機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ジャッジメント第7支部の会議室で、あたしたちはローレンから押収した資料を分析していた。窓の外には、いつもと変わらないアクシズの夜景が広がっている。だが、その静けさとは裏腹に、室内の空気は張り詰めていた。
「……これ、すごい」
ミリィが、モニターに映る解析データを見て、声を震わせた。
「レディオノイズは、あくまで〝副産物〞だったんです。ローレンの本当の目的は――ある一人の個体を、限界を超えて進化させること」
「限界を超えて……?」
「はい。人間の能力には、レベル1からレベル5までの段階があるとされています。でも、この資料には、まだ誰も到達していない〝レベル6〞という領域の存在が」
イリアが険しい表情で頷いた。
「聞いたことがあるわ。……理論上、レベル5の能力者が、大量のプル・シリーズの〝感応波データ〞を吸収し続ければ、限界突破が可能になるという仮説。……まさか、本当にやろうとしているなんて」
「レベル6になったら、どうなるの……?」
「わからない。……ただ、そのために必要な〝サンプル数〞が、途方もない数字だということだけは、確かよ」
あたしは、拳を握りしめた。ローレンが言っていた「1万人の脳」という言葉が、頭の中で反響する。
「……対象は、アクセラレータ、なんだよね」
「そう思われるわ。あの強化人間は、既に単独でレベル5相当の戦闘力を持つとされている。もし彼が〝計算リソース〞として妹たちの感応波を注ぎ込まれ続ければ……」
「レベル6に、なる」
沈黙が、会議室を包んだ。誰も、その先を口に出せなかった。
『……姉さん』
不意に、ミーの声が響いた。彼女は、あたしのそばに立って、じっと資料を見つめている。
「アクセラレータは、望んでこの計画に加担しているわけじゃない、と思う」
「……え?」
「私たちプル・シリーズの一部が、彼の近くで観測データを集めている。……彼は、いつも一人。誰にも心を開いていない。……でも、時々、ひどく寂しそうな顔をする」
その言葉に、あたしの胸が、ちくりと痛んだ。強制的に「最強」にされた誰かが、孤独に苦しんでいる。それは、量産される「妹」たちの姿と、どこか重なる。
「……会って、話してみる」
「危険よ、プル」
イリアが即座に反対した。
「彼は、ネオ・ジオンの中でも最高機密扱いの戦力。接触すれば、命の保証はない」
「わかってる。でも……このまま、放っておけない。もし本当に、彼が望んでないのに、あんな計画に利用されてるんだとしたら」
キャラが、静かに口を開いた。
「お姉さまが決めたのなら、私はどこまでもお供します。……ただし、無理だけはさせませんわ」
「キャラ……」
「愛の力で、必ずお守りしますから」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。あたしは笑って、頷く。
「よし。……まず、アクセラレータの居場所を特定しよう。ミー、力を貸して」
「……うん。姉さんのために」
ミリィが、端末を操作しながら、真剣な顔で言った。
「所在の特定には、時間がかかると思います。ネオ・ジオンの最高機密ですから、防犯システムも桁違いに厳重なはずです。……でも、必ず見つけてみせます」
「ありがとう、ミリィ」
こうして、あたしたちの新たな作戦が始まった。目的は、都市の裏で暗躍する〝最強〞の存在――アクセラレータとの接触。
しかし、あたしはまだ知らなかった。彼と対峙することが、この夏いちばんの試練になることを。窓の外の夜景が、いつもより不穏な色に見えた。
会議が終わったあと、あたしは一人、資料室に残って、押収した記録を読み返していた。ローレンの筆跡は、几帳面すぎるくらい整っていて、それがかえって不気味だった。
「……〝理想の被験体〞、か」
資料の片隅に、そう書かれた一文があった。あたしは、そのページを、しばらくじっと見つめる。
「プルさん、まだいらしたんですか」
ミリィが、心配そうに顔を覗かせた。
「うん……。ちょっと、気になることがあって」
「無理しないでくださいね。今日はもう、遅いですし」
「わかってる。……ねえミリィ、ローレンって、どうしてこんな計画に手を出したんだろう」
ミリィは、少し考えてから答えた。
「……わかりません。でも、資料を見る限り、彼自身、かつては真っ当な研究者だったみたいです。何かのきっかけで、道を踏み外したのかもしれません」
「きっかけ、か」
「はい。……人は、誰でも、間違った道を選んでしまうことがあります。だからこそ、正しい道に引き戻してくれる誰かが、必要なんだと思います」
その言葉に、あたしは、はっとした。もしかしたら、ヴァイスにも、そういう存在が必要なのかもしれない。
「……ありがとう、ミリィ。少し、考えがまとまった気がする」
「お役に立てたなら、よかったです」
窓の外、アクシズの夜景が、いつもよりほんの少し、優しく見えた気がした。
資料室を出る前に、あたしはもう一度、イリアに確認しておきたいことがあった。
「イリア。……もし、ヴァイスを説得できたとして、その後、彼はどうなるの」
「難しい質問ね。……強化人間としての改造は、簡単には元に戻せない。でも、少なくとも、これ以上の被害を止めることはできるはずよ」
「うん」
「それに――」
イリアは、少し言葉を選ぶように、間を置いた。
「彼が本当に、この計画に加担することを望んでいないなら、私たちには、彼を保護する義務がある。ジャッジメントは、そのためにある組織よ」
その言葉に、あたしは少しだけ、心が軽くなった。
「……ありがとう、イリア」
「礼はいいから、明日に備えて、ちゃんと休みなさい」
「はーい」
その夜、あたしは久しぶりに、深い眠りについた。