機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
力は、誰かを支配するためにあるんじゃない。大切な人の目に映る「平和」を守るために、この光はあるんだ。
宇宙世紀0088年。中央シャフト。テレスティーナ・木原・ライフラインが駆るクィン・マンサと、あたしたちの決戦は最終局面を迎えていた。彼女は“妹達・ネットワーク”から吸い上げた感応波を増幅し、機体各所のメガ粒子砲から放つエネルギーをレフレクター・ビットで偏向させ、アクシズの構造物そのものを粉砕しようとしていた。
「ハハハ!消えなさい、プル!君たちのような失敗作の姉妹も、余所者の潜入者も、この忌々しいアクシズも、全て私の研究の塵になればいいのよ!」
無数のビームが、あたしのキュベレイMk-IIを襲う。
「……あたしたちは、失敗作なんかじゃない!ローレン先生も、ミリィも、キャラも、ジュドーも、プルツーも、妹達も……みんなが、あたしを“プル”にしてくれたんだ!」
あたし、エルピー・プルは、バイオ・センサーをオーバーロードさせた。機体から溢れ出す虹色の光——サイコ・フィールドが、テレスティーナの憎しみを押し返していく。
「プルさん、今です!“妹達・ネットワーク”のサイコミュ・リンクの特異点を特定しました!そこを叩けば、ネットワークは崩壊し、繋がれた妹達全員の意識が、解放されます!」
移動指揮官機からミリィ・チャイルドの声。彼女はアクシズの全演算リソースを、この一撃の計算に集中させていた。
「お姉さま、道を切り拓きますわよ!R・ジャジャ、全門開放!わたくしの愛の奔流、受けてみなさい——最後の大仕事、治安維持局(ジャッジメント)の名にかけて、ですのっ!」
「プルツー、プル!トドメの道は、俺が開ける!Ζガンダム、全力全開だ!」
キャラのR・ジャジャと、ジュドーのΖガンダムが、残された全エネルギーを注ぎ込み、Iフィールドを強引に貫通させる。
そして——あたしの隣に、もう1機。
「姉さん。トドメは、2人で」
プルツーのサイコ・ガンダムMk-IIが、あたしと同じ角度で加速する。あたしのファンネルと、プルツーの全砲門が1つに束ね合わさり、2つの想いが、1つの巨大な光の刃になった。
「「……いっけぇぇーーーっ!」」
その光の刃が、テレスティーナの野望を、真っ向から両断した。
「……あ、ありえないわ……。私の……完璧な……理屈が……っ」
爆散するサイコ・ガンダムMk-II。崩れ落ちるテレスティーナのプレッシャー。その瞬間、あたしのバイオ・センサーに、ネットワークから解き放たれた妹達の——眠ったままの、けれど、もう脅かされることのない、安らかな寝息が、いっせいに流れ込んできた。演算の鎖を解かれた妹達は、本来あるべき静かな眠りへと還っていく。
(……いつか。この子たちが、自分の意思で目を覚ます日まで)
「……おやすみ、みんな。ちゃんと、迎えに来るからね」
(……姉さん)(……姉さん、ありがとう)(……あたしたち、生きてても、いいの?)
「いいに決まってるでしょ。……おかえり、みんな」
数日後。アクシズの居住区には、再び穏やかな時間が戻っていた。ローレン・ナカモトは、連邦軍オーガスタ研究所時代からの不法な強化人間開発を証言することを条件に保護観察処分となり、救い出されたあすなろ園の子供たちと、眠りから解放されたプル・シリーズの妹達を、一緒に見守ることになった。
そして——ジュドーとリィナの兄妹は、そろそろ、エゥーゴへ帰る時が来ていた。
「プル。……世話になったな。敵地で、まさかジャッジメントに命を救われるとは思わなかったぜ」
「敵じゃないもん。あんたは、あたしの、大事な相棒。……ねえジュドー。戦争が終わったら、また、パフェ食べに来てよ。潜入じゃなくて、ちゃんと、正面から」
ジュドーは、くしゃっと笑った。「ああ。約束だ」
「……ううん。約束は、あたしから。——あたしも、いつか。この子たちを連れて、あんたのいる宇宙(そら)へ行く。今度は、匿われるためじゃなくて、胸を張って」
ジュドーは、少し目を見開いて、それから、もっと嬉しそうに笑った。
その隣で、リィナがプルツーの手を握って、はしゃいでいる。「プルツーちゃん、また会おうね!今度は、宇宙(そら)のどこかで!」
プルツーは、まだ少しぎこちなく、でも確かに、こくりと頷いた。
街の広場では、ミリィやキャラ、そして——ようやく自分の足で立てるようになった、あたしの最初の妹・プルツーが、盛大なお別れパーティーの準備をしていた。地下で眠る他の妹達も、いつか、この輪に加わる。その日まで、この居場所は、あたしが守り抜く。
「見てよプル、このパフェ!キャラが特注で作らせたんだぜ、食いきれるかよ!」ジュドーが、キュベレイの全高ほどもある巨大なストロベリー・パフェを指さす。
「お姉さま!アクシズの平和と、わたくしたちの永遠の友情、そして——増えた妹達と、旅立つ相棒との出会いを祝して、召し上がれ——ジャッジメントですのっ!」
「もう、なんでもかんでも決め台詞で締めないの!……でも、うん。今日は、それでいいや」
あたしはスプーンを受け取って、空を見上げた。……そして、ふと、隣を見る。輪の少し外側で、居心地悪そうに立っている、あたしと同じ顔の女の子。あたしの、最初の妹。
「……プルツー。何してるの。あんたが、いちばん最初に、こっち来なきゃでしょ」
「……でも、わたしは」
「妹が姉のパフェを食べるのに、遠慮なんていらないの!ほら、他の子たちも待ってるよ!」
あたしはプルツーの手を引いて、妹達の輪の真ん中に連れてきた。おそるおそるパフェを1口食べたプルツーの、冷たかった紅の瞳から、ぽろりと、涙がこぼれる。
「……あまい。……姉さん。……これが、“日常”……なんだね。これが、わたしたちが、ずっと、ほしかった……」
「そうだよ。これが、あたしたちが守った日常。……もう、誰の部品でもない。あんたは、あたしの、大事な妹。それだけ」
その時、キャラがあたしとプルツーをまとめて抱きしめて、「お姉さまが2人……愛の許容量が限界突破ですわぁっ!」と叫び、プルツーが「……姉さん。この人、だれ」と真顔で聞いてきたから、あたしは思わず噴き出してしまった。
「あの人はキャラ。あたしより年上なのに、なぜかあたしを『お姉さま』って呼ぶ、ちょっと変な——でも、大事な仲間だよ」
宇宙世紀0088年。ネオ・ジオンとエゥーゴの戦いは、まだ続いている。敵と味方は、明日にはまた、別々の空を飛ぶのかもしれない。けれど、この小さな、けれど確かな幸せを——あたしと、あたしの妹達と、旅立つ相棒は、守り抜いたんだ。
「……ミリィ、キャラ、ジュドー、リィナ、プルツー、そして、みんな。……あたし、ここにいて、本当に良かった」
あたしはパフェを1口頬張って、最高の笑顔を見せた。
あたし、エルピー・プル。明日も明後日も、あたしはキュベレイMk-IIと、そして何十人もの大切な妹達と一緒に、この愛おしい日常を、どこまでも飛んでいくんだから。
——指先ひとつで、宇宙世紀の歴史さえ撃ち抜く覚悟で。