機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
平和な日常回、というものがある。……はずだった。今日はそういう回。……のはずだった。
宇宙世紀0088年。居住区のショッピングモール。あたし、エルピー・プルは、ブティックの試着室で鏡とにらめっこしていた。レベルアッパー事件の慰労として、イリアさんが人工ビーチの利用許可をくれたのだ。
「ねえミリィ、この水着、ちょっと背中が空きすぎじゃない?」
カーテン越しに不安な声をかけると、ミリィ・チャイルドの、軍のオペレーターみたいに冷静で断定的な声が返ってきた。
「何を言っているんですか、プルさん。よく聞いてください。ビキニは目線が上下に分かれますけど、ワンピースは体のラインが出ますから、要するに“堂々としていられる人”しか着こなせないんですよ。プルさんは、堂々としているべきです」
「……そ、そういうもんなの?」
「ええ。こういう自己プロデュースには、みんな積極的になるべきなんです。余計な装飾で誤魔化さないワンピースこそ、真の強者の装備なのです」
ミリィのあまりに論理的な主張に、あたしは「へぇー」と納得しかけていた。この子、たまに謎の理論で人を動かす天才だ。
「お姉さまぁっミリィの言う通りですわ!さあ、その勇姿をわたくしの記録装置に永久保存を——ジャッジメントですのっ!」
「記録するな!あと決め台詞の使いどころ完全に見失ってるよ、キャラ!」
今日は、無事に救出されたジュドーの妹・リィナも一緒だ。ただし、ジュドー本人は「エゥーゴの潜入者」だから、人目のあるビーチには出られない。今頃、隠れ家でひとり、拗ねているだろう。ちょっとだけ、可哀想。
夕暮れどき。人工太陽がオレンジに陰る頃、あたしは飲み物を買いに、1人でビーチ裏手の自販機コーナーへ向かった。
——その時。
あたしの脳内を、鋭い痛みが走った。あたしの波長と、寸分違わぬ感応波。でもその質は、あたしのあたたかさとは真逆の、絶対的な零度。
「……プルツー」
振り返った自販機の影。そこには、あたしと全く同じ赤いワンピースを着た少女が立っていた。彼女はあたしを一瞥もせず、隣の販売機で、あたしが一番好きなブランドのソーダを買った。
「……ねえ、あんた、プルツーなんでしょ。あたしの、妹の」
少女がゆっくり顔を向けた。街灯の下に晒された横顔は、鏡を見ているのかと錯覚するほど、あたし自身だった。けれどその瞳には、感情を排除した、冷たい紅が灯っていた。
「……“妹”という概念を、理解できない。わたしは、姉さんの、予備。姉さんが壊れた時に、姉さんに“成り代わる”ために造られた、複製体。……つまり、わたしは、姉さんが、いなくなればいい、と、願う存在。オーバー」
「そんなの……そんなの、あたしが許さない!あんたは、あんただよ!あたしの、代わりなんかじゃない!」
少女の指先が、ほんの一瞬、震えた気がした。けれど、彼女はあたしの横を、風のように通り抜ける。すれ違いざま、肌に触れたのは、生きている人間とは思えないほど冷え切った、死の気配。
「待って!プルツー!」
角を曲がった時、そこにはもう、人っ子1人いなかった。ただ、地面に飲みかけのソーダ缶が転がっているだけ。あたしが一番好きな、あの味の。
「……あの子、あたしと、同じ味が、好きなんだ」
胸が、ぎゅっと痛んだ。
「……プル?」隠れ家から様子を見に来ていたらしいジュドーが、フード姿で駆け寄ってくる。「今の子……お前と、同じ顔だったぞ」
「うん。あたしの、妹。……ねえジュドー。あんたが、リィナを迎えに来たみたいに。あたしも、あの子を、迎えに行かなきゃ。たった1人ぼっちのままには、しておけないの」
ジュドーは、少しだけ考えて、それから頷いた。「……わかった。今度は、俺がお前を手伝う番だな」
——ソーダ缶に刻まれたシリアルナンバーを拾い上げたあたしは、息を呑む。それは、あたしの検体番号「001」の、次の数字「002」だった。……そして、その数字の続きは、まだ、何十も、眠っている。