そんな方からの婚姻の申し込みに私は有頂天になっていた。
私は知らなかった妹が後ろから狙っているとは思わずに。
その絶望が口を開く。
それが妹なのが尚更たちが悪い。
「お姉様は狡いのです。セオドア様のような素敵な婚約者がいて。だって私もセオドア様が良いんです。ですから、私にゆずってくれてもいいでしょう?お姉様に縁談は沢山あるのでしょうから」
「それとコレとは話が違いますセオドア様は私の婚約者譲れはしません。貴方にも縁談はあるのですから」
ネティアの目には涙と羨望と嫉妬が溢れている。その眼でこちらを見上げている。
当家では珍しく艷やかな黒い瞳と髪。
愛らしく聡明な姿を装っているネティアには精神を揺るがす魔力の香りが漂っている。
彼女の言葉はまるで魔法──無下にはできはしない。
ですがセオドア・ストラウド様は私の婚約者です。
自力で実家から独立した子爵家で、近く私と結婚し私は嫁入りすることが決まっている。
彼は今をときめく国家の⋯いや、このセルシス島の希望の一員。
本来なら、私達の子爵家では無くもっと上位の家に婿入りするか自ら上に駆け上がるお方なのだから。
だけど、幸いにも当家は僅かながら王家に縁がある家柄が幸いしてこの縁談となったのです。
本日も婚約者としての、セオドア様はありがたい事にお忙しい仕事の合間をぬって当家に来てくださった。
そうして二人で歓談を久方ぶりに楽しむ予定でありましたのだけども。
私達テーブルに割り込むネティアに、セオドア様は困った表情で微笑みかけた。
「まいったな。マグリットを押し退け俺と結婚したいのかい?それは困るんだ。俺達の組織はこの国、やがてはセルシス島を動かす。この縁談だって厳正な審査を通して決まったんだ。今更、撤回はできない」
「でもです。お姉様ばかりずるいのです。その中でも、セオドア様までお姉様に渡すのはイヤ!だから欲しいのですセオドア様を」
言葉が出ない、この妹は何を言っているのか。
この縁談は既に決まった事。
正気の沙汰ではない。
それに譲って欲しいなどとは。
度し難い。セオドア様はネティアを彩る装飾品ではない。
この縁談は、家同士以上、国家の安寧の為でもある。
馬鹿な事を言うものでは無いのです。
それにセオドア様の所属する組織の長の恐ろしさはセルシス島全土に鳴り響いているのを知らないとは言わないはず。
「いい加減にしなさい、ネティア。できるはずがないでしょう。オーリエル王政時代を終わらせた我らがアスガルド王家にヒビをいれたいの?」
「だから? セオドア様はいつも私にも優しいわ。今は駄目っておっしゃったけど。お父様達も、分かってくださるわ」
「いい加減にするのです!」
「⋯私がお願いすれば、叶う様に出来てるんだものこの世界は!全てが私どうりなの!」
⋯言う通りなのだ。
幼い頃からネティアが願えば不思議とそれは叶うのだ。
それに両親は不自然に甘い。
素敵な友達に、まだ行き届いていない魔法教本そして誰もが振り向く素敵な容姿。不自然なまでに彼女の物になる。
みんな彼女の願いのままになってしまった。
だからといって、こんな話は到底受け入れられ無い私にも意地がある。
「そんなに顔をしないでお姉様。全部、私の思うがままなのよ。悪い様にはしないわ」
私の顔が怯えた様に見えたのだろうか。
ネティアを前にすると、何時も間違っていないはずなのに、私が悪役になってしまう。
次の言葉が出てこない。
そんな私を見たネティアは私の手を取りで私を見上げた。
美しいその姿その表情に心溶けて行く。
何故だろうネティアの方がおかしいのに。
ネティアの明るい表情が怖い。
「う~ん、ネティア嬢。君の考えは良くわかったけど。困ったね。少しご両親には俺から話をするよ。それに室長と父上にもね」
頭を掻きながら渋面で言葉を紡ぐ。
「セオドア様!」
困惑する私と歓喜するネティア。
それを見つめるセオドアの目に不安が絶えない。
また、ネティアに取られてしまうのか。
「ネティア。止めてちょうだいセオドア様は私の婚約者なのよ!」
「いいえ、お姉様が諦めるの。セオドア様は私を選んでくださるに違い無いのよ!」
勝ち誇るネティアの笑顔が眼差しが恐ろしい。
ネティアに言い返すつもりが言葉が出ない。
いつだって私の言葉は届かない。
言い合っている間に何時の間にかネティア上に立っている。
そっとセオドア様の横顔を見る。
セオドア様はネティアを見定めている⋯?
なんだろうかセオドア様の顔が険しくなっている。
そして、私達に「今日は帰る」と言い残し邸宅を去った。
駄目なのだろうか。
また、ネティアに奪い去られてしまうのだろうか?
---
私は、幼い時から記憶があった前世の記憶だ。
だけど、それが災いしてか病気か呪いかと騒がられる事となった。
違うと言うのに私は正常だ。
もうネティアなのに。
子爵領の邸宅でお祖父様とお祖母様に預けられる事になった。
お父様は政変で慌ただしい王都からは離れられない。
お母様も王都の邸宅でお姉様は王都学園に通っている。
そして私はアスガルド領都の学園に通う事になった。
お祖父様達と離れて、寂しくしていた私にクラスメイト達は元気付けてくれる。
楽しい学園生活を送っていたのだ。
そして時は過ぎ、だんだんと前世の記憶と今世のバランスが取れてきたある日「カチッ」と頭で音がした。
「なんだろう?」
高揚感が身体を包む。
今までの寂しさが嘘の様に晴れていく。
世界が煌めいて瞬くのだ。
凄い⋯私は少し身体が弱かった。
運動もダンスも皆から遅れていたのに。
今なら、出来る!
是迄、ダンスの時間は毎回体調が悪いことにしていた。
それがどうなってるの!?
鮮やかなステップに流れる指先を彩る笑顔!
これは魔法だわ。
きっとそう!
それからの学園生活は毎日が嘘の様に楽しい物になった。
けれど、楽しい時間は直ぐに過ぎるもの。
とうとう卒業の日を迎え王都学園へお父様の元に行く事になったの。
そしてデビュタント。
お祖父様には身体を心配されたけど、今なら大丈夫。
だって今の私は何でも出来るもの。
この煌めく光で!
王都へ来てから、お父様達は凄く優しくしてくれたの。
嬉しい、嬉しい!
今まで、年に何回かしか会えなかったけど、もうそんな事どうでも良い。
謝らないでお父様、お母様。
なんでも遠慮なく言うように言ってくれたけど大丈夫。
私はなんだって出来るもの!
あら、お久しぶりお姉様。
ふふ、マナー?勉強?大丈夫よ。
そんなに心配なさらなくても私は出来るんだから。
お父様達も心配なさっていたけれど、ほらっ!
どう?この礼法、お姉様にマネ出来るかしら。
ずっとお父様達と王都で楽しく暮らしていたのに、お姉様は駄目ね。
ある日そんなお姉様に婚約者が決まったと知った。
『セオドア・ストラウド様』
セオドア様は薄い茶髪に黒い瞳が黒曜石を思わせる何処までも吸い込まれる漆黒。
あの愛の騎士と名高いダリル・ストラウドの子息で子爵。
一瞬で虜になったその瞳の沼に堕ちた。
この人しかないって思ったの。
だから、私がセオドア様と結婚するの。
例えセオドア様が望まなくても私が望めばなんでも叶う私の魔法!
踊ってくださいましお姉様、セオドア様。
---
「ネティア。おまえの縁談が決まったんだが⋯」
待っていたわ、その知らせ。
当然の事なのよ。
咲き誇れ私を彩る世界!
「待ちなさい!話は最後までっ⋯⋯」
うふふ。こんなに早く決まるなんて嬉しい!
でも、もうこんな時間。
早く学園に行かなくっちゃ。
その時「カシャン」頭の中で歯車が噛み合う音がした。
あれ?何だろう、何処かで聞いた様な気がするのは何故だろう。
その日の午後、私の為に学園を訪れたセオドア様の姿を見つけて駆け寄ったのだけど。
おかしいな私の魔法の輝きが薄く感じる⋯
⋯いいえ、大丈夫よ。
世界は私の物なんだから!
「セオドア様、聞きましたわ。結婚のお話して下さったのですね?」
セオドア様は私と自分を一瞥し「なる程、こう言う事か⋯」と呟きそれからいつもの様に優しく微笑んだ。
「うん、そう言うと分かっていたよ。喜んで貰えた様だね」
「セオドア様のお嫁さんになれるんだもの、当然ですわ」
手を繋ぎ並んで歩く。
ほら、また世界が輝き出したわ!
「ネティア何かしたい事はあるかい?」
「全部!私は全部したいし欲しいの!」
「なるほどね、良くわかったよ。それじゃあ、お茶にしようか。私が学生時代に使っていた部屋を借りよう」
やがて辿りついたのは小さな応接間。
こんな場所あったんだ。
中央のテーブルのに向かい合うセオドア様の麗しいお顔が正面に。
ここは私の見せどころだ。
セオドア様を魅了する魔法のお茶を淹れなくちゃ。
さあ、御賞味あれセオドア様。
「美味しい。ネティアは凄いね」
そうなの私の愛よ伝わって!
お菓子を配膳しながら、ふと縁談の詳細を聞き忘れた事に気が付いた。
「あれ?そういえば、セオドア様は婿入りじゃありませんでしたですよね。じゃあ、当家を継ぐのは誰になるのですか?」
「それは何だけどリシュモン子爵家を継ぐのは、ネティア、君だと決まったんだ」
「あれ?それではセオドア様はやっぱり婿入りなさるのですか?」
「しないよ。貴族は複数の爵位を兼任できるからね。例えば私はストラウド子爵家の長男でもあるけど自分で建てた別のストラウド子爵家の当主でもあるからね」
「そうでした。少しややこしいですね」
ふふ、お姉様には子爵家も残らなかったのですね。
何処ぞとなりに嫁入りすればよろしくてよ。
良縁であれば私の益になり悪ければそれでいい。
どちらでも構わないのです。
「ふふっ」と私の笑み。
風雅を纏いティーカップに口を傾けるセオドア様もやっぱり素敵。
この人が私の物になる!
嬉しくて紅茶に、角砂糖を1つ2つ⋯沢山!
入れ過ぎちゃった。
「そうだ。セオドア様が室長に成ればいいんじゃないかしら名案だわ!」
「…なに言ってるの?」
セオドア様の優秀さは、王国全土に響いてるもの。
だったら、室長だって夢じゃない私が支えれば出来ないことなんて無い!
私は伯爵夫人以上になれるはず。
違うわ、もっともっと!
お姉様なんて必要無い。
今日は素晴らしい日になったの誰も邪魔なんてできないのよ。
それなのにセオドア様の眉間が険しい。
どうして?素晴らしい提案なのに。
「ネティア嬢。君は室長を知らなさ過ぎる。室長は騎士爵の長男から1代で公爵に成り上がった怪物だ。私も室長に引き上げられ子爵になった。分かるねコレの意味が」
「大丈夫ですわ。私に任せてくだされば私がセオドア様を室長に、いえ、もっと高くにしてあげます。私なら、きっと!」
私は、笑顔を向ける。
だけどセオドア様の表情が消え失せ「はぁ、えん⋯」と呟く。
聞き取れなかった。
なんなの?
「どうしたのセオドア様?」
理由もわからず聞き返すが顔をなくしたセオドア様の目は鋭利で冷たい。
おかしい、私の魔法はもっと煌めいているはず。
なぜなの?その眼差しは汚物を見る目なの?
いや、違う憐憫の眼差しだ。
煌めきが薄れていく冷や汗が止まらない。
「…セオドア…様?」
「もう私の名を呼ぶな!臭い口を開くな!!」
どうしてなの、思考が飽和する。
あれ、視界が回る、足に力がはいらない。
なぜ、セオドア様がそんな事を。
どうして⋯世界は私が中心のはずで⋯⋯
「……セオドア様!なんと仰ったのです!」
崩れる脚に力を入れ問い直す。
「臭い口を開くなと言ったんだ。汚物より頭が悪い。いや、汚物に失礼だな。汚物は肥料になるが君は違う様だね。もう、人間ですらない。混沌の女神ニクティス様も意地悪だ、こんな試練を私にくださるとは。我が信仰が強過ぎたのだろうか?」
⋯言葉が出ない。
急に、どうして。
こんな人だとは思わなかった。
騙されたんだ!
「許さない!あなたは⋯私の魔法で!」
なのに、何故なの!?
私の煌めきが消える?
身体が急に重くなって崩れた。
床に打ちつけられた身体の痛みが強い。
足も捻ったかも知れない。
立ち上がろうと力を入れるが、また転ぶ。
天井と覗き込むセオドア様の蔑む様な哀れむ様な瞳が私と交錯する。
「ネティア嬢、君は違うんだよ、そう違う。準男爵を迎えなさい。これでも君の父上と私は奔走したんだ。なるべく条件の良い縁談をとね。ただ、連れ子がいてね。君の父上と同年代になってしまったんだ。済まないとは思ってるよ。だけどね、彼等は優秀だ。きっと良い生活が望めるはずだ。例え子息が後を継いだ後でもね。君が手助けすれば良いんだよ。出来るだろう?」
満面笑みを浮かべでセオドア様は笑う。
違う、そうじゃ無い。
私を彩る世界は「そうじゃ無い⋯」はずなのに。
私の中に渦巻く怒り。
私がそんな縁談に納得するはずも無いのはお父様も重々承知のはず。
許されないの、『私が』許すと思ったの!
煌めきが再び私を包む、だけど瞼が重い。力が入らない。
目の目が霞んで駄目だ...
虚う意識で見たのはセオドア様の正真正銘、この世界の『魔法』だ。
私を眠りの底に誘う⋯セオドア様の口が動いている「ご⋯」最後まで聞き取れなかった。
---
「やった!私がセオドア様の花嫁になるんだ。ネティアじゃないんだ!」
私マグリットの今日は鮮やか晴れの日だ。
ネティアが家を継ぐのはどうでも良い。
セオドア様がいれば些細な事だ。
私の勝ちなんだ!
心が躍る、まるで空を舞う鳥の様に。
「やめなさいマグリットはしたないぞ」
「だってお父様。こんなに嬉しい事はないわ!セオドア様が私を選んでくれたのだもの。ああ、流動の女神ウェーナよ、私に幸運の導きを。光の神アイラよ、私に照らす光をまことにありがとう御座います!」
世界が輝いて見える。
早くセオドア様の処へ行かなくっちゃ。
でも、お忙しいのかしら?
心が止まらない。
「マグリット、セオドア殿はお忙しい。だが数日中には来訪されるから待ちなさい」
「⋯はい。」
残念だけど仕方がないわね。
でも、幾らでも待てるわ。
⋯そういえばネティアが帰って来ないわね。
「お父様。ネティアが未だ帰って来ないのだけども、どうしたのかしら」
「先方が急ぎでね。婚姻の手続きを早めたいらしくて、そちらの邸宅に赴いているんだよ」
「そうなんですの」
やった!
もう、覆る事はないんだ。
セオドア様の麗しくも精悍な顔が浮かぶ。
「そうだ!セオドア様が来られる時の準備をしなきゃ」
お好みの衣装はなんだったのでしょか?
お食事は召し上がるかしら?
お茶やお菓子も最高に。
屋敷もキレイにしなくちゃ。
私も手伝って輝く様に!
「早くいらっしゃらないかしら」
---
とうとう、セオドア様の来訪の日となったのです。
外から馬車の音。
呼鈴が鳴らされ家令に案内されたセオドア様が顔を見せた。
顔が紅くなるのを止められない。
「こんにちは。マグリット元気でいたかな?」
「はい!セオドア様。お会い出来る日を一日千秋の思いでおりました」
「大袈裟だね」
大袈裟なんて事は無い。
待ちきれなかった。
もう、セオドア様の屋敷に飛び込みたかったのです。
「あっ!申し訳ございません。お茶の用意が未だでした。」
「そうだね、頂こうかな。私は酒に弱いけど紅茶や甘い物に目がないんだ」
「そうなんですの?セオドア様は私と同じですね!」
私達は笑い合い互いの日常を語りあう。
なんて幸せな時間だろう。
「ああ、そうだ。私達の結婚式に交換する指輪はウチの新作になるから、きっと驚くよ。まだ、見せて貰えないんだけどね」
「それは王立宝飾店で有名な御二方謹製と言う事ですか!」
「そうだね。普通に頼むといつ手元に来るか分からないけど特別だ」
喜びが大き過ぎて言葉にならない。
こんなにも私は愛されているのだ。
まるで夢のよう。
この夢よ、終わらないで⋯!
そんな時、再び呼鈴が鳴る。
誰だろう、本日はセオドア様だけの予定だったのに。
家令に連れられやって来たのは⋯
頭を垂れ俯いたネティアとおそらく婚約者だろうレボルト準男爵。
「これは、ようこそレボルト様。それとお帰りネティア」
「これは申し訳ない、マグリット嬢。お邪魔してしまった様だ」
「構いませんレボルト様。それでご要件をお伺いしても?」
「なに、婚姻の挨拶にまいったのですよ。書類上は既にネティア嬢と私は夫婦になったと」
なんて素晴らしい日なの!
セオドア様は私の物に。
ネティアは準男爵と夫婦に。
ネティアを見下ろす。
なんて、無様な姿なの。
私の勝ちね。
今までは貴方が羨ましかったけど、もう違う。
さあ、鳴きなさい。
もう、許してと。
私が悪かったと。
あははっ、笑いが漏れそう!
もう我慢出来ない!
⋯そして言葉が出てしまった。
「ざまぁみろ!」
しまった!
セオドア様にも聞こえてしまった。
セオドア様の顔を恐る恐る見るその時「カシャン」何処かで聞いた音が頭でする。
「良し、やっと終わったな。疲れましたよウォーレスさん」
虚空から姿を現す1人の男性。
「だが、上手く行ったろセオドア。両方を1度に片付いたんだ」
「マカーサー公爵閣下。此度の采配お見事で御座いました」
「レボルト準男爵。男爵への推挙をしておく御苦労だった。この事は内密にな」
「心得ております」
えっえっ!?
思考が追い付かない。
ウォーレス・マカーサー公爵閣下?
なんで、私の邸宅にいらっしゃったの?
「ほら、ご挨拶しないかマグリット、ネティア」
「「お父様!」」
「あっあの⋯リシュモン子爵家 長女のマグリットです」
「リシュモン子爵家 次女のネティアです⋯」
「うん、よろしく頼む。『室長』ウォーレス・マカーサーだ」
若いセオドア様と同程度の体格に茶色の髪。
そして、身体を揺るがす濃密な魔力の気配。
一目で分かるその力。
「さて早速だが、君達には生まれる前の記憶があるな?」
胸が跳ねる。
どうしてその事を?
いや、君達と言ったわ。
えっ、ネティアにも!?
「マグリット、君はこの世界に来る時に願ったな「自分を虐げた者を見返す」事を。別に責めはしない。これは誰でも起こりうる事だからだ。この世界は世界を渡った者の「願い」を叶える性質がある」
公爵閣下は続けてネティアにも目を向け語りかける。
「ネティアは「何でも上手くいく」だな。単純だが強い願いだ。だからだろう俺達が上手く立ち回れたのは」
「悪かったねネティア嬢。あんな罵詈雑言は言いたく無かったんだけどね」
セオドア様の言葉。
⋯ネティアを嫌っていた訳では無いの?
じゃあ、セオドア様からの私への言葉は?
「つまり、ネティアの婚姻はマグリットの「願い」に対するフェイクなんだ。実際は書類上でも婚姻にはなって無いし別にネティアを嫌ってもいないよ。それにレボルト殿と君達の父上には協力してもらっただけだ」
「お前達は危険だったからな。見返す願いは時に国家も揺るがす。上手くいく願いは時に他人の失敗を生む。だが、幸いな事に君達は姉妹に生まれた」
公爵閣下は再び私達の顔を見渡す。
「だから、願いをぶつける事にした。上手く行くと見返すだ。必ずぶつかって願いに相克を生むだろうだろう。マグリットの願いに乗る様にセオドアは動き最後に見返しの言葉を吐かせた。ネティアの願いは上手く行くだから最後には収まった」
「だから、もう願いの強制力は感じない。マグリット君は今もネティアの事が嫌いかい?」
勿論、嫌いなはず⋯
あれ、違うわ?
なんとも思ってないわ。
寧ろ、愛おしいくらい⋯
「ネティア、君もマグリットの事は嫌いかい?」
「⋯おかしい、あんなにあんなに悪かった筈なのに。それに世界の煌めきが無くなった」
「⋯ようこそだね。やっと君達はこの世界の住人になれたんだ」
でも、おかしいわ。
その願いの性で彼処まで争ったと言うのに今もセオドア様を愛する気持ちに変わりがない。
「セオドア様。では、婚姻はやはり無かった事になるのでしょうか?」
「いや、そのままだよ。言ったよね厳正な審査をしたって普段の言動や行動は全て調査してたんだ。ウチは機密がおおいからね」
「セオドア様⋯!」
失せていた歓喜が再び湧き上がる。
駄目かと思った。
目から雫が滲む。
「ネティアは納得してくれるかい?」
「⋯はい。少し悔しいけど、何故あんなにもセオドア様に執着していたのか分かりましたから」
「ありがとうネティア。その代わりなんだけど縁談は責任を持って紹介させて貰うよ」
「先ずは伯爵家の次男坊からはどうだ。もう直ぐ貴族籍を復帰する奴だ。シュテファン・オルマンと言う馬鹿だが悪くはないぞ。顔も良いし実家が太いからな」
なんだ、私達は元は憎み合っていた訳では無かったのね。
私達が馬鹿だっただけなんだ。
少し安心した。
もう、大丈夫よねネティア。
---
リシュモン子爵家邸宅から家路につく。
もう、夕暮れ時だ。
メインストリートの街灯に光が灯る。
「上手く行って良かったなセオドア」
「いや~。本当にどうしようかと思いましたよ。ウォーレスさんに相談して良かった」
「お前も良く知ってる前例があるからな。兆しがあればトットと処理しないとな」
「⋯ウォーレスさんもそうだったりして」
「さてな。仮にそうだったりしても俺がそれに頼ると思うか?」
ウォーレスさんは嘯くがどうでもいい話だろう。
「間違いなく頼らないでしょうね。何せ、俺達は夢物語を実現するのが仕事。この手で成し遂げなくては意味は無い」
「そう言う事だ。帰るぞ」
夜は近い。
作者から
ここ迄読んでいただき誠にありがとうございました。
今回は無自覚転生チートに振り回された話でした。