──それは、突然のことだった。
森下の奇行に付き添っていると、突如俺の携帯が音を出したら、森下の携帯も、というより近くにいる生徒たち全員がメールを受信していた。
その直後、船内のアナウンスが入った。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願いいたします。繰り返します──』
届いたというメールを見てみる。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さい。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります』
その下には、指定の部屋と20時40分に集合する旨の内容が記されていた。
森下に確認すると部屋と時間が違っていたので恐らく森下と一緒に行動するわけではないのだろうか?
とりあえず時間になるまでは森下に付き添ったり他のクラスメイトと食事をしたりして時間を潰し、20時40分まで後僅かの時間になった。
指定された部屋に行く道中で知り合いと知らない生徒に遭遇した。
葛城と平田はわかるが、黒髪の美少女と茶髪の男子。後半2人は知らない生徒だ。そんなどうなってできた集まりなのかぱっと見分からない集団があった。
「葛城? 何してるんだ?」
「渡会……いや、なんでもない。お前も同じ時間帯か? なら先に行っているぞ」
それだけ言い残し葛城は去っていった。
俺も向かおうと思ったが、平田や初めて会う人に挨拶くらいはしておきたかったので平田たち3人の方へ顔を向けた。
「やあ、平田。こうして話すのは久しぶりだな」
「渡会くん、うんそうだね。久しぶり」
「そこの2人は初めまして、だよな? 俺はAクラスの渡会桐人。よろしくな」
「……堀北鈴音よ、よろしくする気はないわ」
名乗ってはくれたが中々辛辣な態度だった。苦笑しながら、もう一人の方へ顔を向ける。
「そっちの君も初めまして。Aクラス、渡会桐人です。よろしく」
「初めまして。Dクラスの綾小路清隆だ」
「──綾小路……清隆?」
その名前を聞いて、思わず聞き返してしまった。
「あ、ああ。何かおかしかったか?」
「──いや、おかしくないよ。ただ珍しい名前だなって思って。綾小路清隆……うん、かっこいい名前だな。君に似合ってるよ」
「そ、そうか……? ありがとう。渡会桐人もかっこいいと思うぞ」
「はは、お世辞でも嬉しいよ、ありがとう」
「ちゃんと思ってるぞ?」
内心、俺は穏やかではいられなかった。だが今は部屋に向かう必要もあるので、なんとか心を保つ。
「また会ったら世間話でもしような。じゃ、俺はこれで」
3人から立ち去り、指定の部屋まで向かう。すぐにたどり着いたが、心を落ち着かせるため何回か深呼吸をする。
繰り返しの精神統一で落ち着きを取り戻しし、部屋の扉を開けた。
中にいたのは先ほど出会った葛城と、西川、矢野。そしてBクラスの担任、星ノ宮先生だった。
「あ、渡会くん」
「いらっしゃ~い渡会くん。説明を開始したいから、席についてくれる?」
「わかりました」
葛城の隣が空いていたのでそこに座る。
「葛城くん、西川さん、矢野さん、そして渡会くんの4人が揃ったね。それじゃあ今から、特別試験の説明を始めまーす」
星ノ宮先生は朗らかな笑顔を浮かべながら説明を開始した。
「今回の特別試験は、一年生全員を干支になぞらえた12のグループに分けて、そのグループ内で試験を行います。試験の目的はシンキング能力を問うものになってます」
シンキング。考える能力。無人島試験とは打って変わって違うタイプの試験になるようだ。
「グループはA〜Dクラスまで3人から5人程で構成されます。あなたたちが配属されるグループは『辰』グループ。他クラスの同じグループの人たちが記載されたプリントを見せるから、この場で覚えてね。持ち出したり撮影したりはダメだよ〜?」
俺達はプリントを見る。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 矢野小春 渡会桐人
Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美
Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
なんというか、確実に学校側の作為があるメンバーが揃っているなという印象だ。
「星ノ宮先生、このグループはどういった基準で選ばれてるのでしょうか」
「うーん……ごめんね、それは教えられないんだ」
葛城の質問には答えず、星ノ宮先生は緩い話し方と敬語口調を混ぜて説明を続けた。
「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性は一端忘れた方が試験をクリアする鍵になるかもしれないよ。それから、今からあなたたちはAクラスじゃなくて辰グループとして行動することになります。試験の合否もグループ毎に決まってるから、それも説明するね」
星ノ宮先生は再びプリントを俺達の前に差し出す。
「特別試験の各グループの結果は全部で4通りあって、必ず4通りのどれかの結果になります。結果を記したプリントを見せるけど、これもこの部屋から持ち出したり撮影することは禁止されてるから、この場で覚えてね」
・試験開始当日午前8時に一斉にメールが送られる。『優待者』に選ばれた生徒は、『優待者』に選ばれた事も書かれている。
・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。
・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
・試験の解答は試験終了後、午後9時半から午後10時までの間のみ『優待者』が誰であったかの答えを受け付ける。
・解答は1人1回までとする。
・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
・『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。
・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
結果1──グループ内で『優待者』及び『優待者』の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万ppが支給される。『優待者』と同じクラスの生徒もそれぞれ同様のポイントを得る。『優待者』には100万ppが支給される。
結果2──『優待者』及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、『優待者』に50万ppが支給される。
結果3──『優待者』以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合、正解者に50万ppが支給される。また正解者の所属クラスは50cp得る。『優待者』の所属クラスは50cp失う。
結果4──『優待者』以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合、答えを間違えた生徒が所属するクラスは50cp失う。『優待者』に50万ppが支給される。また『優待者』の所属クラスは50cp得る。
「今回、学校側は匿名性について考慮しています。試験終了時には、各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表する決まりになってるよ。つまり、優待者や解答者の名前は公表されません。また、望めばポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行することや、分割して受け取ることも可能になってるから、本人が黙っていれば試験後に発覚する心配はないよ。隠す必要がなければ堂々とポイントを受け取ってもいいからね。あなたたちは明日から午後1時、午後8時に指示された部屋に向かってね。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートが掛けられているから分かりやすいはずだよ。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行ってください。そうそう、室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていないから、トイレとかは先に済ませてから行った方がいいよ。万が一我慢できなかったり体調不良の場合にはすぐに担任に連絡すること。分かったわね?」
軽く頷いた。星ノ宮先生は俺を見て笑みを浮かべる。
「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し厳正に調整しています。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに拘らず変更の要望などは一切受け付けていないからそこは注意してね。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変等の行為は一切禁止されています。破らないようにね。何か質問はあるかな? ないならこれで試験の説明を終了とします。皆解散していいよ〜」
それを聞いて俺達は部屋を出た。
「渡会」
部屋に戻ろうと歩いていると、葛城が声をかけてきた。
「どうした?」
「明日の9時にAクラスの生徒を全員集めたい。協力してくれないか?」
「そこで方針を決めるのか? 了解。皆に連絡しておくよ」
「助かる。時間は改めてメールで知らせるから、それまではゆっくりしているといい」
そう言って葛城は俺と別方向に歩き出した。
俺は部屋に戻り、自分のベッドに腰掛ける。同室の真田、司城、的場の3人は部屋におらず、俺一人だった。
「──方針、か」
坂柳がいない以上、今回も葛城が仕切るはずだ。先の無人島試験では失態を犯した葛城に反発する者は出るだろうか。
「……俺も動くか」
翌日、広い部屋を一つ貸し切り、Aクラスの生徒は集まった。
「皆、集まってくれて感謝する」
俺はメールで葛城と船にいない坂柳を除いたクラスメイトに今回の特別試験について、葛城から話があることを伝えてある。故に話の内容は分かっているはずだ。
「あまり長く語り皆の時間を奪うのも忍びないので、手短に──」
「ちょっと待った」
葛城の話の途中で、橋本が言葉を被せた。
「……なんだ橋本」
「なんだって、決まってるだろ? なんで葛城が仕切ってるんだよ」
「おい橋本! 葛城さんが仕切ることに何の問題がある!」
「そりゃ大いにあるさ。無人島試験の結果はまだ記憶に新しいだろ?」
葛城の顔が僅かに歪んだ。
「葛城くんは龍園とあんな契約を結んでまで勝とうとしてたのに、結果は3位で120ポイント。俺達があんなに苦労して無人島生活してたのに、得られたポイント以上の額が毎月龍園に支払うことになるんだぜ? そんな結果にした戦犯がなんでまだクラスを指揮しようとするんだ?」
「橋本お前……!」
「落ち着け。……確かに無人島試験では結果が振るわなかった。それは俺の責任だ。しかし、今この場にクラスを指揮しようとする者は誰がいる? 坂柳がこの場にいないが、俺以外に指揮する者はいるか?」
……まだ、動くのはもう少し様子を見てからだ。
「はぁ……はいはい、そんなに仕切りたいなら好きにすれば?」
わざとらしくため息を吐く橋本に葛城の信奉者戸塚を筆頭に何人かが橋本を睨みつける。その橋本は飄々とした態度を崩さない。
「……では、クラスの方針を考えたので皆に伝えさせてもらう。今回の特別試験でAクラスは、話し合いの拒否をする」
「話し合いの拒否?」
まるでグループの存在意義を消すような行為に、大半の生徒は理解に苦しんでいるのだろう。ざわめきが広がっていく。
真田が挙手をして、葛城に問い質す。
「葛城くん、話し合いの拒否をする意味を教えてくれないかな?」
「勿論だ真田。結論から言うと、Aクラスは全グループで結果2を目指す」
「結果2って……優待者のみが50万プライベートポイント貰えるってやつ?」
「プライベートポイントは欲しいけど、なんでわざわざ結果2なの?」
「皆、少し考えてみて欲しい。この特別試験には必ず4通りの結果のどれかにしかならない。その中で絶対に避けるべきことは、裏切り者を生み出すことだ。裏切り者の回答が正解不正解問わず、必ずどこかのクラスに損害が出てしまう。結果3と結果4のことだ。では、結果1と2はどうだ?」
「……なるほど。プライベートポイントのみだから、マイナスにはならないね」
真田の言葉に葛城が頷く。
「その通りだ。結果1と結果2にデメリットは存在しない。クラスポイントが開くことはないが詰まることもない。各クラス最大で150万プライベートポイントが手に入るだけ。下手な話し合いをして損害を出すよりも余程いいだろう」
「けどそれって、優待者がどこかのクラスに固まってたらどうするんだよ」
坂柳派から投げられた言葉。しかし反論は容易い。
「それはないだろう。無人島特別試験では徹底して公平性が保たれていた。今回も公平性を協調していたことから、一クラスに優待者が集中しているようなことはまずあり得ない」
「それは……」
「でも葛城くん、なんで結果2なの? 狙えるなら結果1でもいいんじゃないの?」
「結果1は試験最終日、優待者の所属クラスを除いたクラスが全員優待者の回答を正解することで結果1になる。しかし結果1か2となる回答時間は最後の話し合いが終わった30分後の午後9時半から10時までの間だけだ。30分の間に裏切り者が出てくる可能性は高い。結果1は殆どあり得ないと思った方がいいだろう」
確かに、結果1は他の結果よりも断トツで目指すのが難しい。話し合い終わりに優待者が正体を明かしたとしても、50クラスポイントと50万プライベートポイントが手に入り更には優待者の所属クラスから50クラスポイントマイナスされるのだ。クラス間闘争している以上、裏切る者は現れやすいだろう。
「これが、俺の考えた策だ。皆には話し合いを行わず、回答もしないでいてくれればそれでいい」
こうして、Aクラスの集まりは終わる──ことは無かった。
「──俺は反対」
俺の声が、室内に響いた。
「渡会……?」
「葛城、悪いけどもうお前に任せるには不安が強くなりすぎた。もうお前には従えない」
「渡会お前……!!」
戸塚が俺に牙を剥き出す。他の葛城派もいい目はしていない。
一方で坂柳派は意外そうな顔を俺に向けていた。俺が反対すると思わなかったのだろう。橋本は何が起こるのかワクワクした笑みを浮かべている。
「落ち着け弥彦。……渡会、理由を聞かせてもらえるか」
「葛城、お前は龍園と結んだあの契約書にこう付け加えるべきだった。『AクラスとCクラスは互いのリーダーを当てない』あるいは『Aクラスのポイントが200を下回った場合、この契約は無効となる』……まぁ、今のはただの例に過ぎないけど、あの契約を結ぶつもりだったら、お前はとにかくリーダーを当てさせない方向に持っていくべきだった。いくらスポット占有でポイントを貯めようと、リーダーを当てられたらその時点で無駄なものになるんだからな。あの契約はもうAクラスにはデメリットにしかならない。お前の失態だ」
「……耳が痛いが、確かに俺の失態だ。何も言えないな」
「待ってください葛城さん! そんなこと言えるのならあの時渡会が意見すればよかっただけです!」
そんなことを言う戸塚に、思わず呆れる。
「葛城が契約書にサインした時には俺と森下はその場にいなかった。……森下が突然クラスから離れたからなのは今はいいとして……仮にその場にいたとして、なんで言う必要があるんだ?」
「は?なんでって──」
理解できてない様子の戸塚たちに、俺は言った。
「少なくともあの時、クラスのリーダーは葛城だっただろ? クラスのリーダーとして、葛城はその座に相応しい行動をするべきだ。あの契約の穴くらい、気付けないでどうするんだよ」
「…………」
唖然、というのが正しい表現か。俺の突き放すような言動にクラスは何も言えなかった。
「クラスのリーダーとして、葛城は契約の穴、デメリットに気付くべきだった。それができなかったのは葛城の失態であり葛城の責任だ。そして今回の特別試験でも、詰めの甘さを露呈させた」
「……」
「話し合いを行わないことによる結果2を狙う。クラスポイントの変動を防ぎたいんだな。けどこれは愚策だ。優待者に法則が存在する限り、話し合いを行わないだけじゃ優待者は当てられる可能性が高い」
「優待者の法則……?」
「一斉にメールが送られて、その文面には『厳正な調整の結果』とあるだろ? 仮に無作為でランダムに優待者が選ばれたのなら、その言葉は不適切だ。厳正な調整の結果が意味することは、優待者がある法則に基づいて選ばれたこと。それに、この試験はシンキング──考える能力を問うものになっていると説明の時教師から言われたはずだ。話し合いは別に主目的じゃない。優待者の法則を考える頭がある限り、裏切り者は常に生まれると思っていた方がいい」
申し訳ないが、もう葛城はリーダーに相応しくないと判断する。坂柳に従うのはクラスのためとは思わなかったから期待していたが、リーダーとするには詰めの甘さが多い。能力的に優秀でも、それがリーダーに相応しいかどうかは別問題なのだ。
──俺は支える存在でいい。リーダーは優れた存在に任せればいいと思っている。
──けれど、もし仮に、俺がリーダーに相応しいと思う存在がAクラスにいないのなら、俺がリーダーの役目を担えばいい。
──
──だったら、長年あいつの側で見てきて、その知恵を教わり、思考の一端を理解した俺がリーダーになった方がまだマシだ。
「今回の特別試験は、俺がAクラスを仕切る」
「なに……?」
「おい!何勝手なこと言ってるんだよ!」
当然葛城派は反発する。しかし──
「おいおい、俺はいいと思うぜ? 少なくとも葛城に任せるよりよっぽど良さそうだ」
坂柳派の橋本は賛成を示した。それを見て他の坂柳派の生徒も俺になら今回のリーダーを任せてもいいと味方する。
それを受けて葛城派と坂柳派は言い争いにまで発展するが──
「落ち着け、お前たち」
「けど葛城さん!」
「落ち着くんだ。……渡会」
「なんだ?」
「……任せていいんだな」
「葛城さん!?」
流石は葛城というべきか。詰めの甘ささえなければ優秀な男であることに違いはない。
「勿論──と軽くは言えないけど、全力を持ってAクラスの勝利に貢献すると約束しよう」
「……いいだろう。今回の特別試験はお前に任せる」
「葛城さん!!」
「落ち着けと言っただろう弥彦。確かに、渡会の言う通りだ。優待者の法則……そこまで頭が回っていなかった。普段通りであれば気づけていたかもしれないが、今の俺は想像よりも余裕が無かったようだ。こんな俺よりも渡会に指揮をしてもらった方が、Aクラスが勝利する可能性は高い。……自分の失態を払拭できないのは残念だが、渡会になら任せてもいいと思える」
そして葛城は俺にその場を譲った。嫌悪と期待の目を向けられながら、俺は葛城がいた位置まで移動する。
「──では改めて、今回の特別試験は俺がAクラスの指揮を執る。異論ある奴もいるだろうけど、これは決定事項だ。……さて、早速だがAクラスがこの特別試験にどう挑むのかを説明しよう」
前日の深夜、俺は一人で甲板に立っていた。周囲には誰もいない。
暗い海、見上げれば明るい星が輝く空。その景色が視界に映る中、俺は考え事をしていた。
「…………」
今、俺が考えていることは特別試験に関すること──ではない。
今日、初めて出会ったとある男のことを考えていた。
──綾小路清隆。
もし、綾小路清隆が俺の思う存在であったとするなら──
「──ホワイトルーム、だったか? そこから出てきたのか?」
勿論俺の知る人物とは違う可能性もある。しかし、もし同じ人物だったとするなら、思いがけない出会いだ。
『昔、俺がいた施設の話だけどさ。何をやっても1番の凄い奴がいたんだ』
口元が緩む。正そうとするが、抑えられない。あいつとの出会いは、俺にとって価値観を、人生を変えるほどの出会いだった。
そんな彼が言っていたこと。誰にも言えない秘密を、唯一親友の俺にだけ聞かせてくれたこと──。
「──志朗。お前の言う清隆って、彼のことか?」
──小学校低学年の頃から、周りよりも優秀だと自覚していた。
テストで100点は当たり前。走るのも1番早く、人によく褒められる。
そんな俺は人と仲良くしながらも、心の中には彼らを見下す自分がいた。
自分より不出来。自分より劣等。
その感情は次第に俺に傲慢を生み出していった。
こんなこともできないのか。こんなことも分からないのか。
そんな言葉の刃が心の奥で積み重なり、俺を蝕んでいく。
今振り返ると人に好かれてはいても、俺自身は人が嫌いな性格だった。
──志朗と出会ったのは、そんなある日のことだった──。