尸魂界死神異譚   作:マグロのしばき

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『心』

 

 

 十三番隊舎にて

 

「どうぞ、ゆっくりしてください。とは言っても、お茶くらいしか出せませんが」

 

「ああ」

 

 一室にて源之助を出迎えるのは、十三番隊隊長を勤める「浮竹十四郎」であった。

 

 本日は休暇であったが、以前から源之助は、度々浮竹の様子を伺いに十三番隊を訪れる事が多々あった。

 

「具合はどうだ?」

 

「バッチリですよ! 最近は調子が良くて……ほら、ピンピンしてるでしょう!」

 

 笑顔を浮かべながらポージングを決める浮竹に、源之助は少し安心したように言葉を返した。

 

「そうか……ミミハギは機嫌を損ねてはおらんようだな」

 

「そんな神様じゃないですよ。相変わらず、神仏の類いは信用してないみたいですね。まぁ、あなたらしいですが」

 

 源之助は幼き頃から京楽や浮竹の面倒を見てきていた。

 彼らの評判は霊術院を通して、尸魂界に名を馳せる程になっていた。源之助自身、弟分のような存在が周りに認められる事が何よりも誇らしかったが、京楽を除き、自身が信じるに値しない神などに浮竹が生かされているという事実が、どうにも受け入れ難かったのである。

 

「あ! そうだ! どうせならモナカでも食べに行きませんか? 酒粕が入っているんですが、これが旨くて。藤木さんにも是非食べて貰いたい!」

 

「モナカか……ああ、久しぶりに食いたくなってきた」

 

「じゃあ、すぐに行きま……ゴホッ……」

 

 立ち上がろうとする浮竹だったが、咳き込む様子に源之助の眉がひそまった。

 

「……十四郎」

 

ケホッ……ん、全然大丈夫ですよ!」

 

「……」

 

「ほ、ホントに大丈夫ですから!」

 

 苦笑いしながら強がる浮竹であったが、顔色はみるみる悪くなっていた。彼がそのまま立ち上がった瞬間、何やら地を踏みしめ、駆けるような騒音がドタドタと此方に近付いて来ていた。

 

 音はいよいよ、源之助ら二人が居る一室の前で立ち止まったかと思うと、勢い良く襖が開かれた。

 

「あ! ここに居たんですか隊長!」

 

「か、海燕……いや、これはだな……」

 

 名を呼ばれたるは、副隊長を勤める「志波海燕」が、浮竹の言葉も聞かずに矢継ぎ早に捲し立てていた。

 

「あんた昨日ぶっ倒れてたでしょうが! おとなしく寝てろって言ってんのに、何勝手に動いてるんですか!」

 

「ま、待て海燕! 今朝は良くなって……」

 

「挙げ句こんな隅っこの部屋で隠れてるなんて、藤木さんも何か言ってやってくださいよ!」

 

「……俺に嘘をついたか、十四郎」

 

「い、いやぁ~、はは……すみません……せっかく来て下さるというのに、心配はかけたくなくて……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる浮竹に、源之助も困ったように言葉を返した。

 

「……よい。此方こそ無理をさせてしまった……少しは春水を見習え。あ奴なんぞ、見る度に昼寝をしておる」

 

「ははは! 先週はそれで伊勢に怒鳴られてましたよ」

 

 笑う浮竹に、呆れ顔の海燕。

 事情を知ったとあらばと、源之助は腰を上げ、言葉を繋げる。

 

「とにかく、無理をする元気があるならば何より。ではな」

 

「はい……そうだ! 海燕!」

 

「ん? はい?」

 

 

 


 

 

 

「え~っと、確かここを右で……」

 

「……」

 

 現在、二人は浮竹の言っていたモナカ屋へと歩を進めていた。

 ただで帰らせる訳にはいかぬと、浮竹が海燕に二人で食べてこいと命じていたのである。

 

 渡された地図を見ながら先を歩く海燕は、源之助へと口を開いた。

 

「そういや、俺らで出歩くのは久々ですね」

 

「……そうだな。何度かあるが、いつも十四郎の使いでな」

 

「……」

 

「……どうした?」

 

 源之助の顔を不思議そうに見つめる海燕。

 少しの間を置いて、口を開いた。

 

「いや~藤木さんって、昔に比べたらよく笑うようになったな~って」

 

 その言葉に、源之助は自身の頬が緩んでいる事に気がついた。自分自身で驚いているのを見て、海燕は可笑しそうに言葉を繋げる。

 

「ははは! そうやって笑ってる方が格好いいですよ。俺には負けますがね! はっはっは!」

 

「……」

 

 茶化しながら先を行く背に、源之助は思い返していた。

 

(……きっと、お前のお陰だろう……)

 

 


 

 

 源之助は数十年前から、特別席の仕事にて十三番隊にも赴く事があった。十番隊とは違い、書類業務は全く無く、一般隊士たちの魂葬の手伝い等で現世に赴く等である。

 

 その日もまた、いつもと同じ仕事と思っていたが、少し違った。

 

「虚か」

 

「はい。現在、十三番隊が担当している地区で暴れている虚を退治していただきたく……本当は魂葬を手伝ってほしかったのですが、急遽変更となり、申し訳ありません」

 

 源之助へと説明する浮竹の顔色は、何時にも増して青白かった。

 

「顔色が優れんぞ、十四郎」

 

「……本当は俺が確認しに行くべきなのですが……」

 

 不甲斐なさそうに目を伏せる浮竹だったが、彼の言葉を遮るように部家の襖が開かれた。

 

「まだ言ってんですか、俺が行くから寝とけって言ったでしょうよ」

 

 眉をひそめながら、海燕が入ってきた。

 源之助と目が合うなり、元気よく言葉を繋げていた。

 

「ども、副隊長の志波海燕です! よろしく!」

 

「……」

 

「こら海燕、挨拶くらい……ケホッ……」

 

 咳き込む浮竹を尻目に、海燕は言葉を繋げる。

 

「見ての通り、隊長の代わりに俺が出る事になってるんで。早いとこ行きましょうや」

 

「……ああ……体を厭え、十四郎」

 

「……すみません、お願いします」

 

 

 


 

 

 

 現世へと赴いた源之助と海燕。

 この地区の担当死神二名を連れて、知らせのあった場所、森林深くまで来ていたが、これと言って特に変わりはなかった。

 

「虚が出てもお前らは手を出すなよ。何しろ情報が少ないからな」

 

「「はい!」」

 

「よし……とはいえ、それらしい痕跡とかは何も無えな」

 

 木々に囲まれる辺りを見渡しても、何の変哲も無い草木が広がるばかり。

 

「とにかく待つか」

 

 座り込む海燕と共に、静かにその時を待った──

 

 


 

 

 ──結局二時間以上も待ったが、虚の気配など一つもせぬままに、昼時はとうに過ぎていた。

 

「おいおい、待てど暮らせど何も無えじゃねーか。ほんとにここで合ってるんだよな」

 

「はい、確かに間違いはないかと……」

 

「はぁ~、早く終わらせて帰ろうと思ってたのに……腹減っちまった」

 

 ぐぅ……っと腹の虫を鳴かせながらつまらなそうに呟く海燕。そんな彼の様子に待ってましたと言わんばかりに、付き添いの女性隊士が少し大きめの風呂敷を両手に抱えて口を開いた。

 

「志波副隊長! 私こんな事もあろうかとお弁当作ってきたんです! よかったら食べませんか?」

 

「マジか!? 気が利くなぁ~!」

 

 広げられた包みの中からは三重箱が出てきていた。うきうきと話す彼女に、もう一人の付き添いの男性隊士が声を荒げた。

 

「お前、何を持ってきたのかと思ったら弁当なんて……遊びじゃないんだぞ」

 

「むぅ……いいじゃない、結果的に志波副隊長もノリノリなんだし、あなたも食べましょ?」

 

「……まったく」

 

 呆れ返る男性隊士を他所に、いそいそと箱を開けていく女性隊士。弁当の中身は色取り取りの食材たちが食用のそそる香りを醸し出していた。

 

「いやぁしかし、美味そうだなあ!」

 

「はい! こんな機会、滅多に無いのでちょっと奮発しちゃいました!」

 

「……」

 

 うきうきと話す海燕達をただ黙って傍観する源之助だったが、そんな様子の源之助に、女性隊士はにこやかに微笑みかけた。

 

「藤木特別席もいかがですか?」

 

「……いや、遠慮し……」

 

 特別腹も減っていない源之助は誘いを断ろうとしたが、傍に立つ海燕にいきなり手を引かれ座り込まされた。

 

「せっかく作ってくれたんですから、食わなきゃ失礼ですよ。んじゃさっそく、いただきま~す!」

 

「はーい!」

 

「はぁ……いただきます」

 

「……」

 

 流れに逆らう事も出来ず、用意された箸を手に持つ源之助。隣を見れば、バクバクと口に食材を詰め込む海燕。

 

「ん~! 美味い! こりゃいくらでも食えるな!」

 

「あはは! 焦らなくてもまだいっぱいありますよ~。どう? 美味しい?」

 

「うん、美味しいよ」

 

「えへへ……」

 

 彼女の傍らに座る男性隊士の言葉に気恥ずかしそうに照れ笑う。

 次いで源之助に目を向ける彼女は、何処か待ち遠しそうにしていた。

 

「……」

 

 彼女の視線に返すように、源之助もまた箸を動かした。

 少し大きな玉子焼きを半口頬張ると、甘く味付けされている中に、出汁の旨味が効いており、源之助は思わず舌鼓を打った。

 

「……どうですか?」

 

「……ああ、美味い」

 

 その言葉に、安心したように両手を合わせる彼女はさぞ嬉しそうに口を開いた。

 

「ほっ、よかっ……」

 

 

 

 

 突如であった。

 

 

 

 

「……え……?」

 

 笑顔の彼女の胸を貫く何か。

 赤黒く脈動する巨大な何かが、彼女の頭上より打ち下ろされていた。

 

「「「!!!」」」

 

 現状を理解するも、時既に遅く。

 その何かは彼女を巻き取るように絡み付き、瞬く間に上空へと彼女を連れ去った。

 

 元凶を見上げれば、其処には居た。

 

 青空にヒビを入れ、顔だけを覗かせた巨大な化物。

 口から垂れ下がらせたそれが、彼女を貫いた赤黒い何かだと言うことは瞬時に理解できた。

 

 現に、元有る場所へと戻すように、彼女ごとその舌を口へと……

 

「……あ゛……ぇあ゛……」

 

 あまりの衝撃に動けずにいると、微かな声がこだました。

 

「……たすけ……」

 

 言葉が続くことは無かった。

 救いの手を断ち切るように、ソレは彼女を噛み砕いた。

 

 雨のように降り注ぐ血飛沫と共に、先ほどまで彼女だった筈の肉塊が、ボトリと地に落ちる。

 

 鼻より上、虚ろと化した瞳と目が合った瞬間……

 

「ぁああ゛あ゛あああ゛っ!!!」

 

「っ!? バカ! やめろっ!!」

 

 気が触れたかのように叫ぶ男性隊士は刀を抜き、ソレへと飛び掛かった。海燕の言葉は耳には入っていないのだろう。それ程の狂乱ぶりであった。

 

「っ! ゴッ……ブッ……!」

 

 顔前へと迫る男性隊士を異にも介さず、ソレはまたしても口を開いた。瞬時に伸びる赤黒い舌は、彼女にやったように男性隊士を刺し貫く。

 

「……あ゛……ひっ……」

 

 断末魔を上げる事すら出来ず、彼はゆっくりと味わうように飲み下された。

 

「……嘘だろ」

 

 ソレが垂れ流す霊圧は、腹の底から震える程に……

 

「……何でコイツが此処に居んだよ……!」

 

 臨戦態勢に入る海燕と源之助。

 目を見開き冷や汗を垂らす海燕は続き、言葉を繋げる。

 

「何でメノスが此処に居んだよ!!」

 

 

 其の名を……"大虚(メノス・グランデ)"

 

 偉大なる虚ろが、次なる餌へと目を向けた。

 




昔、BLEACHのDSゲームでメノス使ってたなぁ~……
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