機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「やめて……お願い、やめて……!」
叫んだのは、あたしじゃなかった。目の前の少女――012が、両手を広げてあたしを制していた。
「攻撃、しないで。……装置は、止めていい。でも、姉さんを、傷つけたくない」
「……え」
あたしの指先の電流が、行き場を失って霧散する。心臓が、まだ痛いくらいに脈打っていた。
「私たちの中で、意見は、統一されていない。……装置の完成を望む個体もいる。でも、私は……姉さんに、これ以上、辛い思いをしてほしくない」
その言葉に、あたしの胸が締めつけられた。あたしと同じ顔をしたこの子が、あたしのために、命令に背こうとしている。
「あんた……名前、教えてよ」
「名前は……ない」
「じゃあ、あたしがつける。……今から、あんたのこと『012』じゃなくて、ちゃんと呼ぶから」
少女は、初めて戸惑うような表情を見せた。感情の乏しかった瞳が、微かに揺れる。
その時、施設の奥から轟音が響いた。イリアがローレンを取り押さえたのだ。
「テレスティーナは……!」
「逃げられたわ。悔しいけれど」
イリアは苦々しげに言った。だが、キャラが子どもたちを全員救出し終え、装置の稼働も、ミリィの遠隔ハッキングで強制停止に成功していた。
「間に合った……よかった」
あたしは、へなへなと座り込みそうになる。だが、まだ終わりじゃない。プル・シリーズの少女たちは、まだ何百体も、この都市のどこかに散らばっている。
「012、……ううん、まだ名前決めてなかったね」
「……姉さんの、好きにしていい」
あたしは少し考えて、微笑んだ。
「じゃあ、『ミー』は? あたしの、妹だから」
少女――ミーは、その名前を、ゆっくりと口の中で転がすように繰り返した。
「……ミー。……姉さんの、妹」
初めて、その瞳に、感情らしきものが灯った気がした。あたしは、その小さな変化を、見逃さないように見つめ続けた。
「ミー、教えて。ローレンの計画、まだ他に何かある?」
「……ある。この施設は、あくまで〝分館〞。本命の施設は、都市の中枢、旧司令部の地下深く。そこに、〝最終調律〞のための本装置がある」
「そこに、テレスティーナが……?」
「たぶん。……姉さん、危険。本装置の防衛には、私たちよりずっと強い個体が配備されている」
「強い個体……?」
ミーは、少し躊躇うように言葉を選んだ。
「……コードネーム『アクセラレータ』。ネオ・ジオンの強化人間。あらゆる攻撃を、反転させる力を持つ。……姉さんの電撃も、通用しない」
その名前を聞いた瞬間、なぜか背筋に冷たいものが走った。理屈じゃない、動物的な直感。あの人と対峙したら、あたしは――
「……大丈夫。行くよ」
「姉さん」
「あんたたちを、あんな装置の部品にはさせない。全員、ちゃんと『名前』を持って生きられるようにする。……約束する」
イリアが近づいてきて、あたしの肩に手を置いた。傷だらけの手袋越しにも、その温かさが伝わってくる。
「プル。……あなたのその決意、私も支える。ただし、無茶はしないと約束して」
「善処する、とだけ」
「まったく……あなたって子は」
イリアは呆れたように笑い、それから真剣な表情に戻った。
「本装置の場所、ジャッジメント第7支部に正式報告する。上層部を通じて、然るべき作戦として対処するべきよ」
「……うん。お願い」
ミリィが、端末を叩きながら、心配そうにあたしを見た。
「プルさん、無理だけはしないでくださいね。私、統計データはたくさん扱えますけど、プルさんの代わりはいないんですから」
「わかってるよ、ミリィ。ありがとう」
キャラも、救出した子どもたちを一人ずつ抱きしめながら、涙ぐんでいた。
「よかった……本当に、よかったですわ」
その光景を見て、あたしはあらためて心に誓った。この子たちを、絶対に見捨てない、と。
こうして、あたしたちは新たな戦いへと踏み出すことになった。ミー――いや、この都市に散らばる、名前を持たない〝妹〞たち全員を救うために。
夜の帳が降りたアクシズで、あたしはミーの小さな手を、そっと握った。
「怖かったら、いつでも呼んで。あたし、絶対に助けに行くから」
「……うん。姉さん」
まだぎこちない、それでも確かな絆が、そこに芽生え始めていた。あたしの中に、これまでにない使命感が、静かに、しかし確かに燃え上がっていくのを感じた。
支部に戻る道すがら、キャラが救出した子どもたちの手を、一人ずつ丁寧に握って歩いていた。
「怖かったですわね。もう大丈夫ですから」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
子どもの一人が、涙目でキャラを見上げた。キャラは優しく微笑み返す。その様子を見て、ミリィが端末をそっと下ろした。
「……プルさん。これから、もっと大変なことになりますよね」
「うん。……たぶん」
「私、怖いです。でも、逃げません。プルさんたちの力に、なりたいから」
「ミリィ……」
あたしは、ミリィの肩に、そっと手を置いた。
「あんたがいてくれるから、あたしたちは戦えるんだよ。ありがとう」
「……えへへ、照れます」
夜空の下、小さな行列が、支部への道を歩いていく。誰も声を荒げることなく、ただ静かに、それぞれの想いを抱えながら。
ミーは、あたしの隣を、ぴったりとくっついて歩いていた。
「……姉さん、これから、どうなるの」
「わからない。でも、あんたたちが安心して暮らせる場所を、絶対に作るから」
「……うん」
短いやり取りの中に、確かな信頼が芽生えていくのを、あたしは感じていた。この夜のことを、あたしはきっと、これから先もずっと忘れないだろう。