尸魂界死神異譚   作:マグロのしばき

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『剣八』. 三

 

 一番隊執務室

 

 四番隊隊舎を後にした源之助は、卯ノ花の言い付け通り山本の元へと。

 日は既に落ち、執務室から見渡す瀞霊廷の夜景は壮観なものであった。

 

「藤木」

 

「……はい」

 

「全く、難儀な目に合うたのお……」

 

「……」

 

 重苦しい空気が流れる中、返す言葉は無く。

 夜風に舞う虫のさざめきが鮮明に聞こえ始めた頃、源之助が口を開いた。

 

「……刀を、抜きました」

 

「……」

 

「……先生より賜りし日より、初めてにございました」

 

「……」

 

「元流を捨て置いた刃を持ってしても……先生が赴かなければ、彼奴を収める事は出来ず……お見苦しき姿を……」

 

 伏せる目に、小さき声色。

 情けなく言葉を続ける源之助に、山本が割って入った。

 

「……抜いておらん」

 

「……!」

 

「お主はまだ、抜いておらん」

 

 山本の言葉に、伏せた目が僅かに見開かれた。ゆっくりと山本を見つめると、山本の手にはいつもの杖では無く、斬魄刀が握られていた。

 

「確かに刀は抜いたかもしれん。相手が相手故のぉ、身を守る為には仕方あるまい」

 

「……」 

 

「しかし、魂までは抜いておらん」

 

 山本の言葉が、源之助の心臓を鷲掴んだ。

 数秒目が合ったか、流れるようにその手に掴む刀へと山本は目を移す。

 

「懐かしいのぉ……あの日、お主はその内に宿す刀を魂と呼んでおったな」

 

「……はい」

 

「お主が言う魂は、怒りに切っ先を震わす物であるのか」

 

 山本は見逃してはいなかったのだ。僅かであろうと、更木と見えた刃が、怒りに、確かに震えていた事を。

 

「儂はそれを、抜いたとは言わん」

 

「……」

 

「覚えておるか? お主が初めて刀を抜く日が、心配でならんと言った日を」

 

「……はい」

 

「ほっほっ、小っ恥ずかしい話じゃ……しかし、それは今でも変わらん」

 

 源之助は山本の言葉を忘れた事は無かった。まして、心配などというとても鬼と呼ばれた男から出た言葉だ、忘れられる訳がない。

 

 またしても静寂が訪れようとした瞬間、山本はゆっくりと口を開いた。

 

「……元流とは、二千年を生きた儂の軌跡……魂よ」

 

 気付けば半身、鞘から刃が顔を覗かせていた。

 

「しかし、魂とはそれだけに非ず」

 

「……!」

 

「儂自身の、この心に宿りし魂が在る。元流とは儂のこの魂を持って創った、もう一つの魂ぞ」

 

 刀から源之助へと視線を移す山本。その目は見据えるように据わっていた。

 

「お主が内に宿す刀を魂と称すは天晴れなり……じゃが、お主自身の心、お主自身の魂そのものは何処に在る」

 

「……!」

 

()を以って()を振るいしその瞬間、刀とは初めて、刃と成り得ると儂は考える」

 

 完全に引き抜かれた刃を掲げ、見据える。

 濁りのない潔白な刀身が映し出す山本の姿は、護挺を統べる死神では無く、かつて尸魂界(ソウル・ソサエティ)に名を馳せた剣客、山本重國であった。

 

 そう、今だけ山本は死神としてでは無く、一人の剣客として源之助に語りかけていた。

 

「刀は抜いた、技を使うたかもしれん……しかし、お主自身の魂無き刀……儂はそれを、抜いたなどとは到底思わん」

 

「……」

 

「……話が逸れてしまったかの……儂も老いたか、ほっほっ」

 

 刀を納め、微笑む山本。年相応の落ち着きを見せると同時に、優しく源之助へと言葉を繋げる。

 

「とにかく、安心せい。元流よりとお主が選んだ刀よ、そんな程度ではあるまい。お主が()を以て()を振るいし時は必ず来るであろう」

 

「……」

 

「じゃから……安心せい」

 

 山本の笑みに、言葉が出ない。

 安心を感じたのだ……師の心に。

 

「はい……!」

 

「ほっほっ……」

 

 

 

 


 

 

 

 数日後

 

 源之助は剣八を屋敷の稽古場へと呼び出していた。

 

「こんな所に呼び出すっつー事は、()()()()()()でいいんだよな」

 

「……」

 

 そういう意味……とは、剣八にとっては勿論戦いである。しかし源之助は釘を刺されていた。あまり剣八を刺激せぬようにと。

 

「ねー剣ちゃん! すっごいおっきい剣があるよ!!」

 

「あ?」

 

 今さらであるが、勿論やちるも一緒である。稽古場に立て掛けられた巨大木剣かじきを指差すやちるに連れられる剣八。

 

「剣ちゃん持ってみてよ!」

 

「面倒クセェ」

 

 源之助の了承も取らないやちるを無視し、彼へと向き直ろうとするが、やちるは口を尖らせて文句を垂れていた。

 

「ぶー、ケチ! ケチケチケチケチ!!」

 

「……うるせぇな」

 

 面倒くさそうにかじきへと向き直り、その柄を掴む剣八。ミシミシと悲鳴を上げるかじきを片手にて持ち上げて見せた。

 

「ほー、こりゃいいな、中々重てえじゃねえか」

 

「さっすが剣ちゃーん!」

 

 楽しそうなやちるであったが、かじきが出す悲鳴はどんどんと大きさを増していた。

 

 技術開発局が造ったこのかじき、手にした者の霊力、霊圧に応じて重さが増すように設計されているのだが、剣八ほどの者が持つとどうなるか……想像するのは容易であろう。

 

「あ!」

 

「あ……」

 

「……」

 

 かじきは持ち手と束の根本から破裂音を放ち、その巨大な刀身を床へとめり込ませていた。

 剣八が手に持つのは、先ほどと打って変わったただの棒切れであった。

 

「あー! 剣ちゃんが壊したー!!」

 

「オメーが持てって言ったんだろうが!」

 

「……」

 

「ちっ……ワリィな、壊しちまった」

 

「構いませぬ、長く使い込んだ故でありましょう。次はより丈夫に造らせますので……」

 

 少し気まずい空気が流れたが、剣八は手に持つ棒切れを投げ捨て口を開いた。

 

「で、遊んでくれんだろ? 早く戦ろうぜ」

 

「……」

 

 スッと刀を抜く剣八に対し、源之助が取った行動は……

 

「おい、んだそりゃ……」

 

 源之助が手にしたのはごく普通の木剣であった。構える源之助に対し、怪訝な顔を浮かべる剣八であったが。

 

「戯れなれば、木剣にて」

 

「……ざけんな、冷める真似してんじゃねえよ」

 

 苛立ちを募らせる剣八。彼の眉がひそむのも知らずと源之助は言葉を繋げる。

 

「……先日の戦いにおいて、更木隊長の言葉には幾つか納得のいく物もあり申した」

 

「あ?」

 

「心のままに剣を振るうのは、どのような気持ちなのですか」

 

「……」

 

「私はそれを知りたい……」

 

 源之助は山本の言葉を聞き、心のままに剣を振るう剣八のその心情を理解したくなったのだ。しかし、釘は刺されている。ならばと、不器用なりに木剣にて手合わせを申し出たのである。

 

「……けっ、要はあんたが遊んでほしいって事かよ……」

 

「……」

 

 沈黙が流れたが、やちるがそれを切り裂いた。

 

「遊んであげなよ、剣ちゃん」

 

「……」

 

「ね?」

 

 小首を傾げるやちるに、剣八は心底面倒くさそうに刀を納めた。

 

「……とっととやんぞ」

 

「ありがたき」

 

 用意されていた木剣を両者手に取り、手合わせが始まった──

 

 

 


 

 

 ──数分が経ったが、二人の手合わせは先日の戦いと比べたらそれはそれは地味な物であった。

 

「「……」」

 

「~♪」

 

 両者無言、源之助の剣が迫ろうとも、剣八は適当に受け止める。返す一閃も、避けては打ち返す、その繰り返し。流れるのはやちるの鼻歌のみである。

 

 何の発展も無い現状に、剣八はイライラしていた。それはそうである。剣八は命のやり取りだからこそ、心のままに刀を振るえるのだ。しかし、人の心が分からない源之助は知る由も無い。

 

 不機嫌そうに眉をひそめながら源之助に付き合っているといよいよ、剣八は我慢の限界を迎えた。

 

「やってらんねえよおい」

 

「……」

 

「あんた言ったよな? 俺の心を知りたいってよ……なら尚更こんなモン無駄なんだよ」

 

 木剣を投げ捨て、刀へと手を添える剣八。

 

「知りてぇんなら教えてやるよ。あんたがねだって来たんだ、文句言うんじゃねえぞ……!」

 

「……!」

 

「行くぜぇええっ!!!」

 

 刀を全て引き抜き、いつものように振りかざした瞬間だった……

 

「……ぁ?」

 

 源之助は逃げ出した。その背を向け、一目散に稽古場を後にしたのである。

 

 普段の源之助ならあり得ない行為だが、実は数日前、山本に釘を刺された際にこんな事も達せられたのである……

 

 

 ── 藤木よ、もし今後更木と戦いになりそうであれば…… ──

 

 ── …… ──

 

 ── とりあえず逃げよ ──

 

 その言葉に源之助は耳を疑ったが、山本は立て続けに言葉を繋げる。

 

 ── お主の性分からして逃げるなど断固拒否であろうが、今一度瀞霊廷を騒がされてはたまらん ──

 

 ── しかし…… ──

 

 ── そもそも瀞霊廷内、ましてや護挺内で争うのは御法度であろうが。まぁ、また同じ事が起こるとは思わんが念のためじゃ。良いな? もしまた戦いそうになったら…… ──

 

 ── …… ──

 

 ── とりあえず逃げよ ──

 

 ── ……………………………………はい ──

 

 不服そうに返事を返す源之助であった。

 

 

 そんな事があったとは露知らず、取り残された剣八とやちる。

 

「……おい」

 

 弄ばれたと言われてもいい状況に、剣八の額にはびっしりと青筋が浮かんでいた。

 

「待てコラぁあああ゛っ!!!」

 

「あははは! いっけー剣ちゃーん!」

 

 その日は結局、日が暮れるまで源之助と剣八は鬼事を楽しむのであった。

 

 


 

 

 かつての記憶を思い返している中、帰路に着く源之助へと声をかける人物が一人。

 

「源之助殿!」

 

「……ルキア殿か」

 

 同じ特別席である朽木ルキアが笑顔で源之助へと駆け寄っていた。

 

「今日は十一番隊へと赴いていたようですが、その……お怪我などはありませぬか?」

 

「いえ、無事にございます」

 

「ほっ……それは良かった……あ、聞いてください! 私は今日、十番隊での仕事だったのですが、松本副隊長がまた……」

 

「藤木ぃいいいっ!!!」

 

 ルキアの言葉を遮る叫び声が響き渡った。

 声の方向へと目をやると、剣八が全速力で駆け寄って来ていた。

 

「やっぱ戦えぇええっ!!!」

 

「あはは! ごめーんゲンゲン! 剣ちゃん止めれなかったー!!」

 

 土煙を上げながら駆ける剣八は、どんどんと近づいてくる。いきなりの展開に、ルキアはたじろぐ事しか出来ずにいた。

 

「え、え? げ、源之助ど……」

 

「ルキア殿」

 

 源之助は未だ混乱するルキアの手を掴む。

 

「ふぇえっ!!?」

 

「逃げますぞ」

 

「げ、源之助殿!? ちょ……!!」

 

 返事も待たず、源之助は一直線に走り出した。

 

「待ちやがれぇええ゛っ!!!」

 

「あははは!! いけいけー!!」

 

「何で私までぇえぇええ!!?」

 

「……」

 

 瀞霊廷は今日も平和な一日となるのであった。




みんな仲良くすればいい……

日常回です。各隊の主要キャラと触れ合って、出会いとか、今後とか書きます。ある程度プロットを組めてる物の中からやります。モチベ向上の為、皆様に見たい物を選んでいただきたいです。何卒お願いします。

  • 十番隊(メイン乱菊、サブ冬獅郎)
  • 十二番隊(メイン ネム、サブ マユリ)
  • 十三番隊(メイン海燕、サブ浮竹)
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