アズサとの再会
セイアとの会話から2日ほどが経った。あの日からセイアの返事を受け取るかとかどうか、ぼんやりと考え続けていた。被害を減らせるとか言うより、アズサといられるかが重要だから、正直ティーパーティーにいる必要性が……
……………待って、私普通にトリニティに居られる確証なくない?このままブラックマーケットにぶち込まれても世間知らずだから多分やばいよ?悪い人に騙されるのとか凄く目に見えるよ?
いや、セイアの口ぶり的にはそんな事はなさそう(正義実現委員会という治安組織がスカウトって話してたし多分トリニティ生徒になるのは確定)だからまあ……
どうしよう……お金の問題とかもあるし……うーん……
そんなふうに長ったらしく考えていると、突然ドアが開いた。こんな時間には救護騎士団の子なんて来ないはずだけど?……
「姉上……!」
今までの思索が全部吹っ飛ぶレベルの人がまさかのそこに立っていた。全身が沸き立って一瞬にして私は冷静さを欠くというべき状態になる。冷静さを欠いていることなんて分かっているけれど、それを分かっていて尚それを抑えられる程アズサへの愛は弱くない。
「アズサっ!」
「姉上!」
私は沸き立つ感覚に任せベッドを飛び出しアズサに飛び付く。
「良かった……!やっと目が覚めて……」
「?……」
やっと、という言葉に私は疑問を覚えた。もしかして目が覚めてないって伝わってたの?それともまさか……
「……来てたの?」
「あぁ……朝の5時に……」
「……」
アズサ……流石にその時間帯は起きてないよ……まあきっと補習授業とかの関係でそういう時間じゃなきゃ無理だったんだろう。夕方は……ごめん来てたとしても私寝てたわ。
「ごめんシンプルに寝てた」
「いや、いいんだ。姉上は今まで頑張ってきたんだから、休んだって罰は当たらない」
「寧ろ休まないと救護騎士団の人にしばかれるけどね」
「そうなのか?……」
「トリニティだと治りかけは休まないとダメらしいよ」
そうだよアズサ。休まないと早く治すために足つぼマッサージとか言う拷問してきたりするから。肩もマッサージとか言う拷問されたよ。マジ、アズサの肩もみが恋しくなった。
「まあすぐにでも退院できそうみたいだし、大丈夫。多分今までで一番元気」
「そうか……本当に良かった……あの時はどうなるかと!」
「あの時は私も死ぬかと……あ、立ち話もあれだし座って話そう」
「あぁ、そうだな」
そう言って私はベッドに座り、アズサはゆっくりとベッドの側にある椅子に腰掛けた。部屋はずっと真っ白だったけど、アズサが来たことで少し彩りが増えたような気がした。
「なんか……こういう時何話せばいいんだろう?」
「いつも通りでいいと思うよ、姉上」
いつも通り、なんて言うけどあの時から多分私はすっかり変わってしまった。なんというか、あの死の淵を経験して単純に色々考え方は変わったんだろうし、私の中にいたはずの呪いの意思は消えてしまったから。
「そうだ、姉上。私は正式にトリニティの所属になったんだ」
「そっか……」
「勿論、姉上もだよ」
「えっ」
「当たり前だ。姉上はあの暴動を抑えるのに協力してくれたから」
周りからはそういうことになってるみたいだ。私はアズサの味方をしただけだけど……上手いこと周りを言い包めるならそういう事にするよね。
「だから姉上……また一緒に学校にいられるよ」
「そっか……良かった」
そう穏やかな口調で言うけど、ちょっとだけ翼がパタパタしてしまっていたのに気付いて抑える。危うく嬉しいのがバレる所だった。なんか嬉しくて尻尾を振ってる犬みたいで、ちょっと恥ずかしかった。
「勉強は大丈夫?」
「あぁ、再試験は無事合格だ」
「良かったね……もう再試験ならないように頑張ろうね、アズサ」
私は翼を抑えてるのをバレないように質問して気を逸らす。アズサは昔から勉強自体はそんなにできる方じゃない。まあ、私がそういう本とか読むのが好きな大人しい子である分アズサは活動的な子になったのかもね。
まあ、私としてはアズサがお勉強へっぽこでも全然いい。だってアズサだから。
「姉上の方は大丈夫なのか?……幾ら姉上は頭が回ると言っても追いつくのは相当大変なんじゃ……」
「ふふふ……私の知識欲を舐めちゃいけないよ?」
「……まさか!」
「まあ実際問題解けるかは別のお話だけど、どういうものかは拾ったボロい教科書で知ってるよ」
何気に私は書物なら何でもかんでも読み漁っていた為にトリニティ生が捨てたと思しき教科書までガンガン拾い集めていた。
まあ一般的な教科位はかるーく知ってるんじゃないかな?でも問題集をやった、とかじゃないから知恵として定着してる可能性は低いしそこは別で時間を捻出する必要はあるけど、それでもなんとかできる範疇だろう。
「流石姉上……!」
「ふふん……」
しかしアズサにこうも褒められると私の翼は嬉しすぎて手で押さえきれないレベルで荒ぶってしまう。身体が弱ってる頃はうれしくても翼を動かす気力がなくて殆ど動いてなかったけど、今は体力が有り余ってるせいで翼が狂喜乱舞するが如く勝手にパタパタ荒ぶってしまう。
まあ実際私自身が狂喜乱舞したいけど!
と言うかこんなんでトリニティにいて大丈夫なんだろうか……ポーカーフェイスとか不可能じゃ?
「すまない、もう時間だ」
「そうなんだ……」
「本当はゆっくり私の友人も紹介したかったのだが予定が合わなくて……」
「いいんだよアズサ。これから時間は一杯あるんだから」
「……そうだな。またね、姉上」
「うん、またね」
そう言うとアズサは帰ってしまった。何ら変わらないいつもの他愛ない会話。だけどお互いが物凄く大切で尊敬してる事を前以上に知っているからか、以前あったわだかまりみたいなものがなくて久しく何も気にせずに話せたかもしれない。
私がバレないようにあれだけ抵抗していた翼は寧ろアズサが帰ると聞いた瞬間には凄まじい悲嘆に暮れるが如く翼はへたり込んでしまった。私は……別に寂しくない。寂しくなんかない。うん。翼がすべて物語ってるとか思っちゃいけない。思ったら負け。
まあでも……やっぱりアズサと話すのは落ち着く。私はアズサとやっぱりいたい。でも私は弱かった。今までそうだった。私にはアズサしかなかったから。
けれど……アズサと居たいからって、『補習授業部として互いに壁を乗り越えてきた仲』に私が混ざってしまうのは違うと思った。家族と友人は別だ。それにこれから先も生きられるならアズサは親離れならぬ姉離れも必要だろう。それから私が幾らシスコンだからといってアズサに依存し過ぎるのも良くはないだろう。
私の中で答えが固まった気がする。
私は病室に鍵をかけて、大急ぎでセイアの病室の窓まですっ飛んで、窓にノックした、
「おや、もう決まったのかい?」
セイアは本を閉じながら窓を空けた。やっぱり治ってから体の動きは随分と良くなった。セイアの病室まで難なく行けるレベルで、私の体はよく動いた。
「うん。受ける」
「……そうかい」
セイアはそう言うと、引き出しから待ってましたと言わんばかりに書類を出した。私は窓から部屋に入るけど、書類をよく見てみるともうすでに書いてある気がする。
「じゃああとはこれにサインをすれば手続きは」
「えっ待って待って?」
「おや?何かおかしかったかな?」
おかしいよ?????『あとはこれにサインをすれば手続きが〜……』じゃないよ普通。いやまさか……
「そのまさかだよ」
「心の声を読まないで!?」
「私には未来を読む力しかないのだがね」
「ぐっ…………!」
どうやら未来予知で私が受けることは完っ全に想定済みだったらしい。いや、話が早いのは嬉しいと言えば嬉しいんだけど……
「こちらとしてはエデン条約を前に入れる上でいち早く対策を練りたかったからね」
「…………でも織り込み済みなのは……ちょっと拍子抜けと言うかなんというか……聞く必要あった?」
「あるとも。聞かないと予知夢と変わってしまって分からなくなるからね」
まあなんでもいいや……とにかく、私は戻らないとやばい。少しでもあの病室から離れてる時間は減らして怒られるリスクは極限まで減らしたい。とりあえずセイアの言うとおりにサインして、私は窓枠に足をかける。
「じゃあ私は戻らないと怒られるから戻るね」
「……確かに君の担当の子はバレたら救護されてしまうからね……また会おう」
そして私はセイアの言っていた『救護』の意味がよくわからなかったけど部屋まで大急ぎですっ飛んで戻った。
ガチャッ……
「…………」
「…………」
が、しかしまたも窓から入ろうとした瞬間にドア開いた。あのトラウマの光景と全く同じ構図だ。というか鍵かけたのになんでさも平然と鍵開けて入ってきてるの?……それにこの時間にはいつも入って来ないよね!?
「またですかッッッ!!!!なんで安静にできないんですッッッ!!!!」
その怒号を聞いた瞬間あの日のトラウマが蘇った。あのツボを押すマッサージと称した拷問は確実にアリウスで受けたどんな仕打ちよりも酷いものだ。嫌だ……!拷問されたくない……!アズサ助けて…………!!!!
「救護が必要のようですね……仕方がありませんねッッッ!!!!」
「ごめんなさいごめんなさいやめてぇぇぇぇ!!!!」
「救・護ッッッ!!!!!!!!!」
そして私は退院の日までやんちゃすることはできなくなるレベルの恐怖を植え付けられ、患者の身分で救護騎士団には逆らってはいけないことを骨の髄まで叩き込まれたのであった。
いやぁ、アンケートセイアとイチャイチャして欲しい人多かったですね。まあ始めからそのつもりでしたがねぇ!