遅熟転生者の現代ダンジョン攻略~そろそろフィジカル貧弱なのやめない?~   作:ayuアユ

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前中後編で分かれてます。
この三話投稿しきったらやっと高校生編書きます。


六話 クリスマスinダンジョン 前編

あの約束から数日後、冬休みに入り、クリスマス当日の昼。

いつもは朝からダンジョンに潜り通すはずの俺だが、冒険者ギルドの受付の前で律儀に人を待っていた。

 

「....っていっても、やっぱり人少ないな…まぁ、年に一度の貴重な日にダンジョン潜るなんて、普通の奴らからしたら損だろうし。…あ、やばい、これは効く…」

 

思わずうずくまった俺の頭上から聞き覚えしかない声が投げかけられる。

顔を上げると最早見慣れたまである勝気そうな金髪美少女、もといリリカがいた。

 

「ちょっと、そこ邪魔よ。今の時期、あんたみたいなボッチが落ち込むのは分からなくもないわ。けど、だからって人様に迷惑はかけないでほしいんだけど?」

 

「すまん…って、お前も一人だろ。というか今の時間にギルドにいるなんて珍しいな。」

 

「そっくりそのままお返しするわ。一日中ダンジョンに潜ってるあなたがこんなところで突っ立ってるなんてどういう風の吹き回し?…もしかして、誰かを待ってる…?ま、まさか…!

この神聖な日に、私と「一ノ瀬君~!ごめん、ちょっと遅くなっちゃって~!」…は?」

 

同時にその声の方を見ると、天使のような微笑みで手を振りながら走り寄ってくる美少女....このくだり前もやったな....ともかく、紗良がいた。

 

「いやいや、意外と早かったな。もう登録は済ませてきたのか。」

 

「もちろん、冒険者カードもばっちり!....って、そちらの方は....?」

 

「あぁ、こいつは「誰よこの女!」ぐえっ....絞まってる....絞まってる....!」

 

リリカに胸倉をものすごい力で絞められて一瞬息ができなくなる。というかこの腕力、俺よりレベル確実に高いな....それも一つ二つじゃない…というか…やばい…意識が…

 

「ちょ、ちょっとちょっと!貴女、何やってるんですか!?一ノ瀬君の顔真っ白になってますよ!」

 

ようやくリリカは俺の状態に気づいたのか慌てて手を離す。

 

「ごほっ、ごほっ…!た、助かった....」

 

「え、あ、ご、ごめん…!わ、悪気があったわけじゃ…って、そうじゃない、この女誰よ!」

 

「む、私には白峰紗良という立派な名前があるんですよ!というか、貴女こそ一ノ瀬君のなんなんですか?」

 

二人はバッチバチににらみ合い、その間には火花がはじけてるようにも見えるほど空気が違う。

慌てて二人の間に入り事情を説明する。

 

「へぇ、ただのクラスメイト、ね…」

 

「ただの同期、ですか....」

 

二人は全く納得してない様子だったが取り合えずは飲み込むことに決めたようだ。

その時、紗良はこっちに近づいてくると腕に抱き着いてくる。

 

「そんなことより、私は一ノ瀬君とデートの約束があるんですよ!」

 

「は?」

 

何言ってんだこいつは。

 

「で、デート!?あ、あんたどういうつもりよ!私にあんなこと言っといて....!」

 

「デート違うから。こいつ、今日から冒険者だから色々教えてやるんだよ。」

 

「そう、二人っきりで体を密着して手取り足取り....」

 

「しない。」

 

大袈裟に肩を落としてがーんという効果音が付きそうなほど落ち込んだかと思うと、紗良はすぐ起きてやれやれといった風に言う

 

「んもう、やっぱり一ノ瀬君は照れ屋ですね~。」

 

「お前なぁ....。」

 

「目の前でいちゃつくとはいい度胸ね…!…って、教える....?まさか、パーティ組むの?こいつが?私よりも早く?」

 

「え、そりゃ組むけど....。」

 

「というわけなので、もういいですか?」(碧の陰でダブルピース)

 

「....そう。」

 

リリカの空気が変わる。目のハイライトが消え、とんでもないプレッシャーを発していた。レベルが高いせいかその圧力は実際に質量があるかのように強い。紗良に至ってはぶるぶる震えている。

 

「今は許してあげる。....あとで覚悟しなさい。」

 

そういうとリリカはギルドを出ていき、俺たち二人....というかギルド内の重圧が消え、皆が一息ついた。

 

「…あれが冒険者の風格ですか....え、私どうなっちゃうんですか…?」

 

「俺に聞くな。…というか、お前最後の方意図的に煽ってただろ。」

 

「てへっ★」

 

「…はぁ、まぁいいよ。とりあえず、早くダンジョン潜ろうぜ。諸々の説明は歩きながらするから。」

 

 

それから無事にパーティ登録を終えた俺たちは冒険者ギルドを出て、ダンジョンに向かうのだった。

 

 

 

 

「あいつ遅いな....」

 

あれからいつも通っているダンジョンに来た俺は、紗良にロッカーの使い方なんかを教えて先にダンジョンに潜って待っている。ロッカーの中はほぼ専用の個室なので危ないこともないだろうが....

 

「お待たせしました~!」

 

「....お、来たか。」

 

妙に元気な声が聞こえ、そちらに目を向けると防具に着替えた紗良が小走りで来ていた。

俺と同じ初期装備なのだろう、魔物の皮で作った防具を身に纏っている。....そういえば、何気に俺ずっとこの防具使ってるな。ギルドに行けばこれよりいい装備も買えるだろうが....いかんせん、すでにこの身軽さに慣れてしまったし、何より俺は経験値のためにレベルの低いまま数段上のダンジョンに潜ることを余儀なくされている。だから生半可な装備に新調したところで当たればアウトなのは変わりないだろう。

そうして観察していくと腰回りの装備に目が留まる。ポーチと解体用ナイフは特に変わりないが、俺が持ってるショートソードではなく長い木の棒....もとい杖を装備していた。

 

「初期装備、杖にしたんだな。」

 

「うん。将来一ノ瀬君の隣に立つ私としては、魔法の一つや二つ覚えておきたいなって。」

 

冒険者は登録時に何の武器を使うか選択を求められる。弓、剣、杖の三種類だ。俺は剣を選択した。他に使いたい武器....例えば斧や盾など....のある人は自己負担となる。そして杖という武器、はじめはただの木のこん棒にすぎず、殴ったりして敵を倒すしかできない。だが、当然そんな蛮族プレイをするためにあるわけではない。目的は魔法だ。というのも杖を使い続けていけば魔法系のスキルを入手しやすくなる。…もちろん、よっぽど素質がない人は入手できず蛮族スタイルとなるが、それこそその人に合ったスタイルということになる。

 

「ところで、このダンジョンってどんなモンスターが出るんですか?やっぱり定番のゴブリン?それともスライム?」

 

「ファイアリザード。」

 

「へぇ、強そうな名前ですね~。どんな子なのかな…?」

 

検索したのだろう、初期配布のタブレットをスワイプしていく紗良の顔に色が抜け落ちていく。しばらくすると、ギギギ…とさび付いた音がしそうなほどキレの悪い動作でこちらに首を回す。

 

「あの…四人パーティでも最低レベル9とか書いてあるんですが…?」

 

「当たらなければ No ploblem」

 

「当たったらどうなるんですか?ちょっと、目をそらさないでくださいよ....!」

 

「....。」

 

「無言やめてください…!!」

 

紗良は泣きそうになりながら襟元をつかんでぶんぶんと振ってくる。

まぁ....正直当たれば終わりなのは否定できないので何も言えない。一応紗良用の魔物除けは持ってきたが、大事になる可能性も無きにしも非ず。....なんで俺こんなとこ連れてきたんだ?

 

「....あ、あれだよ、先に攻撃したら防御も何もないし。」

 

「先に見落としたら?」

 

「....。」

 

「だから無言はやめて!!」

 

結局、ダンジョンを進んでいく間、紗良は涙目でへっぴり腰のまま俺の後ろをぴったりと離れなかった。

 

 

 

 

そうして接敵することなく歩いていると、奥からペタペタと何かがはい回る音が響いてくる。

 

「これっムグッ」バタバタ

 

⦅暴れるな、気づかれて攻撃されたら命はない、静かにしろ。⦆

 

「……。」コクコクコク

 

よし、それでいい。

俺はスキルで近くの壁に飛び乗ると跳躍を使って壁を蹴りながら一気に近づく。

 

タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ

 

「…見つけた。」

 

そうして床に伏せた大きく黒いトカゲが視界に入ると同時に、足をぐっとまげて力をためると壁を蹴る。

 

「ここだ、【突撃斬り】!!」

 

目にもとまらぬ速さで突っ込んだ俺は、そいつの首を両断すると地面を削りながらようやく停止する。

 

「ふぅ、もう慣れたも「キャァァァァァァァ!」え……紗良!?」

 

その叫び声は間違いなく紗良の声だ・一本道だから、後ろは警戒していなかったが…クソッ、甘かったか!

 

俺は壁を飛び移りながら急いで戻っていくのだった

 

 

 

 

「……。」

 

「…しゅ、しゅごい…体の中から…熱いの…いっぱい…♡」ビクンビクン

 

「……。」

 

「あ……♡そんな目で見ないでくだしゃいぃぃぃ♡」

 

なんだろう、人って想定のはるか斜め上の物を見たとき、こんな冷静になれるのか。

冷めた目で床に打ち捨てられ赤面しながら体がビクンビクンと跳ねている不審者…もとい紗良を見下ろす。

 

「ひっひっふー、ひっひっふー…や、やっと落ち着きました…」ノロノロ

 

「その....うん、別に何も見なかったから、な?」

 

「な、なんですか、言いたいことがあるなら言ってくださいよ....////」

 

「いや、なんか、そんな気も失せたわ。それで、大丈夫なのか?」

 

「は、はい、急に体に力?熱?みたいなのが駆け巡って、それが気持ちい....じゃない、ちょっとクラっと来て....」

 

「....なるほど、レベルアップか。ステータスを確認してみたらどうだ?」

 

「あ、な、なるほど....よーし、ステータス....!」フォン

 

紗良の目の前に半透明なウィンドウが現れる。が、俺と違って表面に文字はない。というのも、ステータスウィンドウは本人の許可がないと他人に見せられない仕様なのだ。

 

「あ、そうだ、一ノ瀬君は見えないんだよね。ちょっと待ってて....!」

 

しばらくすると俺にも文字が見えるようになる。そこには....

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

白峰 紗良

 

 

 レベル:0→3

 ジョブ:

 スキル:【幸運】【覚醒Lv1】

 SP:0→3→0

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「レベルアップ3つ!?....いや、格上だからそりゃそうか、うん。....レベル3か....俺の時は…うっ…。」ガクッ

 

「ちょ、ちょっと、何ショック受けてるんですか!それより、私のステータスってどんな感じですかね…?」

 

「え、あぁ、すまん…。えっと、スキルが…え?二つ!?」

 

「あ、本当だ、SPは3つしか減ってないのに二つゲットしてる。」

 

待てよ、もしかして、紗良も俺と同類か?

俺の時もレベル3になるとSPが6つもらえてスキルが二つ手に入った。でも、SPは通常どうり3しか手に入っていない。じゃあ、これはどういう…

 

「あ、分かりましたよ。」

 

「へ?」

 

「タブレットで検索掛けてみたんですけど、この【幸運】スキルは、どうやら天賦スキルらしいです。」

 

「天賦スキル…?」

 

「あれ、一ノ瀬君でも知らないんだ…まぁ、持ってる人の確率としてはかなり低いらしいですから…」

 

紗良はタブレットを操作すると、開いたページを俺に見せる。どうやらその天賦スキルとやらの詳細が書かれているサイトらしい。内容は以下の通りだ

天賦スキル。それは選ばれた人のみが生まれたときから体に宿すスキルであり、アクティブ、パッシブスキルなどとは根本からルーツが異なるスキルである。一般の生活では効果は些細なものだが、ダンジョン内では天賦スキルは真価を発揮し、その効果を十全に発動できる…らしい。

 

「それで【幸運】スキルがそうなのか。名前から大体のことは分かるが、詳細はよくわからないな…」

 

「あ、それなんですけど、頭の中に声が流れ込んできたんですよ。」

 

「え、それって…」

 

俺の【転生者】スキルと同じだ。

 

「どんな感じのこと言ってた?声の特徴は?」

 

「え、えっと、確か…『清い心を持つ聖女よ、其方に運命の導きが在らんことを』…でした。声の感じは…男の人でも女の人でも違和感なくて…元気もなかったような....」

 

なるほど、おんなじ感じか…

「教えてくれてありがとうな。それにしても聖女か....」

 

「あ、今似合わねぇ~、とか思いましたよね!?よね!?」

 

「思ってない、自意識過剰だ。....というか、自覚あるのかよ。」

 

「ギクッ…ま、まぁ、いいじゃないですか…あんまりこの言葉の意味も分かりませんし。そ、それより、もう一つの方を見ましょうよ。」

 

「あぁ、【覚醒】か。ずいぶんたいそうな名前だが…使い方は分かるのか?」

 

「えっと、はい、なんとなく。どうやら人にかけるスキルみたいですね…。じゃあ、一ノ瀬君お願いします!」

 

「遠慮する気がなくていっそ清々しいな。…まぁいいぞ。試さないことには始まらないし。」

 

「やったぁ!じゃ、いきますよ....【覚醒】!」

 

紗良の手から光が出て、俺の体にまとわりつく。その光が完全に吸収されると、体の中から熱が駆け巡って力が湧いてくる。

 

「これは…すごいな、力が溢れる…」

 

試しに壁を蹴ってみると、ドンッという大きな音とともに風圧で砂埃が舞い上がる。明らかに俺の身体能力だけではない。

 

「おぉ、じゃあこのスキルは味方の支援ができるんですね!」

 

「多分な。それに、強化具合もかなりの物だ。相場は分からないが、かなりいいスキルなんじゃないか?」

 

「本当ですか!やったー!」

 

その後、敵を倒しがてら【覚醒】をなんどか試してみた。これを使われると【突撃斬り】を使わずともトカゲたちとも戦える。さらに、十分に弱らせてから紗良にも杖を使って倒させたりもして、何度か倒すと紗良もまた一つレベルアップして4となった。ちなみに、魔力消費は馬鹿にならないらしく、4回ほど使ったらポーションを飲んで休ませるを繰り返す。

それから順調に見えたのだが…奥から大きな足音とともに大きな気配が伝わってくる。

 

「え、えっと、一ノ瀬君、これって…?」

 

「…下がるぞ、静かに、足音を立てないで…。」

 

ソロソロと後退する俺たちだが、そいつは俺たちのことを発見したのか、はいずる速度を早くして向かってくる。やがてその風貌が明らかになる。

姿はファイアリザードをまんま大きくして少し太らせたような、だが身にまとう熱気はその比ではない。

 

「…チッ、上位種…グレートリザードか!」

 

上位種、それは決められたモンスターしか生み出さないはずのダンジョンがバグを起こしてたまに生まれる突然変異個体。その戦闘力は元のモンスターが比べ物にならないくらい強い…らしい。なんで曖昧なのかというと、俺も遭遇したのは初めてで、そういう奴がたまにいるくらいの認識だった。というのも、こういう奴の出現率は限りなく低い。確率的には千回潜って一回でも見れたらかなり運のいい方らしい。…って、今はそんなこと考えてる暇じゃないな....!

 

「路地に逃げろ!なるべく、あいつの直線に立つな…!」

 

振り返らずにそれだけ叫ぶと、攻撃される前に行動を開始する。

 

「【突撃斬り】!【突撃斬り】!【突撃斬り】っっ!」ガキガキガキッ

 

何度も高速で攻撃を放つが、ほとんど鱗に弾かれて浅い傷しか与えられない。

それをうざったらしく思ったのか、グレートリザードは熱を口に集めていく。

 

「さすがに、火も使ってくるよな…!」

 

普通のファイアリザードならすこし後退すればいいが、いかんせんこいつの力は未知数だ。

急いで横穴に飛び込むと....さっきまで自分が立っていた通路が炎で埋まり壁や床を焼き尽くす。

 

「そうだよな、やっぱそこも強化されてるか....さて、どう倒す....?」

 

「あの…一ノ瀬君、そんな大胆な....」

 

「え?」

 

なぜか紗良の声が聞こえてそちらを振り返ってみると....どうやら俺たちは同じ穴に逃げ込んだらしく、後から飛び込んだ俺が押し倒すような体勢になっていた。

 

「あ、す、すまん…」急いで退く。

 

「い、いえ、もう少しこのままでも....って、そうじゃなくて、一ノ瀬君、あいつに苦戦していたでしょう?なら、【覚醒】、使わせてくださいよ。」

 

「…そうだな。格上に通じるかはわからんが、それしかなさそうだ。頼むぞ、紗良!」

 

「分かった!いきますよ、【覚醒】!」

 

力が沸き上がると同時に、横穴から出た俺はスキルを使って先ほどのように高速で斬撃を放つ。

 

「【突撃斬り】…!」

 

ザシュッ…!

 

「はっ、ようやくいいの入ったな…!」

 

ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ…!

 

連続で斬撃を与えていく…だがその巨体ゆえ剣が奥まで届かず、再起不能には追い込めない。

そのまま追撃を放とうとしたときに、急な眩暈が起き思わず片膝をつく。そこを見逃さないグレートリザードではなかった。長い尻尾を振り回され、それが腹に直撃して壁に叩きつけられる。

 

「グハッ…!ちくしょう....これだけやっても、まだ届かないか…」

 

震える手でポーチの中身を漁るが、ポーションがない。…ここまでの道中、自分で使った分と紗良に飲ませた分で予想よりも消費するペースが速かったらしい。

 

「…ここまでか…せめて、紗良だけでも…!」

 

なんとか立ち上がる。頭が切れているのか、額に血が垂れて意識がぼんやりとしてくる。が、剣を持つ手だけは離さない。そんな満身創痍の俺をあざ笑うかのように、やつはまたあの火炎放射の準備を始める。近くに横穴はない。さっきの場所までは吹っ飛ばされた衝撃で結構遠いし、この体で走れる自身もない。その時…

 

「私も…います!」

 

身軽な動きで飛び出してきた紗良は、勢いよく飛びあがると頭に杖を振り下ろす。まだレベルの低い彼女だが、彼女自身にかけた【覚醒】の影響か、ダメージを与えるに至らずとも、注意を逸らすことはできたらしい、やつの溜めていた力が霧散する。

 

「よく、やった…あとは逃げろ…この隙を、無駄にするな…」

 

「そんなのできるわけないでしょう!一ノ瀬君のいない世界なんて、私、私…!」

 

「…紗良…」

 

「生き延びますよ、一緒に!」

 

紗良の手から、今までより一際大きな光が俺の体に入り込む。【覚醒】を使ったようだ。だが、湧いてくる力は今までの比じゃない。驚きながらも、しっかりと構えて紗良の前に立つ。

 

「…もちろんだ!」

 

勢いよく駆け出す。狙いはこの刃でも切断が可能な首ただ一つ。

魔力はもうほぼない。使えてスキルは1回だけだろう。ならば壁を飛び移らず一直線に突進する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

当然グレートリザードも棒立ちではない。尻尾を振りかざしてまた俺を吹き飛ばすつもりのようだ。だが…

 

「そんなの、今の俺じゃ止まって見える…!」

 

最後の魔力で【跳躍】を使う。頭がふらつき頭痛さえするが構わない。天井に着くまで飛んだ俺は、身をひるがえすと天井を蹴って逆さまになり勢いよく落ちながらやつの首に狙いを定める。

 

「大人しく死んどけ、クソトカゲ…!」

 

キィィィィィィィィィン。

 

澄んだ金属音とともにリザードの首は両断され、断面から血を吹き出しながら巨体がゆっくりと倒れる。っと同時に、【覚醒】が切れたのだろう。俺もふらついて地面に倒れる…と思いきや、なにかやわらかい感触が後頭部を支える。

 

「こんなぼろぼろになって、無茶しすぎですよ。…昔から、一ノ瀬君は変わらないね。…こんなの、もっと…ーーーーーーーーーーー。」

 

その先の言葉はもやがかかったように聞き取れないまま、間髪入れず俺の意識はゆっくりと落ちていくのだった。




ダンジョン内の天賦スキルはほぼパッシブスキルとほぼ変わりません。
....本っ当に余談ですが、ゆりはさ男転生いいですよね。

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