異世界転生しても冷笑は止められない…うおw   作:トイレレレ

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どうもトイレレレです!

今回やっとケイの戦闘シーンがありますが、戦闘描写が下手です……

それでも良ければ是非お楽しみください!

また評価や感想も是非お願いします!作者のやる気が倍増します!

※後書きに今後の展開についての記載あり。良ければ皆様の意見を聞きたいです。


タイパ最悪の決闘と、勝者の憂鬱

 場面は変わり、フレイムハート公爵家の広大な庭園。

 

 

 先ほどまで綺麗に配置されていた彫刻やベンチなどの備品は、使用人たちの手によって素早く片付けられ、今は広々とした空間だけが広がっている。

 

 

 その中心で俺は泥土の聖刃を肩に担ぎ、死んだ魚のような目で立っていた。

 

 

 対峙するのはオレンジ色のツインテールを揺らし、両手に真紅の装飾が施された杖を構えるレオナ。彼女の表情には緊張の色が見えるが、それ以上に「絶対に勝ってやる」という強烈なオーラが全身から放たれていた。

 

 

 庭園の周囲にはこの前代未聞の決闘を見届けようと、屋敷中の使用人や兵士たちがズラリと並んで固唾を呑んでいる。

 

 

 そして、その一番奥——特等席とも言える場所に用意された豪華な椅子と机には、当主であるエレノアが足を組み、冷徹な視線でこちらを見下ろしていた。

 

 

(……場違いなこと思ったんだけど)

 

 

 俺は周囲を見渡しながら、ぼんやりと考えた。

 

 

 昨日、廊下で会ったあのレオナの妹(?)の姿がどこにもないのだ。これだけ屋敷中が騒ぎになっているというのに顔を出さないのは不自然な気もする。

 

 

(まあ、ガキだしまだ寝てんだろ。どうでもいいわ)

 

 

 俺はすぐに思考を打ち切り、目の前の面倒なイベントをいかに省エネで終わらせるかに意識を戻した。

 

 

「──それでは、これより神聖なる『決闘』を執り行います!」

 

 

 二人の間に立つセバスチャンがよく通る大きな声で宣言した。

 

 

「決闘のルールは以下の通り!」

 

 

 一、相手が明確に『負け』を認めた場合、勝敗を決する。

 二、審判である私が一方を『戦闘続行不可能』と判断した場合、もう一方の勝利とする。

 三、相手に致命傷を与える、あるいは死に至らしめるような過剰な攻撃は一切禁止。これを確認した場合、その者の失格負けとする。

 四、部外者による協力、および妨害は一切禁止。これを確認した場合、妨害を受けた側の不戦勝とする

 

 

 セバスチャンはルールを読み上げると、スッと目を細め、俺とレオナを交互に見据えた。

 

 

「以上の誓約を守れる者のみ、神の下で決闘を行う資格を得ます。……両者、これを認めますか!」

 

 

「もちろん! 私が勝って、ケイを絶対に専属騎士にしてやる!」

 

 

 レオナが杖を高く掲げ、元気よく宣言する。

 

 

「うゆ」

 

 

 俺は気の抜けた相槌を打ち、スコップの柄をトントンと肩で叩いた。

 

 

「よろしい。……それでは、両者構え!」

 

 

 セバスチャンの声が響き、庭園の空気が一気に張り詰めた。周囲の兵士たちが息を呑む音が聞こえる。

 

 

 レオナが杖を構え、その先端にチリチリと赤い火の粉が舞い始めた。

 

 

 公爵令嬢でありながら、彼女の魔力は本物だ。周囲の温度が急激に上昇していくのを感じる。

 

 

(熱血お嬢様の炎魔法か。……マジで暑苦しいなw)

 

 

 俺は心の中で冷笑し、スコップをだらりと下げたまま一切の構えをとらなかった。

 

 

 俺の固有魔法【絶対的零度(冷笑)】は、俺が相手を小馬鹿にし、冷笑すればするほど威力が上がる。つまり、俺にとっての『構え』とは極限までリラックスして相手を見下すことなのだ。

 

 

「──決闘、開始!!」

 

 

 セバスチャンの右手が振り下ろされた瞬間、レオナが動いた。

 

 

「ファイア・ボール!!」

 

 

 セバスチャンの合図と同時、レオナは最速の詠唱で魔法を発動させた。

 

 

 彼女の杖の先端から生み出されたのは、ただの火の玉ではない。バスケットボールほどの大きさまで圧縮された高熱の炎弾がなんと『三つ』同時に展開されたのだ。

 

 

「いけぇっ!!」

 

 

 レオナの掛け声と共に、三つの炎弾が空気を焦がしながら俺に向かって殺到してくる。

 

 

「へぇ……思ったよりやるじゃんw」

 

 

 俺は褒めているようで完全に小馬鹿にした冷笑を浮かべながら、肩に担いでいた泥土の聖刃をゆっくりと下ろした。

 

 

 俺が対象を「痛いノリ」と冷笑したことで、固有魔法【絶対的零度】が発動する。スコップの柄から刃先にかけてバキバキと霜が張り付き、凍えるような冷気を纏い始めた。

 

 

 俺は迫り来る三つの炎弾に向かって、極寒のスコップをただ横に薙ぎ払った。

 

 

 

 

 ヒュゴォォォォォッ!! 

 

 

 

 

 たったそれだけの動作で、スコップの軌跡から凍てつく冷気の吹雪が巻き起こった。

 

 

 絶対零度の暴風は触れるものすべてを瞬時に凍結させる。レオナの放った高熱のファイア・ボールは冷気と衝突した瞬間に「ジュッ」という情けない音を立ててあっけなく消滅してしまった。

 

 

(まあ、こんなもんだろ。所詮は貴族のお嬢様のお遊戯──)

 

 

 俺がそう高を括りため息をつこうとしたその時だった。

 

 

(……あれ?)

 

 

 吹雪が晴れた視界の先にいるはずのレオナの姿がなかった。

 

 

「──もらったぞ、ケイ!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 背後から肌を焼くような強烈な熱気と、勝ち誇ったような少女の声が聞こえた。

 

 

 俺はハッとして振り返ろうとしたが、一歩、対応が遅れた。

 

 

(さっきのファイア・ボール……攻撃じゃなくてただの『目くらまし(囮)』かよ!)

 

 

 俺が冷気で炎を相殺し、視界が遮られたほんの一瞬の隙を突き、レオナは俺の死角である背後へと回り込んでいたのだ。

 

 

 そして彼女の杖の先端はすでに俺の背中にゼロ距離で突きつけられていた。

 

 

「ファイア・ボール!!」

 

 

 

 

 ドガァァァァンッ!! 

 

 

 

 

 至近距離で炸裂した炎の爆発が俺の身体をモロに吹き飛ばした。

 

 

「ぐおっ……!」

 

 

 俺の身体は宙を舞い、数メートル先まで勢いよく吹っ飛んだ。

 

 

 周囲の兵士たちから「勝負あったか!?」というどよめきが上がる。

 

 

 

 

 

 

 だが──。

 

 

 

 

「……っと」

 

 

 俺は空中で強引に体勢を立て直すと、地面にスコップの刃を突き立ててブレーキをかけ、ザザザッ! と土煙を上げながら見事に両足で着地した。

 

 

「なっ……!? まともに喰らったはずなのに!」

 

 

 レオナが驚愕に目を見開く。

 

 

 確かに背中には焼け焦げたような痛みが走っている。普通の平民の子供なら一撃で気絶していてもおかしくない威力だ。

 

 

 だが、俺の身体はあの脳筋の親父によって毎日毎日地獄のような剣術の修行(という名のシゴキ)で徹底的に鍛え上げられていた。

 

 

『痛い一撃』ではあるが、決して耐えられないほどのダメージではない。

 

 

(……チッ。完全に侮ってたわ。所詮は温室育ちの貴族のガキだって)

 

 

 ただのポンコツお嬢様だと思っていたが、戦闘における立ち回りや魔法のセンスは間違いなく本物だ。士官学校に推薦されるだけのことはある。

 

 

(……でも、ここで焦ったら俺の負けだ)

 

 

 俺の固有魔法【絶対的零度】は俺が相手を冷笑し、見下し、斜に構えていればいるほど威力が上がる。

 

 

 逆に言えば、ここで俺が「強い」「ヤバい」と熱くなってしまえば、魔力は霧散し、ただのスコップを持った平民のガキに成り下がってしまうのだ。

 

 

「……あーあ。せっかくのドレスが煤だらけじゃんw 泥臭い戦い方すんね、おじょーさまw」

 

 

 俺は背中の痛みを顔に出さず、わざとらしく肩をすくめて見せた。

 

 

 そして口角を歪め、極限まで相手を小馬鹿にする『冷笑』のスタンスを崩さない。

 

 

「そういう熱血なノリ、見ててマジできちーw」

 

 

 俺がそう煽った瞬間、手にしたスコップから先ほどよりもさらに強烈な、周囲の芝生を真っ白に凍らせるほどの絶対零度の冷気が噴き出した。

 

 

「……っ! まだそんな余裕な口を叩くか!」

 

 

 俺の冷笑と煽りにレオナは顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

 

 

 だが、俺は彼女の言葉に耳を貸すことなく地面を蹴って一気に距離を詰めた。

 

 

(見てる限り、あいつの戦闘スタイルは完全に『魔法頼り』の後衛型だ)

 

 

 杖を構え、詠唱によって炎を生み出す。威力もセンスも申し分ないが、近接戦闘の訓練を積んでいるような動きではない。

 

 

 対する俺は違う。

 

 

 確かに【絶対的零度】という規格外の魔法を持っているが、俺の真の強さは「遠距離から魔法を撃ち合う」ことではない。

 

 

 親父の地獄のシゴキによって叩き込まれた剣術──それをベースに極寒の冷気を纏ったスコップで近距離から圧倒する『魔法剣士(スコップ)』的な戦闘スタイルこそが俺の真骨頂なのだ。

 

 

「うおw 隙だらけでクカw」

 

 

 俺は冷笑を浮かべたまま、一瞬でレオナの間合いへと踏み込んだ。手にした泥土の聖刃からは周囲の空気を凍てつかせるほどの絶対零度の冷気が溢れ出している。

 

 

「なっ……速い……!」

 

 

 俺の予想外のスピードにレオナは目を見開いた。

 

 

 だが、彼女もただのポンコツではない。俺が近接戦を仕掛けてきたことを瞬時に察知すると、杖を地面に突き立て鋭い声で詠唱した。

 

 

「ファイア・ウォール!!」

 

 

 

 

 ゴォォォォォッ!! 

 

 

 

 

 レオナの目の前の地面から高さ3メートルはあろうかという巨大な『炎の壁』が吹き上がった。

 

 

 俺とレオナを分断するように立ち塞がる、灼熱の防壁。近づくだけで前髪がチリチリと焦げそうなほどの熱量だ。

 

 

「ふふん! これで近づけまい! この炎の壁を越えようとすれば、お前は丸焦げだぞ!」

 

 

 炎の壁の向こう側からレオナの勝ち誇ったような声が聞こえてくる。

 

 

 どうやら、この壁で俺の接近を防ぎつつ安全圏から再び魔法で狙い撃ちにするつもりらしい。

 

 

(……ほんっと、貴族の考えることはテンプレ通りでつまんねーなw)

 

 

 俺は炎の壁を前にして、足を止めるどころかさらに深く冷笑を刻んだ。

 

 

「あぁ、そういうノリ……w」

 

 

 俺はスコップを両手で握り締め、大きく振りかぶった。

 

 

「炎の壁で引きこもりとかコスパ悪すぎだろw そんなもん──」

 

 

 俺の冷笑が極限に達した瞬間、【絶対的零度】の魔力が爆発的に跳ね上がった。

 

 

 スコップの刃先から、青白い光を放つ極寒のオーラが立ち上る。

 

 

 

 

「──『冷房(クーラー)』の最大風量で十分だわ」

 

 

 俺は灼熱の炎の壁に向かって凍てつくスコップを全力で振り下ろした。

 

 

 

 

 パキィィィィィンッ!! 

 

 

 

 俺が振り下ろしたスコップから放たれた絶対零度の斬撃は、灼熱の『ファイア・ウォール』と衝突した瞬間、炎そのものを凍りつかせた。

 

 

 いや、炎だけではない。俺とレオナの間にあった空間の水分、そして周囲の庭園の芝生すらも一瞬にして白く染め上げ、ガラスが割れるような甲高い音と共に炎の壁は粉々に砕け散った。

 

 

「なっ……!? 私の炎が、凍った……!?」

 

 

 砕け散る氷の破片の奥でレオナが信じられないものを見るように目を丸くしている。

 

 

「言ったろ。引きこもってないでさっさと終わらせようぜ」

 

 

 俺は氷の霧を突き抜け、再びレオナの懐へと踏み込んだ。

 

 

 今度こそ決まった。俺がスコップの峰で彼女の首筋を軽く叩き、降参を促そうとしたその時だった。

 

 

「──舐めるなっ!!」

 

 

 レオナの瞳に決して折れない強靭な意志の光が宿った。

 

 

 彼女は俺の接近を許した状態からあえて後ろへ跳躍するのではなく、杖の石突きを地面に強く叩きつけた。

 

 

「エクスプロージョン・ステップ!!」

 

 

 

 

 ドォンッ!! 

 

 

 

 

 レオナの足元で小規模な爆発が起こり、その爆風を利用して彼女の身体が後方へと弾き飛ばされるように高速で後退した。

 

 

 自爆覚悟の荒業。だが、それによって俺のスコップの射程圏内から見事に脱出してみせたのだ。

 

 

(うおw マジか…w あいつ咄嗟に爆風で距離取りやがった……w)

 

 

 俺が内心で少しだけ感心している間にも、空中に逃れたレオナは杖をこちらへ向け、立て続けに詠唱を紡ぐ。

 

 

「フレイム・ランス! フレイム・ランス! フレイム・ランス!!」

 

 

 空中に三本の巨大な炎の槍が形成され、俺の急所を正確に狙って射出された。

 

 

 先ほどのファイア・ボールとは比べ物にならない速度と貫通力。それが時間差で迫ってくる。

 

 

「……必死すぎw マジできちーw」

 

 

 俺は冷笑のスタンスを崩さず、迫り来る炎の槍に向かってスコップを振るった。

 

 

 一本目を下からの斬り上げで弾き飛ばし、二本目を横薙ぎで凍結粉砕。そして三本目は半身をずらして躱しながら柄の部分で叩き落とす。

 

 

 親父との地獄の稽古で培った動体視力と反射神経。そして【絶対的零度】による魔法の相殺。

 

 

 俺はレオナの猛攻をまるであくびを噛み殺すような気怠い動作で次々と捌いていく。

 

 

「くっ……! ならば、これならどうだ!!」

 

 

 着地したレオナは俺の防御を崩せないと悟るや否や、杖を両手で握り締め、目を閉じて深く息を吸い込んだ。

 

 

 周囲の空気が異常なほどの熱を帯び始める。庭園の空気が陽炎のように揺らめき、彼女の足元の芝生が熱で黒く焦げていく。

 

 

「……ほう」

 

 

 特等席で見ていたエレノアがわずかに目を細めた。

 

 

 セバスチャンもまた、感心したように頷いている。

 

 

(おいおい、なんかヤバそうなの準備してんな……)

 

 

 レオナの杖の先端にこれまでの魔法とは桁違いの魔力が収束していく。彼女はこの一撃にすべての魔力と勝敗を懸けるつもりのようだ。

 

 

「ケイ……! お前は強い! だからこそ私は全力でお前を打ち倒し、私の専属騎士にする!!」

 

 

 レオナがカッと目を見開き、杖を天へと掲げた。

 

 

「灰燼に帰せ──『紅蓮の火竜(クリムゾン・ドラゴン)』!!」

 

 ゴォォォォォォォォォッ!! 

 

 

 彼女の杖から放たれたのは、もはや魔法の域を超えた『災害』だった。

 

 

 膨大な炎が渦を巻き、巨大な火竜の姿を形作って庭園の空を焦がしながら俺に向かって牙を剥いて突進してくる。

 

 

「あぁ、そういうノリ……w」

 

 

 俺は迫り来る圧倒的な熱量と死の恐怖を前にしても決して焦ることはなかった。

 

 

 むしろ、彼女のその『熱血』で『真っ直ぐ』な想いが込められた大技を見れば見るほど、俺の中の【絶対的零度(冷笑)】の魔力は際限なく膨れ上がっていくのだ。

 

 

「タイパ最悪のド派手な魔法、ご苦労さんw」

 

 

 俺は黒いスコップを上段に構え、極限まで冷めきった瞳で炎の竜を迎え撃つ準備を整えた。

 

 

(あんな無駄にデカい的、避ける必要もねえ。真正面から凍らせてやる)

 

 

 俺はレオナの『熱血』と『努力の結晶』である大魔法を心の底から「痛いノリだ」と冷笑した。

 

 

 その瞬間俺の体内から爆発的な冷気が溢れ出し、泥土の聖刃に収束していく。周囲の空気が一瞬にして凍りつき、庭園に季節外れの猛吹雪が吹き荒れた。

 

 

「──『絶対零度(DAI〇IN)・風量MAX』」

 

 

 俺は適当極まりない技名(?)を呟きながら、上段に構えたスコップを炎の竜の脳天に向かって全力で振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 灼熱の火竜と絶対零度の斬撃が正面から激突した。相反する二つの極大魔法がぶつかり合い、庭園の中心で凄まじい水蒸気爆発が巻き起こる。

 

 

「きゃああっ!?」

 

 

「うおぉぉっ!?」

 

 

 周囲で見守っていた使用人や兵士たちが爆風と熱気、そして凍てつく冷気の入り混じった暴風に吹き飛ばされまいと必死に地面にしがみつく。

 

 

 特等席に座っていたエレノアでさえ咄嗟に腕で顔を覆い、目を細めていた。

 

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 

「……たはは」

 

 

 レオナが杖を両手で握り締め、必死に魔力を振り絞って炎の竜を押し込もうとする。

 

 

 俺もまたスコップの柄を握る手に力を込め、冷笑のスタンスを崩さずに冷気を放ち続けた。

 

 

 赤と青の光が交錯し、空間が歪むほどの魔力の拮抗。それは数秒か、あるいは数十秒続いたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて──。

 

 

 

 

 パキィィィンッ……!! 

 

 

 炎の竜の頭部から徐々に氷が侵食していき、最後には竜全体が巨大な氷の彫刻へと変わり果てた。

 

 

 そして、限界を超えた魔力の衝突に耐えきれず氷の竜は粉々に砕け散り、キラキラと輝くダイヤモンドダストとなって庭園に降り注いだ。

 

 

「……はぁっ、はぁっ……!」

 

 

 相殺の余波が収まった後。そこには杖を杖代わりにして地面にへたり込み、肩で激しく息をするレオナの姿があった。

 

 

 どうやら今の大魔法で魔力を完全に使い果たしてしまったらしい。顔は青ざめ、立ち上がる気力すら残っていないようだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 俺はスコップを肩に担ぎ直し、小さく息を吐いた。

 

 

 正直なところ、今の大技を相殺するために俺もかなりの体力と魔力を持っていかれた。親父のシゴキがなければ反動でぶっ倒れていたかもしれない。

 

 

 だが、俺はまだ動ける。そして何より俺の『冷笑』のスタンスは一切崩れていない。

 

 

「……あーあ。せっかくの庭園が水浸しじゃんw 掃除する使用人の身にもなれよなw」

 

 

 俺はわざとらしくため息をつきながら、へたり込むレオナの元へとゆっくり歩み寄った。

 

 

 そして彼女の目の前で立ち止まると、冷気を纏ったスコップの刃先を彼女の首元にスッと突きつけた。

 

 

「……っ」

 

 

 レオナは悔しそうに唇を噛み締め、俺を見上げた。その瞳にはまだ微かに闘志が残っていたが、身体が言うことを聞かないのは明白だった。

 

 

「……勝負あったな。お嬢様」

 

 

 俺が冷たく見下ろしながらそう告げると、庭園は水を打ったような静寂に包まれた。周囲の兵士たちも、エレノアも、そしてセバスチャンでさえ、息を呑んでこの結末を見届けている。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、レオナはまだ諦めていなかった。

 

 

 

 

「……はぁっ、はぁっ……! まだ……まだやれる……!」

 

 

 彼女は杖を地面に突き立て、震える足で必死に立ち上がろうとする。魔力は完全に底を尽き、顔面は蒼白。誰の目から見てもこれ以上の戦闘は不可能だ。

 

 

「……諦め悪いんじゃないか? タイパ最悪だぞ、おじょーさんwww?」

 

 

 俺は鼻で笑い、冷気を纏ったスコップの刃先をさらに彼女の首元へと近づけた。これ以上無駄な抵抗をすれば本当に凍らせるぞという脅しだ。

 

 

 しかし、レオナは俺の冷笑を真っ向から睨み返し、震える声で言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「……うるさいっ! 私は……私は絶対に負けない……!」

 

 

 その声には先ほどまでの「専属騎士にしたい」というワガママな響きはなかった。代わりに彼女が今まで心の奥底に秘めていた切実で、痛切な感情が乗っていた。

 

 

「お母様は……いつも仕事ばかりで私を見てくれない……! 妹の……妹の”シルヴィア”は天才だから……私なんてどうでもいいんだ……!」

 

 

 ポツリ、ポツリとこぼれ落ちる言葉。

 

 

 それは、公爵令嬢という恵まれた環境にありながら誰にも必要とされていないという『孤独感』と『寂しさ』の吐露だった。

 

 

「だから……私は誰かに認められたかった……! 私の力で、私だけの騎士を見つけて……お母様にも、みんなにも、私のことを見てほしかったのに……!」

 

 

 レオナの瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、焦げた芝生を濡らしていく。

 

 

「……っ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺のスコップを握る手が微かに震えた。

 

 

(……なんだよ、これ)

 

 

 俺は内心で舌打ちをした。

 

 

 流石に大技で疲れが回ったのか? …………いや、違う。俺は、本当は分かっている。

 

 

 俺の固有魔法【絶対的零度】は相手の熱血や努力を「痛いノリ」と冷笑し、小馬鹿にすることで威力が上がる。

 

 

 逆に言えば、相手の感情に『共感』したり、『同情』したり、『熱く』なってしまえば──その瞬間魔力は霧散し、ただの平民のガキに成り下がってしまうのだ。

 

 

(……やめろ。俺はこいつの孤独なんて知ったこっちゃない。俺は実家でニートしたいだけなんだ)

 

 

 俺は必死に自分に言い聞かせ、脳内で純のアーカイブを再生して精神の安定(冷笑スタンス)を保とうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、目の前でボロボロになりながらも必死に自分を証明しようと足掻く少女の姿が、どうにも俺の『冷笑』を鈍らせていく。

 

 

「……だから、私は……お前を……!」

 

 

 レオナが最後の力を振り絞り、杖を握り直して俺に向かって一歩を踏み出そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

「──そこまで!!」

 

 

 庭園に響き渡ったセバスチャンの鋭い声に、レオナの肩がビクッと跳ねた。

 

 

 周囲の空気は完全に重く沈み込んでいた。誰も言葉を発さず、ただ固唾を呑んで二人の結末を見守っている。

 

 

 セバスチャンは静かに歩み寄り、冷徹な、しかしどこか悲しげな声で宣言した。

 

 

「レオナお嬢様の魔力切れ、および戦闘続行不可能を確認。……よってこの決闘、ケイン様の勝利とします」

 

 

 その宣言が下されても、庭園に歓声が上がることは一切なかった。平民が公爵令嬢に打ち勝つという大番狂わせが起きたにも関わらず、使用人や兵士たちは皆、暗い表情で俯いている。

 

 

 特等席に座るエレノアもまた無言のまま、ただ静かに娘の行く末を見届けていた。

 

 

「……っ」

 

 

 セバスチャンの言葉を聞き、レオナは杖を握っていた手からゆっくりと力を抜いた。ようやく自分の完全な敗北を悟ったのだろう。彼女は俯いていた顔を上げ、俺の方を見た。

 

 

 そして無理やり口角を引き上げ、取って付けたようなひどく不器用な笑顔を向けた。

 

 

「……お前、やっぱり……強いんだな!」

 

 

 震える声で必死に明るく振る舞おうとするその姿は、見ていて痛々しいほどだった。

 

 

「私の目に……狂いはなかった。お前に……私の専属騎士に……なってほしかった……なぁ……

 

 

 紡がれる言葉尻は一言ごとにどんどんと弱々しく掠れていく。

 

 

 そして、限界まで張り詰めていた糸がプツリと切れたように彼女の笑顔は崩れ落ちた。

 

 

 ポロポロとオレンジ色の瞳から再び大粒の涙が溢れ出す。

 

 

 しかし今度は先ほどのように子供っぽく声を上げて泣き喚くことはなかった。ただ静かに唇を噛み締め、声を出さずに涙を流し続けている。

 

 

 それはワガママな公爵令嬢の癇癪ではなく、一人の少女が抱えていた『孤独な夢』が完全に打ち砕かれた瞬間のあまりにも静かな絶望だった。

 

 

「…………」

 

 

 俺は声もなく泣き続けるレオナを前にして、スコップを突きつけたまま完全に硬直していた。

 

 

(……おい。なんだよこの空気)

 

 

 俺が勝ったんだ。これで金をもらって実家に帰って一生ニートできる。最高のハッピーエンドじゃないか。

 

 

 ここで「あぁ、そういうノリ…w」と冷笑してさっさと背を向ければいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 俺の口からはいつもの冷笑がどうしても出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──見事な戦いだったわ」

 

 

 重苦しい静寂を切り裂くようにエレノアの凛とした声が庭園に響き渡った。特等席から立ち上がった彼女は冷徹な視線を俺に向け、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「神聖なる決闘の結果は絶対よ。勝者であるケイン、あなたには『いかなる願い』も叶える権利が与えられる」

 

 

 その声には娘が敗北したことへの動揺も、悲哀も一切含まれていなかった。ただ公爵家当主としての事務的で冷酷な宣言だけがそこにあった。

 

 

「後ほど私の執務室へ来なさい。そこであなたの願い──実家への帰還と、褒美の金貨についての要求を正式に聞き入れましょう」

 

 

 それだけを言い残すとエレノアは踵を返し、颯爽とした足取りで屋敷の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れ込み、声を出さずに泣き続けている実の娘に一瞥すらくれることなく。

 

 

「……奥様」

 

 

 その背中へ向けてセバスチャンが静かに声をかけた。

 

 

「本当に、それでよろしいのですか?」

 

 

 それは執事としての確認ではなく、一人の人間としての、あるいはレオナを案じる者としての問いかけだった。

 

 

 しかし、エレノアの足が止まることはなかった。彼女はセバスチャンの言葉を完全に無視し、そのまま屋敷の重厚な扉の向こうへと姿を消してしまった。

 

 

「…………」

 

 

 当主が去った後も、庭園を支配する重たい空気が変わることはなかった。使用人や兵士たちは腫れ物に触れるかのようにレオナを遠巻きに見つめ、誰一人として声をかけようとしない。

 

 

 セバスチャンは悲しげに目を伏せている。

 

 

 そしてレオナは地面にへたり込んだままポロポロと涙を流し続けている。

 

 

 俺は黒いスコップを握り締めたままその場に立ち尽くしていた。

 

 

(……これで、いいんだよな)

 

 

 俺の願いは叶う。実家に帰って一生ニート生活を送れる。この面倒くさい貴族のドロドロした家庭事情ともこれでおさらばだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう頭では分かっているのに。俺の足はなぜか執務室へ向かって一歩を踏み出すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつまでもこのお通夜のような状態を続けるわけにはいかない。

 

 

 最初に動いたのはやはりセバスチャンだった。彼は静かに歩み寄ると、地面にへたり込んで泣き続けるレオナの小さな身体を労わるように優しく抱きしめた。

 

 

「……よく、頑張りましたね。お嬢様」

 

 

 その温かい声にレオナはセバスチャンの胸に顔を埋め、さらに強く肩を震わせた。

 

 

 セバスチャンはレオナの背中を撫でながら、俺の方へと視線を向けた。

 

 

「ケイン様、奥様がお待ちです。執務室へお向かいください」

 

 

「……”うん”」

 

 

 俺が短く答えるとセバスチャンは今度、周囲で立ち尽くしている兵士や使用人たちに向かってよく通る声で的確な指示を飛ばし始めた。

 

 

「皆さん! 庭園の修繕と片付けを! そちらの者はお嬢様のお着替えと休息の準備を急ぎなさい! いつまでも呆けている暇はありませんよ!」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

「急げ、すぐに取り掛かるぞ!」

 

 

 セバスチャンのその声で周囲の者たちはハッと我に返り、慌ただしく動き始めた。凍りついていた時間が再び動き出す。

 

 

 俺は黒いスコップを肩に担ぎ、庭園を後にしようと背を向けた。その背中へ向けて、セバスチャンが静かに言葉を紡いだ。

 

 

「──とても、素晴らしい戦いでした」

 

 

 俺は足を止めたが、振り返りはしなかった。

 

 

「ケイン様は将来必ずや、強く立派な騎士になれるでしょう」

 

 

 その声には仕える主を負かされたことへの当てつけや嫌味など微塵も含まれていなかった。ただ純粋に、一人の戦士としての実力を認める心からの褒め言葉だった。

 

 

(……騎士、ね)

 

 

 俺は一生働かないニートになるつもりだ、騎士になんて絶対になるもんか。今すぐにでもそんなくだらない言葉に冷笑して鼻で笑い飛ばしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、やはり今の俺はその言葉に対して冷笑を返すことができない。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 俺はセバスチャンの言葉に何も答えることなく、ただ無言のままエレノアの待つ執務室へと歩みを進めた。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました!

ケイお前……冷笑しない事ができたのか……

冷笑度について

  • 全てを冷笑。シリアス・人が死んでも冷笑
  • 全て冷笑は流石に面白くない。感動展開くれ
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