機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年。
小惑星基地アクシズ、第13レーザー通信塔・下層フロア。
悪い人だと思っていた。でも、悪い人になるしかなかった人がいる。あたしは、それを知ってしまった。
暴走するレベルアッパーの端末を追って、あたし――エルピー・プルは、ローレン・ナカモトの隠し研究室に踏み込んでいた。
「ここまで来たか、検体番号001」
白衣の男が、振り返りもせずに言う。彼の周りには、1万人分の脳波を束ねるマスター・ユニットが、脈打つように青白い光を放っていた。
「ローレン・ナカモト。もうやめて。あなたのやってることは、みんなの心を――」
「みんな?」
彼が、初めてあたしを見た。その瞳の奥に宿っていたのは、狂気じゃなかった。もっと深い、底のない、悲しみだった。
その時、あたしのバイオ・センサーが、彼の端末から流れ出す膨大な記憶の断片を、勝手に拾い上げてしまった。――地球の、オーガスタ研究所。数年前の映像。
「……子ども、たち……?」
モニターに映っていたのは、まだ被検体になる前の、幼い孤児たちの笑顔だった。ローレンは彼らの教官として、あたたかい眼差しで、宇宙(そら)のことを教えていた。
「そう。ニュータイプの素養を持つ、身寄りのない子どもたちだ。私は、あの子たちに勉強を教える、ただの教官だった。……連邦軍の上層部が、彼らを“生体CPU”として使い潰すと決める、その日までは」
映像が切り替わる。不完全なサイコミュ・システムを強制接続された子どもたちが、過負荷で、次々と精神を焼き切られていく。脳波がフラットになり、ただ眠り続けるだけになった教え子たちを前に、映像の中のローレンは、泣き叫んでいた。
「連邦は事故を隠蔽し、あの子たちの治療を打ち切った。冷凍睡眠という名の、廃棄処分だ。……私は、あの子たちを、もう一度目覚めさせたい。ただ、それだけなのだ」
1万人の脳を束ねる、巨大な演算能力。それは兵器じゃなく――眠り続ける教え子たちの意識を、もう一度呼び戻すための、鍵だったんだ。
「……気持ちは、わかるよ。あたしにも、地下で眠ってる妹達がいるから。目を覚ましてほしい。守りたい。その気持ちは、痛いくらいわかる。……でも、先生」
あたしは、拳を握りしめた。
「誰かの心を眠らせて、別の誰かを起こすなんて。そんなの、あの子たちが、いちばん悲しむよ。目を覚ました教え子に、先生、胸を張れるの?」
ローレンの指先が、止まった。ほんの一瞬、彼の顔が、あの映像の中の――優しい教官の顔に、戻った気がした。
「……お姉さまっ、いけません! 敵の情に絆されては――ですが、その慈悲深さこそ、治安維持局(ジャッジメント)の誇り、ですのっ!」
背後で、キャラ・スーンが叫ぶ。相変わらず発動タイミングが独特だけど、今日は、その声に助けられた。あたしは、我に返る。
「……ごめんね、先生。止めるのは、今なの」
あたしは、指先に全神経を集中させた。マスター・ユニットの、たった一点。1万人を縛る、その中枢へ。
「超電磁砲(レールガン)――ッ!」
閃光。硬貨がマスター・ユニットの核を正確に撃ち抜き、青白い光が、ばちりと爆ぜて、沈黙した。ローレンが、糸の切れた人形のように、膝をつく。
「……そう、か。私では、あの子たちを……」
「大丈夫。あたしが、あなたの代わりに、眠ってる子たちを守るから。妹達も、先生の教え子も、ぜんぶ。……だから、もう、泣かないで」
崩れ落ちるローレンの肩に、そっと手を置く。ネットワークは砕けた。事件は、終わった。――そう、思っていた。
宇宙世紀0088年。悲しみが生んだ計画は、あたしの指先で、確かに止まったはずだった。
けれど。行き場をなくした1万人分の思念が、砕けたネットワークの残骸の中で、ゆっくりと、ひとつに溶け合い始めていることに。この時のあたしは、まだ、気づいていなかった。