神様少女の暗殺教室   作:パーノクス

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第2話 勉強の時間

『アテナ、椚ヶ丘中学のE組に入るためのヌルヌル特別学習』の第1段階としてまず行なったのは国、数、英、理、社の5教科のテスト。アテナがどれほどの学力を持っているのかを確認し、それによって勉強のスケジュールを決めるためだ。そしてその結果は。

 

「⋯⋯どう? 私は椚ヶ丘中学に入れる?」

 

 無表情でそう聞く彼女の前には、テスト結果に驚いている先生がいた。

 

「素晴らしい。ここまで高い学力を持っていたとは思いませんでした」

 

 テスト結果は国語以外は70点以上の点数を取っている。国語が61点なのが少し不安要素ではあるが、そこまで悪い点数ではないし、転入テストの合格ラインは全ての教科で6割以上の点数を取ることが条件なので国語もギリギリ合格ラインを超えている。油断禁物ではあるが、想定していたよりも高い学力を持つ彼女を特別学習で更に鍛えれば、転入テストは必ず合格するだろうと彼は考えていた。

 

「⋯⋯スクルドと雪村先生のおかげ。あの人たちがいたから、私は神様でいられる」

 

 彼女から聞こえた雪村先生という言葉に、彼は内心驚いたが、それを表には出さないようにした。

 

「雪村先生とは?」

「⋯⋯時々、真っ白な部屋で私たちに色々なことを教えてくれた先生。よく分からないけど、プロジェクトのために必要だったみたい」

「そうですか。ちなみに、その方の下の名前とかは知っていたりするのでしょうか?」

「⋯⋯確か、雪村あぐりって言ってたけど。それがどうかしたの?」

「いえ。少し気になることがありましたが、どうやら気の所為のようです。ヌルフフフフ」

 

 表面上は冷静に見えるように話しながらも、彼の内心は動揺していた。なぜ彼女が雪村あぐりを知っているのか。どういう関係なのか。なぜスクルドという人間にも授業を教えていたのか。そもそもスクルドとは何者なのか。

 聞きたいことは山のようにあったが、今はまだそれを聞くべきではないと思った。彼と彼女はそこまでの深い信頼関係を築けてるとは言い難いし、彼女が素直に話してくれるとは思えなかった。下手に彼女の心に踏み込んで関係が悪化することも避けたい。ならば、今はまだ聞かないようにしようというのが彼の考えだった。そう結論づけて、彼は彼女の表情を観察する。

 

「ふむ。学力はそこまで問題なさそうですが、その無表情は問題ですね」

「⋯⋯表情に問題あるの?」

「大ありですよ。アテナさん、私と会った時からず──っと無表情じゃないですか。そんなんじゃ生徒たちとのコミュニケーションに苦労しますよ。私でも、時々アテナさんの感情が読めなくなるんですから」

「⋯⋯今は喜んでるよ。先生にテスト結果を褒められたから。ほら、喜びの表情」

 

 と言っているが、実際には何も変わらずの無表情で目の光は消えており、普通の人では彼女が喜んでるとは絶対に思わないだろう。観察力に長けた彼でも、彼女が本当に喜んでるのかちょっとだけ疑問なのである。

 

「転入するまでに表情の練習をしないといけませんね。まずは笑顔の練習をしてみましょう。ほら、こうやって人さし指を使って笑顔の形を作ってください」

 

 彼が触手で口の先端をくいっと持ち上げて笑顔を作る。彼女もそれに習って人さし指で同じようにやったのだが。

 

「⋯⋯どう?」

「⋯⋯⋯⋯これは、想像以上ですね」

 

 あまりにも不自然なその表情はまるでホラー映画に出てくるような顔であり、光が灯ってない目も相まって普通に恐怖である。こんなのを普通の人が見たらどう思うかは一目瞭然だ。

 

(この感じから見るに、表情筋がほぼ死んでますね。これではどんな表情をしても生徒に悪印象でしょう。とはいえどうするべきか)

 

 彼は悩んでいた。多くの知識を持つ彼であっても、表情筋が死んでる人間をどうやって自然な笑顔にするかの知識は持っていなかった。その為の本を明日にでも買うべきかと考えていると。

 

「⋯⋯先生。良い方法思いついたかも」

「本当ですか!? 一体どんな方法を」

「⋯⋯ギャルゲーを買う」

「⋯⋯⋯⋯はい?」

 

 唐突な彼女の提案に、先生は目を点にして困惑するしかなかった。

 

「⋯⋯何かの本で読んだ。無表情な人は、ゲームをしながらキャラクターの顔を見れば、表情筋が鍛えられるとか何とか。特にギャルゲーが効果的⋯⋯らしい。スクルドも似たような事を言ってた」

「アテナさんもそのスクルドさんという方も、どんな本でそんな知識を得たんですか」

 

 彼女の提案について、彼はどうしようかと悩んでいた。

 

(突拍子もない意見のようにも思えますが、ゲームをすることが人に良い影響をもたらすことは事実。もちろんやりすぎは悪影響ですが。それに近年では確か、表情筋を鍛えるゲームとかも出てたはず。ギャルゲーと一緒にそういうのを購入してやらせれば、彼女の表情を豊かにするのに役立つかもしれませんね。ついでに、先生の趣味のゲーム等も購入しましょう。あと、外で遊ぶための道具も欲しいですね。特別学習で一緒に学び、休み時間は一緒にゲームをしたり運動したりして楽しむ。うん。これは良いアイディアです)

 

 

 こうして、彼は翌日の朝に追加の教材やギャルゲーや表情筋を鍛えるゲームや自分が気になったゲーム、プレイするためのハード、外で遊ぶための道具セット等を買い揃えた。ちなみに、ハードは自分が遊ぶ用と彼女が遊ぶ用で2台用意している。

 その後は彼女の特別学習を昼から夕方までみっちり行ない、特別学習が終わった後は一緒にゲームや運動をしたり、テストの点が良かった事や学習が予定以上に順調に進んだ事の祝勝会をやったりして楽しんだ。今は彼が購入したギャルゲーをプレイしているのだが。

 

『アテナ君なんて嫌い! もう知らないもんね!』

 

 ゲーム画面に出てくるヒロインがそう言った後、画面は真っ暗になってGAMEOVERの文字が浮かんだ。

 

「⋯⋯悔しい。彼女はきちんと愛してくれたのに、私は愛を返せなかった」

 

 変わらずの無表情で目に光が宿ってないが、本当に悔しがってるのだろうということを、彼は何となく理解出来た。

 

「ヌルフフフフフ。いけませんねえアテナさん。ギャルゲーヒロインの心も掴めないようでは、クラスに馴染むことは出来ませんよ」

「⋯⋯難しい。どうすればそれが出来るの?」

「大切なのは、相手の立場に立って考えることです。このヒロインはどんな事をしたら、どんな言葉を出せば喜ぶのか。彼女の性格、趣味、行動。そういったものを見て選択肢を選ぶことが重要なのです。試しに、コミュニケーション力最強の私がやってみると」

 

 そう言って、彼が先ほどGAMEOVERになったヒロインの攻略を行った。その結果。

 

永遠(とわ)なる疾風(かぜ)運命(さだめ)の先生君大好き! これからもずーっと私のそばにいてほしいな』

 

 その言葉と共に壮大な曲が流れ、最後には主人公とヒロインの結婚シーンが映し出された。

 

「どうです? これが心を掴むということです。相手の立場に立って物を考える事がどういうことか分かりましたか?」

「⋯⋯よく分からない。ただ最適な選択肢を選んだだけにも見える」

「ふむ。ではあなたの話に出てくる雪村先生やスクルドさんについての話をしましょう。アテナさんは、その方たちと親しいのですよね?」

「⋯⋯うん。2人とも愛してる。2人とも、私に沢山の愛をくれたから。今は2人と離れてるけど、いつか会えるって信じてる。将来、一緒に暮らそうって約束したから」

 

 その言葉に彼は言葉を失ってしまった。スクルドが彼女を捨てた事、雪村先生の結末を知っているが故に。それでも、彼女に違和感を悟られないようにすぐに気持ちを切り替えて話し始める。

 

「その2人が喜ぶ事や嫌がる事は分かりますか?」

「⋯⋯当たり前。ずっと一緒にいたし、2人にはずっと笑っていてほしいから。だから理解して愛して⋯⋯あ」

「そう。それが相手の立場に立って物を考えるという事です。あなたは2人の事を愛している。だから2人の事を考え、理解し、嫌がったり嫌ったりするような選択肢を選ばないようにする。このヒロイン攻略もそれと同じです。ヒロインの気持ちを理解して彼女が嫌がる選択をしないようにし、喜ぶ事をする。そうすれば、ヒロインの心を掴むなどお茶の子さいさい。クラスのみんなとも必ず打ち解けられます」

「⋯⋯雪村先生やスクルドと同じ。分かった。頑張る」

 

 そうして、彼女は先ほど失敗したヒロインを攻略し、ヒロインの趣味や行動を観察し、理解し、見事ハッピーエンドへと到達することが出来た。

 

「⋯⋯やった。ヒロイン攻略出来た。嬉しい」

 

 変わらずの無表情ではあるが、彼女が心の底から嬉しいと思ってるのだろうと先生は少しだけ理解出来た。

 

「よく出来ましたアテナさん。しかーし、ヒロイン1人を攻略しただけでは完璧とはいえません。あと10人いるヒロイン、それが終わったら別のゲームのギャルゲーヒロインの攻略。その他にも表情筋を鍛える練習! 休み時間もヌルヌル頑張ってもらいますよ」

「⋯⋯了解。頑張る」

「ヌルフフフフフ。私も先生としてもっともっと沢山の事を勉強しなければなりませんし、これからもっともーっと忙しくなりそうですね」

 

 

 

 

 それから彼のやる事は本当に忙しかった。政府との交渉や彼用に開発されたナイフや弾丸のテストに付き合わされたり、編入の手続きやら教師の手続きに加え、アテナのヌルヌル特別学習。最高速度マッハ20を出せる彼といえど中々の重労働ではあったが苦では無かった。

 

 

「アテナさん、今日は表情筋を鍛える練習をしましょう! さあ、まずは私のように表情筋を動かしながら反復横跳びの練習です。慣れてきたらあやとりも入れてさらなるマルチタスクを目指すのです!」

「⋯⋯先生。人間にはそんなの絶対無理」

 

 ある時は一緒に運動をして楽しみ。

 

「アテナさん。今日は料理の練習です。あなたがどんな将来を歩むにせよ、料理スキルは必ず役に立ちますからね。まずは衛生のために手を洗いましょう」

「⋯⋯先生は洗わないの? 衛生に良くないんじゃ」

「わ、わわ私の体は元から綺麗ですし〜。水で洗う必要なんてないし〜。今は粘液の出が悪いから、出来るだけ水に触れたくないとかそんなんじゃないし〜。そもそも私の粘液でミクロの汚れも余裕で落とせるし〜」

「⋯⋯よく分からないけど、先生も手を洗うべき。生徒の見本にならないといけないって本に書いてあったし」

「や、やめてくださいアテナさん。私、水は大の苦手できゃああああん!」

「⋯⋯先生。うるさい」

 

 時には一緒に料理の練習をしたり。

 

「⋯⋯先生。質問がある」

「なんでしょうアテナさん。どんな質問でも大歓迎ですよ。ヌルフフフフフ」

「⋯⋯この裸の女性が映ってる本なんだけど、これって一体」

「いやああああああああ!? あ、アテナさん。それを一体どこで手に入れたんですか!? そ、そそそんなの持ってちゃいけませんよ!」

「⋯⋯先生のベッドの下からはみ出てた。よく分からないけど、先生は裸の女性が好きなの? それが先生を愛することにつながる?」

「そ、そそそそそんなわけないでしょう! こんな下品な本などポイして⋯⋯いえ、燃やしてやります! こんな下品な本は燃えるべきなのです! ファイアアアアアア!」

「⋯⋯先生。目から粘液流れてるけど」

「こ、これは鼻水です。ま、前にも言ったでしょう。私の目と鼻はすごく近くにあるのです。あなたは鼻から出てる粘液を目から出てると勘違いしただけです⋯⋯ぐす。とりあえず、近い内に情操教育について学びましょう⋯⋯ぐす。アテナさんには情操教育が早急に必要と分かりましたから⋯⋯しくしく」

「⋯⋯先生。もし裸の女性が好きなら私が」

「アテナさんがそんなことをする必要はありません! というか、先生そこまで腐ってませんから!」

 

 様々なトラブルがありつつもそれを乗り越え、表情筋やコミニュケーションのトレーニング、特別学習を乗り越え、ついに彼女は椚ヶ丘中学の転入テストに合格し、彼も椚ヶ丘中学のE組の担任を務めることが出来るようになった。

 

(ヌルフフフフフ。生徒を教え導き、ともに目標を達成するというのは良いものですね。彼女から学ぶことも沢山あり、色々と新しい体験も多く、忙しくも楽しい。こんな時間を過ごしたのは初めてですよ。最近は新しい悩みが出来てしまったのですが、それすらも喜んでしまう自分がいる。教師というのは不思議なものですね)

「さあアテナさん。明後日にはいよいよ始業式です。完璧な自己紹介で場を和ませ、目指せ友達1万人です!」

「了解です! アテナは友達1万人作るクエストを受注しました。まずはクエストクリアの為、装備品集めやスキル強化をする必要がありますね。それと、いざという時の薬草も必要です!」

 

 特別学習を通してアテナの学力、コミニュケーション力は大きく向上し、表情も出会った頃と比べて大変豊かになったが、新たな問題点も出てきた。基本的にコミニュケーション力を鍛える方法が先生やゲームにしか無かったため、なんでもゲームに例える不思議ちゃんみたいな話し方になってしまったのだ。

 

 果たして、彼女のE組生活はどうなってしまうのだろうか




《アテナ》 プロフィール
誕生日   不明
身長    158cm
体重    48kg
血液型   不明
バストサイズ Dカップ
得意科目  数学
苦手科目  国語
趣味    ゲーム、読書、料理
好物    甘いもの
過去の経歴 
不明。スクルドという女性や雪村あぐりという女性と一緒に過ごしてた時期があるらしい

次回から本編スタートです!
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