見上げる程の体躯は、悠々と二人を見下ろしていた。その仮面に血を滴らせながら放つ霊圧は重厚で、二人を逃すまいと纏わりついていた。
「メノスの情報なんてのは一つも無かった……それに気付けねえなんて……ずっと隠れてたのか」
唸り声を漏らすメノスを見上げながらも、海燕は斬魄刀を抜き、叫んだ。
「水天逆巻け、捩花!!」
剣は三叉の槍へと姿を変え、海燕を中心に水飛沫を上げさせていた。
「仇は取らせてもらうぜ、デカブツ」
構え、啖呵を切る海燕であったが。
「オォオ゛ォオオ゛……!!」
メノスの開かれた大口には、目に見えて分かる程の莫大な霊力が集約されていた。
「!? おいおい……いきなり
「此方が脅威と見たか……」
「藤木さん! アンタは逃げ……は?」
源之助へと叫び振り向くも、其処に彼の姿は無かった。
源之助はいつの間にか、メノス目掛けて飛び上がっていたのだ。
「オォオ゛オ゛オ゛ッ!!!」
「ふっ!!」
今にも射出されそうな
「ッッツ゛!!!!」
「!? 藤木さん!」
メノスは集約された
機を逃すなと言わんばかりの目に、爆煙も晴れぬ中、海燕はメノスの顔前へと飛翔した。
「オ゛……オォ゛……」
煙から覗くメノスの仮面は欠け、大きなひび割れが広がっていた。海燕は水を逆巻かせ、捩花をメノスの顔へと振り抜いた。
「っらあ゛あああっ!!!」
「オォオ゛ォオ゛……オォ……」
砕け散る仮面と共に、メノスの体も粒子へと雲散する。先ほどまでの喧騒が嘘のように、辺りは静まり返っていた。
「おい、藤木さん! 大丈夫か!?」
倒れ込む源之助へと駆け寄る海燕。反応を示すように、源之助はゆっくりと体を起き上がらせた。
「……ああ、大事ない……」
「アンタバカか!!」
何ともないように、いかにも平然といったふうに振る舞う源之助だったが、海燕の言葉は源之助が予想していた物とはまるで違っていた。
「何であんな無茶したんだ! 下手すりゃ死んでたんだぞ!」
「……すまん……だが……」
「だがも糞も無え! 二度とあんな真似すんなよ!」
「あ、ああ……」
唾も飛ばん勢いで捲し立てる海燕。額が当たる程に迫る彼に、源之助は若干身を引いてしまう。
「体も煤だらけだし、死覇装もボロボロじゃねーか! 帰ったら直ぐ四番隊に……」
その後も海燕の説教はしばらく続いたという。
後、隊舎へと戻った二人は事の経緯を述べた。メノスの出現、隊士二人の死亡。
後日、隊士達の隊葬が執り行われた。
時間は経ち、日は暮れ、辺りが夜の帳に包まれた頃、源之助は式が行われた部家へと足を運んだ。
中へ入ると、二人の遺影の前で立ち尽くしている背中が見える。
海燕であった。
静かに佇む彼は源之助に気付いたのか、振り向きながら口を開いた。
「……帰らないんですか? 線香の番は俺なんだから、気にしなくていいんですよ」
「……」
燻られる火。立ち上る煙の中に見える二人の遺影。
少し生真面目そうな中に、慣れぬであろう笑顔の彼。傍らには、可憐な笑顔が眩しい彼女。
「……」
「……恋人同士だったんですよ」
「……」
「ホント最近でね。コイツからは、この娘の相談ばっかされて、いざ付き合ってからも、惚気話ばっかで頭痛くなっちまって」
源之助の隣で語る海燕は、緩やかに言葉を繋げる。
「志も有った。いつか隊長になって、この娘を守れるように、この娘に恥じないような死神になるっつって……この娘も、そんなコイツを支え続けたいって……」
「……」
「もう、俺が出来るのはこれくらいしかねえけど……」
海燕は、自身の胸に手を当て、確固たる芯を持って告げた。
「お前たちの心は、俺が預かる」
「……」
「だから安心して、逝ってくれ」
──数日が経ったが、源之助は未だ十三番隊へと足を運んでいた。浮竹の体調は依然芳しくなく、見舞に訪ねること数多く。
同時に源之助は、遠巻きに海燕を観察していた。
すれ違う時や、彼が部下と話す時、まじまじと海燕を見つめる。それはもう穴が空くほどに。
今日もまた、距離を取り海燕を見つめていると、少し苛立ったかのように海燕から近付いてきた。
「ったく、何なんですか、最近ずっと俺のこと見て。俺は男には興味無いっすよ!」
「……いや」
「いや……じゃない! 何か言いたい事有るなら言ってくださいよ、ほら今!」
「……」
少し黙りこくる源之助であったが、意を決したように口を開いた。
「……お前は、心が分かるのか?」
「は?」
源之助の言葉に、意表を突かれた海燕。
そんな様子も知らずと、源之助は言葉を繋げる。
「あの夜お前は、あの者たちの心を預かると言っておった」
「……はい」
「……俺には、人の心が分からない」
藤木源之助は、不器用という言葉では纏められぬ程に人の心が分からない男だ。無愛想で馴れ合わず、芯は有れども自を持たず、傀儡の如く操られる。
それが故に、幾度を間違えた。
それに気付いた今、心を語る海燕が、源之助の中ではしこりのような存在となっていた。
「あの夜……あの者たちは、何を思っていたのだ」
「……」
眉一つ、絵のように動かない源之助の表情は、およそ人の産み出せる物では無かった。
そんな源之助に、海燕は考える間も無く言い放った。
「分かりませんよ、そんなの」
「……!」
その言葉に、ようやっと源之助の瞳が動いた。
「心が分からないなんて、当たり前でしょうが。分かったら苦労なんてしないっての」
「……」
「……俺が思うに、心ってのは見て掴むものじゃない……感じて汲むものです」
迷い無い海燕の言葉に、源之助はただただ吸い込まれていた。
「ただ……俺がそれを、預かるって言ってるだけです」
「……」
「くどいかも知んないっすけど……心なんて見えるものじゃない、感じるものなんですよ」
「……感じる……もの」
呟く源之助。一瞬、伏せられ眼を上げた時、しかと晴れやかな笑顔が向けられていた。
「理屈じゃないんですよ」
「……!」
源之助の中で、何処か灯りが見えた気がした。
暗い話はどうでもいい……そう言わんばかりの笑顔が眩しく見えた。
理屈じゃない。
その言葉に、何処か救われた気がしたのだ。
この日よりであった。
護廷十三隊特別席、藤木源之助。様々に触れ合い、様々を得るが、未だ人の心は分からない。しかし、分からずとも、その者の言葉に何が込められているのかを、何とはなしでも、感じるようになれたのだ。
──きさん……──
──じきさん……! ──
「藤木さん!!」
「!」
気付けば、自身の肩を揺さぶる海燕。
いつの間に、どれ程物思いに耽っていたのか。我を忘れる程の追憶を裂いて、海燕は言葉を繋げる。
「何ボーッとしてんすか。もうちょいで着きますよ」
「……ああ。……む?」
歩き出そうとする海燕の前方を見ると、ルキアの姿があった。
しばらく見つめていると、視線に気付いたのか、彼女は元気に駆け寄ってきていた。
「あ、源之助殿~!」
「……ルキア殿」
「? 知り合いですか?」
「ああ、同席のよしみぞ」
いよいよ源之助の元へと着いたルキアは海燕を他所に口を開く。
「源之助殿! 奇遇でございますな! こんなところで何を?」
「……甘味を一つ、つまもうとでも思いまして。ルキア殿は」
「私は暇を持て余しておりましたので、散歩でもと。あ、こ、これも何かの縁でございますし、また餡蜜でも……」
「おいおい俺は無視かよ? えぇコラ?」
「あっ……」
除け者にされていた海燕は我慢ならんといった風に割って入った。少し圧をかける海燕にルキアはたじろいでいたが、源之助は変わらぬ声色で口を開く。
「止せ。ルキア殿、遅れましたが此方は志波……」
「十三番隊副隊長の志波海燕だ! よろしくな!」
源之助に被せる海燕に、ルキアは呆気に取られてように返事を返した。
「……は、はぁ……どうも」
「……はぁどうもぉ? 何だぁその挨拶は! 副隊長が名乗ってんだぞ、お前も名乗ってよろしくお願いしますだろうが! 名は何だコラァ!」
額が付く勢いで捲し立てる海燕に、ルキアは気圧されながらも口を開く。
「あ……く、朽木ルキアです!」
「……で?」
「よ、よろしくお願いします!」
「よ~し。ったく、ちゃんと躾といてくださいよ藤木さん」
呆然とするルキアへと、源之助は言葉を繋げた。
「……ルキア殿、折悪しく海燕との先約の為、此度は……」
「あ……そ、そうでしたか……此方こそいきなりの申し出にて申し訳ありません! で、では……」
「……」
残念そうに顔を伏せるルキアは踵を返そうとしたが、そんな様子に海燕が口を開いた。
「ちょ~っと待て朽木」
「は、はい?」
「オメーも来いよ」
海燕の言葉に、ルキアは目を丸くしていた。
「……え?」
「え? じゃねーよ。来いって言ってんだ」
「いや、しかし……ぁ痛たっ!?」
遠慮するルキアの耳を、海燕はつまみ上げながら言葉を繋げる。
「こういうのは素直に、はい! 有難うございます! って言うもんだバカタレが!」
「イタタタッ!! い、痛いです!」
「で? 来るのか? 来ねーのか!?」
「い、行きます! 一緒に行かせていただきますからぁっ!!」
「よ~し」
やっと手を離す海燕だが、ルキアの耳を見れば真っ赤に染め上がっていた。涙目ながらに耳を擦るルキアを他所に、海燕は源之助へと口を開く。
「別に俺らだけって理由も無いんですから、どうせモナカ食うだけだし。ほら、行きますよ」
「……ああ。ルキア殿、行きましょう」
「うぅ……はい……」
海燕から隠れるように、源之助の背に身を潜めるルキアであった。
何はともあれ、甘味処へと着いた三人は源之助を挟むように横並びでモナカを頬張っていた。
酒粕の風味があんこの甘味を引き立てるモナカに舌鼓を打つ三人。そんな中、ルキアが口を開いた。
「あ、あの~……志波副隊長と源之助殿はどういった仲で?」
「海燕でいい。あと副隊長も要らねえ。お上の前って訳でもねえんだし、堅苦しいのは好きじゃねーんだ」
「あ……はい。それで、か、海燕殿と源之助殿はどういった……」
ルキアの言葉に、残ったモナカを全て飲み下した海燕はさらっと言葉を繋げた。
「ん~……友達」
その一言に、黙って食べ続けていた源之助の口が止まった。
『友』
そのような言葉、縁もゆかりも無い人生であったから。そんな様子を知ってか知らずか、海燕は止まらず言葉を繋げる。
「階級的にも明確な部下と上司って訳じゃねーし、同僚って言い方は何かなぁ~……まぁ友達でいいだろ」
「と、友達って……疑わしいというか何というか」
「いちいちうるせーなオメーは!」
「だって源之助殿は京楽隊長よりも年上ですぞ?」
「え? マジ?」
ルキアの言葉に目を丸くする海燕。隣の源之助をまじまじと見つめつつも驚愕の様子で言葉を繋げる。
「全っ然見えねぇ……どう見積もっても俺と同じ位じゃねぇか……!」
「はい……私も初めて知った時は腰を抜かし掛けました……!」
二人に見つめられる源之助だったが、そんな中、彼はポツリと呟いた。
「……友か」
「「……」」
源之助の呟きは、様々を孕んでいた。
生前、上と下だけの世界を生きた。横となれど
友の響き……今はそれだけが、源之助の内を反芻していた。
敢えて安直に言おう。
嬉しかったのだ……ただ、嬉しかった……
「……嫌でした?」
彼らしくなく、顔色を伺う海燕。
しかし源之助は、至極の境地で心を告げる。
「……友でいい……友がいい」
少し小さくモナカを齧ると、誤魔化すように呟いた。
「……なんと旨いモナカか」
閉ざされた口は、ほころびを隠しきれてはいなかった。
そんな源之助に、海燕の頬もほころんだ。
「……また食べに来ましょうよ」
「ああ」
「オメーもだぞ、朽木」
「よ、よろしいので……ん゛っんぅっ、はい! 是非お願いします!」
言葉の途中で睨み付けられたルキア。急いで起動変更された返事に、海燕は満足そうに笑ってみせた。
「よーし、じゃあ休みになったら集合な!」
「はい!」
「ああ」
約束を交わした後、三人は残った余暇を過ごすのであった。
……海燕
また同じような日常回アンケートです。皆様が見たい話を選んで下さい。モチベアップの為にお願いします。……これ圧倒的票数になりそうやな……8月7日までとします!
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二番隊(砕蜂わからせ)
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七番隊(狛村と現世散歩)
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男性死神協会VS女性死神協会