機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……誰か、いる」
夜の見回り中、ミーが不意に足を止めた。あたしとキャラも、警戒態勢を取る。
「感応波じゃない、けど……何かに、見られてる感じがする」
『プルさん、周辺のセンサーに反応なし。……でも、これ、変です』
ミリィの声に、緊張が滲む。
『対象の追跡方法が、通常の感応波観測じゃない。……むしろ、あたしたちの〝痕跡〞そのものを消しながら追ってくる感じがします』
「痕跡を、消す……?」
そのとき、路地の奥から、静かな声が聞こえた。
「……見つけた」
暗がりから現れたのは、フードを目深に被った少女――イニシア・クロウだった。彼女の周囲だけ、まるで空気が歪んで見える。
「あんた、誰……?」
「答える必要、ない。……ただ、ここでの〝出会い〞は、なかったことになる」
彼女が指先を軽く振ると、周囲の防犯カメラが一斉に不自然な光を放ち、記録データが虚偽の映像に書き換えられていく。
「……記録改ざん、能力……?」
『プルさん、都市の監視網から、皆さんの映像が消えました……! というより、別の映像に置き換わってます!』
ミリィの悲鳴に近い声。あたしは唖然とした。まるで、あたしたちが「存在しなかった」ことにされているようだった。
「あんたが、あたしたちを追跡してたの……?」
「証拠隠滅、それが役目。……テレスティーナの依頼で、お前たちの行動記録を、すべて消す」
「行動記録を消して、何をするつもり……?」
イニシアは、初めて薄く笑った。
「決まっている。……誰にも気づかれず、消す」
その言葉に、キャラが即座に前へ出た。
「お姉さまに、指一本触れさせません」
「無駄。……私は、痕跡そのものを消す能力を持つ。私と接触した記憶さえ、じきに、お前たちの中から消える」
「そんなの……!」
「試してみるといい」
イニシアが軽く手をかざすと、周囲の空間が奇妙に揺らいだ。あたしのバイオ・センサーが、悲鳴に近いノイズを上げる。
「頭が……割れそう……!」
「これが、私の力。感応波そのものを混濁させ、〝記憶〞を書き換える。……お前たちが体験した、この夜そのものが、幻になる」
「……そんなこと、させない」
あたしは、痛みに耐えながら、指先へ電流を集中させた。混乱する意識の中でも、感応波を電流に変換する回路だけは、まだ生きている。
「あたしの記憶は、あたしのもの……! 誰にも、書き換えさせない……!」
放たれた電撃は、イニシアの展開する〝混濁フィールド〞を貫き、彼女のすぐ横の壁を焼いた。
「……っ、直撃を、避けた……?」
「今のは、警告。次は外さない」
イニシアは、初めて動揺したような表情を見せた。
「……強引な力技。理論的には、感応波の直接的な放出には、フィールドが対応しきれない……」
「なら、あたしのやり方でいく」
キャラが、その隙をついて肉薄する。イニシアは咄嗟に後方へ跳んで距離を取った。
「……今日のところは、退く。だが、テレスティーナには報告する。エルピー・プルは、記憶改変能力に対する耐性を持つ、と」
「待ちなさい……!」
キャラが追おうとしたが、イニシアはすでに、路地の暗闇へ姿を消していた。
「……逃げられた」
『プルさん、皆さんの記録、正常に戻りました。……でも、恐ろしい能力ですね。存在そのものを消されるなんて』
ミリィの声には、まだ動揺が残っていた。
「うん……。でも、わかったこともある。あの人、テレスティーナの手先。……ってことは、本装置の場所も、そろそろわかるかもしれない」
ミーが、静かに頷いた。
「……本装置は、旧司令部の地下。私が、案内できる」
「ミー……大丈夫なの?」
「……姉さんのためなら、大丈夫」
あたしは、ミーの小さな手を、そっと握った。
「一緒に行こう。全員で」
決戦の舞台が、少しずつ、姿を現し始めていた。夜のアクシズに、静かな緊張が満ちていた。
「お姉さま。あの、イニシアという女……ただの工作員ではなさそうですわね」
キャラが、まだ痛む腕をさすりながら言った。
「うん。……記憶を書き換える力なんて、聞いたこともない。ニュータイプの技術を、悪用してる感じがする」
『解析を続けます。……ただ、あの手の能力は、通常の観測機器では捕捉が難しいので、注意が必要です』
ミリィの声にも、警戒が滲んでいた。
「わかった。……ミー、道案内、頼めるかな」
「……うん。任せて、姉さん」
ミーは、これまでよりも、はっきりとした声で答えた。姉さんのために役に立ちたいという想いが、その声には、確かに込められていた。
三人は、夜の闇の中、旧司令部への道を、慎重に進み始めた。何が待ち受けているのか、まだ誰にもわからなかったが、それぞれの覚悟だけは、揺るぎないものになっていた。
道中、キャラが、ふと足を止めて、あたしに尋ねた。
「お姉さま。......あのイニシアという女性も、もしかしたら、事情があって、テレスティーナに従っているのかもしれませんわね」
「......うん、あたしもそう思う」
「もし、いつか彼女とまた出会うことがあったら、今度こそ、話し合う機会を持てたらいいですわね」
「そうだね。......誰だって、最初から悪い人間なんていないと、あたしは思いたい」
その言葉に、キャラは、優しく微笑んだ。
「お姉さまらしい考え方です。......そういうところ、私、大好きですわ」
「もう、大げさだなあ」
夜の静けさの中、二人の会話が、小さな温もりを灯していた。