機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

19 / 21
盛夏祭

兵器であるはずの機体が、あんなにも優しく光った夜を——あたしは、一生忘れない。

 

宇宙世紀0088年。今日はネオ・ジオン建国を祝う「盛夏祭」。居住区には巨大なホログラムの旗がたなびき、殺風景な軍事施設も今日ばかりは華やかな祭典の会場だ。

 

あたし、エルピー・プルは、ステージ裏のハンガーで、式典用塗装が施されたキュベレイMk-IIのコクピットにいた。

 

「ねえミリィ、やっぱりあたし、バイオリンなんて柄じゃないよ!操縦桿握ってる方がずっと落ち着くもん!」

 

「何を言っているんですか。今日のメインは、プルさんのバイオリン演奏と、キュベレイのバイオ・センサーを連動させた“感応波発光実演”です。アクシズ住民に、強化人間の力が『平和のためにある』と示す、大事な広報任務ですよ」

 

ミリィ・チャイルドが、あたしの機体とステージの音響をリンクさせる。彼女は今日、あたしの旋律に合わせてキュベレイの光を制御する演出担当だ。

 

「お姉さま!わたくしのR・ジャジャも、背景で愛のプレッシャーを放出する準備は万端ですわ——ジャッジメントですのっ!」

 

「お祭りに治安維持は関係ないってば、キャラ!でも……まあ、今日は、その元気に助けられるかも」

 

観客席には、リィナがいる。そして、その隣——群衆にまぎれて、フードを目深にかぶったジュドーの姿も。エゥーゴの潜入者が、敵の建国祭に紛れ込んで、あたしの演奏を聴きに来ている。バレたら大事件。でも、あたしは、その無茶が、ちょっとだけ嬉しかった。

 

弓を、引いた。旋律が響き渡ると同時に、ミリィがバイオ・センサーの同調率を上げていく。あたしの心が音に乗るたび、キュベレイの肩部バインダーから、青白い光の粒が蛍のように舞い上がった。強化人間の感応波を視覚化した、この世で最も美しい「サイコ・フィールドの輝き」。

 

(……ああ、みんなの心が伝わってくる)

 

バイオ・センサーを通じて、観客の喜びや、束の間の安らぎが流れ込んでくる。戦うためのサイコミュが、今はただ、みんなを笑顔にするための光に変わっていた。

 

——けれど、その光の向こう側。

 

あたしのセンサーは、会場のいちばん端、群衆にまぎれて立つプルツーの姿を、はっきりと捉えた。あすなろ園の襲撃のあと、テレスティーナから逃げ延びた妹。彼女は、この温かい光を、まぶしそうに、けれど、うらやましそうに、見つめていた。

 

あたしは、演奏しながら、心の中で語りかけた。

 

(……ねえ、プルツー。この光は、あんたのぶんでも、あるんだよ。だから——見てて。あたし、あんたを、必ず、こっち側に連れてくるから)

 

一瞬。ほんの一瞬だけ。プルツーの冷たい紅の瞳から、光る何かが、頬を伝った気がした。彼女は慌てて顔を伏せ、群衆の中に消えていく。

 

演奏が終わると、アクシズの空を埋め尽くさんばかりの拍手が沸き起こった。

 

「プルさん、大成功です!感応波の波形も、今までで一番安定しています!」

 

ミリィの声が弾む。キャラは興奮してR・ジャジャの砲門を(空砲で)空に向けてぶっ放し、「祝砲ですのぉっ!」と叫んで、あとでイリアさんにこっ酷く怒られるんだけど、今はどうでもよかった。

 

群衆の中のジュドーが、フードの下で、ぐっと親指を立ててくれた。あたしは、こっそり手を振り返す。……いつかこの光が、アクシズを飛び出して、宇宙(そら)の全部を——そして、妹達の凍った心の全部を、包み込む日まで。

 

——けれど。祭りの喧騒が最高潮に達したその時。基地各所で、原因不明の構造振動が始まった。物理的な衝撃を伴わず、隔壁が“内側から”弾け飛ぶ、不気味な現象。

 

それは、テレスティーナがついに“妹達・ネットワーク”を起動させた、悪夢の始まり——のちに「サイコミュ共振(ポルターガイスト)」と呼ばれることになる、大惨事の幕開けだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。