機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
旧司令部の最深部、あたしたちはついに本装置――通称〝ツリーダイアグラム〞にたどり着いた。
巨大な演算装置が、天井まで届く木の枝のように広がり、無数のケーブルがカプセルとつながっている。その中心に、テレスティーナ・ライフラインが立っていた。
「よく来たわね、エルピー・プル」
「テレスティーナ……! この装置を、今すぐ止めなさい……!」
「止める? なぜ? これは、人類の可能性を切り開く、偉大な実験なのよ」
テレスティーナは、恍惚とした表情でツリーダイアグラムを見上げた。
「アクセラレータをレベル6へと導き、その先に見えるものを、この目で確かめたい。……それの、何が悪いというの」
「無数の子どもたちを犠牲にしてまで、やることじゃない……!」
「犠牲? 彼女たちは、最初からそのために生まれてきた存在よ。〝妹〞という役割を全うすることこそが、彼女たちの存在意義」
その言葉に、あたしの中で、何かがはじけた。
「……違う。役割なんかじゃない。ひとりひとりに、ちゃんと心があって、名前があって……生きる意味は、他人が決めるものじゃない……!」
「感傷的ね。……まあいいわ。ちょうど、被験体も揃ったことだし」
テレスティーナがパネルを操作すると、装置全体が唸りを上げ、ケーブルの中を無数の光が流れ始めた。
「起動、最終シーケンス。……アクセラレータ、来なさい」
奥の暗闇から、灰色の髪の少年が、静かに歩み出てきた。
「……ヴァイス」
その名前は、ミーの通信記録で、あたしも知っていた。彼の赤い瞳が、あたしをまっすぐに見据える。
「……あんたか。俺の相手をしに来たのは」
「あんたを、止めに来た」
「……止める、ね。生憎、俺はテレスティーナの命令に従うしかない身だ」
『プルさん、装置の出力が限界値に近づいています……! 時間がありません……!』
ミリィの声が響く中、テレスティーナは冷たく笑った。
「さあ、始めましょう。エルピー・プル、あなたの感応波データも、最終調律には欠かせない材料。……全て、いただくわ」
装置から放たれた無数の光の触手が、あたしたちに向かって迫ってきた。
「キャラ、ミー、下がって……!」
「お姉さま……!」
あたしは、装置の中枢へ向かって走り出した。だが、その進路を、ヴァイスが静かに塞ぐ。
「……悪いが、ここから先には行かせない」
「どいて……!」
「どかない。……これが、俺の役目だ」
赤い瞳が、あたしをまっすぐに見据える。あたしのバイオ・センサーが、これまでで最大の警報を鳴らしていた。
――この人には、勝てない。
そんな予感が、頭の中を駆け巡る。それでも、あたしは、退くわけにはいかなかった。
「……行かせてもらう。あんたを倒してでも」
「……やってみな」
キャラが、あたしを守るように、隣に並んだ。
「お姉さま、私も、共に戦います」
「危ないよ、キャラ」
「危ないのは、承知の上ですわ。……お姉さまを、独りにはさせません」
その言葉に、あたしは、少しだけ勇気をもらった気がした。
「……ありがとう」
背後で、ミーが、震える声で呟いた。
「……姉さん、無理、しないで」
「大丈夫。……あんたたちのためにも、絶対に、負けられないから」
「……うん」
ミーは、それ以上、何も言わなかった。ただ、祈るように両手を胸の前で組み、あたしたちの背中を見つめていた。テレスティーナは、そんなあたしたちの様子を、愉快そうに眺めている。
「感動的な光景ね。……でも、感傷は、何も生まないのよ」
「あんたには、わからないだろうね。誰かを大切に想う気持ちが」
「わかる必要もないわ。私にとって重要なのは、データと結果だけ」
その冷たい言葉に、あたしの中の怒りが、さらに燃え上がった。
夜の旧司令部に、二つの意志が、真っ向からぶつかり合おうとしていた。装置の唸りが、次第に大きくなっていく。時間は、確実に尽きようとしていた。
『プルさん、装置の解析、続けています。……ツリーダイアグラムのコアは、あの巨大な演算装置の中心部、光の柱の根元にあるはずです』
ミリィの声が、緊迫した状況の中でも、冷静さを保っていた。
「わかった。……あそこまで、たどり着かないと」
「お姉さま、私が道を切り開きます」
キャラが、ロッドを構え直した。傷だらけの手が、微かに震えている。それでも、彼女の目には、まだ強い光が宿っていた。
「無理、しないでね」
「お姉さまこそ。……いいですか、私たちは、二人でひとつですから」
「うん」
あたしたちは、互いに頷き合い、装置の中枢に向かって、再び走り出した。ヴァイスの赤い瞳が、その様子を、静かに見つめていた。彼の中で、何かが揺れ動いているのが、あたしには、はっきりと感じられた。
「……テレスティーナ。俺は、本当にこいつを排除しなきゃいけないのか」
ヴァイスの呟きは、誰にも届かないほど、小さなものだった。だが、その一言が、これから起こることの、確かな予兆だった。
装置の光が、一段と強く輝きを増していく。テレスティーナの哄笑が、施設全体に響き渡った。
「さあ、始めましょう。……人類の新しい可能性が、今、この瞬間に生まれるのよ」
その声を聞きながら、あたしは、拳をきつく握りしめた。もう、後には引けない。