エゴにまみれた危険な悪魔 作:名無しの位階1の虫ケラ六年生
お気に入りありがとうございます。
少し、更新を加速したいところです
「なぜか、問題児クラスだけチーム戦になりましたね」
「っす、……けど、これはかなり予想外っす」
数週間にかけて問題児クラスの面々は地獄を見た
身体も心もボロボロになった彼ら彼女らの感動の再会の第一声は「自分の特訓が一番キツかった」だった。
キレた。
そこから醜い口論に発展し、地獄エピソードを上げあい、誰も一歩も譲らず、結果として収穫祭で一番の好成績を取ったところが一番地獄の特訓だったことにするという事で収まったのであった。その流れで、講師別のチーム戦が発生したのである
問題児クラスはチーム戦になった
しかし、ケイとメイとマルスの3人に至っては最初からチームになることが決まっていた
なぜなら2人は主であるマルスの付き人であり、片時も側を離れてはいけないからだ。それが学校のイベントであれ変わりはない。
「チーム戦で競うってなったら、人数が1人多い俺たちが有利ですし…」
「私たちのポイントは全て坊ちゃんに譲る」
「最初から勝ちが決まってるんすよねー」
2人は喋りながら、魔獣を作業のように屠っていく
2人がこうして狩った魔獣は全てマルスに献上する。マルスのポイントは3人分のポイントと考えていい。
これからの約4日間で2人が行うことになるであろうその行為は、ルールでは制限されてはないが一般生徒からしてみればズルに近いことであった。
そんな2人だが、後ろめたい思いは無い
「罪悪感は湧きますか?」
「んー…湧いてこないっす。だって、坊ちゃんが真剣勝負したらそれこそ、勝負にすらならないっすから」
ケイは遠い目をして、虚空を見つめる。喋りながらも手は緩めない。身体強化で魔獣を殴って殴って殴る。3発殴っただけでソレは原形を留めていなくなっていた。
「…ケイ、食材を痛めないでください」
メイは返り血で赤くなったケイを呆れたように横目で眺めながら、あの数週間の特訓で目にしたマルスの家系能力を思い出し肩を震わせた。
あれは、悪魔と同じ土俵に立っていない
「まあ、坊ちゃんにその気があるかっていうのが問題っすね」
ケイの気の抜けたような言葉でメイはまた呆れつくしたような表情に戻った。もう慣れたと言わんばかりの様子である
「今頃よろしくやってますよ…はぁ」
「本当予想外っす!まさか…4人チームになるとは」
ケイとメイはお互い溜め息をつき、されど手は止めずに獣を狩り続けた。
頭には、ある男子生徒の事で埋め尽くされている。
一年生最終実技の収穫祭、約4日間一緒に過ごすチームメンバーの1人。
飛び入りでチームに組み込まれた男子生徒だ。
印象が薄く、今まで2人は存在に気づいてすらいなかった生徒。まさか、主人であるマルスがあんなにも気に入っているとは思わなかった。
彼の安全は2人がいかに魔獣を早く倒して回収するかにかかっているのである。2人は自分たちだけ違う競技をしているのではないかと訝しんだ
どうしてこうなった
僕はプルソン・ソイ。なんてことのない悪魔学校バビルス一年生である。
僕の目立たない平穏な日常は、この収穫祭という行事によって破壊された。その元凶である悪魔は、目の前のこのいけすかない男である。
「あまり可愛いことをするな」
決定的だったのは、数週間前に放課後集まって円になって話したあの日。この男は僕を認識していた。この赤い目が僕を見ていた
「こらこら、興奮するだろう」
よく考えてみれば少し前から異変は感じていたのだ。僕の穏やかで静かな日常が、いつからか軋んだ音を奏でるようになっていたのは。あれは屋上でトランペットを吹いていたと、「可愛いやつは俺の好みだ」
恐ろしく整った顔が目と鼻の先に急接近していた。
ちょ、いや待って欲しい。待って、待ってくださいお願いします。回想に入らせてください。現実逃避をさせ、ん、ぁ、ふ…ぁぅ…ん、……ぁ?
今、なに、された…?
「無口だなプルソン」
なにこの状況、理解が追いつかない
唇に残る感触。頭から離れない。
赤い瞳に吸い込まれて、目が離せない
「可愛い顔だ。その口無理矢理こじ開けたら、どんな声を聞かせてくれる?」
頭の上で固定されている手に力が込められる。痛い、怖い、気持ち悪い
心臓がずっとバクバクとうるさい、逃げたい
逃げられない
「なあ、お前の綺麗な音色を聴かせてくれよ」
耳元で低音の声が囁く。心臓がうるさい、今にも破裂してしまいそうだ。
寒気なのか、ゾクっと鳥肌が立つ
おかしい。何もかも全て、どうかしてる。収穫祭が始まる前のチーム決めが無ければ… こんなことにはならなかったはずだ
チームを組んで収穫祭に臨む事になった。
数週間特別授業を乗り越えた者たち同士でペアをつくっていった。マンツーマンの講師かつ普段から認知されていない僕にはチームの相手など存在しなかった。
少し寂しさを覚えなかったというのは嘘になるが、収穫祭は目立たないようにひっそりと行動して途中でリタイアしようと呑気なことを考えていたのが実際だ。それが家の掟だし、それでいいと思っていた。
目立たないことを信条に掲げる隠密の家系に生まれた。得意なことは家系能力である認識阻害の魔術、将来は家を継ぐ事になる。
目立たない、それが最重要の人生。
だがら…もっと警戒しておかなければならなかった。唯一、このクラスで僕のことを認識していた生徒のことを
「最高の思い出つくろうな」
アバドン・マルスを
収穫祭一日目
僕はなんの手違いか目立つこと間違いなしのリア充チームに組み込まれてしまった。強制イベントである、僕に拒否権は無かった
雲行きはもう怪しいというか、完全にアウトだ
「泣くほど嬉しいか、プルソン」
気づけば、涙が溢れていた
「ッ、…」
初めて口から声が漏れた。
背中に柔らかいマットレスの確かな感触が伝わってきた。
そうだ、僕は今、この男にベットに押し倒されて襲われているのだと。この状況が僕の頭に逃げられないと理解させてくる。
こんなの、嫌だ
赤い瞳がじっと僕を見ている。面白そうに笑っている。
身体の震えが止まらない
唇を奪われる、頬を撫でられる、涙を舐められる、触れるたびにおかしいくらいに身体がビクッと反応する。
赤い瞳の奥は鋭い
ただただ怖かった。この状況が理解したくなくて、自分の身体が理解できなくて、どうしようもなく怖くて仕方ない
「お前のことがずっと気になっていた」
前髪をかきあげられる。その手つきは優しい。
なんだ、もっと乱暴だと思ってた。
…普段メイさんとかケイくんとかには無理矢理なのに。まあ、押し倒してるからこの状況も無理矢理なんだけど…
「プルソンは目を離したら、どこか行ってしまいそうで…閉じ込めてしまいたくなる」
そう、本来、認識阻害という僕の能力によって、このような状況は起こりえるはずがないのである。
家系能力である認識阻害をずっと発動しているはずなのに、なぜか赤い瞳は僕を見つめ続けている
おかしい。
……おかしい?
そうだ、おかしいんだ。認識阻害を発動している僕を把握することなんてできない……僕は認識阻害を発動して、いない?
心臓がドクリと冷たい手に鷲掴まれた。思わず息を呑む
「……あぁ、その顔気づいたか。まあいい、続きは今度にするか」
そうだ。この、状況もよく考えてみればおかしい。……なんで僕は、チームを断らなかった。なんで2人きりになるのに部屋に入った。身体が妙に熱いのはなぜだ。
前髪をかき上げられたとき、僕は間違いなく…喜びという感情を覚えていた。……僕が僕でないみたいだ
そして、それは全部
「…認識阻害という能力は手に入れない理由はない。お前を手に入れるなら、俺はなんだってする」
アバドン・マルス
見目麗しい容姿が返って恐ろしさを際立たせていた。整った顔からは笑顔が抜け落ち、赤い瞳はゾッとするように冷たい
今までの笑顔は鳴りを潜めて、本当に笑っていたのだろうかと疑うほどに感情というものが抜け落ちた表情をしていた。
「プルソン、少し眠っていろ。安心していい起きたら今のことは忘れているだろうからな」
なにをするつも、り…意識が…朦朧、と……して、
「帰ったっすよー!、坊ちゃん」
ケイとメイの2人は魔獣狩りを早々に終えて、拠点に戻ってきていた。第一声元気一杯の声と笑顔で扉を蹴飛ばして入室したケイは、あれ?という表情でマルスを見つめた。
全裸でもない、半裸でもない。服を着ていた
「なんで服着てるんすか?」
ケイは普段のマルスを相手にして、頭がおかしくなっていた。服を着ているのは普通の事である
「あぁ」
「…坊ちゃんプルソンさんはどこへ?てっき今頃盛り上がっているところかと」
メイはケイ以上にマルスとの付き合いは長い。当然頭はおかしくなっていた。ケイと違い、もう手遅れである。
「いや、服を脱がせたあたりまでは良かったんだが…火事場の馬鹿力か認識阻害で逃げられた」
なんて事のないように、マルスは言う。
「じゃあ裸で逃走中というわけですか」
メイは絵面を想像して変な顔をした。それにマルスはおかしそうに笑って答える
「いや、この部屋にいるぞ。裸だしな、恥ずかしいんだろう。魔術を解いて姿は見せてくれそうにない」
「なるほど、お気の毒としかいいようが無いですね」
「プルソン?って悪魔良い家系能力してるっすね。俺結構気配とか読むの得意だと思ってたすけど…どこにいるかわからないっす」
「まさか…もう1人このクラスに生徒が在籍していたとは、驚きました。…認識阻害というのは、視覚で姿を認識させなくするという単純なものではなさそうですね」
「プルソンくんはちょっと戦いづらい相手っすね!」
「それで、収穫はあったんだろうな」
話を変えようと、椅子に座っていたマルスは足を組みなおした。
いつも通りの偉そうな態度、それは日常的な自然の動作で話題はプルソンから、違う事へと違和感なく切り替わっていた
「食料とってきたっす。珍味ばっかりすよ」
ケイは思い出すように、黄色の魔獣や赤色の実、毒々しい花の話をした。どれもこれも見た目はアレだが、なかなかお目にはかかれない希少価値のある食材ばかりであったりする。
「それを俺に食えと?」
マルスはあからさまに不機嫌になった
「調理は先輩がするっす」
「ケイが手加減を間違えて、ミンチにしてしまいまして…今日はハンバーグですね」
「俺に四日間こんな環境で暮らせと言っているのか?」
マルスはあからさまな文句を言った
「なんだこいつ」
「先輩!心の声が出てるっすよ!」
流石のわがままっぷりにメイは本音が口から漏れでて、ケイは笑顔でハッキリと毒を吐いた
アバドン・マルスは生粋のお坊ちゃんであった。
良いところの家に生まれ、蝶よ花よと育てられたマルスは思考回路が箱入り娘ならぬ箱入り息子だ
別に自然は嫌いではない、土や虫も触れないことはない
ただ、ジャングルで数日過ごせと言われたら話が変わるのだ
「俺にストレスで死ねと言っているのか?」
この男、環境に弱い。
フカフカのベットでないと寝つけない。
メイドたちに服を着替えさせて貰うのが当たり前。
どうやって1人で風呂に入るのかイマイチわからない。
ご飯は腕聞きのシェフが作った最高級のものしか受け付けない。
徒歩も飛行もありえない。
1人で生活を完結できないのであった
恥ずかしいと思わないのか?
「坊ちゃん引き篭もっていてはダメです。働いてください」
アバドンがこの収穫祭という試験で最初に行ったことは、この部屋を見て貰えばわかる。不自由のない空間を作る、ということであった。
緑豊かな森林をちょちょいとシンプルに自然破壊をした。そして、魔力を惜しみなく使い一つの大きな城を建てた。
慣れない環境での拠点作りは確かに重要なことである。しかし、マルスは拠点を確保してから一向に動く気配がなかった。
なぜなら、馬車がないからである。
「坊ちゃん!!今までの過酷な訓練を思い出してください!!坊ちゃんの背中に付いているものはなんですか?羽ですよ!!坊ちゃんの身体に付いているものなんですか?足です!!
働け!!」
マルスはこの数週間の特訓で、自分で動くということができていたはずであった。
それは、過酷な環境から脱出するという訓練であったからであり、この収穫祭のような過酷な環境で数日暮らすというものではないからだ。
「無理無理無理絶対に、動かない」
マルスは駄々を捏ねていた。顔が良いだけにその行動は見ていて見苦しいものがある。年齢的にも、キツいものがある。
「坊ちゃんこのままでは生き残れても、ポイントが稼げません」
メイはマルスを長年見てきたからわかる。この様子では本当に最後まで何もしないと。メイはマルスに変な信頼を持っていた、やると言ったら最後までやりきる。
このままでは収穫祭が引き篭もり生活で終わる
まずい、と悟ったメイの行動は早かった。頭を瞬時に回転させ、何を言えばマルスが自分かは動くか考えた。
導き出した答えは、煽てるにつきる
マルスという男は単純だ
「坊ちゃん!良い成果を出せばカルエゴ先生から褒められるかもしれませんよ!」
ベットの上でゴロゴロとしていたマルスの動きがピクリと止まった。
獲物が餌に食いついたとメイは判断し、釣り上げることにした。ここからは怒涛の巻き上げである
「それに、サキュバス師団の方たちも応援していたじゃないですか」
「生徒会役員の方々も坊ちゃんには一目置いているようですし、良いところを見せたいじゃありませんか」
「旦那様と奥様のご期待もありますし」
「あと…そう、サブノックさん。力を示せば気に入らられるかもしれませんよ?実家にも遊びに行けたりして……なんて出来すぎでしょうか」
「あぁ…一番大事な方を忘れてました。この数週間講師をしてくださったデンス様。良いところを見せたいじゃありませんか、なんてったって、坊ちゃんのは「皆まで言うな」
これは、押し切れるとメイは確信した。
「いいえ、言います」
胸の前で手を組む。大事なものに触れる時のような暖かい声でそれでいて芯がこもっている瞳でマルスを見つめた
「坊ちゃんは多くの悪魔から期待されているのです。お立場があるのです。…なにより、坊ちゃんの逞しいお姿を私に、私のために見せてください。なんて…我儘でしょうか」
メイはほんのりと顔を赤く染めることを忘れない。頭が熱い、心臓の鼓動がいつもより少し速い。
羞恥心でしにそうだ、でもこの男と関わる人生でそんなものは捨てなければならないとも理解していた
だが、恥ずかしいものは恥ずかしい
「……あぁ」
ベットに寝転がった背中から、返事が来たのは赤が頬から耳まで到達した時のことだった
いや私を羞恥死させたいのか、早く返事しろよ
まあ、釣れたことには変わりないので、結果良しとメイは心の中でガッツポーズをした
そして、ついにマルスはその日城から出ることはなかったのである。
城内に怒声とハリセンの音が鳴り響いたのは言うまでもない
生徒たちは一日目の活動を終え、眠りについていた
特に目立ったこともなく、1日が終わったように思えた。
夜のジャングルは静かだ
夜のジャングルは昼の喧騒など忘れたかのように寝静まっている。
不自然なほどまでに、なにも聞こえない。それは異様に感じるほどに。
魔獣の唸り声も、虫の鳴き声も、鳥が羽ばたく音さえも、何もかも無い
まるで、森林に住まう生命がどこかに消えたかのようで…酷く不気味だった。
収穫祭一日目の夜、人知れずひっそりと魔獣が森林から姿を消した
プルソンごめんなさい。収穫祭は被害者が多く出ることが予想されます