじゃねェか!!」
背後から、洞窟全体を揺らすような白ひげの豪快な笑い声が降ってくる。
巨大な掌がベルの頭をクシャクシャと乱暴に、しかしこの上ない愛おしさを込めて撫で回した。
「自分を信じる覚悟、確かに見せてもらったぜ。……だがな、ベル」
白ひげはそこで一度言葉を区切ると、三日月のような白い髭の奥にある口元を、ゾッとするほど不敵に釣り上げた。
「今のは、死に物狂いの集中力で『たまたま』出せた一発だ。実戦じゃあ、魔物は待っちゃくれねェ。その黒い鎧を、いつでも、狙って、何度でも纏えるようになって、初めて『使い物になる』って言うんだよ」
「え……?」
ベルが引きつった声をあげる。白ひげは愛槍『むら雲切』の石突で、まだ無傷な隣の岩壁をドンドンと叩いた。
「さぁ次だ! 感覚が残ってるうちに、その体に武装色を叩き込め!」
「ひ、ひえぇぇぇっ! は、はいっ!!」
地獄の継続だった。
一度掴んだはずの感覚は、二発目、三発目になると、焦りからかすぐに指の隙間からこぼれ落ちてしまう。
――ガンッ! 「痛っ……あぁぁぁっ!?」
――ゴンッ! 「ううぅっ、まだ、まだぁぁぁ……!」
殴れば殴るほど、鎧が間に合わなかった生身の拳はボロボロに崩れていく。皮膚は完全に裂け、滴る鮮血が地面に小さな水たまりを作っていく。
あまりの激痛に視界がぐにゃりと歪み、膝がガクガクと笑い始める。
(痛い…………もう、腕が動かせなくなってきた……!)
弱音が心の中で悲鳴を上げる。だが、そのたびに、目の前のクソ高い壁をガキ扱いして笑う、あの偉大な父親の背中が脳裏をよぎるのだ。
(僕は……ニューゲートさんの、息子だ……! だったら、これくらいでへこたれてたまるかぁぁぁっ!!)
五百発目か、あるいは千発目か。
痛みを恐怖ではなく、強烈な「生への渇望」へと変換した瞬間、ベルの右腕の血管が青黒く浮き上がり、血に染まっていた拳が、再び明確な漆黒の輝きを纏った。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
――ドゴォォォォォン!!!
ついに、第十層の通路そのものが地震のように激しく揺れた。
ベルの放った渾身の右ストレートは、漆黒の圧力を爆発させ、直撃した岩壁を半径数メートルに及ぶ巨大なクレーター状に爆砕し、大量の岩塩のような破片へと変えて崩れ落とした。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ッッ!!」
もう、指一本動かす力も残っていなかった。
ベルは、自らの意志でもぎ取った確かな手応えの残る拳を見つめながら、その場にドサリと尻餅をついた。
白ひげは、粉砕された壁と、泥と血にまみれた少年を見下ろし――今度こそ、腹の底から満足そうに笑った。
「グララララ! よくぞへこたれずについてきた! 最高の根性じゃねェか、ベル。……よし、今日はここまでだ。飯の時間に遅れたら、あの狸娘に何言われるか分からねェからな!」
白ひげはベルの小さな体を、壊れ物を扱うように、だが力強く大きな腕でヒョイと抱き上げた。
「……はい、ニューゲートさん……へへ、僕、ちょっとは漢になれましたか……?」
「ああ、お前はおれ自慢の息子だ」
白ひげの大きな胸の中で、ベルはボロボロになりながらも、誇らしげに、そして安心したように泥のような眠りへと落ちていくのだった。
───────────────────────────
ベルがダンジョンの外へと連れ出された頃、オラリオの街はすっかり綺麗な茜色に染まっていた。
「う、ううん……」
白ひげの大きな腕の中で、ベルは小さく身震いをして目を覚ました。まだ体中に鈍い痛みが残っているものの、ステータスの『耐久S』の恩恵か、あるいは白ひげが道中で施してくれた簡単な手当てのおかげか、ボロボロだった拳の傷はすでに塞がり始めていた。
「グラララ、目が覚めたかベル」
「あ……ニューゲートさん! すみません、僕、また眠っちゃって……」
慌てて飛び起きて着地したベルは、自分の右拳をぎゅっと握りしめた。皮膚はまだ赤く突っ張っているが、あの過酷な特訓の末に掴み取った『武装色』の感覚は、確かにその肉体に刻み込まれている。
「いいツラ構えになったじゃねェか。……ほら、約束の時間だぜ」
白ひげが視線で促した先には、ランタンの温かい光が灯り始めた酒場『豊饒の女主人』の看板があった。中からは冒険者たちの豪快な笑い声と、美味そうな料理の匂いが漂ってきている。
「あ! シルさんとの約束……! 急がないと!」
ベルは慌てて服の埃を払い、白ひげと共に酒場の重い木製の扉を開けた。
「いらっしゃいませ! ……あら、ベルさんにニューゲートさん」
出迎えたのは、エプロン姿のシルだった。彼女は二人の姿――特に、ベルの服に付いた無数の泥や岩の削り屑、そして包帯が巻かれた痛々しい両拳を見つめ、その美しい眉を少しだけ悲しげにひそめた。
「ずいぶんと激しいお仕事だったみたいですね。お帰りなさい、お疲れ様です」
「ただいま戻りました、シルさん! その、お昼はお弁当、本当にありがとうございました!」
「ふふ、お口に合いましたか? さあ、席へどうぞ。今日の一押しをたくさん持ってきますね」
シルはいつもの天真爛漫な笑顔に戻ると、二人を店の奥の大きな席へと案内した
「グララララ! この酒、なかなかに五臓六腑に染み渡るじゃねェか!」
「ちょっとニューゲートさん、そんなに一気に飲んだらお店の樽が空いちゃいますよ!」
白ひげは、エルフの店員であるリュー・リオンが運んできた特大の酒樽を片手で煽り、豪快に笑っている。その圧倒的な呑みっぷりに、周囲の頑強な冒険者たちも完全に気圧されていた。
一方のベルは、シルの持ってきた山盛りの肉料理やパスタ を、猛烈な勢いで口に運んでいた。武装色の特訓によって消費されたエネルギーを、身体が飢えた獣のように求めていたのだ。
そのとき、酒場の木製の扉が勢いよく開け放たれ、騒がしい声が響いた。
「あー! 腹減ったわ! ミア母ちゃん、キンキンに冷えた酒と肉山盛り持ってきてーな!」
入ってきたのは、相変わらず奔放な女神ロキ。そして、その後ろから続く面々の姿を見た瞬間、酒場全体の空気が一瞬で張り詰めた。【ロキ・ファミリア】の主力メンバーたちだ。
「ん? ――なんや、ここにおったんか、オヤジさん」
ロキがニヤニヤとした笑みを浮かべ、店の奥の席を見つめた。そこには、特大の酒樽を片手で煽る白ひげがドサリと腰掛けている。
ロキ・ファミリアにとって『エドワード・ニューゲート』は、オラリオの勢力図を引っ繰り返しかねない最大級の警戒対象だった。
「ちっ……またあのクソ野郎かよ。胸糞悪ィ」
後ろに控えていたベートが、白ひげの姿を見るなり露骨に顔を顰め、チッと舌打ちをする。あの時の圧倒的な格の違いを思い出し、犬の尾を立てるように身構えていた。
アイズがロキの横から一歩前に出る。アイズは白ひげに向けて、親愛と最大限の敬意を込めた笑みを浮かべた。
「…久しぶりだね。お父さん」
「お、お、お父さんやとぉぉぉぉ!!一体どういうことなんやアイズ!」
ロキが目玉が飛び出んばかりに驚き、顎が外れそうなほど口を開けて叫ぶ。そのあまりの動揺ぶりに、酒場中の冒険者たちも一斉に「お、お父さん!?」とざわつき始めた。
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインが、あの規格外の男を「お父さん」と呼んだのだ。オラリオを揺るがす大ニュースである。
「ちょっと、アイズ……冗談にしては悪質だよ。それとも、僕達をからかっているのかい?」
いつも崩さないはずのフィンの微笑みが、完全に消え失せていた。
小人族の復興という大いなる野望を抱くフィンにとって、突如として現れ、オラリオの秩序と自分の計算を狂わせ続けるこの『エドワード・ニューゲート』という男は、心の底から気にくわない、警戒すべき障害でしかなかったからだ。
当のアイズは、周囲の狂乱やフィンの冷たい視線などどこ吹く風で、じっと白ひげを見つめたまま、少しだけ不満そうに唇を尖らせる。
「……だって、お父さんみたいだから。強くて、大きくて……守ってくれるから」
「だからって勝手に人の子になるんじゃねェよ、ハナッタレが。おれの息子はそこの白髪だけだ」
白ひげは面倒くさそうに吐き捨て、特大の酒樽を再び煽る。全盛期のその肉体から放たれる凄まじい威圧感は、ただ座っているだけで周囲の空気を支配していた。
その隣で、ベルは苦笑いを浮かべながら二人のやり取りを見つめていた。アイズが白ひげを「お父さん」と呼ぶのは、一緒に迷宮探索をしている時から知っていたことだ。相変わらずマイペースなアイズと、それに迷惑そうなニューゲートさんの構図に、どこか安心すら覚えている。
「いやいやいや! 納得できるかーい! アイズ、うちを置いてそんな男に乗り換えるなんて許さへんぞ!」
ロキがジタバタと悔しがっていると、その背後でベートがふんと鼻を鳴らし、忌々しげに顔を背けた。
「ちっ、下らねェ。ロキ、いつまでこんなクソ野郎相手に突っ立ってやがる。さっさと奥の席に行くぞ」
ベートにとって、視界に入ることすら不快な白ひげ、そしてその横にいるただの弱そうな白髪など、完全に認識の外だった。鼻にかける価値もない雑魚など、視界に留める気すら毛頭ないのだ。
しかし、アイズだけは違った。
じっとベルの手元――血が滲み、包帯が巻かれた右拳を見つめていた黄金の瞳が、トパーズのようにきらりと輝いた。
一緒に戦い、ベルの強さを近くで見たことのあるアイズだからこそ、わかった。
今、ベルが秘めているのが、今までとは明らかに一線を画す、「新しい力」の予兆であることを。その力を引き出すため、どれほどの過酷な修練を潜り抜けてきたのかを。
アイズはベルの隣へすっと歩み寄ると、その包帯が巻かれた手をそっと覗き込み、どこか嬉しそうに、そして誇らしげに目を細めた。
「……うん。すごいね、ベル。前よりも強くなってる気がする……!」
「あ、アイズさん……! ありがとうございます。ニューゲートさんに、たくさん稽古をつけてもらったんです」
アイズの純粋な称賛に、ベルは照れくさそうに、けれどもしっかりと前を見据えて答えた。
アイズがベルに寄せるただならぬ信頼と、少年の急成長。フィンはその様子を、忌々しげに睨みつけていた。
(これほど短期間で少年をここまで変えるとはな……。やはり、あの男を生かしておくのはオラリオにとって害悪でしかない。それに、アイズまであのヘスティアの眷族に感化されすぎている……)
底冷えするような敵意を隠しもせず、フィンは冷たく言い放つ。
「行くよ、ロキ。……ニューゲート殿、これ以上この街を荒らさないでもらいたいものだ。」
「グラララ! 脅しのつもりか、ハナッタレが。おれを消したきゃ、いつでも軍勢を率いて来い。まとめて叩き潰してやる。」
白ひげがギラリと目を光らせ、全盛期の圧倒的な覇気を微かに放つと、酒場全体がミシミシと鳴動し、フィンは飄々とした笑顔を少し崩しながら、背を向けた。
一触即発の重苦しい空気が漂う中、白ひげはフンと鼻を鳴らし、飲み干した酒樽をどさりと床に置いた。
「……こんな空気じゃ酒がまずくなっちまう。おい、ベル。場所を変えるぞ」
「えっ? あ、はい!」
白ひげがのっそりとその巨躯を立ち上げると、それだけでロキ・ファミリアの面々に強烈なプレッシャーが走る。
白ひげは懐から無造作に金を掴み出すと、カウンターへと放り投げた。
「旨かった。 釣りはとっておいてくれ」
「あいよ。また来な、豪傑さん」
厨房の奥からミアの豪快な声が返ってくる。
白ひげはフィンたちを一瞥もせず、堂々とした足取りで店の入り口へと歩き出した。ベルも慌てて荷物をまとめ、その大きな背中を追いかける。そして、シルに感謝の言葉を伝えた。
「シルさん!とても美味しかったです!また来ます!!」
シルは嬉しそうに微笑みながら言った。
「それは良かったです。是非また来てくださいね」
すれ違いざま、アイズはベル達の隣に一歩歩み寄り、フィンたちに聞こえないほどの小さな声で囁いた。
「……またね、お父さん、ベル」
「はい、また今度、アイズさん!」
ベルは小さく微笑んで頷き、白ひげと共に豊饒の女主人を後にした。
ベルは小さく微笑んで頷き、白ひげと共に豊饒の女主人を後にした。
夜風が吹くオラリオの街頭へ出ると、ベルは小さく息を吐き、自分の手を見つめた。心臓の鼓動は早かったが、自分を認めてくれたアイズの言葉が、確かな熱となって胸の奥に宿っていた。
白ひげはそんなベルの頭をポーンと叩き、獰猛に口元を歪めた。
「グラララ! 何を情けねェツラしてやがる。あの小娘もお前の変化を誰より喜んでやがったぞ。お前が覇気を極めれば、あのハナッタレどもを追い抜くなんざ、造作もねェことだ」
「ニューゲートさん……はい! 僕、もっと頑張ります!」
ベルはやる気を滾らせながら拳を握った。
アイズとの絆をさらに深め、己の内に宿る『武装色』の価値を再確認し、少年は再び、力強く前を見据えるのだった。
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