長期化し疲弊した両陣営は戦争を止めることができない。
そして、戦争のホットポイントのひとつとなった火星の荒野。
そこでの小戦闘を見た火星の人類の一人語り。
ルナアースのクモ
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連合のキノコ
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双眼鏡の視界では戦闘は終わっていた。
両陣営ともに此方に対して無視を決め込んで…いや、自動無人兵器に意思はないから目標設定されてないという事だろう。まだ。
私は望遠双眼鏡を下ろして戦場に向かう。
徒歩の私の後ろを装履式のマーズローバーがついてくる。
「キノコが5にクモが2か」
比較的小規模の戦闘は連合の投下したキノコ(:二脚式無人兵器隊)をルナアースのクモ(:四脚式無人戦車)が迎撃する形だった。
機動力、攻撃力、防御力ともに優れるクモだが、生産性と展開力でキノコに劣り、この戦場では数の力に負けたようだ。
とはいえ、投入した戦力の八割を失った連合側も戦線拡大などできない。
生き残ったたった一台のキノコは回収のメドも立たず、「次にここを戦場とする」時の為にスリープ状態になるのだろう。
正直、火星の人類から見ればスリープ状態の無人兵器はそのまま目に見える地雷だ。
近寄りたくもないが、「敵でないモノ」が破壊された兵器を回収しても「敵対」と認識されないのであれば生きる糧とさせてもらわねば我らとしてはやっていけない。
「使えるパーツ」を回収して所属国に売る。
地球時代の中世ではよくあった事らしい。
勢力拡大の為に中立地帯で戦争することも含め人間という奴は余程変わらない生き物らしい。
何故、第二の地球と呼ばれたこの星が未だ人類勢力同士による係争地になったのか、私は理解していない。
いや、歴史としては知っている。
しかし、私が生まれた時には既に始まっていた戦争は未だに終わっていない。
地球圏の繁栄の為に使い潰されていると考え、独立しようとした木星圏と土星圏の外惑星連合(:連合)。
それまで繁栄していた月と地球、二つの勢力は急遽手を結び地球圏協商(:ルナアース)を結んだ。
そこまでは理解できる。
火星も連合ほどではないが、地球圏より生活は苦しかったから。
当時、火星は『ある程度』開拓が進んでいた。
薄くはあるが呼吸できる大気(赤子が呼吸系に障害を持って生まれた段階で絶望と言われる程度だが)を持っていた。
水も火星地殻の氷の再利用や氷小惑星、小型彗星を持ち込む事で確保出来ていた。
資源が少なく外惑星とは距離のある地球から『人類の首都』を移そうという話もあったらしい。
しかし、開発費用はルナアースからの借用だったし、娯楽や贅沢品なぞ手に入らなかった。
少ない娯楽がラジオや簡単なテキストデータという時点で分かるだろう。
私の父親はルナアースの偶像(私には理解できないが歌って踊る事で大金を稼げるらしい)グループが火星の大地で動画を撮っている際に小競り合いに巻き込まれたらしい。
「画に入るな、火星人。此方はお前たちの開拓を主題に選んでやったんだ。邪魔をするな。」
プロデューサーとやらの一言で起きた暴動で父方の祖父の閉鎖系農場は燃やされた。
その後に駆け回って再起を図り続けた祖父は最終的に農場の再建を見ずに死んだらしい。
まぁ、その後に再建なった我が家の農場は今の戦争でクレーターになったし、元々火星の大地に広がっていた解放型の都市は消滅した。
戦争初期に両陣営のバカが大気生産工場を拠点にしたせいで全ての工場が損害を受けて以前ほど大気を作れなくなったのだ。
まだ大気は呼吸可能だが、ほとんど補充されないのだ。
そして両陣営の広げた戦火が地方都市を焼いた。
今では生き残った数少ないドーム型都市(火星開拓初期に作られた骨董品)に『火星の人類』は細々と生きている。
自治政府…元の火星開発公社は両陣営と外交をしているけど、戦争を終わらす役には立っていない。
物理力なき政治など実際に『力』が行使された後には無意味なのだ。
そして、20年近いこの戦争はまだまだ終わりそうにない。
どちらかが圧倒的な数を投入すれば終わるのであろうが、人類の技術では距離が遠すぎてコストがかかりすぎるらしい。
火星に関しても「敵方の基地にならなければそれで良い」と双方が考えている以上、なにも変わらないだろう。
どこかに宗教上の上位的存在(:ビッグブラザー)でも現れない限りは。