機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
数字をひとつ上げれば、人は幸せになれる。そんな話を、あたしは信じない。
第5層の旧型サイコミュ試験場は、入口からして妙だった。警備用の無人機が通路を塞いでいるのに、攻撃してこない。ただ、あたしが右へ動けば右へ、左へ動けば左へと、同じ間隔を保ってついてくる。
「こっちの動き、読まれてる?」
『プルさん、無人機の制御信号が調整槽のある区画から出ています』
ミリィの報告に、操縦桿を握る手が強張った。壁の向こうで眠る子たちの感応波を、機械の目として使っているんだ。無人機を壊せば、その負荷があの子たちへ戻るかもしれない。
「キャラ、撃たないで。まず、みんなを安全な場所へ逃がして」
『承知しましたわ。お姉さまも無茶はなさらないで』
キャラのR・ジャジャが避難路の隔壁を支える。あたしはキュベレイMk-IIを無人機の前で止め、バイオ・センサーの出力を落とした。攻撃する気がないと伝わるかはわからない。それでも、誰かの声を聞くには、こちらが静かになるしかなかった。
無人機の列が一瞬、揺れた。通信に、かすれたノイズが混じる。
『……いたい』
「聞こえた。ミリィ、今の声、どの調整槽から?」
『複数です。信号が混ぜられていて、まだ特定できません』
奥の扉が開き、制御盤の前にテレスティーナが現れた。画面には被験者の名前ではなく、出力の数字だけが並んでいる。
「これだけの演算能力を使って、ようやく次の段階が見えるのよ」
「あの子たちが痛がってるの、聞こえないの?」
「装置の反応よ。あなたが気にする必要はないわ」
あたしは言い返すより先に、調整槽の列を見た。ひとつの波に押し込められていても、脈拍はひとりずつ違う。指を握り返すこともできないまま、あの子たちはここにいる。
『プルさん、制御盤を急停止すると調整槽の維持装置も落ちます。回線を一本ずつ切り離します』
「お願い。あたしは、逆流しないように見てる」
そのとき、無人機の一機があたしの進路へ飛び出した。避ければ、後ろの避難路へ向かう。あたしは機体を横にして通路を塞ぎ、装甲で衝撃を受けた。警告音が鳴る。
『お姉さま、機体が損傷していますわ!』
「平気。あの子たちに返る衝撃より、こっちで受けたほうがいい」
言い終える前に、もう一度ぶつかってきた。操縦桿が手の中で跳ねる。怖くないわけじゃない。でも、ガラスの向こうの子たちは、逃げることさえ選べない。あたしには、まだ選べる。
『切り離しの順番、決まりました。いちばん負荷の高い回線からです』
ミリィの声を聞き、あたしは息を整えた。焦って力を出せば、同じことを繰り返してしまう。速さを競うんじゃない。誰も置いていかないために、ひとつずつ進むんだ。
ミリィの指示に合わせ、あたしはバイオ・センサーを受信に切り替えた。強い声を送るんじゃない。途切れそうな声を、どこへ戻せばいいのか確かめる。最初の回線が切れたとき、無人機が一機、膝をついた。
『負荷、低下。次に進めます』
二本目、三本目。テレスティーナが別の操作を始めると、キャラが機体を制御盤との間へ滑り込ませた。
『こちらはお任せを。お姉さまは、その子たちを』
「うん」
あたしはガラス越しに呼びかけた。
「聞こえる? あたしはプル。あんたたちを数字で呼びたくない。起きたら、呼ばれたい名前を教えて」
返事はない。けれど最後の回線が切れたとき、あの『いたい』という声は消えた。調整槽の維持灯は、ひとつも落ちていない。
「終わった、の?」
『装置は止まりました。ただ、容体の確認はこれからです』
あたしは操縦桿から手を離した。勝ったとは言えない。あの子たちはまだ眠っている。それでも、もう誰かの数字を上げるために、苦しい声を出さなくていい。
試験場を出る前、あたしは記録画面をもう一度見た。空欄のままの名前が、ずらりと並んでいた。目を覚ましたら、ひとりずつ聞こう。好きなものも、嫌いなものも、どこへ行きたいかも。あたしが決めるんじゃなく、あの子たち自身の言葉で。
お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!