機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
制御盤が止まっても、すぐには誰も目を覚まさなかった。
医療区画のガラス越しに、あたしは並んだ調整槽を見つめる。試験場から運び出された子たちは、まだ眠っている。さっきまで出力の数字しかなかった画面には、今は一人ずつ別の脈拍が刻まれていた。
「……ミリィ。この子たち、大丈夫かな」
「経過を見ないと、まだわかりません」
正直な答えだった。だから、あたしも簡単に「大丈夫」とは言えなかった。
調整槽の前で立ち止まると、ガラスにあたしの顔が映る。その向こうに、よく似た顔がいくつも重なった。似ているから、つい同じように考えてしまう。でも、さっき聞こえた声は、ひとつじゃなかった。
「お姉さま。少し休まれては?」
キャラが温かい飲み物を差し出した。受け取ろうとして、あたしは自分の手が震えているのに気づく。
「止めるの、遅かったかもしれない」
「それは、今ここで決められることではありませんわ」
キャラの声は、いつもより静かだった。あたしはカップを両手で包み、しばらく湯気を見つめた。
ミリィが端末を持って戻ってくる。
「調整槽ごとの記録を分けました。番号だけでは取り違えるので、今は位置と容体を一件ずつ照合しています」
画面を覗くと、どの欄にも『名前:未確認』とある。あたしは最初の一件を開いた。眠っている子の手が、毛布の端を小さく握っている。
「この子、寒いのかな」
「室温は安定しています。でも、毛布を直してきますね」
看護担当の人が、そっと毛布をかけ直した。あたしはその動作を目で追った。大きな装置を止めるより、ずっと小さなこと。それなのに、今のあたしには、その一枚が大事に見えた。
あたしはミリィに頼んで、試験場から持ち出した記録も見せてもらった。どの子も同じ欄に同じ言葉が並び、違いといえば数字だけ。読んでいるうちに、胸の奥が重くなる。
「これ、全部残しておくの?」
「治療に必要な情報は残します。でも、これだけでその子を説明したことにはしたくありません」
「うん。あたしも」
ミリィは画面を閉じず、別の欄を開いた。医療担当の人が今日見たことを、短い言葉で書き足せる場所だった。あたしは毛布を握る手のことを伝える。ミリィは『手前の子、毛布の端を握る』と記した。
たった一行。でも、試験場にあった出力の一覧には、絶対に載らなかった一行だ。あたしはその文字を見て、ようやく少しだけ息ができた。
「お姉さま。今、何が見えますの?」
「眠ってる子たち。……それから、あたしたちがまだ知らない、この子たちの名前」
キャラは隣に立ったまま、続きを待ってくれた。
「さっきは、助けなきゃってことばかり考えてた。でも、助けたつもりになって終わりにしたくない。目を覚ましたら、何が好きか、何をしてほしくないか、ちゃんと聞きたいんだ」
「では、その日まで見守りましょう」
「うん。一緒にね」
ミリィが新しい記録用の欄を作る。『本人に確認したこと』。そこはまだ空白だった。あたしは、勝手に何かを書き込みたい気持ちをこらえた。あの子たちの答えを、あたしが先回りして決めるわけにはいかない。
夜が更け、医療区画の照明が少し落ちる。帰り際、あたしはガラスに手を当てた。
「おやすみ。明日も来るよ」
そのとき、いちばん手前の子が握っていた毛布が、ほんの少し動いた。あたしは息を止めたけれど、目は開かない。偶然かもしれない。ミリィも、今は判断できないと言った。
それでいい。確かめられることを、明日も確かめよう。今見えているのは、戦いの結末じゃない。これから向き合う、ひとりひとりだ。
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