勇者が生まれないか街を見張っていた魔物の私、懐いてきた子をうっかり勇者に育て上げてしまう   作:うちっち

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ちなみに白帳の文章はChatGPTくんが作成してくれました。 「わ、私が頑張って書いた文章が、なんかつまんない感じに変えられていく……!」という気持ちを毎回味わってます。


村娘はお掃除完了を褒められない

 私は、宙に浮かぶ療養椅子の上から村を見回した。

 

 

 村人たちは無事に見えた。

 少なくとも、村が壊滅しているわけではない。

 

 けれど、無事というには、誰もが息を潜めすぎていた。窓の隙間からこちらを見る目がある。扉の陰で子どもを抱きしめている人がいる。井戸のそばでは、腕に包帯を巻いた老人が、鐘楼の方を何度も見ていた。

 

 だが……。

 

『ノルク。角が生えてて布被ってキーキー鳴く魔物って、いたっけ?』

『該当なし』

『物質系の魔物なら、いるよね』

『はい。石殻種、土人形種、鉱脈に沿って発生するものなど、複数いますが……少なくとも、魔王軍側で把握している物質系魔物の特徴とは一致しません』

『だよねえ』

 

 魔王軍にも、いろいろいる。

 

 角がある魔物もいる。布をかぶる魔物も、まあ、いるかもしれない。寒がりとか。おしゃれとか。何か事情があるなら。

 

 物質系の魔物もいる。

 でも、黒い布をかぶって、角をつけて、キーキー鳴きながら稲妻みたいなものを出す物質系魔物。

 

 いない。特大の雷を落とすやつはいる。私が魔王城の上空を飛んでると嫌がらせでドカドカ落としてくるやつとか。人間の街のお土産をそいつにだけ渡さなかったら、なんだかしょんぼりした顔をしてたっけ。でも向こうは手作りの焼き菓子を私以外の全員に配るという手の込んだ復讐をしてきて、私は柱の壁から涙を呑んで見つめるしかなかった。あいつ元気にしてるんだろうか。

 

『そうそうノルク、ピリカって……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、何かしてた?」

 

 クラリッサさんがこちらを振り向いた。

 

「何もしてません」

「何もしていない人の魔力の形ではなかったわ」

「療養椅子のせいかも」

「便利な椅子ね」

 

 クラリッサさんが最近するどい。私とノルクのひそひそ話は魔王城でもあんまり見抜ける相手はいないのに。

 

 そしてユリスくんも、私とノルクを見比べていた。

 

「ネリネ。今、何か話した?」

「話してないよ」

「……声には出してないだけで?」

 

 最近ユリスくんがこわい。

 私はそっと視線をそらした。

 ユリスくんは魔力は探知できないと思う。それなのに何を感じてるんだろう。

 

 

 

 

 ノルクは無表情のまま、村の焼け跡を見ている。

 

「特徴の聞き取りが必要ですね」

 

 表向きには、ノルクが発した言葉は、それだけだった。

 ユリスくんは村人の方へ向き直った。

 

「その魔物は、まだ近くにいますか?」

 

 村の入り口にいた男の人が、青ざめた顔で頷いた。

 

「広場の向こう、古い納屋の方へ……。それから、鐘楼の裏にも何体か」

 

 その声に、周囲の村人たちが一斉にこちらを見た。

 期待。恐怖。祈り。

 いろんなものが混じった目だった。

 

「分かりました。ここにいてください。俺たちが見てきます」

 

 その言い方に、村人たちの表情が少しだけ緩む。

 

 神託で来た勇者。

 魔王軍の影を退ける者。

 

 

 

 

 

 

 私は広場の焼け跡をもう一度見た。

 

 なんだろう。

 村を壊している、というより、ずいぶんと表面的というか……「襲われてるぞ」と村に見せているみたいだった。

 

 

 

 クラリッサさんは焼けた柵の前にしゃがみ込んでいた。焦げ跡を指でなぞり、それから土を少し摘まむ。焼け跡を見て、何度も首をひねっている。明らかに何か言いたそう。

 

 

 

 エルミナさんも、怪我をして座っている老人の腕を診ていた。擦り傷。軽い火傷。打撲。痛そうではある。けれど、命に関わるものではなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 広場の向こう、古い納屋の陰から、きい、と高い音が聞こえた。

 

 村人たちが息を呑む。

 人より2回りほど大きい、黒いものが、ゆっくりと姿を現した。

 

 子どもの言っていた通りだった。

 

 黒い布をかぶっている。頭の横には、いかにも後から付けたような曲がった角。手には長い爪。ひょこひょこと変な歩き方をしている。い、いちおう確認してみる?

 

 私は椅子に座ったまま近寄って、小声で話しかけてみた。

 

「もしもし。ひょっとして魔王様ですか?」

「キィィィ」

 

 無視された。

 そして声が高すぎる。

 あんな魔物いないよ。

 

 しかも、一体ではなかった。

 広場に三体。納屋の屋根に二体。鐘楼の下に一体。畑道へ続く低い門の向こうにも、黒い布の影がいくつも動いている。

 

 十体以上がばらばらに動いているようで、村人のいる方へは急に踏み込まず、広場や鐘楼、納屋の近くで音を立てている。

 

 

 黒布の一体が、両手を広げた。

 爪の先に、小さな光が走る。稲妻のような、けれど本物の雷にしては弱い光。

 こちらに向けた手からも稲妻が走り、私の腕や顔にぱちんぱちんと当たった。なんだこれは。私が普段浴びていた雷に比べるとぬるすぎる。全員魔王城送りにしてやろうか。

 

 ユリスくんが前へ出た。

 

「下がって!」

 

 村人たちが一歩後ろへ引く。

 

「ネリネ! 下がれって!!」

 

 私に言われてたらしい。私はとりあえず、広場上空に戻った。

 

 

 

 

 

 黒布の魔物が、また高く鳴いた。

 

「キィィィ!」

 

 その声に合わせて、他の影も広場へ走り出す。

 ユリスくんは剣を短く構え、最初の一体の爪を受けた。

 

 金属の音ではなかった。

 かつん、と石を叩いたような音がした。

 

「石……?」

 

 黒布の魔物が後ろへ跳ねる。

 その足元に、クラリッサさんの結界糸が走った。

 

「村人側へ出さない。ユリス、広場へ押し戻して」

「分かった!」

 

 ユリスくんが一体を広場の中央へ押す。

 

 クラリッサさんの結界が、広場の端に薄い壁を作った。村人たちがいる方へ行かないように、道をふさぐ。

 

 黒布の爪が、その結界に触れた。きん、と高い音がして、薄い壁に白いひびが走る。クラリッサさんの目が細くなった。

 

「見た目は雑なのに、力だけはあるわね」

 

 声は小さかった。

 村人には聞こえないくらい。

 

 彼女はすぐに石を一つ足し、ひびの走った結界を内側から縫い直した。

 

 

 

 エルミナさんは、怪我人たちを建物の陰へ誘導していた。

 

「こちらへ。急がずに。転ばないでください」

 

 声は落ち着いている。

 

 その声を聞くと、村人たちの足も少しだけ落ち着く。エルミナさんの声には、薬湯以外の効能もあるらしい。

 

 

 

 

 

 私は療養椅子の上から、黒布の影たちを見た。

 

 納屋の屋根に二体。村人の逃げ道を見下ろしている。鐘楼の下に一体。鐘楼を壊す気はなさそうだ。ただ、その前をうろついて、村人たちの視線を集めている。

 

 畑道側に三体。

 広場に四体。

 納屋側に二体。

 鐘楼の下に一体。

 あともう一体、低い石塀の影に隠れている。

 

「広場以外に畑道側3体。納屋の屋根2体。石塀の影にも1体いるよ」

「助かる!」

「畑道の3体と石塀の1体は私がやろうか。残りよろしく」

「助からない! ネリネちょっと! ちょっと待って!」

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき広場の一体が、村人の方へ爪を向けた。

 爪先に白い光が集まる。

 

「伏せて!」

 

 ユリスくんが駆け込んだ。

 飛んだ稲妻を、聖剣の腹で受ける。

 

 ばちん、と空気が裂けた。

 ユリスくんの靴底が石畳を削り、半歩だけ後ろへ滑る。焦げた匂いが一瞬、濃くなった。

 

 庇われた子どもが、遅れて泣き出す。

 

 

 

 

 続けてユリスくんの剣が、影の腕を落とした。けれど、黒布の影は止まらなかった。

 バランスを失ったまま、体を傾け、残った手で地面を掻いて、村人のいる方へ這う。悲鳴が上がった。

 

「痛みがないのか……?」

 

 ユリスくんが歯を食いしばる。

 聖剣の光が強くなる。

 

 刃が体の真ん中に入る。黒布の影は、そこでようやく動きを止めた。

 倒れた拍子に、布がずれる。

 下から見えたのは、白い石だった。

 

 

 

 

 

 

 私もほうきを構えて畑道へ向かった。たぶん竜より頑丈ということはないだろう。椅子に座ったまま、布の上から順番にほうきでばしんと思いっきり1回叩くと、角がひしゃげて石はバラバラに飛び散った。1体、2体、3体っと。よし完了。

 

 しかしあれだ。みんな必殺技っぽいのがあるのに私だけない。ほうきで殴るだけ。せめて決め台詞みたいなのを考える? 「これにてお掃除完了です!」みたいな。おお。我ながらいい。『見事なお掃除ですね!』とかエルミナさんが言ってくれるかも。

 

 

 

 

「これにてお掃除完了です!」

 

 最後に石塀の1体をほうきで叩き潰しつつ、試しに叫んでみた。ユリスくん、クラリッサさん、エルミナさんは一瞬こちらを見て、すぐに視線を戻した。誰も何も言ってくれなかった。さみしい。

 

『さすがはネリネ様。見事なお掃除です』

『うるさいなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 広場の方では、ユリスくんがまだ黒布の影と打ち合っていた。

 

 黒布の別の一体が、エルミナさんたちの方へ向かおうとした。

 ユリスくんが間に入る。

 

 間に合わない、と思った瞬間、クラリッサさんの結界が足元に走った。黒布の影の足が止まる。布の中で関節がぎぎ、と嫌な音を立てた。

 

 クラリッサさんは、ほんの少し眉を寄せる。

 

「……1か所へ寄せるわ」

 

 

 

 

 

 地面を走る結界糸が、村中の黒布の影を広場へ押し戻していく。納屋側の二体。鐘楼下の一体。広場に残っていたもの。

 

 全ての黒布が、ぎこちない足取りで同じ場所へ集められていく。

 

 ユリスくんが村人たちの前に立ち、聖剣を構え直した。

 

「ここから先には行かせない」

 

 その声は、村人にも聞こえたと思う。

 何人かが、震えながらも顔を上げた。そこには、救われた者の表情が浮かんでいた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユリスくんが聖剣で、影の一体と切り結び、しばらくして倒した。その間、ほかの影は様子を窺うように棒立ちしていた。

 

 すぐ次の影が爪を振るい、さらにもう一体が横から回り込む。ユリスくんは大きく斬らず、村人の前へ出さないように押し戻しながら、時間をかけて一体ずつ動きを止めていった。

 

 そして。

 ユリスくんは剣を逆手に持ち、最後の一体の胸の継ぎ目へ突き立てた。黒布の影は、そこでようやく動かなくなった。

 

 

 

 

 広場が静かになった。

 風だけが通る。焦げた柵の匂い。焼けた木の匂い。村人たちの押し殺した息。

 

 

 

 

 

 私は療養椅子の背に体を預けた。

 

 これが本当に魔王軍の影なら、私は魔王軍の品位について正式に抗議しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、勇者様……!」

 

 村の男の人が、がばっ! とその場に膝をついた。

 泣き出す人もいた。

 

「本当に、来てくださった」

「女神様は、見捨てなかった」

「神託が、勇者様を連れてきてくださったんだ……」

 

「みなさんが無事でよかった」

 

 村人に向かって、ユリスくんはそう言った。「おお……!」という歓声が上がる。

 その場に、白楔宿へ向かう途中だったという荷運びの男がいた。鐘楼の陰に隠れていた巡礼者もいた。彼らは、泣いている村人たちと、剣を下ろしたユリスくんを交互に見ている。

 

「聖都を救った勇者様が、今度は灰鐘村を……」

「本物の勇者様だ!!」

 

 誰かが言った。

 その言葉は、すぐに別の誰かへ渡っていく。

 

 村人の一人が、古い鐘楼へ向かった。

 止める人はいなかった。

 長い間あまり鳴らされていなかったという鐘が、ゆっくり揺れる。

 

 がらんがらん! と音が鳴った。

 

 灰色の石壁に、鐘の音が広がる。

 その音は、西の巡礼路へと流れていく。

 たぶん、その音に乗って、話も広がっていくのだろう。

 

 『神託に導かれた勇者が、魔王軍の影から灰鐘村を救った』と。

 

 

 

 

 

 私は白帳を開いた。

 まだ何も書いていないはずの頁に、うっすらと文字が浮かんでいる。

 

 

 

 灰鐘村。

 ――魔王軍の影、確認。

 

 

 

 そこまで浮かんで、文字が少しだけ滲んだ。

 

 

 

 ――魔王軍の影、らしきもの。確認。

 

 

 

 私は、その「らしきもの」をしばらく見ていた。

 鐘の音は、まだ遠くまで続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が地上付近でふわふわ浮いていると、クラリッサさんが手招きしていたので寄っていってみた。どうしたんだろう?

 

 着地した私の顔を、クラリッサさんはまじまじと見つめた。

 

「ネリネってさっき稲妻当たってなかった?」

「危なくかわしました」

「顔面直撃してたように見えたんだけど」

 

 クラリッサさんは何か小さく呟くと、私を見てニッコリと笑った。いつもの皮肉交じりの笑いじゃなく、なんだか小さい子みたいな、無邪気な笑みだった。そしてクラリッサさんは、不意に腕をぎゅっと私の腕に絡めてきた。

 

 いつもよりずっと機嫌が良さそうだった。

 何か良い石でも拾ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ちょっと2人だけで話さない? あなたにいくつか聞きたいことがあるの」

「え? いいですよ」

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