機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
翌日、あたしはジャッジメント第7支部の資料室で、テレスティーナ・ライフラインの名前が記された古い報告書を見つけた。
「イリア。これ......」
イリア・パゾムは、資料に目を通すと、表情を硬くした。
「テレスティーナ......まだ、諦めていなかったのね」
「知ってるの、この人のこと」
「ネオ・ジオンの科学者よ。ニュータイプ研究の名のもとに、非人道的な実験を繰り返してきた。......以前、あなたのプル・シリーズを狙っていたのも、彼女の一派」
イリアの声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。
「彼女は今、ローレン・ナカモトという技術者と手を組んでいる。......ローレンは、ある〝装置〞の完成を急いでいるらしい。感応波を人工的に増幅し、量産する装置」
「レディオノイズ、ってやつ......?」
「その名前を、どこで」
「前に、ローレン本人から聞いた。......1万人分の脳を束ねて、〝最終調律〞をするとか、なんとか」
イリアの顔が、これまで見たことがないほど青ざめた。
「......最悪ね。もし本当にそんな装置が完成すれば、大勢の子どもたちが〝燃料〞として消費される。ニュータイプでもない、無関係な子どもたちが」
そこへ、ミリィから緊急通信が入った。
『プルさん! 第2居住区の孤児施設で、また子どもが一人、行方不明になりました! 目撃情報では......あたし顔をした少女が、その場にいたそうです』
あたしの手のひらに、汗がにじむ。プル・シリーズの誰かが、また誘拐に関わっている。
「......行くしかない」
「プル、待って。相手はおそらく、あなたの姿を模した個体を複数展開している。囮に踊らされる危険がある」
「わかってる。でも──放っておけない」
イリアは少しの間、あたしを見つめてから、小さく息を吐いた。
「......いいでしょう。私も同行するわ。キュベレイMk‐IIの出撃許可は、私が取り付ける」
「イリア......ありがとう」
「礼はいらない。これは、私たち第7支部の管轄内の事件よ」
現場に到着すると、施設の職員が呆然と立ち尽くしていた。
「あの子が......急に、光る糸みたいなもので、窓を切って......」
光る糸。あたしのバイオ・センサーが反応する。近くだ。近くに、あの「個体」がいる。
物陰から、昨日と同じ、あたしと同じ顔の少女が現れた。だが、瞳の色が違う。緑がかった、氷のような色。
「個体識別番号、012。目標確保、完了。撤収する」
その腕の中には、震える小さな女の子が抱えられていた。
「その子を放して!」
あたしは駆け出しながら、指先へ電流を集める。だが、少女は無表情のまま、女の子を盾のように抱え直した。
「攻撃、不可。人質、確保済み」
くそ。あたしは奥歯を噛んだ。この状況で、電撃は使えない。
「......キャラ、動ける?」
「ええ、任せてください」
キャラの機動力なら、正面から突入せずに背後を取れる。あたしは視線だけでそれを伝え、キャラは音もなく物陰を駆け抜けた。
「あたしと、話をしよう。あんた、本当はその子を傷つけたくないんでしょ」
「......命令は、絶対」
「命令した奴に、会わせて。あたしが、直接話す」
少女の瞳が、また揺れた。昨日と同じ、あの微かな迷い。
「......対象、エルピー・プル。命令にない、接触の意図あり。......保留する」
その瞬間、キャラが背後から少女の腕を叩き、女の子を救出した。少女は驚いたように後ろへ跳びのく。
「......戦術、失敗。撤収」
「待って!」
あたしの声も虚しく、少女は倉庫の隙間へ消えていった。追いかけようとした足が、しかし止まる。救われた女の子が、ガタガタと震えながらあたしにしがみついてきたからだ。
「......こわかった、こわかったよぉ......」
あたしはその小さな身体を、そっと抱きしめた。
「もう大丈夫。......ごめんね、遅くなって」
イリアが静かに近づいてくる。
「プル。今の会話......あなたは、彼女たちを止められると思っているのね」
「......わからない。でも、あの子たちは、命令に絶対服従してるわけじゃない。何か、迷ってる。あたしと同じ顔をして、あたしと違う人生を歩かされてる。......見捨てられない」
「......危険な考えよ。でも」
イリアは、あたしの頭に、そっと手を置いた。
「あなたらしいと、思うわ」
その夜、あたしの端末に、また暗号化されたメッセージが届いた。発信元は、不明。だが、あの懐かしい波長。
『......姉さん。〝妹達〞は、増え続けている。ローレンの計画は、もう最終段階。......時間が、ない』
プルツーからの警告だった。あたしは、拳を握りしめる。
「......待ってて。今度は、絶対に助けるから」
窓の外、人工太陽が沈み、アクシズに人工の夜が訪れる。けれど、あたしの心には、次々と警報が鳴り続けていた。
翌朝、キャラとミリィに、昨夜のメッセージのことを伝えると、二人とも、表情を引き締めた。
「プルツーからの、直接の通信……。それは、只事ではありませんわね」
「はい。……プル・シリーズの内部で、何かが切迫している証拠だと思います」
ミリィが、通信記録を解析しながら、続けた。
「発信元の特定を試みましたが、非常に高度な暗号化がかけられていました。……これも、ローレンの技術かもしれません」
「……あたしたちの動きを、見られてるかもしれない、ってこと?」
「可能性は、否定できません」
イリアが、腕を組んで、静かに言った。
「今後は、より一層、慎重に動く必要があるわね。……テレスティーナとローレンの計画、想像以上に、深く根を張っているのかもしれない」
その言葉に、あたしたちは、あらためて気を引き締めた。まだ見ぬ敵の全貌が、少しずつ、その輪郭を現し始めていた。