機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
——先に言っておく。あたしは、そんなに強くない。
そう自分に言い聞かせた3秒後、目の前のプチ・モビルスーツが火花を上げて沈黙したのは、たぶん気のせいじゃない。
時間を巻き戻そう。宇宙世紀0088年、午後。
「……暑い。アクシズの空調、ぜったい誰かサボってる」
あたし、エルピー・プルは、居住区の公園のベンチで、空になったジュース缶を指先でくるくる回していた。本当ならニュータイプ候補生のあたしは軍の監視下にいるはずなんだけど、監視兵の意識をちょっと「そらす」くらい、あたしには朝ごはんより簡単なことなんだ。……別に、自慢してるわけじゃないもん。
「お姉さまぁぁぁどこですかぁぁお姉さまぁぁぁっ」
遠くから、鼓膜を殴ってくる絶叫。キャラ・スーンだ。
説明しておくと——彼女は強化人間としての再調整(リマニピュレート)を受けすぎて、情緒のツマミが全部「最大」に振り切れている。おまけに、あたしの放つ感応波(サイコウェーブ)を浴びると、頭の中で変なスイッチが入るらしくて、「お姉さま!」の直後に、なぜか治安維持局(ジャッジメント)の決め台詞を叫び出す。この基地で一番めんどくさい——じゃなくて、一番熱心なお目付け役だ。
「げっ。見つかったら、また『愛のお風呂タイム』に連行される……」
逃げ出そうとした、その瞬間だった。
『緊急警報。居住区第3ブロックにて武装蜂起が発生。工作員が物資庫を占拠。子どもを含む民間人が取り残されています』
あたしの足が、勝手に止まった。
だって——聞こえたんだ。ずっと奥のほうで、小さな子の心が、こきざみに震えている音が。
「……もう。大人って、どうしていっつも子どもの前でケンカするの」
気づいたら、走り出していた。
第3ブロックの搬入ゲートでは、作業用プチMSを奪った工作員が暴れていた。逃げ遅れた女の子に、無骨なアームが振り上げられる。あたしは走りながら、足元に落ちた10セント硬貨を拾い上げた。
「やめなよ」
指先から放った——意図して細く絞った高圧電流が、プチMSのメイン・コンピューターを内側から焼き切る。ばちん、と1発。それだけ。
「な、なんだ故障か!?」
飛んできた銃弾は、あたしに届かない。無意識に張ったサイコ・フィールドが、磁力ごと弾道をねじ曲げるから。
でも、リーダー格の男を乗せた小型宇宙艇(ランチ)が、ゲートを蹴破って外へ逃げていく。
「——逃がさないよ」
あたしはカタパルトの加速レールへ飛び乗った。キュベレイを出すまでもない。あたし自身の脳のバイオ・センサーを、超伝導電磁石に、直結する。
「キャラ、耳ふさいでてね」
「はいっお姉さまぁっ——お姉さまの凛々しいお姿ぁっ生身でそのような電力を扱われては、わたくし、感激で……感激で、いけませんわお姉さまっ、ジャッジメントですのぉぉぉっ!」
追いついてきたキャラが、あたしの感応波を浴びた途端、決め台詞のスイッチが入って絶叫している。
「あんたが叫ぶ台詞じゃないでしょ、それあたしの役目だから!ていうか、キャラのほうが年上でしょ!なんであたしがお姉さまなの!?」
「細かいことは宇宙(そら)の彼方ですわぁっ!」
……この人、いつもこうなんだ。かまわず、右手に全神経を集中する。レールから吸い上げた膨大な電力が、指に挟んだ硬貨へ収束していく。心臓が、痛いくらいに鳴る。
「いくよ——っ」
親指で、弾いた。
「超電磁砲(レールガン)」
——閃光。
オレンジのプラズマを引いた硬貨が宇宙の闇を斬り裂き、逃走艇のメイン・エンジンを正確に撃ち抜いた。爆散する光を、あたしは眩しそうに見上げる。
「……ふう。今日のぶんの、おしごと完了」
——その、直後だった。
爆発の残光が消えた搬入ゲートの隅で、あたしは一瞬だけ、自分に似た感応波を拾った。
振り返っても、そこには誰もいない。
「……気のせい?」
そう呟いたのに、胸のざわつきだけは、なかなか消えなかった。
数時間後。事後処理を警備隊に押しつけたあたしは、居住区で見慣れない少年を見つけた。
急いでいるのに、どちらへ行けばいいのかわからない。そんな顔をしている。あたしが近づくと、少年は警戒するように振り返った。
「ねえ。お兄ちゃん、迷子?」
「お兄ちゃんって……俺はジュドー。人を捜してるんだ」
その声の奥に、切実な焦りがあった。あたしは、なぜだか放っておけなかった。
「だったら、あたしが案内してあげる。ここ、初めてでしょ」
「お前、誰なんだよ」
「あたしはプル。エルピー・プル。ほら、早く行こうよ、お兄ちゃん」
あたしは彼の手を引いて、宮殿へ向かった。そこで誰に会うことになるのかも、ジュドーがあたしのキュベレイMk-IIを知ることになるのかも、このときのあたしは考えていなかった。
ただ、知らないはずの少年が、どうしてこんなに気になるのか。それだけが、胸に残っていた。
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