彼は死んだ直後に別の世界へ、召還されてしまう。
斧の勇者として彼はどのように原作へ介入していくのか!
これはそんな物語の始まりの始まり。
需要があるならこちらの方も連載します。
灯りのついていないうす暗いアパートの一室に本を捲る音が響いている。
ペラ………ペラ……ペラ……ペラ……
かれこれ、二時間近く続く音。
けれど、それもそろそろ終わる。
話の終わりが近づいているのだ。
パタン
そして、本を閉じる音が部屋に響く。
「ふぅ…、読み終わったな。『盾の勇者の成り上がり』の八巻」
部屋の主である青年が二時間ぶりに身体を伸ばす。
「しかし、ウェブ版とは結構展開が変わってきているなぁ。まさか尚文達がグラス達の世界に行くばかりか、グラスの探し人まで出てくるなんて、これは次の巻が気になるな。
…しかし、集中しすぎたね。もうそろそろ夕飯時じゃないか。なんか食べに行くかな?」
青年は徐に立ち上がり、財布をポケットに入れ、部屋を出た。
「さて、なに食べるかな。コンビニはいい加減飽きたし、ファミレスは一人で入るにはハードル高いし、うーん、無難に角の定食屋にでも行くかね」
そんな考え事をしながら歩いている青年が、建設中のビルの横を通り抜けようとすると、上から急に轟音が響き、周りから悲鳴があがった。
「うん?」
青年が上を見上げた時にはもう遅かった。
大量の鉄骨が無防備な青年の上に落下してきたのだ。
ドドドーン
次の瞬間には、青年は鉄骨の下敷きになっていた。即死は免れたようだが、頭が割れている。これではもう、助かる術はない。
(あれ?何が…起きた?…鉄骨?落ちてきたのか?ああ、それに当たったのか)
青年は鉄骨の下敷きになりながらも、今自分がおかれている状況を認識し始めた。
(ああ、流石にこれは助からないかな?)
自分の身体から流れる大量の血を見て青年は自分の死を予感する。
(アハハ、こりゃ駄目だね。痛みすらないや。……ああ、視界が霞んできた)
青年の意識は少しずつ遠のいていき、その身体から温度が消えて行く。
(あれ?なんか、田舎の母さんや父さん、それに兄貴やじいちゃん、ばあちゃんが見える。ああ、友達も見えてきた。もしかして…これが……走馬灯ってやつ…かな?)
青年の目から光が失われた。
(……次に…生まれ変わるとしたら……剣と魔法のファンタジーな世界が…い……い…な……)
青年はここで完全に意識を失った。
sideチェンジ
「……た!斧の……の召…に成功し…ぞ!」
……あれ?なんだ?なんか聞こえるぞ?
……ああ、死後の世界ってやつかな?
なんか喜んでいるみたいだけど、どういうことだろう?
……取り敢えず身体を起こそう。
「…あれ?」
身体を起こし、目に入ってきたのは、西洋風な衣装を纏った男たちが祭壇の様なものの上に乗った自分をぐるりと囲っている光景だった。
まるで何かを召還したかのような状況である。
その中の一番豪奢な服を纏った人…神官?…がこちらにくる。
そして…
「さあ、斧の勇者様。お名前をどうぞ」
「え?僕?僕は小野屋。小野屋 瞬だよ」
こうして僕の死ぬ直前に願った『ファンタジー系の異世界へ行く』という夢は叶えられた…のかな?