機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 宇宙世紀0088 最強のニュータイプは妹達を救うため、指先一つで宇宙世紀の歴史を貫く 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……暑い。アクシズの空調システム、また手抜きしてるんじゃないの?」
あたし、エルピー・プルは、居住区の公園にあるベンチでジュースの空き缶を弄んでいた。
本来、あたしのようなニュータイプ候補生は軍の厳重な監視下にあるはずだけど、あたしの「気」をそらして抜け出すなんて、造作もないことだ。
「プル様ぁ! どこにいらっしゃるのですか、プル様ぁぁ!」
遠くから、耳を劈くような絶叫が聞こえる。キャラ・スーンだ。
彼女は強化人間としての再調整(リマニピュレート)を受けすぎて、情緒がめちゃくちゃになっている。おまけに、あたしの放つ感応波(サイコウェーブ)を浴びると変なスイッチが入っちゃう、この基地で一番厄介な監視役なんだ。
「げっ、キャラだ。見つかったら、またお風呂で洗われちゃう」
あたしが逃げ出そうとしたその時、アクシズの静寂を警報音が切り裂いた。
『緊急警報。居住区第3ブロックにて、過激派工作員による武装蜂起が発生。暴徒は付近の物資貯蔵庫を占拠し、小型宇宙艇(ランチ)で脱走を図っています』
「……また、大人たちがケンカしてる。あっちに、逃げ遅れた子供たちの『震え』が聞こえるもん。……あたし、行ってくる!」
第3ブロック、物資搬入ゲートでは、武装した数人の工作員が、奪った作業用プチMSで暴れまわっていた。
「どけ! どかない奴は、このビーム・トーチで焼き切るぞ!」
暴徒が操るプチMSが、逃げ惑う女の子に向けてアームを振り上げた。あたしは駆け込みながら、足元に落ちていた10セント硬貨を拾い上げる。
「やめなよ!」
あたしが指先から放った電撃……意図的に操作した高圧電流が、プチMSのメイン・コンピューターを物理的に焼き切った。火花を散らして沈黙する機械。
「な、なんだ!? 故障か!?」
「……もうやめなよ。怖い思いをさせるのは、好きじゃないんだ」
工作員がハッチから身を乗り出し、銃をあたしに向ける。
けれど、放たれた弾丸があたしに届くことはない。あたしの周囲に無意識に展開されたサイコ・フィールドが、磁力によって弾丸の軌道を強制的に逸らしたからだ。
リーダー格の男は既に宇宙艇(ランチ)に乗り込み、ゲートを強引に開けてアクシズの外へと飛び出していった。
「逃がさないよ」
あたしはゲート付近のリニア・カタパルト用加速レールへと飛び乗った。
機体(キュベレイ)を出すまでもない。あたし自身の脳内にあるバイオ・センサーを、カタパルトの超伝導電磁石と直結させる。
「キャラ、耳を塞いでて!」
「あぁ……プル様! その凛々しいお姿! ですが、生身でそんな電力を……っ、ああ、脳が痺れますわぁ!」
追いかけてきたキャラが、薬の副作用で顔を真っ赤にしながら悶絶している。
あたしは構わず、右手に全神経を集中させた。カタパルトから吸い上げた膨大な電力が、あたしの指先に挟んだ10セント硬貨へと収束していく。
「いくよ……っ!」
あたしは親指で硬貨を弾き飛ばした。
「超電磁砲(レールガン)!」
閃光。
オレンジ色のプラズマを引いた硬貨は、宇宙の闇を切り裂き、逃走する宇宙艇のメイン・エンジンを正確に撃ち抜いた。
数時間後。
事件の事後処理を警備隊に押し付けたあたしは、いつものアイスクリームショップの前にいた。
「プル! 遅いぞ、せっかくのトリプルパフェが溶けちまうだろう!」
ジュドーが呆れた顔でパフェを差し出してくれる。
あたしはそれを一口頬張ったけれど、隣にいる「彼女」のせいで、味がよくわからない。
「お姉様ぁぁぁ! 先程のあの輝き! 私、もう……我慢できませんわ!」
キャラ・スーンが、完全に薬の反動でおかしくなった目で、あたしに縋り付いてくる。
「お姉様! 私の、私だけのお姉様! さあ、もっと……もっと私を導いて、ジャッジメントですのぉぉぉ!」
「……もう、キャラ、近いってば! ジュドー、助けてよ!」
白目を剥いてよだれを垂らしながら抱きついてくるキャラを、あたしはスプーンで器用にいなした。
あたしたちは、戦うために造られた。
でも、こうしてみんなと笑い合い、甘いものを食べている時だけは、あたしのこの力が「日常」を守るためにあるんだって、少しだけ信じられるんだ。
「ねえ、ジュドー。明日も一緒に遊んでくれる?」
宇宙世紀0088年。
最強の「電撃使い(エレクトロマスター)」としてのあたしの物語は、まだ始まったばかりだ。