機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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炎天下の作業には水分補給が必須ですのよ

結論から言う。人工太陽は、たまに正気を失う。

 

宇宙世紀0088年。小惑星基地アクシズ、第7ブロック。夏季シミュレーション中の人工太陽が最大出力を維持し、ドーム内は摂氏32度超え。空調の排熱がこもった通路は、もう完全に蒸し風呂だった。

 

「あーもう、環境維持局は何やってんのよ。これじゃパフェが届く前に溶けちゃう!」

 

あたし、エルピー・プルは、士官宿舎の一室で不満を爆発させていた。ここはあたしと、監視役兼ルームメイトのキャラ・スーンとの共同部屋。ネオ・ジオンは、調整を受けた個体同士を同居させて、その精神干渉を観測しているんだって。……つまり、あたしの日常は、常に誰かの実験ノートに書かれてるってこと。ちょっとやだ。

 

「お姉さま、何を仰いますの。この熱気こそ、わたくしたちの絆を燃え上がらせる最高のスパイスですわぁっ」

 

「わわっ暑苦しいってば!離れて!近い、近いってば!」

 

あたしが押しのけると、キャラは至福の表情で抱きついてくる。年上のはずなのに、過剰な再調整の影響か、あたしを「お姉さま」と呼んで片時も離れない。あたしのバイオ・センサーは、彼女の熱量を浴びて常時警告アラートを鳴らしっぱなしだ。

 

「だいたい、あんたのほうが年上なんだからね!?なんであたしが妹みたいに『お姉さま』って呼ばれてるのよ!」

 

「愛に年齢は関係ございませんわお姉さまぁっ——ジャッジメントですのぉっ!」

 

「だから、それあたしの決め台詞だってば!勝手に発動しないで!」

 

今日はあたしたち、治安維持局(ジャッジメント)の巡回当番だ。パイロット候補生にも割り振られた実地訓練。要するに、基地の秩序を乱す不穏分子を見つけるお仕事。

 

……で、あたしには今、その「不穏分子」を1人、こっそり匿っているという、とんでもない後ろめたさがあった。昨日のジュドー。あの、妹を探しに来たエゥーゴの潜入者。バレたら、あたしまで軍法会議ものだ。

 

(……大丈夫。あたしのバイオ・センサーで、いつでもあの子の居場所は追える。危なくなったら、逃がせばいい)

 

そう自分に言い聞かせながら巡回していると、居住区の管制モニターの前を通りかかった、その時。ノイズ混じりの軍事訓練映像が、一瞬だけ切り替わった。

 

薄暗い保管区画。整然と並ぶ、無数の調整槽(カプセル)。その1つ1つの、淡い緑の光の中に、静かに眠る少女の影。10体。いや、もっと。——全員、あたしと、同じ顔だった。

 

「……っ!?キャラ、今の見た!?あれ、あたしの顔が、いっぱい……眠ってる……!」

 

「まあお姉さま、暑さで幻でも?そんな可愛らしいお顔が量産されているなんて、わたくし嫉妬でアクシズを焼き尽くしてしまいますわ」

 

キャラは笑い飛ばす。でも、映像はもう、通常の警備画面に戻っていた。まるで、見せてはいけないものを、慌てて隠したみたいに。

 

あたしのニュータイプの知覚は、確かに拾っていた。研究区の奥底から漂う、「自分と同じ波紋」の群れ。ひとつじゃない。いくつも、いくつも。冷たく、規則正しく、脈打っている。ぞわり、と背筋が凍った。

 

そのとき、脳内のセンサーが鋭い敵意を捉えた。配電管制センター。作業員を装った男たちが、ミノフスキー粒子散布機に不正なデバイスを仕込んでいる。特定周波数を増幅して、市民の脳波に直接干渉し、暴動を起こすつもりだ。

 

「治安維持局です。その汚い手、いますぐ上げなさい」あたしが凛と告げる。

 

返事は、銃口と、遠隔操作のプチMSだった。

 

「邪魔をするな、我々はネオ・ジオンの真の夜明けを——」

 

「理屈はあとにして。暑くて死にそうなの、早く終わらせよ」

 

放たれた銃弾を、あたしは感応波の弾道予測でほんの少し体を捻って躱す。

 

「な……弾を避けただと、化け物か!」

 

「化け物じゃないもん。あたしは、プルだよ」

 

メンテナンス・パネルに触れ、意識をダイブさせる。あたしの感応波がバイオ・センサーを通って電子回路へ潜り込み、プチMSの制御OSに過負荷の信号を叩き込む。ばちり。沈黙。逃げる男たちのブーツの金属を、床の電磁ロックで吸着させて、はい、確保。

 

「お姉さまの捕縛、お見事ですわぁっ——ジャッジメントですのぉっ!」

 

「だから、それあたしの台詞……もういいや。水分補給、必須だね」

 

事件解決後、詰所で冷えた合成レモン水を飲む。キャラがコップに氷を足してくれた。

 

「お姉さまの戦いぶり、今日も見事でしたわ。……その凛々しさ、わたくしのセンサーが焼き切れそう」

 

「ありがと。ねえ、このあとパフェ食べに行かない?」

 

——なんて、いつも通りの一日で終わればよかったんだ。

 

その夜。あたしはこっそり宿舎を抜け出して、ジュドーが隠れている旧配管区画へ、合成レモン水と携行食を届けに行った。

 

「……よ。まさか、敵のジャッジメントに差し入れされる日が来るとはな」ジュドーが苦笑する。

 

「敵じゃないもん。あたしが匿ってる間は、あんたは、あたしの『捕虜』。捕虜には水分補給が必須なの」

 

「なんだそりゃ」

 

笑い合った、その時。あたしの脳裏に、あの「波紋」が響いた。人工の夜の底から、あたしと寸分違わぬ波長が——たった1つ。ゆっくりと、目を覚まそうとしている。冷たくて、意思のない、機械みたいなそれ。

 

そして、その1つが、あたしに向かって、はっきりと囁いた気がした。

 

『……姉さん』

 

「……え?」

 

あたしは、暗い天井を見上げた。ジュドーが探す妹と、あたしと同じ顔の妹。アクシズの闇は、あたしが思っているより、ずっと深いのかもしれない。

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