機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
指先に、あたしはこれまでで最大の電流を集めた。心臓が、痛いくらいに脈打つ。
「いくよ……!」
放った電撃は、真っ直ぐにヴァイスへと向かう。だが――次の瞬間、その軌道が、ありえない角度で反転した。
「……な、っ……!?」
自分の電撃が、自分自身に襲いかかる。あたしは咄嗟にサイコ・フィールドを展開し、辛うじて直撃を免れた。だが、衝撃で身体が大きく吹き飛ばされる。
「言っただろ。俺は、あらゆる攻撃を反転させる」
ヴァイスの声には、まったく揺らぎがなかった。
「……ベクトル、反転……?」
「その通り。……お前の電撃も、キャラの近接攻撃も、何もかも、俺には効かない」
キャラが、悔しげに歯を食いしばった。
「そんな……!」
「お姉さま、下がって……!」
キャラが再び踏み込むが、繰り出した一撃は、あっさりとヴァイスに弾き返され、逆にキャラ自身へと跳ね返る。
「キャラ……!」
「大丈夫……ですわ、この程度……!」
だが、明らかに劣勢だった。ヴァイスの力は、理屈を超えている。攻撃すればするほど、こちらが不利になる。
「……どうすればいいの」
あたしは、必死に頭を働かせた。攻撃が効かないなら、別の方法を考えるしかない。
「ミー、あんたはヴァイスのこと、観測してるんだよね。……何か、弱点はないの」
ミーは、少し躊躇いながら答えた。
「……弱点、というより。……彼は、反転させることに、意識を集中している。……つまり、〝攻撃〞という形式を取らない何かには、対応できない可能性がある」
「攻撃という形式を、取らない……」
あたしは、テレスティーナの操るツリーダイアグラムを見つめた。あの装置こそが、真の敵だ。ヴァイス自身は、道具として動かされているだけ。
「……ヴァイス」
あたしは、電撃を構えるのをやめ、まっすぐ彼を見つめた。
「あんた、本当は、これがやりたいわけじゃないんでしょ」
「……なに、いきなり」
「さっき、ミーから聞いた。あんた、自動販売機の前で、普通に憧れてたって」
ヴァイスの表情が、初めて揺らいだ。
「……関係ねえだろ、それは」
「関係あるよ。あんたは、テレスティーナの道具になんて、なりたくないはずだ」
「……うるせえ。俺は、命令に従うだけの、道具だ」
「違う。道具に、迷いなんて生まれない。あんたの目、さっきからずっと、揺れてる」
ヴァイスは、しばらく沈黙した。あたしの言葉が、彼の中の何かに触れたのがわかった。
「……ッ、黙れ」
「あたしは、あんたと戦いたいわけじゃない。あんたを、あの装置から解放したい」
「解放……?」
「そう。あんたも、道具なんかじゃない。ちゃんと、生きてる一人の人間だよ」
その瞬間、テレスティーナの怒声が響いた。
「アクセラレータ、何をぐずぐずしているの! さっさとそいつを排除しなさい……!」
装置の光が、ヴァイスの身体に無理やり注ぎ込まれ始めた。彼は、苦しげに顔を歪める。
「……ぐ、ああっ……!」
「ヴァイス……!」
「……こ、の……感応波、多すぎる……!」
ヴァイスの身体が、限界を超えた出力に耐えかねて、震え始めた。テレスティーナは、彼の意思を無視して、強制的にレベル6シフトを進めようとしている。
「テレスティーナ、やめて……! このままじゃ、ヴァイスが壊れる……!」
「関係ないわ。実験の成功のためなら、多少の犠牲は仕方がない」
あたしは、拳を握りしめた。もう、迷っている暇はない。
「――ヴァイス、耐えて……! あたしが、あの装置を止める……!」
「……来る、なッ……今の俺は、なにをしでかすか、自分でも……!」
「関係ない。あんたを、見捨てない」
あたしは、ヴァイスの攻撃反転能力の隙をついて、彼の脇をすり抜けた。狙いは、ただ一つ。ツリーダイアグラムの制御コアだ。
「テレスティーナ……これで、終わりよ……!」
渾身の電撃が、コアへと突き刺さる。装置全体が、悲鳴のような轟音を上げ始めた。
「なっ……何をしたの……!」
「あんたの計画は、ここまで」
コアからの過負荷が、装置全体に広がっていく。ヴァイスに注ぎ込まれていた光の奔流が、徐々に弱まっていった。
「……っ、はぁ、はぁ……」
ヴァイスは、崩れ落ちるように膝をついた。あたしは、慌てて駆け寄る。
「大丈夫……!?」
「……ああ。……助かった、みたいだな」
彼の赤い瞳が、初めて、穏やかな色を宿していた。
「……ロクは、無事か」
「うん、キャラが庇ってくれた。大丈夫だよ」
「……そうか」
その一言に、心の底からの安堵が滲んでいた。ヴァイスの中で、確かに何かが変わり始めていた。
崩れかけた施設の中、ロクが、駆け寄ってきた。
「……ヴァイス……! 大丈夫……?」
「……ああ。……お前が心配することじゃねえよ」
「……心配、する。……仲間、だから」
その一言に、ヴァイスは、しばらく言葉を失っていた。仲間。今まで、誰かにそう呼ばれたことなど、一度もなかった。
「……そうかよ。……仲間、か」
彼は、ぎこちなく、それでも確かに、口元を緩めた。
キャラが、あたしの肩を支えながら、心配そうに声をかけてきた。
「お姉さま、お怪我は……?」
「うん、大丈夫。……キャラの方こそ、無理してない?」
「私は平気ですわ。……お姉さまが、無事でよかった」
崩れゆく装置の轟音の中、あたしたちは、それぞれの安堵を、互いに確かめ合っていた。長い戦いが、ようやく終わりを迎えようとしていた。