機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
装置が完全に停止すると同時に、テレスティーナの姿は、混乱に紛れて消えていた。
「逃げられた……」
「気にしなくていい。……装置さえ止まれば、当面の脅威はなくなった」
イリアが、崩れ落ちた瓦礫の合間から現れ、そう言った。
「イリア……!」
「あなたたちが引き付けてくれたおかげで、私も安全に施設の破壊工作を進められたわ。……見事だったわね、プル」
あたしは、まだ座り込んでいるヴァイスを見つめた。
「……ねえ、ヴァイス。あんた、これからどうするの」
「……知らねえよ。俺は、ネオ・ジオンの実験体だ。この件が片付いても、また別の実験に使われるだけだろうな」
「そんなの……」
あたしが言いかけたとき、イリアが静かに口を挟んだ。
「……いいえ。この装置と共に、あなたの改造記録も破棄されたわ。私が、そう手配した」
「……は?」
「あなたは今、公式には〝行方不明〞ということになる。……つまり、自由よ」
ヴァイスは、しばらく呆然としていた。
「……なんで、そこまでする」
「プルが、あなたを助けたいと言ったから。それだけよ」
あたしは、ヴァイスの前にしゃがみ込んだ。
「ヴァイス。あんた、これから、どこにも縛られずに生きられる。……でも、一人は、寂しいでしょ」
「……まあ、な」
「なら、約束して。……ロクのこと、これからも見守ってあげて。あの子、あんたのこと、ちゃんと心配してたから」
ロクが、少し照れくさそうに視線を逸らした。
「……別に、心配とかじゃ、ない」
「ふふ、素直じゃないなあ」
ヴァイスは、初めて、微かに笑った。
「……わかった。約束する」
その日から、ヴァイスとロクは、アクシズの片隅で、ひっそりと暮らし始めることになった。時折、あたしたちのところに顔を出しては、他愛のない話をしていく。
プル・シリーズの子たちも、少しずつ保護され、それぞれに新しい名前と、新しい居場所を見つけていった。
「……終わった、のかな」
あたしは、夕暮れの街を見下ろしながら、そう呟いた。
「終わったわね。……少なくとも、この夏の戦いは」
イリアが、隣に並んで答える。
「テレスティーナは逃げた。……また、いつか現れるかもしれない」
「うん。……でも、その時は、また戦うよ。今度は、独りじゃないから」
キャラが、あたしの手をぎゅっと握った。
「もちろんですわ、お姉さま。私が、いつまでもお側に」
「あたしも、報告書のバックアップ、ちゃんと取っておきますからね」
ミリィも、笑いながら加わる。あたしは、みんなの顔を見渡して、心から思った。
――この仲間たちがいれば、どんな困難も、きっと乗り越えられる。
その日の夕方、あたしはミーとロク、二人の妹たちを連れて、久しぶりに、居住区の広場を歩いた。
「……姉さん、あれ、なに」
ミーが指さした先には、小さな屋台が並んでいた。
「屋台だよ。行ってみよう」
三人で分け合ったソーダの味は、いつもより少し、甘く感じられた。
「……姉さん、これから、ずっと一緒にいられる?」
ミーの問いに、あたしは、しっかりと頷いた。
「もちろん。約束したでしょ」
「……うん。約束」
ロクも、隣で、こくりと頷いた。
「……私も、約束、大事にする」
広場の隅では、ヴァイスが、居心地悪そうに立ち尽くしていた。あたしは、彼を手招きする。
「ヴァイスも、こっちおいでよ」
「……いや、俺は」
「遠慮しないで。もう、あんたも、あたしたちの仲間なんだから」
しばらく躊躇っていたヴァイスだったが、やがて、ゆっくりと近づいてきた。
「……ま、少しくらいなら」
四人で分け合った屋台の味は、忘れられないものになった。
コンスタンス・ヴァイス博士も、後日、施設に顔を出し、ミーやロクをはじめとするプル・シリーズの子どもたちの経過観察を、快く引き受けてくれることになった。
「安心して。この子たちのことは、私が責任を持って見守るわ」
「ありがとうございます、コンスタンス博士」
「礼はいらないわ。……あなたたちの頑張りを見ていたら、放っておけなかっただけよ」
コンスタンス博士の優しい笑顔に、あたしは、心から安堵した。これで、子どもたちの未来は、確かな場所に根を下ろすことができる。
イリアは、遠くから、その様子を見守っていた。
「プル。あなたのおかげで、多くの命が救われた。……誇りに思っていいわ」
「……あたし一人の力じゃないよ。みんなが、いてくれたから」
「ええ、そうね。……でも、その〝みんな〞を繋いだのは、他でもない、あなた自身よ」
その言葉に、あたしは、少しだけ照れくさくなって、視線を逸らした。
夕日が、アクシズの街を、優しく染めていった。長い夏が、ようやく一区切りを迎えようとしていた。
帰り道、キャラとミリィが、それぞれの感想を語り合っていた。
「今回の戦い、これまでで一番、緊張しましたわね」
「はい。……でも、その分、得たものも大きかった気がします」
「うん。ミーやロク、それにヴァイスとの出会いは、あたしにとって、かけがえのないものになった」
あたしは、夕焼けに染まる街並みを見つめながら、しみじみと呟いた。
「これから、まだまだ大変なことがあるかもしれないけど……この仲間たちとなら、きっと大丈夫だと思う」
「もちろんですわ、お姉さま」
「私も、いつでもお手伝いします」
三人は、笑顔を交わしながら、支部への帰路についた。長い戦いの果てに見えた、確かな絆の光が、あたしたちの前途を、優しく照らしていた。