機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
その夜、あたしは一人、屋上に座り込んでいた。
考えがまとまらない。ミーたちを救いたい。でも、アクセラレータと戦うことが正しいのか、それすらもわからなかった。
「……あたし、何やってるんだろ」
ポツリと呟いた言葉が、夜風にさらわれて消える。
キュベレイMk-IIのパイロットとして、あたしはずっと「強くあれ」と育てられてきた。でも、本当に強くなればなるほど、守りたいものが増えて、その分だけ、迷いも増えていく気がする。
「……プル」
背後から、静かな声。イリアだった。
「眠れないの?」
「……うん。色々、考えちゃって」
イリアは、あたしの隣に腰を下ろした。珍しく、私服姿だった。
「プル。あなたは、まだ子どもよ。……こんな大きな責任、本当は背負う必要なんてないの」
「でも、あたしにしかできないことがある」
「そうね。……でも、時には〝できること〞と〝しなければならないこと〞を、混同しないで。あなたが潰れてしまったら、元も子もない」
あたしは、膝を抱えて、空を見上げた。人工太陽のない夜のアクシズは、本当の星空が見える。無数の光が、静かに瞬いていた。
「……イリアは、どうして軍人になったの」
不意の質問に、イリアは少し驚いたように瞬きをした。
「……昔、大切な人を、戦争で失ったから。……同じ思いを、後輩たちにさせたくなかった。それだけよ」
「……そっか」
「プル。あなたが背負っているものは、決して軽くない。でも、一人で背負わなくていい。私も、キャラも、ミリィも、みんな一緒よ」
その言葉に、目頭が熱くなった。
「……ありがとう」
「泣きたければ、泣いていいのよ。強さって、我慢することじゃないもの」
あたしは、少しだけ涙をこぼした。誰にも見せたことのない、弱さだった。指先で拭っても、拭っても、次から次へと溢れてくる。
「あたし……ミーたちを、絶対に助けたい。でも、アクセラレータとぶつかるのが、怖い」
「怖いのは、当然よ。あなたは、命の重さを知っている子だから」
「……うん」
しばらく、二人で無言のまま、星を見上げていた。夜風が、あたしたちの髪をそっと揺らす。
「……あたしね、時々思うの。あたしがプル・シリーズの〝オリジナル〞じゃなかったら、ミーたちは、こんな目に遭わなかったんじゃないかって」
「それは、違うわ」
イリアの声は、いつになく強かった。
「あなたが存在しなくても、彼女たちを利用しようとする者は、必ず現れた。悪いのは、彼らを道具として扱う者たちであって、あなたじゃない」
「……そう、なのかな」
「そうよ。だから、自分を責めないで」
あたしは、ゆっくりと立ち上がる。
「……大丈夫。少し、落ち着いた」
「無理はしないで」
「うん。でも、進むよ。だって――あたしにしか、聞こえない声があるから」
ミーの、あの震える通信。あたしと同じ顔をした、名前のない子たちの声。それを、聞かなかったことにはできない。
「……そう。それが、あなたなのね」
イリアは、少し寂しそうに、でも誇らしげに微笑んだ。
「わかったわ。全力で、支援する」
「イリア」
「なによ」
「……ありがとう」
その夜、あたしは初めて、自分の弱さを誰かに預けることを覚えた。それは、強くなるための、大切な一歩だった。屋上を吹き抜ける夜風が、少しだけ、優しく感じられた。
イリアが部屋に戻ったあと、あたしはしばらく、一人で夜空を見上げ続けていた。
「……プルツーも、こんな空を、見たことあるのかな」
初めて出会った日の、あの冷たい瞳を思い出す。あたしと同じ顔をしていたのに、あたしとはまるで違う人生を歩まされていた、あの子。
「……今度会ったら、ちゃんと話そう。ミーとおなじように」
決意を新たにしたとき、端末に着信があった。ミーからだった。
『……姉さん、まだ起きてる?』
「うん、起きてるよ。どうしたの」
『……なんとなく、声が聞きたかっただけ』
その素朴な一言に、あたしの頬が緩んだ。
「そっか。……あたしも、あんたの声、聞けて嬉しいよ」
『……えへへ』
初めて聞く、ミーの笑い声だった。ぎこちなくて、まだ少し不慣れで、それでも確かに、感情のこもった音だった。
「明日も、頑張ろうね」
『……うん。姉さんと、一緒に』
通信を切ったあと、あたしは、夜空にもう一度目をやった。無数の星々が、まるであたしたちを見守っているかのように、静かに瞬いていた。
翌朝、目を覚ますと、部屋の机の上に、キャラが置いていったらしい一枚のメモがあった。
『お姉さま。今日も一緒に頑張りましょう。愛を込めて、キャラより』
添えられた不格好なイラストに、あたしは思わず笑ってしまった。
「……ふふ、なにこれ」
昨夜の重苦しい気持ちが、少しだけ軽くなる。あたしは、メモを大切に机の引き出しにしまい、身支度を整えた。
窓の外は、いつも通りの、アクシズの朝だった。人工太陽の光が、部屋の中に差し込んでくる。
「……よし。今日も、頑張ろう」
あたしは、鏡の前で、自分に向かって小さく気合いを入れた。昨夜流した涙のぶんだけ、今日は少し強くなれる気がした。