機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……で、なんであたしが荷物持ちなの」
あたしは、両手いっぱいの買い物袋を抱えながら、ぼやいた。隣を歩くのは、見慣れた、ぶっきらぼうな顔だった。
「しょうがねえだろ。お前が『久しぶりに会うんだから奢れ』って言い出したんじゃねえか」
「言ったけど、荷物持ちまでは頼んでない」
ジュドー・アーシタ。あの夏、アクシズに潜入していたエゥーゴの少年は、妹のリィナを取り戻したあとも、なんだかんだと理由をつけては、こうしてアクシズに顔を出すようになっていた。今は、ジャッジメント第7支部の客分として、正式に出入りを許可されている。
「リィナは、元気にしてる?」
「ああ。今日は、コンスタンス博士のところで、他の子たちと勉強会だとよ。……お前のところの妹達とも、すっかり仲良くなっちまってな」
「そっか。よかった」
商店街を歩いていると、不意に、荷物運搬用の作業ロボットが、制御を失ったように暴走し、あたしたちのほうへ突っ込んできた。
「危ねえ……!」
ジュドーが、あたしを庇うように前へ出て、右手を、まっすぐロボットへ突き出した。
その瞬間だった。ロボットの内部から、真っ白な光が弾けるように広がり、暴走していたはずの制御プログラムが、まるで嘘のように鎮まった。
「……っ、また、これか」
「……今の、何?」
あたしは、思わず息を呑んだ。何度見ても、慣れない光景だった。ジュドーの右手に触れた瞬間、荒れ狂っていた何かが、すっと凪いでいく。
「わかんねえよ、俺にも。……ただ、悪意とか、狂った信号とか、そういう嫌な〝気配〞を持ったものに触れると、勝手にこうなる。あの中央シャフトの化け物を黙らせた時と、同じだ」
「……あんたのその力、本当に不思議だよね」
「不思議で結構。今日も、誰も怪我しなかったんだから、それでいいだろ」
そこへ、騒ぎを聞きつけたキャラが、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お姉さま……! ご無事ですか……! あら、ジュドーさんもご一緒でしたのね」
「悪いな、キャラ。またこいつの尻拭いだ」
「いつものことですわ」
キャラは、すっかり慣れた様子で肩をすくめた。ジュドーがこうしてトラブルに巻き込まれ、あたしたちが駆けつける、という光景は、この夏以来、何度も繰り返されていた。
支部に戻ると、ミリィが、暴走したロボットのログを解析しながら、首をかしげていた。
「……変です。このロボット、制御系に外部からの干渉を受けた形跡があります。それも、明らかに悪意のある信号で」
「……ってことは、これも、テレスティーナの残党の仕業ってこと?」
「断定はできませんが、可能性は高いと思います。最近、こういう〝悪意ある信号〞を使った小さな事件が、アクシズのあちこちで増えているんです」
ジュドーが、腕を組んで唸った。
「なるほどな。……だから、俺の周りで、こういう妙なことばっかり起きるわけか」
「あんたの右手、悪意に反応するんだもんね。……ある意味、あんたが一番のセンサーかもね」
「よせよ、便利屋扱いすんな」
そう言いつつも、ジュドーの表情には、まんざらでもない色が浮かんでいた。
ミリィが、端末を操作しながら、ふと呟いた。
「そういえば、ジュドーさんの正式な〝感応波適性値〞、支部のデータベースだと、いまだに〝測定不能・最低ランク〞のままなんですよね」
「はあ? ジュドーが最弱ランクなの? Ζガンダムまで乗りこなしてるのに?」
「はい。……通常のニュータイプ測定機では、ジュドーさんの波長、うまく数値化できないみたいで。だから、書類上は〝アクシズで最も感応波適性の低い人物〞に、分類されてます」
「……なんだそりゃ」
ジュドー自身も、呆れたように笑った。
「まあ、書類なんてそんなもんだろ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
「ふふ、あんたらしいね」
その気安いやり取りに、あたしは、思わず頬を緩めた。あの夏、敵として出会ったはずのこの少年は、今ではすっかり、あたしたちにとって、なくてはならない仲間の一人になっていた。
「……お姉さま。ジュドーさんが顔を出す日、なんだか、少し嬉しそうですわね」
キャラが、意味ありげに、そう囁いた。
「な、なにそれ。ただの腐れ縁でしょ」
「さあ、どうでしょう」
からかうようなキャラの視線に、あたしは、少しだけ、頬が熱くなるのを感じていた。
「な、なによ、二人して。……そんなことより、ジュドー、リィナのお迎え、行かなくていいの?」
「あ、やべ。忘れてた。コンスタンス博士のところ、何時までだったっけ」
「もう、しっかりしてよね、お兄ちゃんなんだから」
「うるせえ、お前に言われたくねえよ」
軽口を叩きながらも、ジュドーは、慌てた様子で立ち上がった。あたしは、その背中に、思わず声をかける。
「ねえ、ジュドー」
「あ? どうした」
「……今度、リィナも一緒に、パフェ食べに行こうよ。約束、まだ果たしてないでしょ」
ジュドーは、一瞬きょとんとした顔をしたあと、くしゃっと笑った。
「……ああ、そうだったな。よし、今度の非番、空けとくわ」
「うん、約束」
その後ろ姿を見送りながら、キャラが、隣でくすくすと笑っていた。
「お姉さま、本当に、嬉しそうですわね」
「うるさいなあ、キャラまで」
夕暮れの支部に、あたしたちの笑い声が、いつまでも響いていた。この賑やかな日常が、これから先も、ずっと続いていきますようにと、あたしは、心の中でそっと願った。