機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
事件が終わった、と言うには早かった。
調整槽から切り離された子たちは、まだ眠っている。装置は止まったけれど、失われた時間まで元に戻ったわけじゃない。あたしは毎日、医療区画へ通い、ミリィの記録を一緒に確かめた。
「プルさん、今日の分です」
端末には、一人ずつの脈拍と、看護担当の人が気づいた小さな変化が並んでいる。毛布を握る手、音に反応したまぶた。『好きなもの:不明』という欄は、まだ空白のままだった。
「……あたしたち、何も知らないんだね」
「これから知ればいいんです」
ミリィはそう言って、端末を閉じなかった。あたしも椅子を引き寄せる。数字だけだった記録に、誰かが見たこと、聞いたことを少しずつ足していく。
昼過ぎ、キャラが紙袋を抱えて現れた。
「お姉さま。あすなろ園の子たちから、お手紙を預かってきましたの」
色鉛筆で描かれた絵が何枚も入っていた。花や、飲み物や、丸い顔。名前のわからない子に、何を書けばいいか迷ったのだという。
「これ、枕元に置いてもいい?」
「医療担当の人に確認してきます」
ミリィが戻るのを待ち、許可の出た一枚を透明なケースに入れた。眠る子のそばに置くと、殺風景だった部屋に小さな色が増えた。
「起きたら、誰が描いたか教えなきゃね」
その夕方、いちばん手前の調整槽から連絡が入った。あたしたちが駆けつけると、少女が目を開けていた。看護担当の人が状態を確かめている間、あたしは離れたところで待った。すぐに駆け寄りたかったけれど、知らない人に囲まれたら怖いかもしれない。
やがて、声をかけてもいいと言われた。
「こんにちは。あたしはプル。ここにいてもいい?」
少女はあたしの顔を見て、少し驚いたように瞬きをした。それから、絵のほうへ目を向ける。
「……あれ、なに」
「友達が描いた絵。見たくなかったら、片付けるよ」
「……そのままが、いい」
それが、あたしたちの最初の会話だった。名前を尋ねるのは、もう少し後にしようと思った。今は、この子が自分で『そのままがいい』と言えたことが嬉しい。
部屋を出ると、キャラが紙袋を大事そうに抱え直した。
「次の絵も、いつか見てもらえますわね」
「うん。でも、一度に全部じゃなくていい。あの子が見たいって言ったときに」
眠ったままの子たちもいる。目を覚ました子のこれからも、簡単ではないだろう。それでも、今日ひとつ、空白だった記録に本人の言葉を書けた。
ミリィが端末の欄を開く。あたしは彼女に聞こえるように、ゆっくり告げた。
「『絵はそのままがいい』。それから……また話していいか、次に聞いてみよう」
友達になれるかどうかは、あたしが決めることじゃない。いつか一緒に笑えたらいい。その日まで、会いに来ることだけは、あたしが選べる。
翌日、あたしは絵を描いた子に会いに行った。青い花の絵を見せると、その子は少し照れたように紙を裏返す。
「上手じゃないから、恥ずかしい」
「でも、あの子がそのまま置いてほしいって言ったよ」
「……ほんと?」
「うん。あたしが聞いた」
その子は紙を表に戻し、今度は小さな星を描き足した。届ける前に、あたしはもう一度、病室の子に見せてもいいか確かめた。友達の気持ちも、受け取る子の気持ちも、勝手に決めたくなかった。
医療区画へ戻ると、少女は起きていた。あたしを見ると、昨日より少し長く目を合わせる。
「また来たの?」
「うん。来ないほうがよかった?」
少女は首を横に振った。あたしは星の増えた絵を見せ、返事を待った。少女が頷いてから、ケースの隣にそっと置いた。
「描いた子に、何か伝える?」
少女は絵を見つめ、少し考えてから答えた。
「……青い花、好き。星も、きれい」
「うん。そのまま伝えるね」
あたしは、その言葉を覚えて部屋を出た。まだ名前も知らない二人の間に、短い返事が行き来した。友達になるかどうかは、これから二人が決めればいい。あたしは、次の言葉を届ける役を、もう少し続けてみたい。
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