魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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夏休み

九校戦が終わり、本格的な夏休みがようやく始まりを迎えた。

そんな中、達也から一通の連絡が届いた。

 

『雫が別荘に招待したい、言っているが、空いてる日時はあるか?』

 

と。

芥は携帯端末で予定を確認すると、来週末なら空いているので達也にそう返信する。

了解した。と短いメッセージが返ってきた。

その後、その日程で正式に決まった旨のメッセージが届いたので、慌てて準備をする。

泊りがけの旅行なんていつ以来だろう。

 

当日の朝。

指定されたマリーナに向かった芥は、雫の家が所持するクルーザーを見て感嘆の声を上げていた。

 

「おお、凄いな」

「クルーザーがそんなに珍しいのか?」

 

同じ頃に到着した達也に独り言を聞かれたようだ。

 

「おはよう、達也。いや、船なんて久しぶりに乗るからさ」

「おはよう。たしかに、そう頻繁には乗らないよな」

「おはようございます。芥さん」

「おはよう、深雪」

 

当然、一緒に来ているであろう深雪にも挨拶を返す。

そうこうしているうちに皆が揃い、出発と相成った。

出発する前に雫の父親と挨拶を交わしたが、挨拶だけしてそのまま車で去ってしまった。

…マリンスタイルまでしていた事は、そうとう参加したかったんだろうな。

 

クルーザーで六時間、ちょうど太陽が頂点に達した辺りで、雫の別荘に着いた。

雫の別荘は無人島一つを使っているからか、相当に広かった。

俺達全員がいても部屋が余るくらいには。

 

別荘に着いたら、女性陣は早速、水着に着替えてプラベートビーチに繰り出した。

男性陣も水着に着替えて付いていく。

レジャーシートを広げてパラソルを開き、海辺ではしゃぐ少女達を眺める。

 

「まぶしいなぁ……」

「……そうだな」

 

隣で座っている達也に独り言が聞かれてしまった。

それは、太陽が眩しいのか、水着を着た少女たちが眩しいのか、平和が眩しいのか。

芥のつぶやきには全てが含まれていた。

ちなみに、レオと幹比古は何故か遠泳を始めていた。

 

そうやってぼーっ水平線を眺めていたら、パラソルの周りに気配が集まっているのを感じた。

いつの間にか水着を着た少女達に囲まれていた。

 

「2人も一緒に海に入りましょうよ?」

 

ほのかが、前かがみになりながら言うが、芥と達也は視線の置き場に困っていた。

少女達の未成熟でありながらも、女性を感じさせる色香が強すぎて頭がくらくらしそうだった。

根負けしたのか、その中から抜け出そうと達也は重い腰を上げた。

 

「そうだな」

 

そう言って、薄手のパーカーを脱いだ。

その下からは、見事に鍛え抜かれた男性の身体があらわになる。

さらには厳しい訓練で付いたであろう、傷が生々しく残っている。

それに少女達が絶句している中、達也は芥に助けを求めた。

 

「お前は来ないのか?」

「いやー、達也の『それ』で絶句されると、俺の身体なんて見せられないよ」

 

しかし、深雪は芥の隣に座ると右手を握り、

 

「大丈夫です。私は芥さんがどんな傷を負ってようと構いませんから」

 

と、真っ直ぐに視線をあわせて言ってきた。

そこまで言われてしまっては、しょうがない。

芥は深雪から右手を剥がすと、立ち上がりパーカーを脱いだ。

 

それは、達也よりももっと酷かった。

体中に傷があるのはそうだが、左肩は金属のコネクターで覆われているし、左側には凍傷の後が見える。

そして、全員の絶句をもたらしたのは、背中全体に広がる大きな傾いた十字架の傷だった。

あれほど、言っていた深雪でさえ絶句している。

達也だけが、冷静に評価してくる。

 

「お前も凄いな」

「まぁ、人様に見せるものではないと自覚しているからね。……背中の傷は念が強すぎて消えないんだよね」

 

そうな風に互いの身体を褒め合う男子2人、

傷だらけの男2人を前にして、絶句している少女たちの中で一番始めに再起動したのは深雪だった。

深雪は俺の右手を再度握りしめ、

 

「……驚いて申し訳ありません。しかし、どれほどの傷を持っていようとも、私はあなたを見苦しいなどと思いませんから」

「そうそう。ちょっと驚いたけど、芥の技術を見た後だとなんか納得感があるし」

 

エリカもその場を和ませようとしてきた。その効果はあったようで2人の言葉でその場の緊張は緩んだ。

その後は波打ち際で水掛けをしたりと、芥は久方ぶりの海を楽しんだ。

その後、達也とほのかが一悶着を起こすが、それは2人の名誉のため割愛させてもらおう。

 

その夜。

夕食後の芥は1人波打ち際を散歩していると、後ろから呼び止められた。

 

「芥さん」

 

芥が振り返ると、サマーワンピースを着た深雪が後ろから追ってきていた。

芥は立ち止まり、深雪が近づいてくるのを待つ。

右隣まで歩いてきた深雪の歩幅に合わせて、再度ゆっくりと歩き出す。

潮騒が響く中を2人並んで歩く。

 

「昼間はちょっとびっくりさせちゃったかな?」

「そうですね。びっくりしたことは確かですが、怖さはありませんでした。ただ……」

 

深雪はそこで一旦言葉を切った。

 

「ただ、私が知り得なかった時間を、どの様に芥さんが過ごしてきたかが見えて、少しの嬉しさもありました」

「そっか」

「はい」

 

その後は沈黙が続いたが、ふと気付くと芥の右手の小指が、深雪の手に握られているのに気づいた。

隣を見ると、前髪で表情を隠しているため読めないが、夜の暗さに負けない程、耳まで赤くなっているのが見えた。

芥はあえてそれに気づかないふりをすると、一旦握られている小指を解くと、今度は深雪の手をちゃんと握った。

右手から相手のビクッとした反応を感じとったが、キチンと握り返されたその手が振りほどかれることは無かった。

 

そのまま、ビーチを往復するまで会話も無かったが、お互いの手は繋がったままだった。

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