最強さんに拾われたら呪術師になった話 作:サーナイト大好きっ子
高専での新しい生活にも少しずつ慣れてきた頃。 今回のお話は、五条先生のちょっとした気まぐれ(?)から始まります。
自分だけの新しい制服に身を包み、一年ズのみんなと賑やかな日常を過ごす前半から一転、物語は初めての任務へ。
そこで待ち受けていた絶望的な危機を前にしたとき、りこの心の中に眠っていた「本当の力」が目を覚まします。
大切な仲間を守るために立ち上がるりこと、彼女の想いに応える心強い味方たちの活躍を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!
「おぉ〜!!ショートパンツかっけぇ!!」
「まぁ、いいんじゃないか」
「うんやっぱり僕の見立て通りだね!」
野薔薇に背中を押されて入った共同リビング。
変じゃないかな、と気にしながら制服の裾をぎゅっと握りしめてた。
けど、扉を開けた途端にみんなから褒められて、ちょっとソワソワしてしまう。
ニマニマしてしまう顔を無理矢理真面目そうな顔にして、なんとか平静を保とうと指先同士をくっつけながら、疑問だったことを口にした。
「野薔薇とはちょっと違うんですね。スカートじゃないし……」
すると五条先生が当たり前じゃん、とでも言うかのように首を傾げていった。
「そりゃあ、僕がいじったからね」
(制服にいじるとかあるんだ……)
私がぽかんとしていると恵がそっと近づいてきた。
「五条先生こう言うところあるから気をつけたほうがいいぞ」
(あーやっぱりそうですよね!)
ちょっと、いやかなり思ってたけど、五条先生って適当だよね!?
さすがにそのまま言うわけにはいかない。
「でも、自分だけの制服って感じで、嬉しいです」
これは本音だ。
制服といえばみんな同じで、着こなし方はそれぞれだったが私は普通にブレザーを着ているだけだった。
それがみんなちょっとずつ違って、それが個性として輝いている中に自分が入ったように感じて。
すると隣に立っていた野薔薇がキラキラしたような目で私を見つめていた。
(え、何?私なんか変なこと言っちゃった!?)
「神念……アンタって子は!!」
野薔薇の手が私の頭の上を超高速で動き回る。
まさか撫でられると思っていなくて、不意打ちにビクッと肩が上がってしまう。
「のっ、野薔薇!?」
気づいたら悠仁の手もすぐそばまで迫っている。
恵の方をちらっと見るが、助けてくれる気はなさそうだ。
私たちがわちゃわちゃしているのを眺めていた先生が、パチンと手を叩いて
「じゃあそのまま初任務行っちゃおうか!」
とピクニックに行くかのような軽さでそう言った。
(はつにんむ……?初任務!?)
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伊地知さんの運転する車に乗り込んで、恵の持っているiPadを覗き込む。
そこには今行く任務の情報がまとめられていた。
「ニ〜三級程度の呪霊を祓えばいいのか」
「ニ級……」
(英検の二級って大学受験レベルでしょ……?どんだけ強いの!?)
私のせいでまた誰かが傷つくかもしれない、あの時の友達のように。
キリキリとお腹が痛み出す。
緊張しているのが顔に出ていたのか、
「初任務なんだし、そんなに緊張しなくていいよ〜大丈夫!今回は一年生合同任務だし、悠仁も野薔薇も恵もいる。何より!このグレートティーチャー五条が引率についちゃうからね、安心して」
五条先生はそう言ってこちらを振り返った。
目隠しの奥の瞳は見えないけど、不思議とバクバクなっていた心臓が落ち着いていきお腹の痛みも引いていく。
「みんなと一緒……」
私がつぶやくと前の座席に乗っていた悠仁がぐるっとこちらを振り返って
「おう!任せとけってりこ!俺がバシッとやっつけてやるからさ」
ドンと自分の胸を叩いて、ニカッと太陽みたいに笑った。
「まぁ足引っ張んないようにしなさいよね。私は前線で暴れるわ」
隣に座る野薔薇も不敵に笑って、頼もしそうに胸を張った。
「……無理はするな。危なくなったら俺たちの後ろに下がればいい」
恵はため息をつきながらも、どこか過保護なくらい真面目なトーンでそう言ってくれた。
みんな、私より少し前に呪術師になったばかりなはずなのに、すごく先にいるように見える。
ショートパンツの裾をぎゅっと握りしめて、私はみんなの顔を見渡した。
「……はい!よろしくお願いします」
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「到着しました」
車が止まり、ドアが開く。
外へ出るとそこは重苦しい空気が漂う薄暗い廃工場だった。
(これが、呪術師の戦う現場……)
私がゴクリと息を呑んでいると、伊地知さんが私たちの前に進み始めた。
「では、始めます。闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
伊地知さんが呪文のようなものを唱えると、空からドロリとした黒い液体みたいなものが広がっていき、工場全体を包み込んでいった。
あっという間に明るかった昼の景色から、夜のように真っ暗になる。
「……っえ!?暗く、なった……」
驚いて声を漏らす私に、恵がボソッと教えてくれた。
「"帳"だ。一般人に見られないようにするための結界。……ここからは電波も繋がらない。」
「そうそう。中で何が起こっても外には聞こえないからね」
五条先生がいつも通りのテンションでそう言った。
そして帳の中を指さす。
「じゃ、僕はここで待ってるから。みんなでサクッと終わらせておいで。あ、りこは初めてなんだからあんまり前でちゃダメだよ。基本はみんなの戦い方見る感じで」
「はいっ」
私は先生の言葉に頷き、みんながいる向こう側へと足を踏み入れた。
一瞬、肌の周りにまとわりつくようなピリッとした空気にビクッと肩が上がる。
でも呪霊がいる気配は全然しない。
おかしいぐらいに静かだ。
「なぁ、呪霊いなくね?」
悠仁もおかしいと思ったのかこちらを振り返ってそう言った。
「いや、工場の奥の方に呪力を感じる。そこに集まってんだろ」
どうやら恵は呪霊がどこにいるのかわかるみたいだ。
確かに言われてみれば奥の方から嫌な気配がする。
(こんなに微かな気配に気づけるんだ……)
「ささっと奥に進みましょう。集まってるなら好都合」
野薔薇がそう言うと長い足を動かして先へと進んでいってしまった。
悠仁も走って追いかける。
私は一歩で遅れてしまい、完全に見えなくなる前に追いつかなきゃと慌てて足を動かした。
大きな機械がたくさん置いてあるザ・工場のような場所を抜けると、倉庫のような場所に出た。
どうやらここが一番奥……呪霊がいる可能性が一番高いところみたいだ。
しかしそれらしき姿は確認できない。
「隠れてるのかな?」
「いや、隠れていたら呪力でわかる。なんなんだこの違和感……場所は合ってると思うんだが……」
恵が何か考えるように手を顎に乗せると突然、奥からドーーーン!!!と何かが壊れる音がした。
地震のような、下から何かが出てきたような、特有の揺れと振動。
土煙が消え、その奥から出てきたのは……
あの時の、恐怖そのものだった。
視界が真っ赤に染まる。
その奥で笑う化け物。
振り翳された手。
瞬時にそれがフラッシュバックし、私の頭を埋め尽くす。
(こんなのが二級なの……!?ちがう、絶対違う!!だって……あの時と同じだ)
奥の呪霊が一歩私たちに近づく。
それだけで周りのコンクリートが散り、箱が崩れる。
「っ……!!神念!!逃げろ。外に行けば五条先生がいる。それまでの時間は俺たちで稼ぐ。ほら、行け!!」
一瞬、何を言われたかわからなかった。
「恵!?何言ってるの!?」
思わず声が大きくなる。
けど、今はそれを気にしている暇はなかった。
「みんなを置いてくなんて……そんなの、できない!!」
「このままだと全員死ぬぞ!!」
"死ぬ"
今の私には、重すぎる言葉だ。
目の前で友達を失いかけ、今もまた失うかもしれない。
でも私が五条先生のところへ行くまでに、彼らが死んでしまったら?
そっちの方が100倍……ううん、それよりも、もっと後悔する。
どうすればいいの?
「……!?伏黒!!!」
突然、悠仁が叫ぶ声が聞こえた。
すると目の前を衝撃波のようなものが体全体を襲い、思わず腕で顔を守り、しゃがみ込む。
しばらくして顔をあげると、恵が立っていた場所にコンクリートが抉られたような跡が残っていた。
「ガハッ……!!!」
「虎杖!?」
「え……?」
声がする方を見ると血を流してうずくまる悠仁の姿と、それを支えようとしている恵の姿が目に映った。
コンクリートに広がっていく、赤い液体。
(全然見えなかった……)
それからはあっという間だった。
私たちが悠仁に気を取られているうちに野薔薇が壁の方へ飛ばされ、悠仁を守ろうとした恵が頭を殴られその場に崩れ落ちる。
私はそれをただただ眺めていることしかできなかった。
「あ、あっ……」
逃げなきゃ。
走らなきゃ。
体は金縛りにあったかのように指一つ動かせない。
「……じ、しんねん……」
バッと声のした方を見ると恵が顔だけこちらを向けて何か伝えようとしていた。
「に、……げろ」
それだけ言うと恵はまた倒れ込んだ。
今逃げれば私は助かる。
外に出れば五条先生もいるし、彼がなんとかしてくれるだろう。
でも……
みんなは?
悠仁の出血量は多く、いつまで持つかわからない。
野薔薇だってきっと頭を強打している。
それをいえば恵だって……
(嫌だ)
失いたくない。
死にたくない。
何もしないでただ眺めるだけ?
私の心の奥の方で何かが膨らみ、殻を破る。
「みんなを、死なせない!!!」
私の体の中の何かが大きく割れて外へ飛び出す。
すると淡い、青い光が悠仁たちの方へ飛んでいく。
(治す。癒す。優しく、丁寧に……いやしのはどう!!)
ポワンッ
青い光は悠仁たちの傷口へ入り込み、血を止め、傷を癒していく。
「みんな!!力を貸して!!」
「ルカッ!!」
「サナッ!!」
私の掛け声で二つの影が私の心の奥から現れる。
ピンッと立った耳。
ふさふさな尻尾。
胸にあるたくましい角。
シルクのふんわりとしたスカート。
相手を逃さないと見つめるまっすぐな瞳。
胸にある赤いプレート。
奥に立っている呪霊と目が合う。
思わず一歩後ろに下がりたくなるが、今の私は一人じゃない。
「ルカリオ、サーナイト、いくよ!!」
呪霊の元へ一直線に駆け出す。
二人も左右から走って三角形を作る。
「ルカリオ、『はどうだん』!サーナイトは『サイコキネシス』!!」
「ルル……ルカァ!!」
「サーサナ!!」
ルカリオの手元から青白い波動が溜まり、前に押し出す。
サーナイトの体が、サイコキネシスを使う時の独特な色で包み込まれていく。
ドン!!
「アァァ?」
ルカリオの波動弾が呪霊の足元へぶつかり、砂埃が舞う。
すかさずサーナイトがサイコキネシスで呪霊の動きを鈍らせる。
今!!!
「『サイコショック』!!」
私が腕を振り上げると、鎌のような形をした紫色が呪霊を目掛けて飛んでいく。
ドーーン!!!
「ガァァァ!!!」
効いてる!!
怯んでいる今、技を叩き込む!
「ルカリオ、『インファイト』!!サーナイト、『マジカルシャイン』!!」
「ルカァ!ルカルカルカッ!!」
ルカリオの手が無数にあるかのように見えるぐらい高速なパンチ。
「ギャァ!!!」
「サーーー……サーナ!!!」
サーナイトが宙に浮かび、両手を上げ月のように丸い光を集める。
「アァ!!」
二人の攻撃が当たり、生まれるこの瞬間……
硬そうな体に一番届きそうな技……これだ!!
「『コメットパンチ』!!」
私の拳が流星のような光をまとって、呪霊の頑丈な肉体を激しく撃ち抜く。
「グワァァ!!!」
(入った!!)
しかし、呪霊は力を振り絞ったのか、振り上げた拳がもうそこまで迫っている。
(避けれない……!!)
思わず目を瞑るとフワッとなにかに包み込まれるような感覚がした。
うっすらと目を開けるとサーナイトのサイコキネシスで、先ほどの場所よりも一歩、後ろに下がっていた。
呪霊の拳はコンクリートに刺さっている。
「サーナイト、ありがとう!」
「サーナ」
(そうだ。私は一人じゃない。一人一人で攻撃しなくでいいんだ!!)
「ルカリオ、サーナイト。一気に行くよ!!」
一気に走り出す。
戦い方なんて知らない。
自分の術式もわからない。
けど、二人がいてくれる。
それだけで戦える。
「ルカリオは『コメットパンチ』!サーナイトは『サイコキネシス』で周りのコンクリートを呪霊にぶつけて!」
私は急いで呪霊の後ろに回り込む。
万が一でも二人に当たったら大変だから。
思いっきり体の奥で一気に練り上げ、両手に集める。
お腹に力を入れてイメージする。
両手から放たれ、まっすぐ伸びていく龍。
「いっけぇ!_____『りゅうのはどう』!!」
手のひらから放たれた、青紫色の激しい衝撃波がまっすぐ呪霊の背中を撃ち抜いた。
ピュイーン!!!
「ギャァァァ!!!!」
呪霊の絶叫が工場に響き渡り、その巨体が激しく身悶えようとする。
抵抗しようと暴れるが、ルカリオとサーナイトの追撃を受け、しだいに原型がなくなっていく。
最後は黒い塵となって、空気に溶けるかのように消滅した。
「はー、はー……みんなのっ、ところ、行かなきゃ……」
一歩前に足を動かそうとした瞬間、全身の血が引いていくような激しい疲労感が襲ってきた。
視界が急に狭まり、床に向かって体が崩れ落ちる。
ガシッ
「りこ!!」
(これは……先生の声?)
いつもの軽い声ではなく、切羽詰まったような、そんな声がした。
地面の硬さを感じないから、おそらく先生が受け止めてくれたのだろう。
「ごめん、助けに入れなくて……」
(助け……?先生何かあったのかな?)
「っみんな、は……?」
私が震える声で尋ねる。
「みんなは無事だよ。君が守ってくれたからだね」
みんな無事。
それが分かると一気に体の力がなくなり、視界も狭まっていく。
「頑張ったね、りこ」
私が覚えているのは先生の温かい体温と、みんなを守れたと言う安心感だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
初めての任務でまさかの危機に直面し、恐怖に足がすくみながらも「みんなを死なせない!」と強く願ったりこの姿に、書いていて胸が熱くなりました。
彼女の強い意志に応えるように現れたルカリオとサーナイトのコンボ、そしてトドメの『りゅうのはどう』のシーンは、書いていて本当に楽しかったです。
いつもは余裕たっぷりの五条先生が、焦ってりこを抱きとめるラストシーンも、二人の絆の深さを感じさせる大切な一幕になったと思います。
※五条が帳の中へ入って助けることのできなかった理由は、上層部に手出し無用と命令を受けていたためです。あくまで神念りこの初任務であるからと言われていました。
無事に仲間を守り抜いたりこの、これからの高専生活や五条先生との関係がどうなっていくのか、暖かく見守ってくださると幸いです。
感想など教えていただけたら、とっても励みになります!