機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
保護されたプル・シリーズの子どもたちは、アクシズの一角に用意された施設で、新しい生活を始めていた。
「姉さん……これ、見て」
ミーが、両手いっぱいに摘んだ花を見せてくれた。施設の中庭に咲いていた、名も知らぬ小さな花だ。
「わあ、綺麗。……ミー、こういうの好きなんだ」
「……うん。初めて、綺麗って思った」
彼女の瞳には、以前のような冷たさはなく、代わりに、素朴な好奇心が宿っていた。
「他の子たちは、どうしてる?」
「……元気。みんな、少しずつ、名前を覚え始めてる」
施設の中庭では、何人ものプル・シリーズの少女たちが、輪になって座り、簡単な言葉遊びをしていた。かつて番号でしか呼ばれなかった子たちが、今は互いの名前を呼び合っている。
「……姉さん、みんな言ってる。姉さんのおかげで、〝妹〞じゃなくて、〝ひとり〞になれたって」
その言葉に、あたしの胸が熱くなった。
「あたしは、大したことしてないよ。……みんなが、自分で選んで、生き始めてるんだから」
「……ううん。姉さんが、最初のきっかけをくれた」
そのとき、施設の管理を任されているコンスタンス・ヴァイス博士が、あたしたちのところへやってきた。
「プルさん、少しいいかしら」
「はい、なんでしょう」
「……子どもたちの適応状況、順調そのものよ。感情の発達も、想定以上に早い。……これは、あなたという〝オリジナル〞が、精神的な支柱になっている証拠だと思うわ」
「あたしが……?」
「ええ。子どもたちにとって、あなたは単なる〝姉〞じゃなく、〝生きる希望〞そのものなのよ」
その言葉の重みに、あたしは少し戸惑った。だが同時に、確かな誇らしさも感じていた。
「……これからも、ずっと、そばにいたい」
「素敵な目標ね。応援するわ」
コンスタンス博士は、穏やかに微笑んだ。
その日の午後、ロクとヴァイスも、施設に顔を出した。ヴァイスは、相変わらず無愛想な態度だったが、子どもたちに囲まれると、まんざらでもなさそうな表情を見せる。
「……おい、あんまりくっつくな」
「ヴァイスにいちゃん、あそぼ!」
「にいちゃんって、誰が」
そう言いながらも、ヴァイスは、子どもたちの遊びに、律儀に付き合っていた。その様子を見て、あたしとミーは、思わず顔を見合わせて笑った。
「……ふふ、ヴァイスも、変わったね」
「……うん。姉さんの、おかげ」
夕方、施設を後にするとき、ミーがあたしの服の袖を、そっと引っ張った。
「……姉さん、また明日、来る?」
「うん、もちろん。約束する」
「……約束」
ミーは、その言葉を、大切そうに繰り返した。
一人また一人と、名前を持ち始めた少女たちの笑顔が、あたしの新しい原動力になっていた。この夏、たしかに、何かが変わり始めていた。
支部への帰り道、キャラが、ぽつりと呟いた。
「お姉さま。……この子たちを見ていると、私、なんだか胸が温かくなりますの」
「うん、わかる」
「みんな、少しずつですけど、確かに、幸せに近づいている気がします」
「そうだね。……これからも、見守っていこう」
「はい」
夜空には、いつもより多くの星が瞬いていた。あたしは、その光を見上げながら、心の中で、あらためて誓った。この子たちの笑顔を、これからもずっと守り続ける、と。
数日後、ミーが、施設で仲良くなった友達を、あたしに紹介してくれた。
「姉さん、この子、ナナ。……一緒に、花を育ててる」
「よろしくお願いします、姉さん」
ぎこちない言葉遣いの中に、確かな親しみが感じられた。あたしは、その小さな手を、そっと握り返した。
「よろしくね、ナナ。……いつでも、あたしを頼っていいからね」
「……はい」
こうして、あたしの周りには、少しずつ、新しい家族の輪が広がっていった。
その夜、コンスタンス博士から、あたしの端末に一通のメッセージが届いた。
『プルさん。子どもたちの心理的な回復について、正式な報告書をまとめました。……もしよければ、今度、一緒に目を通してもらえないかしら』
「もちろんです、コンスタンス博士」
『ありがとう。……あなたという存在が、この計画をどれだけ前向きなものに変えたか、報告書を作りながら、しみじみと実感しているわ』
その言葉に、あたしは、少し胸が熱くなった。
翌朝、施設を訪れると、ミーとナナが、庭で仲良く水やりをしていた。
「姉さん、おはよう!」
「おはよう、二人とも。……その花、大きくなったね」
「うん! みんなで大事に育ててるの」
小さな花壇には、色とりどりの花が、少しずつ咲き始めていた。あたしは、その光景を見つめながら、静かに微笑んだ。この小さな命たちが、これからも、健やかに育っていくことを、心から願わずにはいられなかった。
水やりを終えたミーが、あたしの隣に座り込んだ。
「……姉さん、あのね」
「うん、どうしたの」
「……みんなで、名前を、考えてるの。まだ名前を決めてない子が、何人かいて」
「そうなんだ。……手伝おうか」
「……うん。姉さんが選んでくれたら、きっと、みんな喜ぶ」
その日の午後、あたしは、ミーやナナと一緒に、名前の候補を紙に書き出していった。可愛らしい名前、力強い名前、優しい響きの名前。一つ一つ、丁寧に選んでいく作業は、思いのほか、心が満たされるものだった。
「……これ、いいと思う」
「うん、あたしも、それ気に入った」
夕暮れ時、名前のリストを見つめながら、あたしは、これからこの子たちが歩んでいく未来を、思い描かずにはいられなかった。