機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
掃除機ですら、一歩間違えれば凶器に変わる。ここは、そういう場所だ。
宇宙世紀0088年。短期休暇も終盤。あたし、エルピー・プルは、イリア・パゾムから課された「感応波再調整講習」の補習に追われていた。
「もう!なんであたしまで居残り訓練なのよ!」
シミュレーターのシートを蹴飛ばすあたしに、隣のレーンから聞き覚えのある高飛車なプレッシャー。
「あら、お姉さま。奇遇ですわね。このわたくしも、バイオ・センサーの出力が安定しすぎて“参考データが取れない”という理由で呼び出されましたの。これも宇宙の導き、愛のデスティニーですわ」
「はいはい、愛のデスティニーね……。ミリィ、まだ終わらないの?」
「プルさん、もう少しだけ我慢を。今、居住区のメンテナンス用自動機『メディック・クローラー』たちが、何者かのハッキングで制御不能になっているんです。暴走した機体が、第13資材倉庫の“サイコミュ・チップの予備端材”を回収して、自分たちの装甲に取り込み始めました」
サイコミュ用デバイス。人の意志を物理的な圧力に変換しかねない禁忌の素材。それを自動機が纏えば、ただの掃除機械が「意志なき自律兵器」に化けてしまう。
「これはジャッジメントの出番ですわ!アクシズの平和と、わたくしたちのパフェタイムを守るために——治安維持局、ですのっ!」
「その決め台詞は……まあ、今回は正しい。行くよキャラ!」
地下通路を駆け抜けると、サイコミュ・チップの破片を無骨なアームで溶接し、青白い光を放ちながら巨大化していくメンテナンス機がいた。
「……あいつがキャラのプレッシャーを感知して動いてるなら、あたしが動きを止める!」
あたしはわざと感応波をゼロまで絞り、気配を消して背後に回り込んだ。機械には感情がない。けれど、サイコミュが介在するなら、そこには「思念の淀み」が生じる。
「そこっ」
バイオ・センサーを一点に集中させ、動力源へ鋭いプレッシャーの針を打ち込む。一瞬の硬直。その隙を逃さず、キャラの回し蹴りが基幹ユニットを粉砕した。
「……ふぅ。掃除ロボット相手に、本気になっちゃったじゃない」
「プルさん、キャラさん、制圧確認しました。補習の続きは……明日に回しましょうか」
——その帰り道。あたしは、地下施設の一室に「あすなろ園」という古い看板を見つけた。中を覗くと、そこには、冷凍睡眠から目覚めたばかりの子供たち——ローレン先生の、かつての教え子たちが、寄り添って眠っていた。テレスティーナの実験から、ローレン先生が命がけで逃がした子たち。そして、その中には、無事に救出されたはずのリィナと、隠れ家を抜け出してきたジュドーの姿もあった。
「ジュドー!?なんでここに——」
「あすなろ園の子たちが、また検体保護部隊に狙われてるって、リィナが。……放っておけるかよ。俺の妹を助けてくれた、恩人みたいな場所だ」
そして、その子供たちの中に。あたしと同じ顔をした少女が、1人だけ、ぽつんと座っていた。膝を抱えて。誰とも、目を合わせずに。
「……プルツー」
少女は、びくりと肩を震わせた。逃げ出そうとする彼女の手を、あたしはとっさに掴む。
「待って。もう、逃げないで。……あんた、テレスティーナのところから、逃げてきたんでしょ」
「……離して、姉さん。わたしは、“妹達・ネットワーク”の、制御端末。わたしがここにいると、この子たちの居場所が、テレスティーナに、知られる。……わたしは、みんなを、危険にする、存在」
消え入りそうな声。あたしは、その手を、もっと強く握った。
「あんたは、危険なんかじゃない。ローレン先生が逃がしたこの子たちを、あんたが、ここまで守ってきたんでしょ?……センサーでわかるもん。あんたの波長、ずっと、この子たちを、抱きしめてる」
プルツーの紅い瞳が、大きく揺れた。初めて見る、人間らしい、動揺。
「……なんで。なんで、姉さんは。わたしを、いらない子だって、思わないの」
「妹を、いらないなんて思う姉が、どこにいるのよ。……ていうか、年上のキャラにまで『お姉さま』って呼ばれてるあたしが言うんだから、間違いないの。姉ってのは、そういうものなの」
その時。あすなろ園の外壁が、轟音とともに吹き飛んだ。瓦礫の向こうに立っていたのは、黒く巨大な影——検体保護部隊のMS。そして、冷たく響く、女の声。
「見つけたわ、私の“制御端末”。……それと、原型(オリジナル)も。ついでに、そこの潜入者と、逃げ出した燃料どもも。ちょうどいい、まとめて回収させてもらうわね」
テレスティーナ・ライフラインの、狩りが、始まった。