機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年。夏。
アクシズの空はいつも人工太陽の光でオレンジ色に焼けている。あたし、エルピー・プルは、居住区第3ブロックの屋上で、缶ジュースを片手にぼんやりその光を見上げていた。
「──プル。油断禁物ですわよ」
背後から、聞き慣れた声。振り返らなくてもわかる。キャラ・スーンだ。今日も制服のリボンをきっちり締めて、まっすぐな目であたしを見ている。
「わかってるよ。......で、また何かあったの」
「はい。第5セクターの物資コンテナが、何者かに襲撃されました。中身は──空でした。最初から、何も積まれていなかったんです」
空のコンテナ。あたしは眉をひそめた。囮だ。何かを運び出すための、目くらまし。
『プルさん、キャラさん、聞こえますか』
ミリィ・チャイルドの声が、通信機越しに割り込んでくる。彼女はいつも管制室で、あたしたちの目になってくれる頭脳役だ。
「うん、聞こえる。ミリィ、状況は」
『第5セクターの防犯ネットワークが一時的にダウンしていました。約3分間。その間に、コンテナごと何かが運び出された痕跡があります。......サイズから見て、人間一人分くらいの』
心臓が、どくん、と鳴った。人ひとり。攫われたということだ。
「......誘拐、ってこと」
『可能性は高いです。でも──もっと気になることがあります。防犯ネットワークをダウンさせた手口が、あたしのハッキング技術とほとんど同じ、ううん、それ以上に精密なんです。これ、ただの密輸組織の仕業じゃない』
あたしとキャラは、顔を見合わせた。
「行こう。現場、まだ間に合うかもしれない」
「はい、お姉さま。この胸に燃え上がる正義の炎、いまこそ──」
「説明はいいから、走って」
第5セクターに駆けつけると、そこは静まり返っていた。コンテナの蓋は開けっぱなしで、中は空。床には、小さな靴が片方だけ落ちている。子どもの靴だ。
あたしのバイオ・センサーが、微かな残留感応波を拾った。誰かが、ここで強い恐怖を感じていた。その波長は──あたしと、よく似ている。似すぎている。
「......これ、まさか」
「プル? どうかしましたの」
「......ううん、なんでもない」
嘘だ。本当は、わかっている。この波長は、あたしと同じ設計図から生まれた誰かのものだ。プル・シリーズ。量産型のニュータイプ・クローンたち。あの日、あたしに「オーバー」と告げて消えた、プルツーのような。
その時、コンテナの奥、暗がりに何かが光った。あたしは反射的に、指先へ電流を集中させる。
「誰?」
「......戦闘、継続能力、良好」
聞き覚えのある、感情のない声。暗がりから現れたのは、あたしと同じ顔、同じ背丈をした少女だった。けれど瞳の色が違う。プルツーよりも、もっと冷たい。もっと──空っぽな目。
「あんた......プル・シリーズの、別個体?」
少女は答えない。ただ、あたしを観察するように、じっと見つめてくる。
「命令、確認。目標エルピー・プル。行動データ収集後、確保。......拒否した場合は、排除」
排除。その一言に、キャラの表情が険しくなった。
「プルに手を出す気ですの......? このキャラ・スーン、断じて許しません」
「キャラ、待って」
あたしは片手でキャラを制した。この子を傷つけたくない。だって──この子は、あたしと同じ「材料」から作られた、あたしの妹のようなものだから。
「ねえ。あんた、名前は」
「個体識別番号、○○四。名前という概念は、不要」
「......そんなの、悲しいよ」
刹那、少女の指先から、細く鋭い電流が放たれた。あたしは咄嗟にサイコ・フィールドを展開し、軌道をねじ曲げる。火花が散り、コンテナの壁に穴が空いた。
「本気で戦う気......?」
「これは、戦闘ではない。データ収集。......抵抗するなら、応じる」
冷たい声とは裏腹に、少女の攻撃には迷いのようなものが滲んでいた。あたしのバイオ・センサーは、その微かな揺れを感じ取る。この子は、本当は──戦いたくないんじゃないか。
「あたしは、あんたを傷つけたくない。誰が、あんたにこんなことさせてるの」
少女の瞳が、ほんの一瞬揺れた。
「......答える、義務は、ない」
そう言うと、少女は背後の暗闇へ跳び込み、姿を消した。あたしが追おうとした瞬間──
『プルさん! 大変です、第5セクターだけじゃない、都市全域の管制記録に同じ個体が複数、同時に映っています!』
ミリィの声が、悲鳴のように響いた。
「複数......? 同じ子が、同時に、何ヵ所にも......?」
背筋が凍る。量産。ここにいるのは、たった一体じゃない。あたしと同じ顔をした「妹」たちが、この夏、アクシズのどこかで動き出している。
その予感は、正しかった。
「......これは、ただの誘拐事件じゃない」
あたしのつぶやきに、キャラが静かにうなずいた。
「ええ。何か、もっと大きな計画が動いています。プル──あなたに関わる、何かが」
人工太陽の光が、いつもより赤く見えた。まるで、これから起こることを予告するかのように。