機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
迷子探しをナメてはいけない。時々それは、密輸組織のアジトへの片道切符になる。
宇宙世紀0088年。あたし、エルピー・プルが治安維持局(ジャッジメント)なんて役割をもらってから数日。そもそも、あたしみたいなニュータイプ候補生やキャラみたいな強化人間を居住区パトロールに回すって、上の大人は何を考えてるんだろう。
「ねえキャラ。あたしたち、戦場に出るためのパイロットなのに、なんで迷子探しみたいなことしてるの?」
「お姉さま、それは違いますわ。平和なアクシズの秩序を守ることこそ強者の義務……何より、制服姿のお姉さまを間近で拝める、ハマーンさまからの慈悲に満ちた試練ですわ!」
「情緒がジェットコースターだよ、キャラ。……あとやっぱり、あんたのほうが年上でしょ。その『お姉さま』、逆じゃない?」
「わたくしの心の年齢は、お姉さまの前では永遠に妹ですのっ!」
「そういう問題じゃない!」
今日の巡回先は、居住区最下層の旧式ドック。開発が止まり、浮浪者や軍の締め付けを嫌う不穏分子が隠れ住むという噂の場所だ。
……実を言うと、あたしにはもう1つ目的があった。ジュドーの妹・リィナの手がかり。潜入者を匿っている以上、あの子を早く見つけて、2人を無事にアクシズの外へ逃がさなきゃいけない。この最下層は、身元不明の子どもが集められるという噂もある場所だった。
その途中、雑踏の中で——あたしは、また、あの波長を拾った。
振り返る。人混みの向こう、非常灯の赤い光の下に、あたしと同じ顔の少女が立っていた。今度は、間違いない。夢でも、幻でもない。
「……あんた……!」
少女は、ほんの一瞬だけ、あたしと目を合わせた。冷たい紅の瞳の奥に、ほんの微かな——迷子のような、揺らぎ。
『……接触は、任務規定外。……離脱する。オーバー』
そう呟くと、少女は人波にまぎれて消えた。追いかけようとしたあたしの手は、空を掴んだだけ。
「お姉さま?どうかなさいまして?」
「……ううん。今の子、追いかけたいけど……今は、任務が先、だよね」
胸のざわつきを押し込めて、あたしはドックへ向かった。
「……キャラ。あそこ、誰かいる」
あたしのバイオ・センサーが、コンテナの陰から漏れる鋭い「敵意」を捉えた。訓練の仮想敵とは違う。もっと生々しくて、暗い感情の渦。
「そこですわねっ——治安維持局(ジャッジメント)ですのっ!出てらっしゃい!」
今度はスイッチが正しい場面で入ったらしく、キャラの決め台詞と同時に、暗闇からビーム・ピストルの閃光が走った。あたしは反射的にキャラの服を引っ張り、コンテナの影へ飛び込む。
「あぶな……本気で撃ってきたよ!?」
「わたくしの制服に傷を——その命、愛の炎で焼き尽くして差し上げますわ!」
犯人は、旧式作業ロボを魔改造した即席戦闘マシンで、外壁の資材を盗もうとしていた密輸組織の残党だった。
『プルさん、状況把握しました。対象の機動パターンを解析、予測進路を送ります』
通信機から、ミリィ・チャイルドの冷静な声。管制室からアクシズの防犯センサーをハックして、あたしたちの目を支援してくれる、うちの支部の頭脳だ。
「ミリィ助かる!キャラ、動きはあたしが止める。トドメお願い!」
コンテナの上に飛び乗り、バイオ・センサーを全開。あたしの意志が、サイコミュ・リンクを通って改造ロボの姿勢制御プログラムへ直接干渉する。
「……動いちゃ、ダメ」
ロボの四肢が不自然に折れ曲がり、火花を散らして硬直した。電子の海を、強引に書き換えたんだ。
「そこですわ、覚悟なさい!」
隙を突いて肉薄したキャラの格闘ロッドが、核を正確に貫く。敵は一瞬で沈黙した。
事件が片付いた、その時。あたしのセンサーが、ドックの搬入口に潜む「あの荒っぽい気配」を捉えた。ジュドーだ。彼はあたしに気づくと、物陰から小さく手招きした。
「……プル。ここ、リィナが連れてこられたっていう記録がある区画なんだ。手を貸してくれ」
「もう来てたの!?危ないってば、ここジャッジメントの巡回区域だよ」
「お前がいるから、大丈夫だと思ってな」
その、なんの疑いもない笑顔に、あたしはちょっとだけ、どきっとした。……敵なのに。匿ってるだけの、捕虜なのに。
でも、そのとき。ドックの残骸の陰、犯人が投げ捨てた小さなチップが、青白く光っているのに気づいた。触れた瞬間、脳の奥に、無数の悲鳴みたいなノイズが流れ込んでくる。あたしは思わず、その場に膝をついた。
「プル!?どうした、プル!」ジュドーが駆け寄る。
「……なに、これ……いっぱいの、人の、声が……」
これがのちに、アクシズ全土を飲み込む「幻想御手(レベルアッパー)」との、最初の接触。そして——あたしと同じ顔をした「妹達」と、ジュドーの妹リィナの謎が、1つに繋がっていく、最初の1歩だったなんて。このときのあたしは、まだ知らない。