機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年。
小惑星基地アクシズ、居住区・臨時医療ブロック。
静かな人たちの声ほど、いちばん大きく、胸に響く。あたしは、この日、それを思い知った。
ずらりと並んだベッド。そのどれにも、目を閉じたまま動かない人たちが横たわっている。声を上げることも、助けを求めることもできない――文字どおりの、沈黙の大多数(サイレント・マジョリティ)。
「プルさん、集計が終わりました。……レベルアッパーの犠牲者、確認できただけで、もう1000人を超えています。そのほとんどが、いまも昏睡状態のまま、目を覚ましません」
ミリィ・チャイルドの声が、いつもより低い。頭の造花の髪飾りが、今日はなんだか、しおれて見えた。
「……みんな、ちょっと力が欲しかっただけなのに。こんなの、あんまりだよ」
あたし――エルピー・プルは、眠り続ける少年の、冷たい手を握った。この子も、昨日まで、能力に憧れる普通の男の子だったはずなのに。
その時、脳の奥で、チリ、と嫌なノイズが走った。眠る人たちの、行き場をなくした思念。それが、ひとつ、またひとつと、見えない場所で寄り集まっていくような――低くて、重い、圧。
「ミリィ……今の、感じた? みんなの『眠ったままの気持ち』が、どこかで集まってきてる気がするの」
「はい。……微弱ですが、確かに。ネットワークは砕けたはずなのに、残された思念が、まだ、どこかで渦を巻いています」
そのとき、病棟の隅から、遠慮がちな声。フードを目深にかぶった、ジュドーだ。潜入者の彼は、人目を避けて、回復した妹リィナの様子を見に来ていた。
「プル。……リィナはもう大丈夫だ。ちゃんと目を覚ました。けど、ここで眠ってる連中は、誰も起きねえ。医者もお手上げだとよ」
「うん。……ねえジュドー。あたし、この静かな人たちの声を、絶対に聞き逃しちゃいけない気がするの」
その時だった。眠る人たちの生体モニターが、いっせいに、不規則な波形を描き始めた。ピー、ピー、と鳴り響く警告音。
「お姉さまっ、大変ですわ! 昏睡者たちの脳波が、また一斉に乱れて――これはっ、治安維持局(ジャッジメント)として、見過ごせませんのっ!」
「キャラ、今の発動タイミングはギリ合ってる……けど、それどころじゃないよ!」
眠る人たちの脳波が、まるで見えない糸に引かれるように、ひとつの方向へ、ひとつのリズムへと、揃っていく。あたしのバイオ・センサーが、悲鳴のように、それを告げていた。
「……誰かが、この人たちの『眠ったままの心』を、まだ利用しようとしてる。砕けたネットワークの、残りカスを、かき集めて」
「発信源、特定できます」
ミリィの指が、高速で端末を叩く。
「第13レーザー通信塔の、下層フロア。……そこに、まだ回線が生きている。誰かが、隠し部屋で、レベルアッパーの心臓部を動かし続けています」
あたしの脳裏に、白衣の男の影がよぎった。レベルアッパーを作った、あの科学者。ローレン・ナカモト。
「……ミリィ。この静かな人たちを救えるのは、たぶん、その心臓部を止めることだけ。あたし、行く」
「プル、俺も――」
「ううん、ジュドー。あんたはリィナといて。潜入者のあんたが表で捕まったら、元も子もないもん。……大丈夫。これは、あたしの仕事だから」
宇宙世紀0088年。声を奪われた人たちの、静かな叫び。その渦の、いちばん奥へ。
あたしは、たった一人、通信塔の下層へと駆け出した。眠ったまま泣いている、みんなの声を、迎えに行くために。