人の人生とは、自然現象のように、または俺とハルヒの出会いのように、いつ何が起きるか解らないものである。
で、それが今日俺の身に起こった。悪い意味で。
というのも、親父の会社の都合で、家族全員海外へと引っ越す形になっちまったのだ。
やれやれ、藤原とかいうシスコン未来人がいなくなって少しは平和になったかと思えば、一ヶ月もしないうちにこれかよ。
「…という訳だ。2週間後にはもう、俺は北高にいない。」
この件の旨を話し終え、俺が皆の顔を見てみると、朝比奈さんは今にも泣き出しそうな顔で、古泉は相変わらず笑顔を崩していないが、なんだか寂しさの混ざったような顔だった。長門はやっぱり無表情だが、そこには極薄の「困惑」という文字がうっすらと貼り付けられているような気がした。
で、皆が本命と思っているだろうの ハルヒは…オーバーリアクションを大量に鍋にぶち込んで煮詰めたような顔をしていた。
大きな瞳にみるみる涙がたまって、崩壊寸前のダムのようになっていく。
「何よ…どうしてそうなるのよ……ずっとあたしの側にいなさいよ……うぅっ……ば、バカァァァァ!!!」
とうとう溢れ出した涙を撒き散らしながらハルヒは部室のドアを勢いよく開けて、閉めることすら忘れたまま走り去っていってしまった。まさか、こんな形であいつの泣くところを見ることになるとは。
…正直、俺が直接の原因ではないとはいえ、なんだか申し訳なかった。
許してくれ、不可抗力だ……なんて思っただけで、俺の心臓にはナイフがグサグサと突き刺さっていくように感じた。
…が、次の日。
「おい、ハルヒ」
ガチャリとドアノブを捻って、ドアを開けた先の団長席でそっぽむくハルヒへと話しかける。
「…」
相当ショックだったのだろうか。もはやマネキンのように何も言ってこないし反応もしてこない。
「実はな…海外に行くって話、親父がってのは間違いだったんだ」
単刀直入に言った。嘘ではない、大マジだ。今日の朝、朝飯を食うためにリビングへ入った直後、親父にこの旨を告げられたのだ。
「っ…!」
石像同然だったハルヒは、俺の言葉を聞くや否や、こちらへと180度回転してきた。彼女の瞳に涙が溜まっていくが、昨日の悲しみのそれとは違い、安心や安堵と言ったら温かいモノが詰まっているようだった。
加えて数秒後、立ち上がったハルヒは、まるで俺に抱きつこうとでもしたかのような動作を一瞬だけして、すぐさま床に崩れ落ちた。
「よかった…本当によかった…!あんたがいなきゃ…SOS団は…あたしは……ダメなのよ…!うっ…うわぁぁぁぁぁん!!!」
赤ん坊のように泣きじゃくるハルヒ。俺はそんな団長の肩にポンポンっと手を乗せて叩いた。
「心配かけたな」
「心配するに決まってるでしょバカキョン!うぅっ…ぐすんっ…!」
「気が済むまで泣け。終わるまでずっと側にいてやる」
「…すぅっ…うんっ…いなさいよ…」
転勤が白紙になったのは本当に間違いだったのか、それともハルヒが『願った』からなのか、俺には解らない。
だが、どちらにしても、自分にとってはこれまでにない幸福に感じた。