異世界転生しても冷笑は止められない…うおw   作:トイレレレ

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どうもトイレレレですー!

なんかどのタイミングで主人公を冷笑させればいいのか難しく感じてきました……

そんな駄文が続きますが、是非お楽しみください!

また評価や感想もお待ちしております!今後の励みにもなります!


やべーw決闘確定しそーwきちーw

広大なエントランスホールに俺は一人取り残された。静寂の中、シャンデリアの光が泥土の聖刃の表面を妖しく照らしている。

 

 

(……さて、どうしたもんか)

 

 

 俺が一人でエントランスホールに取り残され、これからの面倒な面会について思考を巡らせていると──

 

 

 

 

 

 

 カツ……カツ……。

 

 

 

 

 

 

 横に伸びる長い廊下の奥から硬い靴音が響いてきた。その音は一定のリズムでこちらへ向かって近づいてくる。

 

 

 俺がそちらへ目をやると、薄暗い廊下の先から徐々に一つの人影が姿を現した。

 

 

「……ん?」

 

 

 それはレオナよりも若干背が低い、小柄な少女だった。レオナと同じオレンジ色の髪を肩のあたりで切り揃え、フリルがあしらわれた上質なナイトドレスを身に纏っている。

 

 

 その身なりや屋敷の中を堂々と歩く様子から察するに、使用人ではないことは確かだ。おそらくレオナの妹だろう。

 

 

 少女も俺の姿に気づいたのか、不思議そうに小首を傾げながら真っ直ぐにこちらへ近寄ってきた。

 

 

「あなた、だーれ?」

 

 

 少女は俺の目の前で立ち止まると、大きな瞳をパチクリとさせて至極当然な疑問をぶつけてきた。

 

 

「……あー」

 

 

 俺はため息をつき、肩に担いだスコップを下ろした。

 

 

「俺はケイ。あんたの姉貴──レオナに『命の恩人』だと勝手に勘違いされて、実家から無理やり拉致されてきた哀れな平民だよ。これから5年間、専属騎士(笑)としてこき使われるらしい。マジでタイパ最悪のクソイベントに巻き込まれて今最高に萎えてるところ」

 

 

 俺は事の経緯を公爵家への嫌味と冷笑をたっぷりと込めて語ってやった。普通の貴族の子供なら平民のこの舐め腐った態度に激怒するだろう。

 

 

 しかし、少女の反応は俺の予想とは少し違っていた。

 

 

「ふーん」

 

 

 少女は理解できているのかいないのか、なんとも曖昧な相槌を打った。

 

 

 そして、俺の顔と黒いスコップを交互にジッと見つめた後──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だろうけど、お姉様に気に入られるように頑張ってね」

 

 

 それだけ言い残すと、俺に対する興味を完全に失ったかのようにプイッと背を向け、俺の横を通り過ぎて玄関の方へと歩き去ってしまった。

 

 

「…………」

 

 

 俺は少女の小さな背中が廊下の角を曲がって見えなくなるまで、ただ黙って見送っていた。

 

 

(……なんだったんだあいつ)

 

 

 レオナのような暑苦しさもなければ貴族特有の傲慢さもない。ただただ『他人に興味がない』というどこか俺と同質の冷めた空気を感じる少女だった。

 

 

「お待たせいたしました、ケイン様」

 

 

 少女と入れ替わるように大階段の上からセバスチャンが降りてきた。レオナをベッドに寝かせてきたのだろう、その手は空になっている。

 

 

「では、当主様の待つ執務室へ向かいましょうか」

 

 

「うゆ」

 

 

 俺は再びスコップを担ぎ直し、セバスチャンの背中を追って屋敷の奥へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セバスチャンの背中を追って屋敷の奥へと進むこと数分。やがて彼はとある重厚な扉の前で足を止めた。

 

 

 その扉はここまで通り過ぎてきた他の部屋のものとは明らかに一線を画していた。

 

 

 黒檀のような深い色合いの木材に、金や銀の細工でフレイムハート家の紋章(炎と剣を象ったもの)が精緻に彫り込まれている。ただそこにあるだけで圧倒的な威厳とプレッシャーを放つ扉だった。

 

 

(いかにも『ボスの部屋』って感じだな。RPGのラストダンジョンかよ)

 

 

 俺が心の中で適当なツッコミを入れていると、セバスチャンが静かにノックを3回鳴らした。

 

 

「セバスチャンです。ケイン様をお連れいたしました」

 

 

 数秒の沈黙。

 

 

 そして、扉の向こうから声が響いた。

 

 

『──入れ』

 

 

「……ん?」

 

 

 俺は少しだけ目を丸くした。

 

 

 聞こえてきたのは、低く威厳のある男の声……ではなく、凛とした『女性の声』だったからだ。

 

 

(当主って男じゃないのか?)

 

 

 異世界の貴族といえば、立派な髭を蓄えた厳格な父親か、あるいは恰幅の良い豪快な親父というのがテンプレだ。俺は完全にそのつもりでどうやって適当にあしらうかシミュレーションしていたのだが。

 

 

 セバスチャンが恭しく扉を開け、俺に中へ入るよう促す。俺はスコップを担いだままゆっくりと執務室の中へと足を踏み入れた。

 

 

 部屋の中は外の廊下よりもさらに重厚な空気に包まれていた。

 

 

 壁一面を覆い尽くす巨大な本棚。床には毛足の長い絨毯が敷かれ、部屋の奥には立派なマホガニー製の執務机が鎮座している。

 

 

 そして、その机に向かって座っていたのは──。

 

 

「……」

 

 

 レオナと同じ、燃えるようなオレンジ色の髪を長く伸ばした息を呑むほど美しい女性だった。

 

 

 年齢は30代前半といったところだろうか。仕立ての良いタイトなドレスに身を包み、その顔立ちはレオナがそのまま大人になって洗練されたような、鋭くも知的な美貌を誇っている。

 

 

 だが、彼女は俺たちが部屋に入ってきても顔を上げようとはしなかった。

 

 

 その冷徹な視線は机の上に山のように積まれた書類の束にのみ注がれ、手元の羽根ペンがカリカリとせわしなく音を立てている。

 

 

「奥様、ケイン様をお連れいたしました」

 

 

 セバスチャンが一礼して報告する。

 

 

『奥様』と呼ばれたその女性──フレイムハート公爵家の現当主は、書類から目を離さないまま冷たく透き通るような声で言った。

 

 

「ご苦労。……そこに座りなさい、少年」

 

 

 彼女はペンを動かしたまま、机の前に置かれた来客用のソファを顎でしゃくった。

 

 

(あぁ、そういう感じ…w)

 

 

 俺は内心で鼻で笑いながら言われた通りにソファへと腰を下ろした。泥土の聖刃は邪魔にならないようにソファの横に立てかけておく。

 

 

 

 

 

 

 

 カリカリ、カリカリ……。

 

 

 

 

 部屋の中には彼女が書類にサインをするペンの音だけが響いている。あえて沈黙を作ることで相手にプレッシャーを与え、主導権を握ろうとする貴族特有の交渉術(マウント取り)だろうか。

 

 

(コスパ悪い駆け引きだな。さっさと本題に入ればいいのに)

 

 

 俺は完全に視聴者の目線で彼女の態度を冷笑し、ふかふかのソファに深く背中を預けながら彼女が口を開くのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 カリカリ、カリカリ……。

 

 

 

 

 沈黙のまま数分が経過した。俺はソファに深く沈み込み、天井のシャンデリアの装飾を数えながら「早く終わんねーかな」と欠伸を噛み殺していた。

 

 

 やがて彼女がとある分厚い資料にサインを書き終え、ようやく羽根ペンをインク壺の横に置いた。

 

 

 そして眉間に指を当てて「はぁ……」と深いため息をつく。そこで初めて彼女は顔を上げ、俺と視線を合わせた。

 

 

 その瞳はレオナと同じオレンジ色でありながら、氷のように冷たく、そして獲物を値踏みするような鋭い光を宿していた。

 

 

「……待たせたわね、少年」

 

 

 彼女は俺の全身──特にソファの横に立てかけられた黒いスコップを観察するように見つめながら静かに口を開いた。

 

 

「まずは名乗っておきましょう。私はエレノア・フレイムハート。このフレイムハート公爵家の当主を務めているわ」

 

 

(エレノアか。まあいかにもって感じの名前だな)

 

 

 俺が適当に相槌を打つと、エレノアは少しだけ表情を和らげた。

 

 

「我が娘、レオナを暴漢から救ってくれた件……公爵家当主として、そして一人の母親として心から感謝するわ。平民でありながら見事な魔法の腕だったと聞いている」

 

 

 エレノアは引き出しから小さな鍵を取り出し、机の上で弄りながら言った。

 

 

「褒美が欲しければ言いなさい。金貨でも領地の一部でも、あるいは騎士団への推薦状でも……可能な限りのことであれば叶えてあげましょう」

 

 

 大貴族からの白紙の小切手のような提案。普通の平民ならここで目を輝かせて金や地位を要求するところだろう。

 

 

 だが俺の要求は最初から一つしか決まっていなかった。

 

 

「あ、じゃあ家に帰してください」

 

 

「……は?」

 

 

 俺の即答にエレノアは怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「家に帰す? それはどういう意味かしら。褒美を受け取った後、馬車で送れということ?」

 

 

「いや、そうじゃなくて。俺、そもそもここに来たくて来たわけじゃないんで。あんたの娘に『専属騎士になれ』って勝手に拉致されてきただけなんですよ。だからさっさと実家に帰して俺のニート計画を再開させてほしいんです」

 

 

 俺が心底面倒くさそうに言うと、エレノアの眉間がピクリと動いた。

 

 

「……にーと? 拉致? 専属騎士? 何の話をしているの?」

 

 

 どうやら話が噛み合っていない。俺が背後に立つセバスチャンに視線をやると、彼はニコニコと微笑みながら代わりに説明を始めた。

 

 

「奥様。実はレオナお嬢様がこのケイン様を大変お気に召しまして。ご自身の専属騎士として共に王立士官学校へ入学させると仰り、ご実家からお連れした次第でございます」

 

 

「なっ……!?」

 

 

 セバスチャンの報告を聞いた瞬間、エレノアの顔が険しく歪んだ。

 

 

「そんな話私は一切聞いていないわよ! レオナの独断で見ず知らずの平民を士官学校にねじ込もうというの!? しかも本人の同意すら得ずに!?」

 

 

 どうやらこの『専属騎士計画』は完全にレオナの暴走であり、当主であるエレノアの許可など一切取っていなかったらしい。

 

 

(うおw マジかよあのポンコツお嬢様w 権力振りかざしといて無許可とかきちーw)

 

 

「セバス! あなたもあなたよ! なぜレオナのそんな暴走を止めなかったの! あなた最近レオナを甘やかしすぎているのではないかしら?!」

 

 

 エレノアは机をバンッ! と叩き、セバスチャンに向かって棘を含んだ物言いで責め立てた。

 

 

 しかし、老執事はその怒気を涼しい顔で受け流し、恭しく一礼してこう返した。

 

 

「申し訳ございません、奥様。ですが……レオナお嬢様は最近奥様が公務でお忙しく、あまり構っていただけないことを寂しく思っておられるのではないでしょうか? ゆえに、このような強引な手段で奥様の気を引こうとされたのかもしれませんよ」

 

 

「っ……!」

 

 

 セバスチャンのその言葉はエレノアの痛いところを正確に突いたようだった。彼女は苦虫を噛み潰したような表情になり、ギリッと唇を噛んだ。

 

 

「……言葉が過ぎるわよ、セバス。私の教育方針に口出しする気?」

 

 

「滅相もございません。出過ぎた真似をいたしました」

 

 

 セバスチャンはニコリと笑って一歩下がり、再び直立不動の姿勢に戻った。

 

 

(うわぁ……。なんかドロドロした家庭の事情見せられてるんだけど。マジで帰りてーw)

 

 

 俺は完全に『他人の家の修羅場』の視聴者となり、ため息をつきながらスコップの柄を撫でていた。

 

 

「はぁ……」

 

 

 エレノアは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、今日一番の深いため息を吐いた。

 

 

「……いいでしょう。あなたの願い聞いてあげるわ。明日、責任を持って実家まで送り届けさせます」

 

 

「お、マジっすか。あざすw」

 

 

 俺はホッと胸を撫で下ろした。これでようやく俺の平穏なニート生活が守られる。あのポンコツお嬢様の暴走も当主の権限でストップがかかったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──しかし」

 

 

 

 

 エレノアは言葉を区切り、鋭い視線を俺に向けた。

 

 

「それはあくまでこちらの不手際であなたを巻き込んでしまったことへの『処理』よ。それとは別で、娘を救ってくれたことへの『褒美』は受け取ってもらいます」

 

 

「いや、だからそういうのいいんで……w 俺マジでそういうの興味ないんでw」

 

 

 俺が面倒くさそうに手をヒラヒラさせると、エレノアは机の上に両手を組み、さらに冷たい声で続けた。

 

 

「ではこう言い換えましょうか。私たち貴族には『体裁』というものが何よりも大切なの。もし、娘の命の恩人を何の褒美も与えずに追い返したという話が外部に漏れれば、フレイムハート家は恩知らずの器の小さい貴族だと後ろ指を指されることになる」

 

 

 エレノアの目が、スッと細められた。

 

 

「だから、私たちの体裁を守るためにも褒美は受け取りなさい。……特に、あなたが面白半分で『公爵家はケチだった』などと言いふらしたりしたら非常に困るのよ」

 

 

 それは明確な『脅し』だった。褒美を受け取らなければ後で何を言いふらされるかわからない。だから金や物で口封じをしておきたいという、貴族特有の打算的な思考。

 

 

「うおw」

 

 

 俺は思わずそのあまりにも生々しい大人の事情に冷笑を漏らした。

 

 

(体裁ねぇ……。結局、自分の家のメンツを守りたいだけじゃんw マジで貴族ってめんどくせー生き物だなw)

 

 

 だが、ここで意地を張って褒美を拒否し続けるのもそれはそれで面倒なことになりそうだ。

 

 

「……まあ、そういうことなら。俺、一生働きたくないんで一生遊んで暮らせるくらいのお金とか欲しいっすね」

 

 

 俺がニート生活の資金源としてストレートに現金を要求すると、エレノアは少しだけ呆れたような顔をしたが、すぐに「分かったわ」と頷いた。

 

 

「金貨の用意と、今後の口止めに関する誓約書の作成が必要ね。今日はもう遅いから、詳しい話はまた明日にしましょう。とりあえず、今夜は客室に泊まっていきなさい」

 

 

「うゆ」

 

 

「セバス、彼を客室へ案内してちょうだい」

 

 

「かしこまりました、奥様」

 

 

 セバスチャンが恭しく一礼し、俺に扉の方へと向かうよう促す。

 

 

「それじゃ、おやすみなさーい」

 

 

 俺は黒いスコップを肩に担ぎ、エレノアに軽い挨拶を残して執務室を後にした。

 

 

 廊下に出ると、セバスチャンが前を歩きながら静かに口を開いた。

 

 

「ケイン様。先ほどは奥様が少々高圧的な態度をとってしまい申し訳ございませんでした」

 

 

「いや、別に。貴族なんてあんなもんでしょw」

 

 

「……奥様は決して冷酷な方ではないのです。ただ、公爵家という重責を背負い、常に気を張っておられるだけで……」

 

 

 セバスチャンは何かを言いかけたが、すぐに「いえ、私の口から申し上げるべきことではありませんね」と微笑み、話を打ち切った。

 

 

(まあ、どうでもいいけどな。明日金もらって帰るだけだし)

 

 

 俺はあくびを噛み殺しながら、案内された豪華な客室のベッドに倒れ込んだ。ふかふかのマットレスが疲れた身体を包み込む。

 

 

(……よし。これで明日にはトトリカ村に帰れる。俺のニート計画は安泰だ)

 

 

 俺は安心感と共に目を閉じ、純の『マリオメーカー』のアーカイブを脳内で再生しながら深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュン、チュン……。

 

 

 窓の外から聞こえる小鳥のさえずりで俺はゆっくりと目を覚ました。

 

 

 ふかふかの最高級ベッドはトトリカ村の硬いベッドとは比べ物にならないほど寝心地が良く、まだ少し眠気が残っている。

 

 

「……よく寝た」

 

 

 壁に掛けられたアンティーク調の時計に目をやると、針はすでに朝の9時を過ぎていた。ニート志望としては非常に健康的な起床時間である。

 

 

 俺がのそのそとベッドから這い出し、大きく伸びをしたその時だった。

 

 

 まるで俺が起きる時間を正確に予想していたかのように、コンコン、と控えめなノックの音が鳴った。

 

 

「ケイン様、おはようございます。お目覚めでしょうか」

 

 

 扉の向こうから聞こえてきたのはセバスチャンの声だった。

 

 

 俺は適当に寝癖を直し、ドアを開ける。

 

 

「おはようございます、ケイン様。昨晩はよく眠れましたかな?」

 

 

「おはにょーっす。いやー、めっちゃよく寝れましたわ。今日やっと家に帰れるし、一生遊んで暮らせるお金ももらえるし、最高っすねw」

 

 

 俺はニヤニヤと笑いながら今日から始まる輝かしいニート生活に思いを馳せた。

 

 

 金貨をたっぷりもらって実家に帰り、あとは一生脳内で純のアーカイブを反芻しながらダラダラ生きる。完璧な人生設計だ。

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺のそのウキウキした言葉を聞いた瞬間、セバスチャンはいつも浮かべている完璧な笑顔をスッと崩し、ひどく困ったような表情になった。

 

 

「……それが、ケイン様」

 

 

「……え? なに、金払えないとか言わないっすよね?」

 

 

 俺が眉をひそめた次の瞬間だった。

 

 

『──いい加減にしなさい、レオナ!!』

 

 

 

 

 ドゴォォォォンッ!! 

 

 

 

 

「うおw!?」

 

 

 突然、屋敷の奥からエレノアのヒステリックな怒鳴り声と何かが派手に爆発するような轟音が響き渡った。

 

 

 さらに、ドタバタと激しく走り回る足音や高価そうな壺がガシャーン! と割れる音まで聞こえてくる。

 

 

『嫌だ嫌だ嫌だーっ!! ケイは私の専属騎士だぞ!! なんで勝手に帰すとか決めるのだ!! お母様のわからずやーっ!!』

 

 

『こら! 屋敷の中で炎の魔法を使うなと言っているでしょう!! 誰かこの子を捕まえなさい!!』

 

 

『放せーっ! 私はケイと一緒に士官学校に行くのだーっ!! ”ファイア・ボール”!!』

 

 

 

 

 ドガァァァンッ!! 

 

 

 

 

「……えっと」

 

 

 俺は完全に思考が停止し、目の前で困り顔をしているセバスチャンと騒音が響いてくる廊下の奥を交互に見比べた。

 

 

「……何が起きてんの、あれ」

 

 

「お恥ずかしい限りです。今朝、奥様がレオナお嬢様に『ケイン様は実家にお帰りいただくことになった』とお伝えしたところ……お嬢様が激昂なさいまして」

 

 

 セバスチャンは「はぁ……」と深いため息をつき、申し訳なそうに説明を始めた。

 

 

「お嬢様は『ケイが帰るなら、私も家出する!』と仰り、奥様がそれを止めようとした結果、現在あのように屋敷内で暴れ回っておられるのです。……お嬢様は炎の魔法の扱いに長けておられますので、すでに一階の応接室と二階の廊下の一部が黒焦げになっておりまして……」

 

 

「マジかよあのポンコツ……。公爵令嬢が家の中でテロ起こしててクカw」

 

 

 俺はドン引きしながら冷笑した。自分の思い通りにならないからって実家で魔法をぶっ放して暴れ回るとか、完全に癇癪を起こした5歳児である。

 

 

『ケイはどこだーっ!! ケイを連れてこーい!!』

 

 

 廊下の奥からレオナの叫び声がどんどんこちらに近づいてくるのがわかる。

 

 

「……というわけでして、ケイン様」

 

 

 セバスチャンはスッと姿勢を正し、俺に向かって深く頭を下げた。

 

 

「誠に勝手なお願いではございますが……どうかお嬢様を止めていただけないでしょうか。このままでは屋敷が全焼してしまいます」

 

 

「いやいやいやw 俺関係ないでしょw さっさと金だけ渡して帰してよwww」

 

 

「奥様も現在お嬢様の対応で手一杯でして……。金貨の用意や誓約書のサインもこの騒ぎが収まらないことには進められません」

 

 

 俺は頭を抱えた。このままでは金をもらって帰るどころか、屋敷の火事に巻き込まれて丸焦げにされてしまう。

 

 

「……ついてねぇ」

 

 

 俺は深いため息を吐き、部屋の隅に立てかけてあった泥土の聖刃を肩に担いだまさにその時だった。

 

 

 

 

 ドタドタドタッ!! 

 

 

 

 

 廊下の奥から猛烈な勢いで足音が近づいてきた。

 

 

 見ると、オレンジ色のツインテールを振り乱し、顔を真っ赤にして怒り心頭といった表情のレオナがこちらへ向かって走ってくる。

 

 

 そのかなり後ろの方では、煤で顔を真っ黒にした使用人や、息を切らした屋敷の兵士たちが「お、お嬢様ー! お待ちくださーい!」と必死に追いかけてきているのが見えた。

 

 

「あ……ま、まずい」

 

 

 レオナが俺の姿を認識した瞬間、先ほどまでの怒り顔が嘘のようにパァッ! と明るくなり、にぱっと満面の笑みを浮かべた。

 

 

「ケイ──ッ!!」

 

 

 そしてそのまま猛スピードで突進してくると、俺の足にガシィッ! と勢いよく抱きついてきた。

 

 

「うお!? あ、危ねえだろ!」

 

 

「ケイ! お母様が『お前は今日実家に帰る』なんて嘘を言っていたのだ! 嘘だよな!? お前は私の専属騎士として一緒に士官学校に行くもんな!?」

 

 

 レオナは俺の足にしがみついたまますがるような上目遣いで見上げてくる。その瞳には「絶対に肯定してくれ」という強烈な圧が込められていた。

 

 

 だが、俺はそんな圧に屈するような安い男ではない。

 

 

「いや、帰るけど」

 

 

「なっ……!?」

 

 

「当たり前でしょw 誰が好き好んで5年間も学校なんてコスパ最悪な場所に行くのw 俺は今日から実家で一生ニートするって決めてんの。お嬢様のお遊びに付き合ってる暇はないんでw」

 

 

 俺が鼻で笑いながら冷笑交じりに否定すると、レオナの顔からスッと血の気が引いた。

 

 

「う、嘘だ……! お前、あの時私を助けてくれたではないか! クールで強くて、私の専属騎士にふさわしい男だと見込んだのに……!」

 

 

「だからあれは事故だって何回言えばわかるの。マジで勘違いするのやめてね[^^]b

 

 

 俺が容赦なく現実を突きつけると、レオナは「うぅ……」と涙目を浮かべ、さらに強く俺の足にしがみついてきた。

 

 

「嫌だ嫌だ嫌だーっ!! 絶対に帰さないぞ! お前が帰るなら私も一緒にトトリカ村に行ってやるーっ!!」

 

 

「はぁ!? お前公爵令嬢が何言ってんの! 迷惑すぎるだろ!」

 

 

 完全に駄々をこねる5歳児モードに入ったレオナ。俺が必死に足を引き剥がそうとしていると、横で見ていたセバスチャンが静かに口を開いた。

 

 

「レオナお嬢様。お嬢様がケイン様を高く評価し、専属騎士に迎えたいというお気持ちは私もよく理解しております」

 

 

「セバスチャン……!」

 

 

「ですが、ケイン様にもご自身の人生というものがございます。本人の意思を無視して強要するのは立派な貴族の振る舞いとは言えませんよ」

 

 

 セバスチャンが優しく諭すように言うと、レオナはハッとして悲しそうな表情を浮かべた。

 

 

「……セバスチャンも、お母様の味方なのか?」

 

 

 ポツリとこぼれたその弱々しい声。いつも元気で強気なレオナが、初めて見せた年相応の孤独な少女の顔だった。

 

 

 その言葉にセバスチャンは一瞬だけ、本当に一瞬だけどう答えるべきか迷うような困った様子を見せた。

 

 

 公爵家の執事として当主であるエレノアの決定に従うのが絶対の義務である。

 

 

 だが、彼はすぐにいつもの穏やかな笑顔に戻り、レオナの頭を優しく撫でた。

 

 

「……いいえ。私はいついかなる時もレオナお嬢様の味方ですよ」

 

 

「ほんと……?」

 

 

「ええ、本当ですとも」

 

 

 セバスチャンが微笑みかけると、レオナの顔に少しだけ明るさが戻った。

 

 

(……おいおい、執事のおっさん。お前当主の命令よりこのポンコツお嬢様を優先する気か?)

 

 

 俺が嫌な予感を覚えた次の瞬間だった。

 

 

「ケイン様」

 

 

 セバスチャンが、スッと俺の方に向き直った。その目は笑っていたが、奥底には一切の感情を読み取らせない底知れぬ凄みが宿っていた。

 

 

「……奥様は『ケイン様を実家にお返しする』と仰りました。ですが、お嬢様は『ケイン様と共に士官学校へ行く』と仰っておられます」

 

 

「あー、はい。だから俺は帰るって──」

 

 

「そこで、一つ提案がございます」

 

 

 セバスチャンは俺の言葉を遮り、ニコリと笑って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ケイン様。お嬢様と『決闘』をしてはいただけませんか?」

 

 

「……は?」

 

 

 俺の口から間抜けな声が漏れた。

 

 

「……決闘? 急に何を言い出してんだこのおっさん」

 

 

俺が呆れ果ててツッコミを入れようとしたまさにその時だった。

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……っ!」

 

 

「お、お嬢様……! もう、勘弁してくだ……さい……」

 

 

廊下の奥からようやく追いついてきた使用人や兵士たちが、膝に手をついて荒い息を吐きながら倒れ込んできた。

 

 

そして、その集団を掻き分けるようにして一人の女性が前に出てきた。

 

 

「……っ、レオナ!!」

 

 

当主、エレノア・フレイムハートだった。

 

 

昨日の完璧に整えられた姿とは違い、少し髪が乱れ肩で息をしている。どうやら彼女自身も暴れ回る娘を追いかけて走ってきたらしい。

 

 

レオナはエレノアの姿を視界に捉えた瞬間、ビクッと肩を震わせ、サッと俺の背後に隠れた。

 

 

そして俺の腰のあたりをギュッと掴みながら、親の仇でも見るかのように「がるるる……!」と威嚇の声を上げる。

 

 

(いや、俺を盾にすんなよ。マジで迷惑なんだけど)

 

 

エレノアは乱れた呼吸を整えると、氷のように冷たく、そして鋭い視線をレオナへと向けた。

 

 

「……お前のせいでどれほどの人間が迷惑しているのか分かっているの? 朝から屋敷中を走り回り、魔法を乱射して……破損した備品や黒焦げになった応接室をどうするつもり?」

 

 

「う、うるさいっ! お母様が勝手にケイを帰すとか言うから悪いのだ!」

 

 

レオナは俺の背中から顔を半分だけ出し、涙目になりながらも必死に言い返した。

 

 

「うるさい、ではありません。公爵家の令嬢たる者が自分の感情もコントロールできずに癇癪を起こすなど……恥を知りなさい。お前には貴族としての自覚が決定的に欠けているわ」

 

 

エレノアの言葉は容赦なく鋭利だった。ただの母親としての叱責ではなく、公爵家当主としての『冷徹な評価』。

 

 

そのキツイ言葉の連続にレオナは「うぅ……っ」と声を漏らし、俺の服を掴む手にさらに力を込めた。

 

 

(うわぁ……。朝から重たい家族の修羅場見せられてるわ。タイパ最悪すぎる。早く金もらって帰りたい……)

 

 

俺が心底うんざりしてため息をつこうとしたその時。

 

 

「──奥様。少々お待ちいただけますか」

 

 

それまで静観していたセバスチャンが、スッとエレノアとレオナの間に割って入った。

 

 

「お嬢様がなさったことは確かに多くの方に多大なご迷惑をおかけいたしました。それは事実です。……しかし、お嬢様もまだ12歳の子供なのです。ここは一つ、大目に見てあげてはいただけませんか?」

 

 

セバスチャンのその言葉にその場にいた全員が息を呑んだ。

 

 

使用人や兵士たちは「セバスチャン殿、何を言っているんだ……!?」と青ざめた顔で顔を見合わせている。

 

 

エレノアのレオナに向けられていた鋭い視線が今度はゆっくりとセバスチャンへと向けられた。その瞳には明確な『怒り』と『冷気』が宿っていた。

 

 

 

「……随分と偉くなったものね、セバス」

 

 

エレノアの声は地を這うように低く、冷たかった。

 

 

「ただの執事の分際で当主である私の教育に口を出すというの? ……お前はこのフレイムハート家の当主が誰か、忘れたわけではないでしょうね?」

 

 

 

 

 

 

一触即発。

 

 

 

 

 

 

廊下の空気が文字通り凍りつくような緊張感に包まれた。使用人たちは震え上がり、レオナも息を呑んでセバスチャンの背中を見つめている。

 

 

だが、セバスチャンはエレノアのその強烈なプレッシャーを正面から受け止めながらも、いつもの穏やかな笑顔を一切崩さなかった。

 

 

「滅相もございません。当主は奥様であり、私はただの忠実な下僕に過ぎません。……ですが、だからこそ私は『フレイムハート家の未来』のために一つの提案をさせていただきたいのです」

 

 

「……提案?」

 

 

エレノアが怪訝そうに眉をひそめる。セバスチャンは恭しく一礼し、そして俺の方へと視線を向けた。

 

 

「ええ。──レオナお嬢様とこちらのケイン様による『決闘』でございます」

 

 

「またそれかーw マジでコスパ悪い提案すぎてクカなんよw」

 

 

 俺が呆れ果てて冷笑混じりのツッコミを入れようとしたその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわ……っ

 

 

 

 

 セバスチャンの『決闘』という言葉を聞いた途端、周囲の空気が一変した。後ろで控えていた使用人や兵士たちが、一斉に顔面を蒼白にしてざわめき始めたのだ。

 

 

「け、決闘だと……!?」

 

 

「セバスチャン殿、正気ですか……!? 相手は平民の子供ですよ!」

 

 

「もしお嬢様が負ければ……いや、そんなことはあり得ないが……」

 

 

 彼らの動揺と驚愕は尋常ではなかった。ただの子供同士の喧嘩や模擬戦を提案されたような反応ではない。もっと、何か取り返しのつかない恐ろしい儀式でも始まるかのような怯え方だ。

 

 

 エレノアもまた一瞬だけ言葉を失い、固まっていた。

 

 

 そして、先ほどよりもさらに鋭く、殺気すら帯びた視線をセバスチャンへと突き刺した。

 

 

「……セバス。それがどういう意味なのか……分からないわけではないでしょうね?」

 

 

「ええ、もちろんでございます」

 

 

 エレノアの凄まじいプレッシャーを前にしても、セバスチャンは平然と涼しい顔で頷いた。

 

 

(……ん? なんだこの空気)

 

 

 俺は一人、完全に話に置いてけぼりにされていた。

 

 

 ただのゲーム感覚の提案だと思っていたのだが、どうやらこの世界の『決闘』という言葉には俺の知らない重い意味があるらしい。

 

 

 俺が怪訝な顔をしているのを察したのか、セバスチャンがこちらを向き、静かに説明を始めた。

 

 

「ケイン様。貴族間における『決闘(デュエル)』とは、ただの力比べや模擬戦とは根本的に異なります」

 

 

 セバスチャンの声が廊下に低く響く。

 

 

「それは、神の名の下に行われる『絶対の誓約』。両者が条件を提示し、勝者は敗者に対して『いかなる要求』も通すことができる。そして敗者は己の命、財産、名誉、そのすべてを懸けて勝者の要求を『絶対』に受け入れなければならない……。王家すらも覆すことのできない、神聖にして不可侵の儀式なのです」

 

 

「……は?」

 

 

 俺は思わず、間抜けな声を漏らした。

 

 

「いやいやいやw ばかまて……なんで俺がそんな命懸けのデスゲームやらなきゃなんないのw 俺、ただ金もらって実家に帰りたいだけの一般人なんですけどw」

 

 

 俺が全力で拒否反応を示すと、セバスチャンはニコリと笑った。

 

 

「ですから、ケイン様が勝てば『実家に帰り、一生遊んで暮らせるだけの金貨を受け取る』という要求を通せばよいのです。奥様も神聖なる決闘の結果であれば体裁を気にすることなく金貨をお渡しできるでしょう」

 

 

「……っ」

 

 

 エレノアがギリッと唇を噛む。

 

 

 確かに、貴族の体裁を気にする彼女にとって「決闘で負けたから要求を呑んだ」という大義名分があれば外部に言い訳が立つ。セバスチャンはそこまで計算してこの提案をしているのだ。

 

 

「そして、もしレオナお嬢様が勝てば……ケイン様にはお嬢様の『専属騎士』として共に士官学校へ入学していただきます」

 

 

 セバスチャンがそう宣言すると、俺の背後に隠れていたレオナがハッと顔を上げた。

 

 

「わ、私が勝てば……ケイが私の専属騎士に……!」

 

 

「ええ、お嬢様。お嬢様の実力でこのケイン様をねじ伏せ従わせればよいのです。……できますね?」

 

 

「っ……! やる! 私、絶対に勝つぞ!!」

 

 

 レオナは先ほどまでの涙目を拭い、オレンジ色の瞳に闘志の炎を燃え上がらせた。

 

 

(いやマジでだるいんだが?)

 

 

 俺は頭を抱えた。

 

 

 だが、この状況で俺が「やらない」と言って逃げ出せる雰囲気ではない。エレノアもセバスチャンの提案を無下にはできないのか、沈黙を守っている。

 

 

「あぁ、そういうノリ……w」

 

 

 俺は深いため息を吐き、泥土の聖刃を肩に担ぎ直した。

 

 

「ま、いいや。どうせ俺が勝つしw さっさと終わらせて金もらって帰りますわw」

 

 

 俺が冷笑交じりにそう言い放つと、周囲の兵士たちが「平民の分際でお嬢様に勝てると思っているのか……!」とざわめいた。

 

 

 こうして俺の『実家で一生ニート計画』を懸けた、公爵令嬢との神聖なる決闘の幕が切って落とされたのだった。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました!

環境依存文字が打てないから例のやつを上手く再現できなかった…

何かいい方法があれば誰か教えてください…!
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