機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……というわけで、私、しばらくお姉さまの寮にお世話になろうと思いますの」
朝食の席で、キャラが突然そんなことを言い出した。あたしは、思わず箸を止める。
「……え、なんで急に」
「実は、私の部屋の空調設備が故障してしまいまして。修理には、一週間ほどかかると……」
「それはそれは……で、なんであたしのところなの」
「もちろん、お姉さまと片時も離れたくないからです」
キャラは、すでに大きな荷物袋をいくつも準備していた。あたしは、深いため息をついた。
「……まあ、いいけど。狭いよ、うち」
「愛があれば、狭さなど問題になりません」
その日の午後、あたしの部屋には、キャラの私物が次々と運び込まれた。
「……これ、全部必要なの」
「もちろんですわ。この写真立ては、お姉さまとの思い出の品ですし、このぬいぐるみは……」
「いや、ぬいぐるみは自分で選ぶ必要ある?」
「お姉さまに似せて、私が手作りしましたの」
差し出されたぬいぐるみは、確かにあたしに似た顔をしていた。妙に精巧な作りに、あたしは思わずたじろぐ。
「……こういうの、いつ作ってたの」
「夜な夜な、こっそりと……」
「ちょっと怖いよ、それ」
そんなやり取りをしていると、部屋の呼び鈴が鳴った。開けると、ミリィが顔を出す。
「お邪魔します。……あ、これはこれは、大荷物ですね」
「ミリィまで来たの」
「私は、キャラさんの引越しのお手伝いに。……データ機器の配線、私がやらないと大変なことになりそうなので」
「配線とか要らないよ、ここ寮だし」
賑やかな声が響く部屋の中で、あたしはふと、この騒がしさが、案外心地いいことに気づいた。
「……まあ、いいか。しばらくの間、賑やかなのも」
「お姉さま、そう言っていただけると、私、幸せです」
キャラが、目を輝かせながら、あたしの手をぎゅっと握った。
荷物の整理が一段落したところで、ミリィが、興味深そうに部屋の中を見回した。
「それにしても、こんなに荷物が多いなんて。キャラさん、普段からこんな感じの部屋に住んでいるんですか?」
「いいえ。……実は、この機会にと思って、少し多めに持ってきてしまいましたの」
「多めって、これ、部屋二つ分くらいありそうだけど」
「愛の重さと、お考えください」
「重すぎるよ、それ」
そんな軽口を叩きながら、あたしたちは、夕方まで荷物の整理に追われた。窓の外は、いつの間にか、オレンジ色に染まっていた。
夜、狭い部屋に三人分の布団が並べられ、あたしたちは夜遅くまで、他愛のない話に花を咲かせた。
「……ねえ、キャラ。空調、本当に一週間で直るの?」
「……さあ、どうでしょう」
「もしかして、故障、嘘だったりする?」
「……ふふ、秘密ですわ」
その返事に、あたしは苦笑した。まあ、それならそれでいい。こんな賑やかな夜も、悪くなかった。
「……お姉さま、明日は、何をしましょうか」
「うーん、特に予定はないけど……みんなで、どこか出かけようか」
「賛成ですわ!」
「私も、ぜひご一緒したいです」
三人の声が、夜の静けさの中に、明るく響いた。狭い部屋に押し込められた三人分の布団は、なんだか妙に落ち着く空間になっていた。
翌日、あたしたちは、約束通り、居住区の展望デッキへ出かけることにした。人工太陽の光が降り注ぐ中、三人並んで、街を見下ろす。
「……こうして見ると、アクシズも、なかなか綺麗ですわね」
「うん。……普段は、あんまり気にしないけど」
「私は、いつでもこの景色を、記録に残していますよ」
ミリィが、端末のカメラを構えながら、楽しそうに笑った。
「あ、今の顔、いいですね。撮っておきます」
「ちょっと、勝手に撮らないでよ」
「もう遅いです」
そんな他愛のないやり取りをしながら、あたしたちは、久しぶりに、何も心配することのない、穏やかな休日を過ごした。
夕方、寮に戻ると、キャラの部屋の空調修理の連絡が届いていた。
「あら、思ったより早く直ったみたいですわ」
「……じゃあ、今日で、お引越しも終わりだね」
「そう、ですわね」
キャラの表情に、少しだけ寂しさが浮かんだ。あたしは、それを見て、思わず笑った。
「なに、その顔。……また、いつでも遊びに来ればいいじゃない」
「……本当ですの?」
「もちろん」
キャラの顔が、ぱっと明るくなった。荷物をまとめながらも、その足取りは、どこか軽やかだった。
荷物を運び出す手伝いをしながら、ミリィが、しみじみと呟いた。
「なんだか、一週間、あっという間でしたね」
「うん。……騒がしかったけど、楽しかったな」
「私も、また泊まりに来てよろしいですか」
「……その時は、事前に言ってね。心の準備が要るから」
「ふふ、善処いたしますわ」
最後の荷物を運び出したあと、キャラは、部屋の入り口で振り返り、深々と頭を下げた。
「お姉さま、一週間、大変お世話になりました」
「大げさだよ。……また、いつでもおいで」
「はい! 必ず」
扉が閉まったあと、あたしは、急に静かになった部屋を見渡した。少し寂しいような、それでいて、確かな温もりの余韻が残っているような、不思議な気持ちだった。