機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
噂というのは、たいてい嘘だ。でも、たまに——嘘のフリをした本当が、混じっている。
宇宙世紀0088年。居住区第3ブロック。今日から治安維持局(ジャッジメント)の合同演習で、あたし、エルピー・プルは訓練用ノーマルスーツに身を包んでいた。
「お姉さまの機能美あふれるスーツ姿、わたくしのバイオ・センサーが限界を突破いたしますわっ——ジャッジメントですのぉっ!」
「だから発動条件がおかしいんだってば、キャラ!あたしのスーツ姿で決め台詞出さないで!」
隣で同じ装備を整えるキャラ・スーン。年上なのに、強化人間としての不安定さを補うためにあたしを「お姉さま」と慕って精神の均衡を保っている。あたしの感応波を浴びるたび、決め台詞のスイッチがランダムに暴発するのだけは、いつまで経っても慣れない。
準備の合間、あたしはミリィに、こっそり相談していた。
「ねえミリィ。最近、基地で流れてる噂、知ってる?『あたしと同じ顔の女の子が、量産されてる』っていう……」
ミリィの表情が、ふっと固くなった。彼女は周囲を確認してから、声を落とす。
「……プルさん。実は私も、軍のメインフレームの片隅に、妙なファイルの断片を見つけたんです。暗号化がきつくて全部は読めませんでしたが、タイトルだけ、読めました。——『プル・シリーズ 量産適性評価』」
「プル・シリーズ……」
「エルピー・プル。つまり、あなたを原型(オリジナル)にした、複数の複製体(クローン)の、量産計画。……昨日までは、都市伝説だと思っていました。でも、これは——本物です」
あたしの心臓が、嫌な音を立てた。あの冷たい波長。『姉さん』と囁いた声。あれは、幻なんかじゃ、なかった。
——そして、あたしにはもう1つ、ミリィに打ち明けなきゃいけないことがあった。ジュドーのこと。敵の潜入者を匿っていること。でも、それを言えば、真面目なミリィを危険に巻き込む。あたしは、その言葉を、ぐっと飲み込んだ。
演習の内容は、居住区の死角——「空き溜まり」と呼ばれる、監視の届きにくい廃区画での捜索任務だった。第一次ネオ・ジオン抗争時に放棄された旧ブロック。人工太陽の光も届かない、薄暗い迷宮。
「……キャラ。変なプレッシャーがする。誰かがここで、悪いことを企んでる」
あたしの感応波が、閉じたハッチの向こうの尖った殺意を拾った。次の瞬間——演習用アラートじゃない、本物の爆発音が通路に轟いた。
「な、爆破なんてプログラムにありませんわ!?」
「訓練じゃないよ。本物だもん」
駆けつけると、そこには高濃度プロパンのガスボンベを積んだ改造プチMSの一団。基地インフラを破壊して混乱を招こうとする反乱分子の残党だった。
「そこまでですわっ——治安維持局(ジャッジメント)ですのっ!その浅ましい企み、このキャラ・スーンが愛の鉄槌で粉砕いたします!」
キャラが暗闇でも強化された動体視力で敵のワイヤーを紙一重に躱し、ヒート・ナイフで駆動部を斬り裂いていく。あたしは壁の制御パネルへ駆け寄り、意識をダイブさせた。区画全体の非常用シャッターに干渉し、逃走経路の電磁ロックを片っ端から強制閉鎖する。
「……逃がさないんだから」
同時に、敵が起爆させようとしたガスボンベの電磁弁へ、微細な過負荷を送り込む。起爆回路を焼き切って、暴発を未然に防ぐ。
「はい、捕まえた」
暗闇の中、キャラが最後の1人を制圧し、静寂が戻る。
制圧した工作員の1人。その首筋に、あの青白いチップが貼られていた。男は虚ろな目で、うわ言のように呟いた。
「……レベルアッパー……これさえあれば、俺も、選ばれた側に……」
演習後。あたしは物陰で待っていたジュドーと、こっそり合流した。
「プル。……この廃区画の記録、見てくれ。リィナが移送されたのは、レベルアッパーってやつの実験施設だ。あいつ、能力もないのに、なんでそんなとこに……」
その言葉に、ミリィから届いた暗号通信が、あたしの「日常」に、決定的なヒビを入れた。
『プルさん。例のチップと、プル・シリーズの計画書、繋がっていました。レベルアッパーの“演算能力”は——量産されたプル・シリーズを、まとめて制御するために開発されている。そして、その演算の“実験体”として、能力を持たない子どもたちも、集められているんです』
能力を持たない子ども。……リィナ。
「……そんなの、絶対、ダメ」
あたしは、拳を握りしめた。あたしの妹達も、ジュドーの妹も。会ったこともないその子たちの震える声が、聞こえた気がしたから。