The Divine Rebel(神への反逆者) 作:心ここにあらず
【愛とは何か】
俺にとって、「愛」という言葉は、長い間ただの概念だった。
ある日本で読んだ。
人は誰かを想い、守りたいと願い、そのために自分を犠牲にすることすらある――と。
正直、合理性の欠片もない行動だと思った。
理解はできる。だが、納得はできない。
そう結論づけていた。
幼い頃から、俺の周囲には大勢の人間がいた。
父。母。使用人。家庭教師ーー
彼らは皆、口を揃えて言う。
「お前のためを思って」
「あなたは特別だから」
「ーー様に期待しているのです」
……それが“愛”なのだと、教えられた。
だが、ある時ふと疑問が浮かんだ。
“俺”のため、とは何だ?
彼らが見ているのは、本当に俺なのか。
失敗を許されない日々に常に求められる完璧な像形…
一つでも基準を下回れば、無言の圧力が降りかかる。
それでも彼らは言うのだ。
「愛している」と。
⸻
ある夜、父に尋ねたことがある。
「もし俺が、凡庸だったらどうする?」
ほんの、確認のつもりだった。
父は一瞬だけ沈黙し、そして答えた。
「そのような仮定に意味はない」
つまり――
“俺”である必要はない、ということだ。
必要なのは、“ヴァイスベルク家の後継者”としての器だけ。
そこに、俺自身の価値は含まれていない。
気づいてしまった。
彼らの言う“愛”は、
俺という存在ではなく、
俺に課せられた役割へ向けられている。
⸻
それでも、最初は納得しようとした。
合理的だからだ。
名家に生まれた以上、後継者として育てられるのは当然。
感情よりも責務が優先されるのも、理解できる。
理解できるはずだった。
⸻
だが――
どうしても、胸の奥に引っかかるものがあった。
埋まらない、空白。
どれだけ成果を出しても、称賛を受けても、
その言葉が自分に向けられていると感じられない。
「よくやった、"レオンハルト"」
そう言われても、
それは俺にではなく、
“理想通りに動いた後継者”に向けられているようにしか聞こえなかった。
⸻
ある日、ふと思った。
もし俺が、何も出来なかったら。
容姿も、知識も、才能も、すべて失ったら。
その時、彼らは――
それでも"俺"を「愛している」と言うのだろうか。
⸻
答えは、もう分かっている。
だからこそ、聞くことはなかった。
⸻
「愛」というものがあるのなら、
それはきっと、
理由も条件もなく、ただそこに在るものなのだろう。
だが俺の周囲にあるそれは、
常に“条件付き”だった。
期待に応えれば与えられ、
外れれば静かに遠ざかる。
それは社会的な取引に近いものだろう
⸻
「……それでも」
ある時、無意識に言葉が漏れた。
誰もいない部屋で。
「それでも、欲しいと思ってしまうのか」
⸻
滑稽だと思う。周囲から見た俺は何もかも恵まれているのだろう。
ドイツの名家…" ヴァイスベルク"の嫡男として誕生し、地位も名誉も金に権力すら一国家にすら届き得る家系に生まれ…
何をやっても人並み以上にこなす才能に、齢12歳にしてドイツ連邦陸軍特殊作戦師団隷下の旅団級特殊部隊…略して"KSK"(ドイツ語:Kommando Spezialkräfte)の精鋭部隊すら凌ぐ戦闘力…そして世界的名門・ハーバード大学にて博士号を取得するほどの知能の高さーー
俺を初めて見た、かのドイツ大統領はこう唱えた
『"あの一族"にも引けを取らないほどの麒麟児の誕生である』…と
ーーしかし
周囲の全てを淘汰できると自負している俺が、
たった一つ――“愛”というものだけは、どうしても掴めない。
俺が欲しいのはただ一つ
たとえこのような才や生まれが無かったとしても…誰もが与えられるもの…
【愛】…知りたいのだ…俺という存在を…他の誰でもない…俺自信が認められるように…
窓の外にはここ…ドイツの首都であるベルリンの夜景が広がっている。
あの光の中にいる誰かは、
俺の知らない“それ”を知っているのだろうか。
⸻
もし、いつか。
俺という存在そのものを見て、
何も求めず、何も押し付けず、
ただ――そこにいるだけでいいと、
そう言う者が現れたなら。
⸻
その時、俺は初めて
「愛」というものを理解できるのかもしれない。
夜のベルリンは、静かに佇んでいた。
街を貫く大通りには、規則正しく並んだ街灯の光が淡く滲み、石畳を濡らす雨がその輝きを映し返す。遠くでサイレンが鳴り、すぐに消える――それすらも、この都市の日常の一部だった。
その中心から少し外れた場所…
高い鉄柵と重厚な門に囲まれた屋敷がある。
ここはドイツ屈指の名門…ヴァイスベルク家本邸であり
その最上階、広いバルコニーに一人の少年が立っていた。
少年の名を"レオンハルト・フォン・ヴァイスベルク"
銀の髪は夜風に揺れ、蒼い瞳は都市の灯りをただ静かに見下ろしている。
その姿は、まるでこの世界から一歩引いた場所に存在しているかのように幻想的であった。
(…つまらない…毎日が色褪せていくように…モノクロと化しているかのようだ)
…少年は毎日課される並の人間では到底こなせないであろうほどの訓練を終わらせ夜に黄昏ていた。
…客観的に見てもレオンハルトは"選ばれるし者"である。幼少期から当代のヴァイスベルク家の後継者として様々な訓練を課されその全てにおいて圧倒的な成果を叩き出してきた。
…しかし、その訓練すら数年が過ぎるころにはただの作業とかしてきておりレオンハルトにとっては日々の食事となんら変わらない程度の作業である
そんな時…背後からコチラに歩み寄ってくる気配を感じた
「レオ…こんなところで何をしている。今日は貴様をドイツ社会に披露させる場なのだぞ」
「…父上」
現れたのはレオンハルトの父にして現・ヴァイスベルク家当主…ヴァルドナード・フォン・ヴァイスベルクである。
由緒あるヴァイスベルクにおいて、最もその地位を底上げさせた本人であり産業、経済…更には政界など多種多様なビジネスを展開しヴァイスベルクの底上げを成功させた張本人であり、レオンハルトを以ってしてもこの男は化け物だと言わしめるほどの超人である
「貴様のことだ。怖気付いたなどというわけではあるまい…コチラから群れずともそのうち大勢の羽虫どもが貴様に湧いてくるわ。…そうだな。貴様も知っているところで言うならば"フロスト"…ポツダム随一の資産家である"フロスト家"の当主とその娘も来ておるそうだ」
「…」
「手始めにフロスト家を手中に納めて見せよ…貴様なら容易いだろう。やり方は問わん。貴様の思うがままに行動し我がヴァイスベルク家の繁栄と栄光に繋げろ…いいな?」
「…はい」
そう言い残すとヴァルドナードはバルコニーから姿を消したのだった。
「…化け物め」
レオンハルトは吐き捨てるように呟いた。レオンハルトが優れているのはその肉体や身体能力だけではなく頭脳においてもIQ160オーバーである。…しかしヴァルドナードはそのレオンハルトと並ぶ…いや知力においてはそれ以上の傑物でありヴァイスベルク至上主義を掲げたその定義が何よりもレオンハルトと相性が悪いのだ
しかし、今のレオンハルトがそれに逆らう術も道理も持たないこともまた事実であり、重い足取りで会場へと戻るレオンハルト
レオンハルトが会場ホールへ入るや否や老若男女…大勢の参加者たちが押し寄せてきた。
(…有象無象の羽虫ども……ちっ…所詮俺もあの父親と同じってわけか…)
押し寄せる人間たちを無意識のうちに下に見ていたこと…そしてそれを否定出来ない己の価値観に父親を重ね合わせ不快に感じる
大勢の参加者達との団欒を捌いたレオンハルトは、見覚えのない少女が1人テーブルに居座っていることを発見した。
「失礼、お嬢さん。あなたの優雅な所作に、思わず声をかけずにはいられませんでした。そのケーキはさぞ美味なのでしょうね。」
「へっ!?わ、私のことですか??」
レオンハルトはこれまで培った知識と所作を活用し少女に警戒心を抱かせないように近づいた。
「ええ、勿論。我が家自慢のシェフが手掛けたスイーツですからね。満足いただけたなら光栄です」
「あ、いえいえ…え!?…ということは貴方は…」
「はは…申し遅れました。私の名はレオンハルト・フォン・ヴァイスベルク。お見知りおきいただければ恐縮です」
「あ、す、すいません!!」
そう言いながら食べていたケーキとフォークを慌ててテーブルに置き立ち上がる少女
「私の名前はエヴァ・フロストです。こ、この度はーー」
「はは。そのように畏まらなくても大丈夫ですよ。」
あまりの緊張からかタジタジになりながら話すエヴァを見て申し訳なくなってしまったレオンハルトは緊張を解すためにフォローを展開する
「やはりフロスト家の御令嬢でしたか。貴家のご高名は、以前より耳にしておりました。こうしてお目にかかれるとは光栄です」
「そんな…こと…ないです」
レオンハルトの言葉に下を向きながら答えるエヴァ
「…うん…どうせなら同い年みたいだし堅苦しい言葉はなしでいかないかい?」
エヴァの表情を見て攻めてを変えることにしたレオンハルト
「え、あ、大丈夫で…大丈夫!レオンハルト君!」
「はは…うん。俺のことはレオで良いよ。俺もエヴァって言うからさ」
「う、うん。れ、レオ…君」
これまで"とある事情"にて友達と言うものが出来たことがなかったエヴァに取って同年代…それも異性との交流は斬新そのものであり緊張と、絵本で見たまんまのレオンハルトの容姿に思わず照れを見せたエヴァ
勿論、レオンハルトがその視線に気づいていない筈がない…寧ろその感情すら好機と捉えた彼は更に会話のテンポを上げて心を開かせる
そして2人が出会ってから30分ほどが経過するとーー
「あはは!もうレオったら!」
「本当だって!アンドリューの奴がさぁ!」
「「あはは!!」」
2人だけの空間が出来上がり周りが入り込めない(厳密にはレオンハルトの指示で入らせないようにしているのだが)空気感を作り出し2人の中はみるみると縮まっていったのだった
とそんなレオンハルト達に近づく影が一つーー
「…レオンハルト様ーー」
「ん?…あぁ…向かうよ」
「??」
ヴァイスベルク家の使用人がレオンハルトの耳元で何かを伝えると共に、レオンハルトの表情が一気に変わり果てたのをエヴァは見逃さなかった。
「すまないエヴァ…今日はここまでのようだ」
「え!?ううん!こちらこそ!本当に楽しかった〜!」
エヴァは心の底からそう思ってくれているそうではにかんだような笑顔を見せる
「…また近いうちに会おうよ。これが俺の連絡先」
「え!良いの!?」
レオンハルトは自らの携帯番号が載った名刺をエヴァに渡し、エヴァ本人はその名刺を嬉しそうに受け取っていた。そしてエヴァの父親が戻ってくるタイミングを見計らい、交代するようにレオンハルトはその場を立ち去るのであった。
(…エヴァ・フロスト…か…ヴァイスベルクには到底及ばないにせよ、それなりの名家であることは間違いないが…彼女の父にも彼女本人にも他人と一線を引くような才も力もあるとは到底思えなかったな)
レオンハルトから見たエヴァは正に、箱入りに育てられたであろうお嬢様そのまであった。その父であるマルコス・フロストでさえ、ただの凡人に他ならずおそらく彼女の祖父、または曽祖父の代に偶然事業で当たりを引いた…その程度の認識しか覚えられなかったのだ。
レオンハルトが執事に案内された場所に向かうとそこにいたのはーー
「遅いぞレオ」
「…君がかのヴァイスベルク家…いやドイツが誇る"神童"か!!」
そこにいたのは2人の男性…1人は言わずもがなレオンハルトの父であるヴァルドナード…そしてその隣にいたのはプラチナブロンドの髪に、冷たく淡い色の瞳が印象的で、表情はコチラを見つめた途端はに噛むような笑顔を見せ、それは警戒する者を和らげるように…
そして細身ながら無駄のない引き締まった体つきをしていて、全体的に人間離れした美しさと不気味さを感じさせる容姿をしている。
彼の名はーー
《"ジョセフ・G・ニュートン"》
人類がまだ、自分たちの愚かさにも可能性にも、きちんと名前を付けられなかった時代。
そのずっと前から、ニュートン一族は世界の舞台袖に立ち続けてきた。
科学を信仰と呼ぶ者がいるならば、彼らはその司祭であり、同時に異端者だった。
国家が生まれ、帝国が興り、超大国が核を抱いて睨み合う間も、ニュートンの血は静かに受け継がれていく。表舞台に名を残すのは、ほんの一握りの「表向きの天才」だけだ。
本当の研究、本当の実験、本当の「人類進化のための計画」は、いつだって水面下で進んでいた。
人間の脳はどこまで拡張できるのか。
肉体はどこまで負荷に耐えられるのか。
遺伝子は、神の領域と呼ばれていた線を、どれほど容易く踏み越えられるのか。
ニュートン一族は、その問いに「答えようとした」わけではない。
彼らは「答えを作ろうとした」。
国家は時に、彼らの技術に手を伸ばす。宇宙開発、兵器開発、医療の革新。美しい理想を掲げながら、汚れた取引が繰り返される。
金と権力と恐怖を、ニュートン一族は冷ややかな目で見つめる。彼らにとって重要なのは、ただひとつだった。
「人類という種を、どこまで引き上げられるか」
火星で暴走した進化、"とある生物"との戦争。
人類が存亡をかけて戦場に立つその一方で、ニュートン一族は別の問いを抱いていた。
「この混沌さえ、実験条件として利用できないか」
地球の政治、火星の戦況、各国の思惑。
それらすべては、ニュートン一族にとっては巨大な試験管の中の「環境因子」に過ぎない。彼らが本当に見つめているのは、たった一人の被験者であり、同時に作品であり、証明でもある「到達点」だった。
ジョセフ・G・ニュートンは、一族の長い計画が形になった「答え」のひとつだった。
彼は、生まれながらにして人間の枠からはみ出していた。
十代の少年が見せるにはあまりにも冷静な眼差し。
訓練という言葉では説明できない身体能力。
学習や経験では追いつけない、直感にも似た戦場の解析力。
ニュートンの血は、彼の細胞ひとつひとつに刻まれていた。
ただの強化人間ではない。
ただの兵器でもない。
多種の生物の特性を重ね、模倣し、さらにその上から「進化」を上書きするような、異常な適応力。戦いの最中でさえ、敵の能力を観察し、解析し、自分の「次の一手」に組み込んでしまう。
その姿は、まるで人間という種そのものが、ひとりの肉体に凝縮されて進化を試しているかのようだった。
42.195kmを全力疾走する〝体力〟と〝心肺能力〟
マンモスを絶滅させる〝投擲能力〟
平均IQ186の〝知能〟と〝学習能力〟
食べた物を即座に使う〝消化吸収力〟
その手の〝触覚〟はあらゆる芸術的な〝道具〟を生み出し
〝術理〟を理解し 達人のように扱い 何より美しく──────
他のどの生物の求愛行動よりも美しく──────
『舞う』
ジョセフは戦場で笑う。
余裕の笑みなのか、嘲笑なのか、それとも退屈しのぎなのか。
彼自身でさえ、本当のところはよく分かっていないのかもしれない。
なぜなら、彼は「自分の意志」で生まれてきたわけではないからだ。
ニュートン一族が描いた設計図の上に、長い年月と残酷な試行錯誤の果てに作り上げられた「"最高傑作"」
それらが齎した結果出来上がったのが"ジョセフ・G・ニュートンという男なのだ
またの名をーー
【"人類の到達点"】
「お初にお目にかかります。私の名はーー」
「レオンハルト・フォン・ヴァイスベルク…だよね」
レオンハルトの言葉に被せるように答えるジョセフ
「…」
「…ふむ…確かにこれは驚きだ。君は僕たち一族…いやこの僕にさえ届き得るほどの才を秘めている」
ジョセフはレオンハルトをじっと見つめながら答える
「君が産まれたことは人類にとって"特異点"となるのかも知れない…」
「「…」」
「…何が言いたいのかね」
顔を顰めたヴァルドナードが答える
「いやなに…あくまで偶然?…自然に?…神の悪戯で産まれたとしたらそれは奇跡に等しいほどの芸当さ…あくまでーー」
ジョセフは、そこでわずかに言葉を切る。
その双眸が、まるで“内部構造”を覗き込むかのように、レオンハルトを射抜いた。
「――けれど、実際は違う」
空気が、静かに張り詰める。
「君は“出来すぎている”。世の中のタイミング、能力の偏り、精神構造の安定性、黄金率の容姿…どれもが“偶然の産物”にしては整いすぎている」
一歩、ジョセフは距離を詰めた。
「まるで設計図があるみたいだ。いや――」
わずかに、口元が歪む。
「“ある”んだろう?」
沈黙が訪れる
否定も肯定も返ってこないその間すら、答えとして受け取るように、ジョセフは小さく頷いた。
「誰が作った? どこの系譜だ? それとも…国家単位か」
その声音には、興味と、わずかな高揚が混じっていた。
「いいね……実にいい」
くつくつと、喉の奥で笑う。
「僕たち以外にも、“人類を先に進めようとした連中”がいたわけだ」
ジョセフとレオンハルトは視線を逸らさない。
観察ではなく、“同類の確認”の様に…
「君は偶然なんかじゃないよ、レオンハルト」
ジョセフは確信を持っているかのように断言する
「意図的に“造られた側”だ」
そして、ほんの一瞬だけ――
ジョセフの瞳に、これまでにない色が宿る。
「だからこそ価値がある」
それは評価か、警戒か、それとも――
「さあ、証明してみせてよ。“君が本物かどうか”を」
そう言いながらレオンハルトと目と目が衝突しかねない距離で見つめ合う2人。年齢差もありジョセフが上から見下ろす形にはなるが…
しかし…沈黙を破ったのは2人のどちらでもなくーー
「――そこまでにしてもらおうか」
「「…」」
一歩、ヴァルドナードが前へ出る。
ジョセフの視線が、ゆっくりと彼へ移る。
「……ヴァルドナード卿……邪魔をしないでいただきのですが」
口元に笑みを浮かべたまま、どこか試すような声音。
しかしヴァルドナードは一切表情を変えない。
「…ふん…私は無駄な行為が心底嫌いでね」
「…ほう?」
「この場でそれ以上踏み込めば、互いに得るものより失うものの方が大きい。違うか?」
ジョセフは答えない。
だが、その沈黙自体が“肯定”に近い。
そう捉えたヴァルドナードは続ける。
「そもそも――ここは実験場ではない。ましてや、お前たち…いや"我々の最高傑作”をぶつけ合う場所でもない」
視線だけで、レオンハルトを制す。
「環境が整っていない。観測も記録も不十分。そんな状態で得られる結果など、信頼に値せんだろう」
理屈としては、至極もっとも。
だがそれは同時に――“今はやるべきではない”という強い意思表示でもあった。
「……なるほどね」
ジョセフが、わずかに肩をすくめる。
「確かに、貴方の言う通りだ。こんな“雑音だらけ”の場所で試すには……少し惜しい」
その言葉には同意と、そして別の含みがあった。
ヴァルドナードは見逃さない。
「それに――」
ほんの一瞬だけ、声が低くなり横目でレオンハルトを見下ろす
「“時期”というものもある」
再びヴァルドナードに視線を戻し言う。
「どれほど優れた秘剣でも、研ぎ上げる前に振るえば欠ける。……そういうものだ」
直接的ではないが、2人には十分に伝わるだろう…
しかしそれを理解した上でレオンハルトは何も言わない。
ただ、その言葉を“理解した上で受け流す”ように、静かに目を伏せた。
ジョセフの瞳が細められる。
「……ふふ、なるほど」
くつくつと笑う。
「過保護なのか、それとも――確信があるから温存しているのか」
ヴァルドナードは答えない。
再び沈黙が訪れる
それが何より雄弁だった。
やがて、ジョセフは一歩引く。
「いいだろう。今日はここまでにしておこう」
背を向け軽く手を上げる。
「どうせ“いずれ分かる”ことだ」
レオンハルトへ視線を戻す。
「君がどこまで抗えるのか――ね」
踵を返しながら、最後に一言だけ残す。
「次に会う時は、“もう少し整った舞台”を用意しておくよ」
ゆったりとした歩み始めたジョセフの背中が遠ざかる。
「…ふん…どこまでも生意気な小童よ」
「…」
「…それでも奴の実力は本物よ…レオよ…貴様は奴を…奴らを越えなければならん」
「…」
「今の貴様では奴の足元にも及ばないのは痛いほど理解したであろう?」
「…」
レオンハルトは何も答えない…しかしヴァルドナードの言葉の意味は心底理解している。
先ほどの僅かな時間ですら2人ほどの領域にいる者はそれを正確に感じ取る。拮抗した実力者同士が、ただ一度視線を交わしただけで“相手の強さ”を理解してしまう――あれは、直感や雰囲気といった曖昧なものではない。視線の高さ、重心の置き方、呼吸の間隔、筋肉の緩みと緊張の切り替え、指先の微細な震え――そういった“無意識に出る情報”を、一瞬で拾い上げる。
一瞬の視線の交差だけで、
挑めばどうなるか、どこまで通じるか、勝負がどれほど危険か――
その輪郭が、はっきりと浮かび上がる。
それは予測ではなく、ほとんど“確信”に近い。
一歩踏み込めば、どこまで壊れるか。
どこまで奪われるかを理解してしまう
そして――
そこからレオンハルトがジョセフに抱いた答えはーー
"勝つビジョンがまるで浮かび上がらない"
実質的な敗北に近い回答であった。超人的な身体能力と頭脳を持つレオンハルトを持ってしても"人類の到達点"と目されるジョセフ相手には分が悪いと感じざる負えなかった
しかしそれは"現時点'での話である
現時点でのレオンハルトとジョセフには明確に差が存在する…しかしそれはあくまで年齢的な成長具合にしか過ぎず齢12歳のレオンハルトと18歳のジョセフを比べること自体無理な話であった。
そして得たモノもある…それはあのジョセフ・G・ニュートンを持ってしてもレオンハルトを図り損ねたという事実…即ちそれは少なくともジョセフと同等…いやそれ以上の才をレオンハルトは秘めているということに他ならない。
ヴァルドナードは小さく息を吐く。
「……全く、余計な火種を持ち込んでくる」
「…ふっ…あっはっはっは」
下を向いていたはずのレオンハルトが腹を抱えて高笑いする
「…頭でも沸いたか?レオよ」
「あぁ…ある意味そうかもな…あれがニュートン一族の最高傑作か…確かに"今は"分が悪いだろう…しかし」
「…」
「後5年だ…5年もあれば俺が奴を…奴らを下して見せよう…父上達が何を隠しているのかどうかなど、この際どうでも良い」
「…」
「俺は俺だけの道を行こう…そして我が道を阻むというのなら」
「…」
レオンハルトはヴァルドナードを見下ろす様に言い放つ
「"血縁だろうと容赦しない"」
「…」
「よく覚えておく良い…では、失礼する」
自らの思いを伝え切ったレオンハルトはヴァルドナードの隣を通り過ぎ、会場を後にする。
レオンハルト自身、ここまで面と向かって父親に反旗を翻すなど少し前までは考えてすらいなかっただろう…しかしそれもこれもジョセフ・G・ニュートンという男の出会いが全てを狂わせてしまった
あの男に勝つためには、父親と言えどヴァルドナード程度に操られている場合ではない…なにせ、目指すべきはまさしく世界…否…人類史上最強の男なのだから